ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

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原作でいえば『はじまりの日』に値するお話です。



第04話 助けた理由と照れ隠し

 《はじまりの街》を出てから道中でモンスターとの戦闘をこなし、ようやくカイトとユキは次の村である《ホルンカ》に着いた。いまだ大勢の人達がいる《はじまりの街》と対照的に、《ホルンカ》にはプレイヤーの人影が見当たらない。やはりHP0=現実の死、というのがネックになっているようだ。

 

「それで、これからどうするの?」

「うーん、まずはポーションとかの必要なアイテムを買って、武器屋を少しみよう。それで良さそうなのがあれば買う。そのあとにクエストを1つ受けたいんだ」

 

 2人はNPCの店でポーションを充分な量買い、武器屋をみる。そこで2人は初期装備より性能の良い皮の防具を購入し、ユキは《ビギナーダガー》を売却した後《ライトダガー》を購入し、その場をあとにした。

 

「それにしても良かったの? 私の武器だけ良いのにしちゃって」

「大丈夫。今から受ける、えっと…………クエスト名は忘れたけど、ある植物型モンスターの落とすアイテムをとってきて欲しい、って内容だったかな。そのクエストの報酬が片手剣なんだ。オレはそれを使うつもりだから、武器の更新はもう少し後だな」

「へぇ〜、詳しいんだね。……もしかして、カイトって元βテスター?」

「そうじゃないよ。SAOをやる何日も前から、βテストの情報が載ってるサイトを閲覧してたんだ。それで知ってるだけ」

「そうなんだ! ちゃんと覚えてるなんてすごいね」

「でも、うろ覚えだったり忘れてる情報がほとんどだから、あんまりアテにはできないよ」

 

 その言葉に嘘はなかった。

 クエスト《森の秘薬》を受ける民家の場所を曖昧に記憶していたため、2人は関係のない民家を数件訪問してしまう。さらにはうち1件が話の長いNPCの民家だったため、さらに余分な時間を費やす結果となってしまった。

 ようやく目当ての民家を探し当て、中に入ると、NPCが鍋をグツグツと煮込みながら中身をかき混ぜていた。NPCは入室した2人をみる。

 

「おはようございます、旅の剣士さん。お疲れでしょうけど、今は食べ物がないから食事を差し上げることができないの。お水しか出せませんが、ゆっくりしていって下さい」

 

 椅子に座ると2人の前に水が出されたため、喉の乾きを潤すためにそれを飲んだ。水を飲み干すと、ユキは鍋にじっと視線を注ぎ、思った事を口にした。

 

「食事は出せないって言ってたけど、それならあの鍋の中身はなんだろう?」

「……さぁ?」

 

 しばらくすると、部屋にある扉の奥から咳こむ声が聞こえた。すると、NPCの頭上に金色の『?』マークが表示される。クエスト開始の合図が出た事で、カイトは即座にNPCに話しかけた。

 

「どうしましたか?」

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 

 NPCの話が長いので要約すると、娘が病気にかかってしまい、治すには《リトルネペントの胚珠》というアイテムが必要で、代わりにとってきて欲しい、という内容だった。そしてそれを渡せばクエスト達成となり、報酬の《アニールブレード》が手に入るらしい。

 クエストを受諾して民家を出ると、ユキが昨日のカイトの言葉を思い出す。

 

「今更だけど、昨日私と会った時に『用事がある』って言ってたよね。あれ、何だったの?」

「あ〜……あれは、その……ユキのことが気になって……」

「…………え?」

 

 予想外の回答にユキは思考が停止し、気の抜けた返事をするが、少しの間を置いて彼女の頬が紅く染まりだした。カイトはそんな彼女の反応をどう捉えればいいのか迷ったが、彼は自分の発言が言葉足らずだったとすぐに気が付いた。反省し、すぐさま発言の意味をしっかりと説明する。

 

「ちがう、ちがうぞ! そういう意味じゃない! オレが言いたかったのはその……実は昨日デスゲームが始まってすぐに、ユキが1人で広場を飛び出していったのをみてたんだよ。その時は、オレも元βテスターの奴に連れられて広場を抜け出してたんだけど、その後そいつに『一緒に来ないか?』って言われたんだ。正直……ホッとした。あの状況で誰かがそばにいてくれるってだけで……それだけで安心したんだ。それと同時に、ユキの姿を思い出したんだ。あの子は今1人ぼっちで……誰も周りに頼れる人がいなくて、不安なんじゃないかって。オレも同じ立場なら、きっとそう感じたから……」

 

 昨日の事を思い出し、言葉を選びながら話していると、だんだん真剣な表情になっていく。これは彼の嘘偽りない本心。今の話を聞いて、ユキはカイトが相手のことを思いやれる優しい人物なのだと感じた。

 

「そっか……カイトは優しいね」

「そんなんじゃない……見て見ぬ振りができなかっただけ……」

「それを優しいって言うんだよ」

 

 ユキのストレートな褒め言葉に、カイトは顔を背ける。そんなカイトの隣でユキは静かに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《リトルネペント》は普通のやつと花つきと……実つきの3種類がいて、今回のターゲットは花つき。それで注意しなきゃいけないのが、実つきの実は絶対に壊さないこと。実を壊しちゃうと、仲間を呼び集めちゃうからな」

「了解」

 

 狩りを始める前に、2人は自分たちのやることを確認した。

 今回の狩りの対象となる《リトルネペント》は3種類おり、そのうち実つきと呼ばれるモンスターが付けている実を壊すと、破裂音と強烈な匂いを放ち、周囲の《リトルネペント》を呼び寄せてしまう。1匹や2匹ならなんとかなるにしても、それ以上に多いと多勢に無勢、あっという間にやられてしまうだろう。

 そして今回のターゲットは花つきと呼ばれる個体で、この花つきがドロップする胚珠がクエスト達成に必要なアイテムなのだ。ドロップ率はかなり低く設定されているが、そこは粘り強くやるしかない。

 2人は《リトルネペント》の出現する森に到着し、そこから歩いて奥へと進むと、ユキが前方に何か落ちているのを見つけた。

 

「ねぇ、あれって」

 

 何だろう、と呟く前に、カシャン、という破砕音を響かせ、落ちていた物体はポリゴン片になった。2人はポカンとして、顔を見合わせる。

 

「……何も起きないね」

「何だったんだろうな……。まぁいっか、ここを拠点にして狩りをしよう。今から1匹連れてくるから、ここで待ってて」

「うん。気を付けてね……」

 

 不安げな顔で、ユキはカイトを静かに見送った。

 カイトがその場を離れると、スキルスロットに入れたばかりの《索敵》スキルを使い、周囲にモンスターがいないかを確認する。すると、1体のモンスターが付近にいたため、ゆっくり近付くと、それは《リトルネペント》だった。実も花もつけていない通常の個体だが、こうした通常個体を地道に狩っていけば、いずれ花つきも現れることだろう。

 カイトは足元に転がっていた石を拾い上げ、振りかぶって投げる。投げた石は《リトルネペント》に当たり、タゲがカイトに向いたため、カイトはそのままユキのいる場所まで戻った。

 《リトルネペント》は捕食植物のような頭で、口からはヨダレを垂らし、2本の蔦を使って器用に走ってくる。ユキの近くまで戻ると、カイトは《リトルネペント》に向き直り、戦闘体制にはいった。

 まず、タゲを取っているカイトが蔦の攻撃を避けつつ攻撃し、避けきれないものは剣で捌く。隙を見つけて片手剣単発ソードスキル《スラント》を叩き込んだ後《リトルネペント》がすぐに反撃に移ろうとするが、ユキとスイッチし、邪魔な蔦を切り落とした。すると《リトルネペント》はウツボを膨らませて腐食液を吐き出す予備動作を行った。

 

「避けろ!」

 

 間一髪でユキは腐食液を回避し、「やあっ!」という気合いの入った掛け声と共にソードスキルで攻撃し、ダメージを与える。さして多くない《リトルネペント》のHPバーは空になり、その身を爆散させ、目の前のウィンドウには《フレンジーボア》の時よりも多い経験値とコルが表示された。

 

「やった!」

「ナイス!」

 

 2人で行った戦闘の回数はそれほど多くはないが、見事なコンビネーションで《リトルネペント》を葬った。

 

「今の調子でガンガン行こう」

「うん!」

 

 

 

 

 

 その後の狩りも順調に進み、1匹ずつ、多くても2匹の《リトルネペント》を相手にして慎重に狩りを続ける。レベルアップのファンファーレが鳴り、2人ともレベル2に上がった。

 いったいどれだけ狩ったのだろう。ようやく花つきが現れ、目的のアイテム《リトルネペントの胚珠》を手に入れる。

 

「あとはこれを持って帰るだけだね」

「それじゃあ、村まで戻ろうか」

 

 帰ろうとした時、近くで何か破裂した音が聞こえた。すぐに「うわあああ!」という悲鳴が森に響き、片手剣と盾を装備した1人の男性プレイヤーがこちらにやってくる。意図的なMPKの可能性を考えたが、どうやらそうでもないらしい。駆け寄ってきた男の表情は、演技で作られたものなどではなかった。

 

「あんた達、頼む。助けてくれ!」

 

 おそらくこのプレイヤーが誤って実つきの実を割ってしまったのだろう。後ろから大量の《リトルネペント》が向かってきており、2人は今から逃げようにも遅かった。

 

「ユキ! 今のうちにポーションを。迎え撃つぞ!」

「うん!」

 

 ポーションでジワジワと体力を回復し、剣を構えて再び戦闘体制にはいる。今まで何匹と狩っていたため、動きが読める。1体ずつ確実に倒していった。

 すると群れの中にいる1匹が腐食液のモーションに入った。

 

「くるぞ!」

 

 カイトとユキはその場を離れて腐食液を回避する。

 しかし片手剣のプレイヤーは回避が間に合わなかったため、咄嗟に盾で腐食液をガードしたのだが、腐食液を受けると武器・防具の耐久値が大幅に削られてしまう。既に男の持つ盾は、今までの戦闘で限界に近かったのだろう。盾の耐久値はゼロになり、砕け散ってしまった。

 

「も、もうだめだ! き、君達、ごめん!」

 

 そう言うと男は離れた場所にある木の陰に隠れ、次の瞬間、男のカーソルが消えた。《リトルネペント》も一瞬動きを止める。突然の出来事に2人も戸惑う。

 

「な、なんで消えちゃったの?」

「……くっ、そ! ……ユキ、こうなったらしょうがない。2人でやろう!」

 

 しかし未だ《リトルネペント》は10匹以上いる。それらを2人で全て倒すのは厳しいと思ったが、動きを止めた《リトルネペント》は再び動きだし、男が消えた場所になだれ込む。何もない場所へ蔦の攻撃を繰り出すと、再び男が姿を現した。

 

「な、なんでだ! た、助けてくれーー!」

 

 男も応戦するが、死の恐怖から冷静さを既に失っており、剣をがむしゃらに振っていた。なにより《リトルネペント》の数が多い。あれでは持ちこたえれないだろう。

 

「待ってろ! 今行く!」

 

 しかしカイトの前に複数の《リトルネペント》が立ちはだかる。まるで男の元へは行かせない、とでもいうように。

 

「ユキ、援護頼む!」

「うん!」

 

 やることはさっきと変わらない。1体ずつ確実に倒すだけ。助けを求める男の元へ1秒でも早く駆けつけるため、これまでの戦闘で判明した弱点、捕食部分の付け根を最優先で攻撃する。最後の1匹を片付けたが、あと1歩遅かった。

 

「死にたくない! 死にたく――」

 

 それが男の最期の言葉だった。男の悲痛な願いも虚しく、その身体はポリゴン片となって砕け散る。カイトは目の前の男を救えなかったことに、悔しさと憤りを感じる。唇をかたく結び、剣を強く握りしめて男を葬った《リトルネペント》に向かっていった。

 

 

 

 

 

 最後の1匹を倒すと2人とも地面に座る。あの場にいた全てのモンスターを倒し終える頃には、2人とも精神的に疲労しており、危機を乗り越えたことで安心して集中力が切れてしまった。

 

「あの人……何で姿が見えなかったのに、見つかっちゃったんだろう……」

「……オレもあの時は疑問に思ったけど、思い出したよ。あれは《隠蔽(ハイディング)》スキルっていって、姿を消すスキルなんだ。……視覚に頼るモンスターには効果的だけど、《リトルネペント》は視覚でプレイヤーを認知してるわけじゃない。だから見つかったんだ」

 

 《リトルネペント》に限らず、多くの植物型モンスターは視覚に頼らないため、《隠蔽(ハイディング)》スキルはその意味を成さない。彼はそういった初歩的な情報を知らなかったのだろう。

 

「村に戻ろう。またさっきみたいな目にあいたくないよ」

「そう、だな。早く戻って休もう。でも……少し待って」

 

 カイトはゆっくりと立ち上がり、持ち主を失った片手剣を拾うと、男が死んだ場所の近くにある木に立て掛け、手を合わした。ユキもそれをみて同じように手を合わせる。

 

「……帰ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村に戻ると午前中とは違い、人の姿を何人か目撃する。彼らもこれから《森の秘薬》クエストを受けるのだろう。花つきを求めて乱獲が行われるのは容易に想像できた。

 民家に戻って胚珠を渡し、アニールブレードを受け取った。さらにクエストクリアボーナスで追加の経験値を獲得し、レベルアップのファンファーレが鳴り響く。外に出た2人は自分たちに頑張ったご褒美として、NPCレストランでの食事をとることにした。

 店に入り、お互い向かい合わせで席に着くと、メニュー表をみて注文をする。ほどなくしてカイトの前にはシチュー、ユキの前にはパスタが出された。カイトがシチューをスプーンですくって口にする。

 

「あの男の人、1人でここまで来たのかな?」

 

 パスタをフォークにクルクルと巻きつけながら、ユキが言った。

 

「他に誰もいなかったし、そうかもな。あくまで想像だけど、何もしないでジッと助けを待つのが嫌だったんじゃないか。何もしないよりも何かをしてこのゲームに抗いたかった、とか」

「私には……出来ないことだなぁ……。1人ぼっちでどうすればいいかわからなくて、もういっぱいいっぱいだったから……」

 

 昨日、ユキは1人でいることの恐怖を知っている。酷く、重くのしかかってくる絶望感。それは自分自身の中で循環して濃度を増し、さらに重くのしかかる。それに耐えきれなくなったからこそ、彼女はあの場を飛び出したのだ。

 

「でも……今私は1人じゃない。一緒に冒険して、こうして一緒にご飯を食べる人がいるから。……ありがとう、カイト」

 

 それは彼女の心からの感謝の言葉。自分のことを気にかけて助けてくれたことに対する、精一杯の『ありがとう』だった。そんな不意に向けられた自身への感謝と笑顔に、カイトは無言で顔を背ける。その仕草は今朝みたものと同じもの。

 

(もしかして、照れてる?)

 

 今朝は隣にいてユキとは反対方向に顔を背けたから気づかなかったが、カイトの頬はほんのり紅く染まっていた。

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