第35話 可視と不可視の彩り
SAO正式サービス開始から、早くも2年が経過しようとしていた。
現在の最前線は第74層。攻略組の努力もあって、確実に1層ずつ、浮遊城の頂きへと昇っていく。これまでのフロアボス戦でも犠牲者の有る無しこそあれ、残すところはあと4分の1にまで迫り、当初は不可能に思われていた100層攻略も現実味を帯びてきた。
しかし70層を超えた辺りからモンスターのアルゴリズムに変化が表れ、階層攻略は今までよりも若干の難易度を上げて難航する。第1層攻略のように1ヶ月を要する、とまではいかないが、階層攻略に掛かる期間が2週間はザラにある状態となっていた。最短で3日、遅くとも1週間で上に進んでいたあの頃が、まるで夢のように感じられる。
再び表れた、主な攻略速度遅延の原因は二つ。
一つは攻略組の人数。
最前線で戦う攻略組は、どのプレイヤーよりも多くの危険が付き纏う。フロアボス戦を始め、迷宮区・フィールドの探索中に起きる事故や油断、8月に行われた《
そういった理由で攻略活動に心血を注ぐ剣士達が減るのだが、中層から最前線へ積極的に加わるプレイヤーはほとんどいない。故にゲーム攻略を目指す者が補充されることは稀で、大方減少の一途を辿っていた。
もう一つはモチベーションの維持。
ゲーム開始当初と比べ、躍起になって攻略に励むプレイヤーの数が目に見えて減っていた。主たる要因は、仮想世界に
第74層迷宮区。
迷宮区のマッピングは滞りなく進行しており、今日明日中にはボスの部屋が存在する地点を特定できる段階まできている。
そして現実離れした異界感溢れる景色の中、ウネウネと走る一本の白い道を歩き、モンスターと遭遇して剣を交える二人の剣士がいた。
――キシャアッ
二人の前に立ち塞がるのは、トカゲの姿をした二足歩行のモンスター《リザードマンロード》。足の先・尻尾の先から頭までの大部分を深緑色の鱗で覆われ、深紅の眼をギラつかせながら長い舌を出し入れしている。頭と胸部には防具を装着し、右手には剣先が湾曲した曲刀、左手にはバックラーを装備してプレイヤーの排除を試みていた。
「ふっ!」
眼前に迫った曲刀の先端が胸に迫るが、《黒ドラゴンの革》を使用した黒衣の体防具《ブラックウィルム・コート》をなびかせつつ、回避。
第1層フロアボス戦のラストアタックボーナスで得た《コート・オブ・ミッドナイト》から数えて四代目となる、彼の二つ名を象徴した黒いロングコート。カリスマお針子の手によって作成された一級品の装備は、今日も《黒の剣士》キリトの身を守る。
そして右手に持つのは要求筋力値の高さ故、手に入れてから長いこと日の光を浴びなかった剣。それはアイテムストレージの奥底で埃を被っていた、魔剣クラスの性能を持つ《エリュシデータ》。漆黒の剣と《リザードマンロード》が放ったお互いのソードスキルが衝突し、両者に隙が出来る。
「スイッチ!」
キリトが叫ぶと、彼の後ろからもう一つの影が割り込んできた。
第71層のラストアタックボーナスで得た、全状態異常耐性値を急激に底上げする《ベヒモス・コート》。鮮やかな紺藍色をした革製防具をはためかせながら、ソードスキルを発動した。
「はあっ!」
マスタースミスになったリズベット特製の片手用直剣《グラスゴーム》が放つのは、片手剣水平四連撃ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。
四回に渡る連続攻撃の後、剣に纏った水色の燐光が正方形の軌跡を描きながら消散。カイトは《リザードマン・ロード》に四撃目を叩き込むと同時に背面へ回り込み、技後硬直を課せられた。
大ダメージを喰らった《リザードマンロード》はしぶとく生存する。時計周りに反転し、カイト目掛けて上段から曲刀を振り下ろした。
「せやあっ!」
だがカイトに向き直るということは、反対側にいるキリトに背を向けると同義。待機していたキリトはガラ空きになった《リザードマンロード》の背中に向け、片手剣三連撃ソードスキル《シャープネイル》でHPを削りにかかる。
背中に獣の爪痕を刻みつけると、《リザードマンロード》が天を仰いだ。その姿が淡く光り、その場で消滅エフェクトを散らすと、データの塊はポリゴン片に細分化され、跡形もなく消え去ってしまった。
「ふ〜……」
緊張の一戦を終え、ホッと一息。二人は剣を背中の鞘に納めた。
同じ階層だとしても、フィールドと迷宮区では出現するモンスターのレベルが違う。迷宮区のモンスターは難敵であり、SAOで推奨されている安全マージンのレベルでも手こずるのは間違いなく、二人もついつい肩に力が入ってしまった。
「なんか良いのドロップしたか?」
「ん〜……大した物はないな」
カイトは表示された半透明のウィンドウを眺め、アイテム名をチェック。戦果は特別良いわけではないらしく、通常ドロップの皮と鱗だった。
「もう少し先までマッピングするか。そろそろボス部屋も発見できるだろ」
マッピングデータを見ながら、キリトが喋る。
彼らが所有するデータで埋まっていないのは、迷宮区の中でも最奥部だけとなっていた。運が良ければこのまま発見し、明日には偵察隊の派遣も可能だと考える。
赤字で特殊な紋様が描かれている岩の間を抜け、安全エリアに辿り着くと、その先には左右二手に分かれる道があった。おそらくどちらかはボスの部屋へと続く道であり、確率は2分の1だ。
「せーの! で指差すぞ」
「あぁ。せー……のっ!」
カイトは左へ続く道を、キリトは右へ続く道を同時に指差した。意見は分かれてしまったが、こういった場合、二人の間ではある取り決めがなされている。
「今回も勝たせてもらうぞ」
「この前のはマグレの部類だろ。それに、どう考えても勝率はオレのが上だし」
「五月蝿い。マグレでも勝ちは勝ちだ。その黒い剣、叩き折るくらいのつもりでいくから」
カイトからキリトへ
開始の合図が鳴り響き、二人の剣士は駆け出した。システムのジャッジは、それから約1分後に下される。
迷宮区の探索から帰還し、カイトとキリトが向かった先は、50層主街区《アルゲード》の一画。中華風の下町をイメージした雑多な道を迷うことなく突き進んだ先には、通い慣れた《エギル雑貨店》が佇む。
二人は店の店主・エギルとカウンター越しに対面し、獲得したアイテムを売り払っている最中だった。
「毎度。また頼むぜ」
キリト・カイトとエギルの値段交渉は双方合意の上で成立し、二人のアイテムストレージが少しだけ軽くなった。だが――。
「エギル……前から疑問だったんだけど、まさか他の奴に対してもこんな感じなのか?」
「『安く仕入れて安く提供する』が、うちのモットーだからな」
「前者は極端、後者は怪しさ全開。次来るまでにそのモットーは別のに書き換えとけ」
エギルに売り払ったアイテムの売却額が相場よりも明らかに安く、カイトは不満の一つでも漏らさなければ気が済まなかった。
「お得意様なんだから、たまには優遇してくれよ」
「常連はなにもお前達だけじゃないからな。二人だけ特別扱いしたら、他の常連客に示しがつかねえだろ?」
半ば強引に押し切られたとはいえ、カイト達は合意したのだから、交渉はエギルの中で既に終了しているらしい。再度値段設定をする気はないようだ。
「そうか……。じゃあしょうがない。キリト、例の物を」
「はいはい」
呼ばれたキリトがストレージに格納されている、とあるアイテムをエギルに見せた。一体何かと不思議そうな顔でエギルが覗き込むと、表情が一変。驚愕の顔でアイテム名を読み上げ、指差した。
「ラ、《ラグー・ラビットの肉》……だと。すげえ……まさかS級食材をこの目で拝める日がくるとは……」
料理をする際に必要な食材には、それぞれの持つ味・入手難度・調理難度を総合し、それに見合ったランクがつけられている。このランクが高ければ高いほど美味といわれ、《ラグー・ラビットの肉》は食材ランクの最高峰――――S級食材と呼ばれる超レアアイテムなのだ。
この超お宝アイテムに巡り会えたのは、迷宮区から帰る途中のフィールドだった。主街区に帰るため、うっそうと生い茂る緑の空間を歩いていると、二人の《索敵》スキルがモンスターの反応を捉える。偶然捉えたのは、S級食材の素材元となる灰色ウサギ、《ラグー・ラビット》。このモンスターは非常に高い索敵能力を持っているため、接近すれば手の届く範囲へ入る前に間違いなく逃走する。しかも逃げ足が速いというおまけ付きのため、倒す方法はSAOで数少ない遠距離攻撃で仕留めるのが最も効果的とされていた。遭遇するだけでも極めて幸運なのだが、悟られずに仕留めるのも難しい点が、《ラグー・ラビットの肉》入手難度を飛躍させている最大の要因である。
キリトがピックを構えて仕留めにかかるが、カイトも念の為にピックを用意して構える。だが、その心配は結果的に不要だった。ソードスキルを宿したキリトのピックが吸い込まれるようにして見事命中し、食材アイテムの入手に成功したのだった。
これがもしキリト一人だけなら、折角手に入れたS級食材の味を堪能することなく、泣く泣く市場かエギルに売り捌く所だっただろう。しかし運が良いことに《料理》スキルを――――しかも熟練度が
「ほぼ毎日、朝昼晩と作り続けた甲斐があった……。今日ほどスキル上げしといて良かったと思う日はないぐらいだ……と、いう訳でエギル。調理した肉を一口お裾分けするから、値段をもうちょい勉強してくれ」
「カイト……お前まさか、最初からそのつもりで……」
「奥の手は最後まで取っておくものだぞ」
カイトは腕を組み、カウンター台に背中を預けるようにもたれかかると、エギルをチラッと見やる。彼の回答を待っている様子だった。
「わ、わかった。じゃあさっきの金額にもう2,000コル上乗せする。それでどうだ?」
「いや、まだだ。まだ上げられるだろ?」
ニヤニヤ顏で値段交渉を再開したカイトを、キリトはやや呆れ顔で眺めていた。
そしていつの間にか来店していた少女が、キリトの肩に軽くタッチして呼び掛ける。
「キリト君」
この場に似合わない澄んだ声で名を呼ばれ、キリトは振り返る。そこには騎士団の制服を着た三人のプレイヤーが立っており、そのうちの二人はよく見知った人物――アスナとユキがいた。
「二人とも奇遇だな。こんなゴミ溜めに来るなんて」
「次のボス戦が近いし、二人の顔を見にきたのよ」
「キリト……ゴミ溜めは流石に言い過ぎな気が……」
幸いにもエギルはカイトとの交渉に応じているため、キリトの失言を聞いていない。なので代わりにユキが突っ込んだ。
「ところで、カイト君は一体何をしてるの?」
「あぁ、あれはアイテム売却の値段交渉をしてるんだ。《ラグー・ラビットの肉》を交渉材料にして、価格の上乗せを――」
『《ラグー・ラビット》!!』
突如、アスナとユキの顔がキリトの眼前に迫る。
二人の食いつきを見たキリトの顔には、しまった! という文字が浮かんだ。不用意にS級食材の話を漏らせば、大抵の人は似たような反応が返ってくる。それは本人もわかっていた筈なのだが、うっかり口が滑ってしまった。
そして二人の発した声の大きさで、交渉中の二人もようやく彼女達の存在に気付く。
「おぉ、いらっしゃい!」
「ユキ、アスナ、こんにちは。どうしたんだ? 大声出して」
「『どうした?』じゃないよ!」
「《ラグー・ラビットの肉》を手に入れたんですって!?」
「……キリトさん?」
「ははは……」
カイトが目を細めてキリトを睨む。
そんなキリトに出来ることは、目線を逸らし、乾いた笑いで場を誤魔化すしか方法がなかった。
そんなやり取りを横目に、女性陣はアイコンタクトで意思疎通をとる。
「カイト」
アイコンタクトを終えたユキがカイトに近寄り、彼の両手をとって包み込んだ。胸の高さまで持ち上げると、至近距離から彼の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「お願い。私達にも食べさせて」
「え? え〜っと……」
「カイトの作った料理が食べたいの。お願い……」
心なしか、ユキの瞳がウルウルし出した。
その状態のまま、ユキの身体が徐々に接近する。彼女に見つめられて耐えきれなくなったカイトは、わりと呆気なく降参してしまった。
「〜〜〜〜っわかった! 二人にもご馳走する!」
「本当!? やったあ! カイト大好き!!」
了承を得た途端に手を離し、両手を広げて満面の笑みで彼に抱きつく。思わぬご褒美にカイトは赤面するが、その様子をキリトは先ほどの彼同様、目を細めて睨んでいた。睨まれた人物はそれに気付き、視線を明後日の方角へ逸らす。
どうにもカイトはユキに甘い所があるらしく、あっさり了承した事に不満を感じたらしい。一人分の量が減るのだから、当然といえば当然だろう。
そして嬉しさのあまり、衝動で抱きついたユキが我に返った。カイトと同じように頬を朱色に染め、慌てて離れることで距離をとる。人前でくっついたりするのは恥ずかしいようだ。
「ア、アスナ。交渉成立しました!」
「やったね!」
振り返ったユキはアスナの元へ駆け寄り、二人は両手でハイタッチを交わす。交わした掌をそのまま合わせ、二人とも笑顔を浮かべながら小さく跳びはねた。
ひとしきり喜んだ後、アスナはカイトに一つの提案を出す。
「よかったら私の家に行きましょう。一通りの調理器具は揃っているから、不自由はない筈よ」
「お待ち下さい、アスナ様」
入口付近で沈黙して立っていた男が待ったをかける。
長い髪を後ろで束ねた長身で痩せ型のプレイヤーは、カイトとキリトにとって初見のプレイヤーだった。アスナとユキ同様、騎士団の制服を着用しているため、彼も《血盟騎士団》の一員なのだろう。
「このような連中をご自宅に招き入れるのは、賛同しかねます。今一度お考え直して下さい」
「あら、私の家に誰を招待するかは私の勝手よ?」
「ですが、このような素性のわからない者達は――」
「彼らは私とユキの友人で、よく知った仲です。あなたは知らないだろうけど、二人は素性も実力も確かよ? クラディール」
アスナは少々ウンザリした様子で、護衛の男・クラディールの意見を切り伏せる。
クラディールはフロアボス戦の経験があまりないため、必然的に二人と顔を合わせる機会も少ない。彼にしてみれば、確かに『素性がわからない怪しい二人組』に映るだろう。
「……この話はもうお終い。今日の護衛任務はもう結構です。お疲れ様でした。……行こっ、みんな」
アスナが強引に話を終わらせると、そそくさとクラディールの横を通って外に出る。彼女の後ろをユキ・キリト・カイトの順に追いかけ、《エギル雑貨店》を立ち去って行った。
第61層主街区《セルムブルグ》。
階層面積の大部分を湖畔が占め、湖の上に浮かぶ城塞都市が61層の主街区だ。
中心部には高くそびえる古城が佇み、街全体が
街並みも中々なのだが、周囲の景色も評価が高かった。太陽光が湖面に反射してキラキラと輝けば美しさに感嘆の声を漏らし、黄昏時になれば階層全体を橙色に染め、もの寂しげな印象の中に趣を感じさせる。時間帯毎に全く違う顔を見せるのは、ゲーム開発者達の粋な計らい、といったところだろうか。
現在アクティベートされている全階層中、住みたい街上位に入るであろう主街区なのだが、売りに出されているプレイヤーホームはさほど埋まっていない。それもそのはず、街にある家はどれをとっても値段が高く、おいそれと手出しできる金額ではないのだ。なので『住みたいけど住めない街』という矛盾したキャッチコピーを貼られた場所でもあった。
しかし、そんな《セルムブルグ》にマイホームを持つ猛者が、なんとこの場に二人もいる。
一人はユキ。そしてもう一人は今回食事の場を快く提供してくれたアスナだった。
そしてアスナに招かれたキリトとカイトは、初めて彼女の家を訪れる。
「それで、メニューはどうするんだ?」
「そうだな……アスナ、なんかいい案ないか?」
「そうね……どうせならシチューにしましょう。ラグー、つまり煮込むっていうぐらいだし」
「はいっ! 私、シチューがいいですっ!」
女子二人の意見にこれといった異論はないため、夕飯のメニューがシチューに決定した。当初はカイトがメインを担当するつもりだったが、アスナも《料理》スキルを
アスナは日頃から使っている包丁を取り出し、バットにオブジェクト化した《ラグー・ラビットの肉》を置く。大きな塊肉の上に包丁をかざして一振りすると、細分化されて大きめの肉片に変化した。食材の上に包丁を掲げて振るだけなので、キリト曰く「
『むしろ簡略化しすぎて味気ない』
「さいですか……」
細かくした食材を全てモスグリーンの鍋に入れ、蓋をしてオーブンに入れる。タイマーをセットして時間がくれば、自然と出来上がっている仕組みだ。
待っている間、アスナはサラダの調理を開始。一方カイトは生地を練り終え、発酵させている最中だった。
「私、食器の準備してくるね」
「うん、お願い」
ユキが棚から食器を取り出し、テーブルに並べ始める。手持ち無沙汰なキリトも手伝い、あっという間に白い皿がテーブルを埋め尽くした。二人に出来るのはせいぜいここまでなので、再び本日の料理長と副料理長の作業を見学し始める。
それからほどなくして料理は完成し、調理台にメインディッシュの入った熱々の鍋を置いた。四人が鍋を囲んで担当のアスナが蓋を開けると、その瞬間に湯気が立ち昇る。
最初は嗅覚。
蓋を開けたと同時に解き放たれた香りの爆弾は、その場にいた全員の鼻孔をこれでもかと刺激する。香りは味への期待値を高める大事な指標だ。
間髪入れず、次は視覚。
濃いブラウン色の海にはゴロゴロと大きく色鮮やかな野菜達が漂い、肉の旨味が溶けたシチューが、これでもかと染み込んでいるのがわかった。シチューもさることながら、気のせいかメインである大粒の肉が輝いてさえ見える。
最後に味覚。
皿に盛られたシチューが卓上に並ぶと、まずは手を合わせて感謝の意を示した。銀の匙をとり、シチューと肉をすくって口へと運ぶ。
シチューの味を四人は見誤っていた。溶けていたのは肉の旨味だけではなく、野菜の旨味も溶けていたのだ。溶けて混ざり合うことで生まれた旨味を含むシチューを、煮込んで柔らかくなった肉が再吸収し、味は更なる高みへと昇りつめる。
四人の感想は言わずもがな『美味い』だが、それ以上に感じた事を言葉にして一斉に言い表した。
『生きてて良かった〜』
カイト達が《ラグー・ラビットの肉》を堪能している頃。ある男を除いたSAOプレイヤーの知らないところで、とある出来事が起こっていた。
その男は自室で珈琲に似た物を飲みながら、目の前で複数表示されている半透明のウィンドウを眺めている。そこにはせわしなく文字列が凄まじい勢いで流れているが、それはシステムへ侵入しようとしている病原菌を、《カーディナル》に備わっているアンチウイルスプログラムが排除している様子だった。
(無駄な事を……)
男は表情を変えず、焦る様子を一切見せていない。それもそのはず、この世界の秩序を守るために作られた《カーディナル》は内外部問わず、全てのシステムエラーを排除するよう設定されており、男の手を借りずとも問題は全て解決してくれる
優秀なプログラムだ。そして案の定、侵入を試みた病原菌は《カーディナル》に敗れてしまった。
「くそっ!」
とある会社のとある一室。眼鏡をかけた細身の男性は、机に向かって拳を叩きつけ、不満を露わにしていた。
「茅場……晶彦……」
彼にしてみれば『目の上のタンコブ』とでもいうのだろうか。同じ研究者でありながら彼よりも遥かに優秀で、常に嫉妬の対象としてみていた。
「アンタはいっつもそうだ……いつもいつも……僕の邪魔ばかり……」
SAOサーバーのルーターに細工を施してはいるが、いつクリアされるかわからないゲームをただ待つのではなく、こうして彼自らアプローチを試みることもあった。
だが、結果はいつも同じ。カーディナルシステムは突破出来ず、まるで格の違いを見せつけられているかのように腹立たしかった。
「次だ……次こそは……」
結局この時のアプローチは彼の思い通りにいかなかったが、この行いは一見完璧な《カーディナル》でさえ気付かないバグを生み出すキッカケを作ることとなる。
食材アイテムのランク決定要因は独自解釈です。
キリトが74層時点で身に付けている《ブラックウィルム・コート》の名称に加えて『四代目の体防具』『カリスマお針子(アシュレイ)が作成』といった設定は、原作者が出していた同人誌から引用しています。
キリトVSカイトのデュエル結果は次話の迷宮区探索でわかります。今回選ばなかった側の道を進む予定ですので。
今回はタイトルで『彩り』とあるように、文章中の各所に意識して色の名前をたくさん連ねてみましたが、特に意味はありません。ただの遊び心です。