コーバッツの返答を聞かず、カイトは自身がやるべきことをやるために、再び戦場へと足先を変える。
先ほどまでいたグリームアイズの姿は、既に見当たらない。巻き込まれた集団は離脱したのか、はたまた迷宮区の入り口方面へと向かってジリジリと後退していっったのか。確認する術を持たない彼に出来ることは、彼らが今もこの世界の何処かで存命しているのを祈るだけ。
「ユキ、アスナ」
待機させていた2人の少女に駆け寄る。
本当ならアスナはキリトの元へ駆けつけたかっただろう。カイトも出来ることならそうさせたい。だが取り乱した彼女を落ち着かせるため、彼はユキを傍につけ、平静さを取り戻すための時間を設けた。キリトに負担を強いる形になってしまったが、後々の事を考えて必要だったと割り切るしかない。
「ボスは――――グリームアイズは何処に?」
「あの人達を追いかけて、奥に行っちゃった……」
「……わかった。こっちも準備が出来たから、タイミングを見計らってキリトとスイッチする。足止めしている間に、みんなでボスを追ってくれ。まさかとは思うけど……あいつはこのまま街に行くかもしれない」
「ちょっと待って! それじゃあまるで――」
「あぁ、あの時みたいだ」
忘れもしないハーフポイント戦の後、急遽発生した死闘。激闘に次ぐ激闘は彼らの精神をすり減らし、最後の戦いには多くの命がその身を散らした。安全だと思われていた圏内での戦闘により、巻き添えを喰らった顔と名前を知らないプレイヤーもいる。グリームアイズが一体何処を目指して進んでいるのか定かではないが、悲劇の再生は十分考えられた。
「あくまで想像でしかないけど、放っておいて良いことは一つもない。これ以上の混乱を防ぐために、奴の進行を少しでもいいから遅らせてくれ。ただ、本当にやばくなったら離脱してくれよ」
「……わかったわ」
静かな闘志をその瞳に宿し、アスナは力強く頷いた。
「それとユキ。――――って作戦でいくから、よろしく」
「うん、わかった」
了解を得られたのなら、開戦の合図は彼が作る。そう決めていた。
利き足で地を蹴って前へ飛び出し、剣技の応酬を繰り返している2人のプレイヤーに割り込む。
「キリト、下がれ!」
距離の開いた瞬間を狙い、PoHに切りかかる。簡単に避けられたが、そうやすやすと傷をつけさせてくれる程、甘い男でないのは承知の上。選手交代出来れば上出来だ。
「今度はお前か? 少しは楽しませてくれよ」
「楽しむ余裕があればいいけどな」
すかさずホルダーのピックを一本取り出し、フードの奥に隠れているPoHの顔目掛けて投擲。システムに頼らない手動の攻撃は鈍く、PoHにしてみれば避けるのは容易く、朝飯前だ。
難なく避けて視線を敵意剥き出しの少年に向ければ、いつしかソードスキルを発動して眼前に迫っていた。それはかつて、カイトがイリスにやられたのと全く同じ手口――――
「Wow!」
珍しくPoHが本心から驚きの声をあげた。
投擲したピックに注目を浴びせ、わずかな隙を狙い、片手剣突進技《レイジスパイク》で間合いを詰める。相手によっては敵がわずかながら瞬間移動したように見えるその手法で、カイトは一太刀を浴びせにかかる。
「――50点だ」
しかし、それでは彼に剣を届かせることは出来ない。
PoHは身体を捻ることで頭部への剣技を回避。フードを掠める程度に終わり、2人はすれ違って位置を逆転させる。
「狙いは悪くないが、挙動のタイミングが少し遅いな」
「ご教授どーも。……でも、オレはあんたを切るためにやった訳じゃないぞ」
切り込み隊長を請け負った彼が真っ先に行なったのは、PoHの気を引き付けること。これが狙いの1つ目。
普通にPoHの横を通り過ぎようとしても、先刻アスナがやられたように進行を防いで邪魔されるのがオチだろう。ならば第一段階としてピックの投擲で視線を逸らし、第二段階でカイト自身が囮になることによって、彼の注意を完全に引きつける。キリト・アスナ・《風林火山》の移動を苦もなく行うのに閃いたのが、それだった。
現に彼の目論見通り事は進み、いつの間にかキリト達は移動を開始してグリームアイズの後を追うように走っていた。
「Oh……こいつは一本取られちまったな!」
頭を押さえて天を仰ぐPoHは、何処か愉しそうな様子を感じさせる。
「――だが…………俺は通行止めと言ったんだぜ?」
声色は急激に変化した。
感情の欠片を一片も感じ取らせないような冷たい口調は、その変わり様も相まって、ゾクリと背筋に寒気が走る。
「勝手に通っていいと誰が言ったんだ?」
刹那、銀色に輝く小さな物体が、PoHの左手を起点にして飛来した。
大きく振り上げた手から放つのは、投剣ソードスキル《トリプルシュート》。
指の側面で挟んだ3本のピックは通過した一団へと進み、背中に刺さろうと真っ直ぐ飛んでいく。3本のピックはそれぞれ別のプレイヤーを捉え、進行を妨害しようとした。
だがピックが刺さる直前、乾いた金属音を響かせて落下したのは3本ではなく、合計で6本のピック。3本は当然PoHが投げたものだが、残りは一体誰のものなのか。最早言うまでもないだろう。
PoHと同様にカイトは左手を振り上げた状態のまま、地に転がっている凶器を見やる。その後、彼は再びPoHに向き直った。
「邪魔していいなんて誰が言ったんだ?」
PoHは殺しをするのであって、殺し合いを望んでいる訳ではない。しかし、ラフコフが殲滅されてからグリーンで大人しく日陰で過ごしてきた彼にとって、目の前にいるのは久方ぶりに心躍らせる獲物だった。
「……OK。あいつらが消える瞬間を見れないのは残念だが、ここは我慢してやる」
狂気の笑みを浮かばせたPoHの口元が歪む。
そんな彼の聴覚が、背面から忍び寄る足音をキャッチした。
反射的に身体を横方向へ移動すると、彼が立っていた位置で垂直方向の剣筋が描かれた。PoHはその場で回転すると、《
奇襲をかけた少女――――ユキは伏せることで身体を沈め、柄頭の殴打を回避。上から下へと振り抜いた銀白色の短剣は、下段からの切り上げに軌道を変え、その挙動に反応したPoHは手首を返し、横に振り抜いた剣で切り結んだ。
奇襲が失敗したユキは深追いせず、大きく後退して一時離脱すると、カイトの隣に並ぶ。
「ごめんね。折角チャンスを作ってくれたのに」
「いや、ユキが気にすることじゃないよ。むしろここはあいつを褒めるべきだ」
意識をカイトに向けさせていたにも関わらず、即座に背後からの攻撃を避けた事に関しては、悔しいが認めざるを得なかった。
はみ出し者の犯罪者集団を纏め上げていたカリスマ性もさることながら、その実力の高さに魅せられたプレイヤーも多くいたことだろう。それと同時に、彼が攻略組にいないことがひどく惜しまれる。
「2対1か……。随分卑怯な真似をするじゃねぇか」
「オレ達が卑怯なら、あんたは卑怯で愚劣だよ」
しかし、それは叶わぬ願いというもの。殺意の込もった刃でためらうことなく人を切るその存在は、放っておけばさらなる波紋を呼び起こす脅威になりえるだろう。
「大人しく牢獄に入れ。仲間も待ってるぞ」
「Huh、俺はブタ箱に入る気はねぇ。とりあえず……今は今を愉しむことに専念しようじゃねぇか」
右手に携えた巨大なダガーを持ち上げ、背の部分で肩を軽く叩く。
そんなPoHの様子を見た2人は、密かに心で誓いを立てていた。
『絶対に一泡吹かせてやる!』と――。
「イッツ・ショウ・タイム」
最前線の迷宮区。その最奥部。
死神は息を吹き返した。
巨大な2枚扉と3人のプレイヤーを背に、キリト達は来た道をなぞるようにして疾走していた。
右へ左へと緩い曲線を描く道の先からは、グリームアイズの低く唸るような咆哮が響き、それに交じってプレイヤーの悲痛な叫びが鼓膜を震わせる。聴覚だけでしか得られない惨劇を思わせる情報源は、実際に視認するまでは考えうる最悪のイメージしか生まない。否が応にもキリト達の表情に焦燥の色が浮かんだ。
「お願い……間に合って……」
囁くような呟きは《閃光》の切なる願い。霞んでいるわずかばかりの希望を頼りに、一団が存命しているという最良の未来を信じる事だけが、今の彼女の足を動かす唯一の理由だった。
そうこうしているうちに、現時点で最大の脅威である悪魔の後ろ姿を捉える。グリームアイズは道のど真ん中を占領し、今もなおギルドの一団に対して悠然と猛威を振るっていた。ボスからすれば進行を妨げるちっぽけな存在だが、彼らは生き残るため、そして危機に瀕した仲間の窮地を救うためと、それぞれがそれぞれの理由を抱いて剣を振るっている。
しかし悲しいかな、グリームアイズが繰り出す剣撃の嵐は止む気配を見せず、転移して離脱する暇もない。最大の理由はここが広いボス部屋ではなく、狭い迷宮区の道であることがネックとなっていた。
フロアボス戦の舞台となるボス部屋は形と大きさに違いがあれど、基本的には大人数を収容できる程の広さを誇っている。なので前後左右に十分なスペースを確保してさえいれば、敵の攻撃に対しての逃げ道は多岐に渡るだろう。
だが現在の戦場は狭い一本道。グリームアイズの体躯は道を遮り、横薙ぎを繰り出せば前方の敵全てを容赦無く切り伏せる。広範囲のブレス攻撃も瘴気が道全体に充満してしまうため、プレイヤーが攻撃を回避する場合は後方へ跳び退くしか選択肢がない。なので必然的にジリジリと後ろへ、後ろへと追いやられてしまう。
「クライン。オレとアスナで切り込むから、《風林火山》で彼らを退避させてくれ!」
「わかった! すぐに合流すっから、死ぬんじゃねぇぞ!」
「言われなくてもそのつもりだ……アスナッ!!」
「はいっ!」
駆けるアスナはスピードを緩めることなく跳躍すると、エメラルドグリーンの光が凝縮。細剣中位4連撃ソードスキル《アイソレック》による高速の突きが、グリームアイズの背中にダメージを与える。
それによってグリームアイズの標的は彼女に移り、青い眼で未だ空中のアスナを睨みつけた。振り向きざまに繰り出した横薙ぎで、彼女の体勢を崩しにかかる。
しかし、アスナの表情に驚きや焦りといった様子は見受けられない。硬直を課せられた身体に鈍重な一撃が見舞われる未来は、《閃光》に勝るとも劣らない速度で割り込む黒い影が書き換えた。
片手剣上段突進技《ソニックリープ》。
片手用直剣《エリュシデータ》の黒い
グリームアイズの横に薙ぐ大剣をキリトが弾き返し、アスナに喰い込むのを阻止する。加えてお手本のようなパリィで敵が仰け反り、発生する一瞬の硬直が成功報酬として支払われた。
空中を舞ったアスナは硬直から解放され、着地と同時に次の一手を繰り出す
細剣上位8連撃ソードスキル《スター・スプラッシュ》。
親友が魂を込めて作成した《ランベントライト》に宿すのは純白の燐光。連続8回に渡るハイレベル剣技を終える頃には、グリームアイズは身体をよろめかせて1歩、2歩と後退していた。
アスナの放つ華麗な剣技は人を惹きつける。本人の容姿も要因の一端を握っているが、狙った場所を寸分違わず突く正確無比の技量は、キリトも舌を巻くほどだ。
2人の猛攻を横目に、《風林火山》はボスの真横を通過する。精神をすり減らし、地面で倒れているプレイヤーに肩を貸して、安全な場所まで避難する段取りを始めた。
「大丈夫か?」
「す、すまねぇ……」
《風林火山》の救援に安堵し、助かった、と皆が呟く。グリームアイズの注意をキリト達が引いている今のうちに、素早く距離をとって彼らを転移結晶で離脱させなければならない。自力で動ける者には協力してもらい、彼らの撤退は滞りなく進行する。
その様子をグリームアイズ越しに見届けたアスナは、ホッと一息ついて胸を撫で下ろした。
だが、敵から目を逸らすのは戦闘時に推奨されない行為の1つ。彼女の気持ちもわからなくはないが、ボスを目の前にして注意を別に移し替えるのは間違っていた。
「アスナッ!!」
キリトの発した、自身の名を叫ぶ声で我に返る。
眼前に迫るのは、真っ直ぐ突き出されたグリームアイズの左拳。気付いた時には既に手遅れであり、アスナの視界の大部分を覆う程に接近していたため、彼女にはどうすることも出来なかった。
「――――っ!!」
勢いよく突き出された拳はアスナの身体を殴打し、後方へと飛ばす。
地を滑るようにして転がり、ようやく止まると身体を起こそうとする――が、全身を包むようにして不快感が走っているため、今の彼女には顔を歪めてボスを睨むことしか出来なかった。
そしてアスナの睨みなど気にもとめず、グリームアイズは剣を構える。大きく振りかぶるとオレンジのライトエフェクトが大剣に宿り、彼女を袈裟斬りで叩き潰さんとした。
両手剣上位単発重攻撃ソードスキル《グランセル》。
プレイヤーが行う場合は両手で剣を持って行うのだが、グリームアイズは《グランセル》を右の剛腕で勢いよく繰り出す。
うずくまるアスナを見兼ねてキリトは飛び出すが、今からソードスキルの初動モーションを作って迎撃していては遅すぎる。
(間に合えっ!!)
彼は自身の持つ敏捷値を限界までブーストし、アスナの身体を抱きかかえてその場を素早く離れる。彼が離れた直後に鈍く重い大音響が響き、スモークをたいたような煙が辺り一帯を白く染め上げた。
アスナが剛剣の餌食となることだけは回避出来たが、それだけだと合格点とはいかない。両手剣特有の重量を活かした至近距離から放つ渾身の一撃は、直撃せずとも着弾点からの余波で吹き飛ばす威力を誇っていた。空気が振動することで言いようのない圧力が発生し、肌を刺激する。
「くっ!」
「きゃっ!」
体勢を崩したキリトは転倒し、アスナは彼の上に覆いかぶさるような状態となった。ソードスキルを使用したグリームアイズには、今頃硬直時間が課せられている筈。ならば1度下がってこの状況をリセットするには今しかない。アスナはキリトに被さっているその身を起こす。
「キリト君! 今のうち……に……」
アスナが言葉を詰まらせたのは、視界の端にあるパーティーメンバーの1人、キリトのHPバーが赤くなっているのが原因だった。グリームアイズの拳とソードスキルの余波を喰らったアスナに対し、キリトは余波しか喰らっていない筈。常識的に考えて被ダメージ総量はアスナが上回っているのに、HPの減少率はキリトが上だった。
「どういう……」
その答えはキリトの両足が示していた。
彼はソードスキルの余波に巻き込まれて転倒したのではない。
フロアボスの放つ単発重攻撃ソードスキルとその余波、追加で部位欠損ダメージが加われば、幾ら彼でも命の危機に瀕しない訳がない。
「そんな……こんなのって……。いや、まだよ! キリト君、転移結晶ですぐに離脱を――」
突如、2人を覆い隠すような黒い影が迫る。
硬直から解放されたグリームアイズは、再び剣を握りしめて刃を振るう準備をしていた。標的は勿論、キリトとアスナだ。
「アスナ! 君は早く逃げろ!」
「ダメ! このままじゃキリト君が……」
この場から跳び退けば、アスナは一先ず危険から回避できるだろう。だがそれは動けないキリトを見捨てて逃げることであり、そうすればグリームアイズの剣が彼の身体に喰い込むのは間違いない。このまま転移結晶でキリトが離脱するにしても、おそらく転移完了前に殺られるのがオチだ。
「なら……私が君を守る!」
彼女が取る選択肢は1つ。迷いや躊躇は微塵もない。キリトが無事に転移完了するまでの間、彼女自身がグリームアイズの攻撃を防ぐ盾になればいい。決意を固めたアスナはボスと向き合った。
「ダメだ! それだとアスナが……」
彼女1人だけでは、キリトを守りながらフロアボスと渡り合える訳がない。仮に離脱を決心したキリトが無事に転移したとしても、1人取り残されたアスナの負担が重くなるだけ。迷宮区に出現するモンスターと違い、フロアボスは1人で相手出来る程軟弱ではない。故にキリトはアスナの決意を良しとしなかった。
アスナはキリトを守るため、キリトはアスナの身を案じてお互い1歩も引こうとはしない。そんな2人のやり取りに終止符を打つため、グリームアイズは剣を上段に構えると、先ほどと同じ《グランセル》で纏めて
「キリトォォォォオ!!」
赤い鎧を纏った侍姿の青年が、カタナ上位単発重攻撃ソードスキル《狼牙》で、グリームアイズの背後から奇襲をかけた。
下段に構えた刀を上段に切り替え、跳躍しながら垂直に振り下ろす。山吹色のライトエフェクトがボスの背中に直線の軌跡を描き、2人に降りかかるであろう災厄を未然に防いだ。
無事に離脱した一団を見送り、《風林火山》はキリトとアスナの援護にまわる。そこで真っ先に跳び出したのは、デスゲーム初日に出会った情の厚い男――クラインだった。
「キリト! アスナさん! ここはオレたちに任せなっ!!」
彼は自身が創設したギルドのメンバー達と共に、グリームアイズを引き付ける役目を担う。ボスは葬り損ねた2人よりも、処刑執行を邪魔したクラインに目を向けた。
「良かった……本当に……」
今度こそ危機を脱し、アスナは心の底から安堵した。だが、それはクライン達に移り変わっただけに過ぎないため、本当の意味での安息ではない。
「私、クラインさん達の加勢に行ってくる。キリト君は回復するまで待ってて!」
キリトに一言告げると、アスナは身を翻して荒くれ者の怪物が
1人残されたキリトは
出来ることなら部位欠損も治したいところだが、欠損ダメージを回復するレアアイテムが手持ちにはないため、そちらは仕方なく自然回復を待った。
(どうする……?)
現状は最悪だ。
巻き込まれたギルドの一団全員かはわからないが、彼らの離脱援助には成功したと言っていいだろう。だがその次の問題、自分達の離脱が困難を極めていた。
ボスが繰り出す数多の攻撃は、幅の狭い道だとそのほとんどが射程圏内に入ってしまうため、休む暇もない。こまめにスイッチしてなんとか全員命を繋いでいるが、グリームアイズの攻撃力が高いためにHPの減少が早く、回復アイテムの消費が激しい。
そしてただでさえ人数が少ないのに、転移結晶で離脱しようものなら、残ったメンバーは確実に負担を強いられるだろう。故に離脱するという選択肢は、あってないようなものだった。
(――使うしかない……)
迷っている場合ではなかった。
生意気な自分をいつも気に掛けてくれる侍。
死神を相手に命のチップを自ら賭けた
自分を庇うようにして悪魔の前に立った
皆のため、自分には何が出来るのか。
答えは1つ。
それは、第74層フロアボス《ザ・グリームアイズ》を討伐すること。
そのために彼が取るべき選択は――――。
次回「黒と白の剣乱舞」