ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

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第51話 剣の使い手と骸骨の刈り手(前編)

 

「今回のボスは姿、名称、特殊能力や攻撃パターンなど、ありとあらゆる情報が不明であり、そういった厳しい条件下で我々は戦わなければならない。序盤は前衛に壁戦士(タンク)を配置して攻撃を受け止め、後衛の攻撃部隊(アタッカー)が側面から攻撃を仕掛ける作戦でいく。だが、なにも動きはこの限りではなく、状況に応じて各自臨機応変の対応をしてくれ給え」

 

 ヒースクリフの提示した作戦は定石とも言える基本的なフォーメーションだ。彼が明言している通りボスについてなにも知らない現状では、これ以外にとる作戦がないのだから仕方がない。基本の陣形で相手の一挙手一投足を探りつつ、その都度最適な指示をとばして打ち倒す方法が、今の彼らに出来る最良の手なのだ。

 戦闘前に一声かけ終わると、ヒースクリフは大扉に向き直った。それを見た一同は各々の武器を持ち直し、構え、部屋に突入する姿勢を形作る。キリトとカイトは背中の、アスナとユキは腰に差した剣を引き抜き、開始の合図を待った。

 ヒースクリフが大扉に手をかけて押すと、見た目に反して重厚な二枚扉は拒むことなく挑戦者達を出迎える。ゆっくり、ゆっくりと開いて全開になると、そこには前日にカイトも目にした先の見通せない闇が変わらず広がっていた。

 

「戦闘、開始!」

 

 《聖騎士》が先陣を切って駆け出すと他の者達も後に続き、自らを鼓舞するかのように雄叫びを上げ、部屋の中へ多くのプレイヤーが我先にと雪崩れ込んだ。入口から部屋の中央まで来るとそれぞれが周囲の人間との間隔をあけ、密集しすぎないよう配慮する。全員が各々の場所に落ち着くと同時に、前回同様プレイヤーを招き入れた大扉は再び閉じられた。

 だが、待てど暮らせど肝心のボスは姿を現さない。ボス出現の予兆もなければ部屋の内部が明るく照らされる演出もないが、一同は途方に暮れつつも周囲の警戒を怠らなかった。

 

(何処だ……何処にいる……?)

 

 前後左右に意識を傾けていたカイトは、必死にボスのいる、あるいは出現する地点の特定に努めていた。姿を視認できないというのはこの上ない恐怖であり、それを振り払うためにも、彼は一刻も早く敵の存在の認知をしたかった。

 警戒心が高まれば高まる程、神経は名刀の如く研ぎ澄まされていく。集中力が一定以上に高まったところで、ふと、空気の震えと粘つくような視線を感じとった。何かが動くような音と、招かれた獲物を見定めるような視線に背筋がゾッとし、思わず身震いする。この時点でカイトは確信した。間違いなくこの部屋の何処かにいる、と――。

 

「上よっ!!」

 

 そしてその答えは、鋭い声で敵の座標を全員に伝えたアスナによってもたらされた。

 ドーム状の部屋の天頂付近にうごめく巨大な白い物体。視線は自分達の真上から降り注がれていたものであり、擦れる音の正体はボスの身体の一部が忙しなく動いていたために発生したものだった。

 フロアから天頂まで距離があるため、カイトは目を凝らしてボスを注視。そうすることでボスの姿と名称が確認できたのだが、身の毛もよだつ悪趣味な姿を見て、カイトは再び背筋が凍りつく。

 大きさはこれまで戦ったクォーターポイントのボスの例に漏れず巨大で、目測10メートルはくだらない。百足を連想させる体躯をしているが、肉は一切なく、全て乳白色の骨で構成され、何本もの足が(うごめ)いている。両腕は巨大な骨の大鎌、頭部は人の頭蓋にも似た奇形で、二対四つの眼窩が青い光を宿していた。

 不気味かつ禍々しいという思いを抱かざるを得ない。それが最後のクォーターポイントにして第75層フロアボス《ザ・スカルリーパー》に対して感じた、カイトの第一印象だった。

 そして他の者もカイトと似たような印象を抱いたらしく、全員がボスの姿に眼を奪われ、見入っていた。根源的な恐怖を奮い立たせるスカルリーパーに気圧され、皆が上を向いたままその場で立ち尽くす。

 しかし次の瞬間、スカルリーパーは天頂にしがみついていた足を離し、重力に従って落下を開始。カイト達のいる地点はボスの真下であるため、その場に居続けるのは得策ではない。まずは距離を――。

 

「固まるな! 距離を取れ!」

 

 ――と、いう考えにヒースクリフも至っていたらしく、すぐさま指示を出した。咄嗟の機転で的確な判断を下せるのは、流石というか、頼もしいの一言に尽きる。ボスの姿に戦慄していたプレイヤー達もその声で我に返り、一目散に皆は四方へと散っていった。

 カイトもフロアを疾駆し、落下予測地点から十分に距離が開いたと確信したところで立ち止まり、振り返る。すると部屋の中央で未だ移動せず上を見上げ、地面に根を張ったかのように動かないプレイヤーが2人いた。

 

「おいっ! 何してる!!」

「走れっ!!」

 

 危険を孕んだカイトとキリトの声に気付き、2人のプレイヤーはようやく移動を開始した。装着している鎧の影響でそこまでスピードは速くないが、あらん限りの力で床を蹴り、自身の出せる最高スピードで逃走を図る。

 しかし、移動の開始が遅かったため、2人が10メートル程進んだところでスカルリーパーは満を持してフロアに舞い落ちた。着地地点を中心にして部屋の内部が赤い色彩を帯び始め、同時に地響きの発生で逃走途中だったプレイヤー2人が足を取られてたたらを踏む。その影響でほんのわずかな時間、動きが静止した。

 そしてその刹那を見逃さず、スカルリーパーの左鎌が閃き、地面から約1メートルの高さを疾った。空間を裂き、風を斬る音を響かせながら、逃走中のプレイヤー2人に迫る。後方から容赦なく迫る危険に対してプレイヤーが反射的に振り向くと、鎌はすぐそこまで迫っており、回避も防御も間に合わない。その事実を飲み込んだ2人の顔が戦慄するのは、無理もなかった。

 

「うわあぁぁぁああぁぁ!!!!」

 

 鎌が2人の背中を正確に捉えて宙に浮かす。絶叫を伴って宙に放り出された彼らは、この後自分の身に起こる未来を悟ったのだろう。顔には困惑と死への恐怖が入り混じっていた。

 飛ばされた彼らの身体を受け止めようと、アスナ達は両腕を広げて構えた――――が、キャッチする直前に2人のHPバーは無残にも全て消し飛び、煌めくポリゴンの欠片となってその身を散らした。今度はアスナ達の顔が困惑と恐怖で染まる番だった。

 

(嘘……だろ……)

 

 『一撃必殺』とは、まさにこの事。

 カイトを含めたフロア内にいるプレイヤー達は、目の前で起きた現象を猛烈に拒絶したい衝動に駆られた。

 

 今回のボス戦に参加しているプレイヤーは百戦錬磨の猛者ばかり。慢心など万に一つも持ち合わせてはいなかったし、事前に行った偵察の結果からボスの有する戦闘力の高さはある程度予想していたが、よもやこれほどとは誰も想像していなかっただろう。攻略組の精鋭で頑強な盾持ち戦士のHPを薙ぎ払いの一撃で消し飛ばすのだから、クリーンヒットは言わずもがな、掠るだけでもかなりのHPをもっていかれるはずだ。

 

 唖然とするカイト達を置き去りにし、スカルリーパーは次なる獲物を求めて行動を開始した。選ばれし新たな標的はボスの最も近くにいた、大槍を主武装とするプレイヤー。本来なら身を守るために何かしらのアクションを起こすべきなのだが、動揺から立ち直る間もなく大鎌の餌食となり、一振りでデータの欠片となる。犠牲者は増える一方だった。

 3人の獲物の命を刈りとったスカルリーパーはフロアを疾駆し、勢い殺さずそのまま壁面を駆ける。その巨体に似合わない速度で動く様は、近付く事すら許さないと暗に示していた。

 

(こんな化け物…………一体どうすれば……?)

 

 これまでのボスよりも一段と凶悪な強さに、具体的な攻略法が全く閃かない。

 だが、何もせずに呆然と立ったままやられるつもりは毛頭ない。

 そしてこちらの攻撃を当てなければ、当然ボスのHPが減ることはない。

 ならば自分達に出来ること、やるべきことは一つ。まずはボスの脚を止めることだ。

 

 その考えにいち早く辿り着いたキリトが、風を切って駆け出した――――と同時に、スカルリーパーは壁面から脚を離し、その巨体を宙に投げ出した。落下してフロアに舞い降りたボスの眼前にはプレイヤーが1人。スカルリーパーは新たな犠牲者を出すべく、別の獲物に狙いを定めたのだ。恐怖で(おのの)くプレイヤー目掛け、左の大鎌を振りかぶる。

 

「やらせるかっ!!」

 

 気迫を込めた叫びの主は、ボスのとる次の動きを予測して先回りしていたキリトだった。垂直に振り下ろされる鎌に対し、キリトは自信が得意とする二刀十字の構えを取り、受け止め、そのまま弾き防御(パリング)に繋げようとする――――が、それは叶わなかった。それどころか予想以上に重みのある一撃により、キリトの二刀と鎌の交叉点が下へ下へと座標を変え、大鎌は容赦なくキリトの肩口に喰い込んでいく。

 そして忘れてはならないのが、キリトが二刀で受け止めている鎌は左のみということ。つまり、空いている右の大鎌を用いて彼を側面から刈りとるのは可能であり、スカルリーパーのアルゴリズムも瞬時にその判断を下した。

 

「――ふっ!」

 

 戦闘は始まったばかりだというのに、貴重な戦力をこれ以上失うわけにもいかない。キリトに迫る攻撃を防ぐため、ヒースクリフは十字盾と骨鎌が接触する瞬間に肺から短く息を吐き出して十字盾を構えた。盾と鎌の接触点に火花が散り、ずっしりとした重みが加わっている筈だが、《神聖剣》にはノックバック軽減のボーナスでも付加されているのだろうか。1ミリたりとも微動だにしない彼の背中には、頼もしさを感じずにいられない。

 そして両鎌を防いだことでようやくスカルリーパーに一撃を加えられる隙が生じ、この瞬間を逃さぬよう、ヒースクリフの後ろに続いたアスナは出が速く隙の少ない単発技《リニアー》をボスに見舞う。ソードスキルの一撃でノックバックが発生し、スカルリーパーの上体が大きく仰け反った。威力の低い細剣の基本ソードスキルではあるが、今回の戦闘で初のクリーンヒットは、この後取るべき方針と希望を見出す。

 

 脅威である両鎌を受け止めている間に、残りのメンバーがボスに攻撃を仕掛ける。そうすれば少なくとも鎌による被害者はグッと減る筈だ。問題はその危険な役割を誰が担うかだが――――。

 

「鎌はオレ達が引き受けるから、皆は側面から攻撃してくれ!」

 

 ――――キリト、アスナ、ヒースクリフの3人が名乗りを上げた。

 《神聖剣》によって異常な防御力を兼ね備えているヒースクリフならば、あの大鎌を凌ぐのは可能だろう。しかし如何に彼といえど受け止められる鎌は1本が限界であり、必然的にもう1本を他の誰かが受けなければならない。だがヒースクリフと同等の壁戦士(タンク)でなければ弾かれるのがオチだ。

 そこでもう一つの対抗策として、高い回避能力を有するプレイヤーを配置する作戦が挙げられる。そうなると必然的に重い鎧装備の壁戦士(タンク)は候補から外れ、軽装で回避主体の戦法をとるプレイヤーに限定されるが、その役目をキリトが自ら志願した。加えて先の一幕のようにキリトが大鎌を受け止める場面を想定し、その際のサポート役としてアスナが彼に付くことになった。《二刀流》特有の連続攻撃による高火力を失うのは惜しいが、この際贅沢は言っていられない。

 

 スカルリーパーの放つ重圧(プレッシャー)で竦みかけた足に力を込め、カイトは為すべきことを為すため、行動に移した。元々彼に任されていた攻撃部隊(アタッカー)としての役割を果たすため、キリト達に意識を向けているスカルリーパーの側面にソードスキルを叩き込み、それによってボスがわずかに怯む。そんな彼に続いて好機とばかりに他のプレイヤーも畳み掛けにきたが、ボスもこれ以上の痛手を負わぬよう、追撃しようと接近するプレイヤー目掛けて針のように尖った尾の先端を叩きつける。直撃したプレイヤーはなす術なく、仮想の空気のチリとなり、最後には溶けて消えた。

 

「エギルっ!」

 

 たった今消滅したプレイヤーの近くにエギルもいたが、衝撃の余波でダメージを受けたらしく、彼の腕には赤いダメージエフェクトがあった。幸いにもHPが全損する程ではなかったらしいが、それでも相当な量を削られたに違いない。カイトは真っ先にエギルの元へ駆け寄り、左手で彼の身体に触れた。

 

「ヒール!」

 

 《治療術》によって瞬く間にエギルのHPが全快し、その一方で急速に自身のHP量を減少させたカイトは、最高品質のポーションを口に含む。爽やかな風味を舌が感じとったかと思えば、下降していた命の残量が一転して上昇し出した。

 

「恩にきるぜ、カイト」

「どういたしまして。それより早く前線へ。両手斧は全装備中最高クラスの火力が持ち味だろう? キリト達は常にギリギリの駆け引きを迫られているから、あいつらを助けるためにも大暴れしてくれ!」

 

 早口でまくしたてつつエギルの背中に喝を入れ、彼を前線に押し出す。今の彼らに立ち止まっている暇はない。

 

 エギルを送り出したカイトはポーションによる回復でHPが8割以上になったのを確認すると、再度スカルリーパーの元へと向かう。タゲを取り続けてくれているキリト達のおかげで、ボスはカイトに見向きもしない。

 ステータスの数値を限界まで引き出して全速力で走るカイトは、ボスの胴体が剣の射程圏内に入りつつあるのを確認すると、剣を右肩に担いだ。利き足で地を力強く蹴って空中に身を投げ出したと同時に、剣がライトグリーンの光を煌めかせる。跳躍が放物線の最高到達点に達すると、発動待機状態だったソードスキルを繰り出し、彼は不可視の力に後押しされてさらに加速した。鮮やかなライトエフェクトが空中に軌跡を作り、輝きが最も増したところで剣が勢いよくスカルリーパーの胴体に振るわれた。

 片手剣上段突進技《ソニックリープ》がスカルリーパーに命中し、ズガンっ! と大きな音が轟く。システムアシスト以外に腕の振るい方や捻りといった動きを多重に上乗せし、ただ繰り出すだけのソードスキルよりも威力を意図的に増幅。命中した瞬間、心なしかボスが怯んだようにも感じた。

 攻撃が繰り出された後は剣の纏っていた燐光が薄れ、同時にカイトは逆らっていた重力に再び従う。両足から着地すると硬直を課せられるが、《ソニックリープ》は上位剣技ではない。故に硬直時間は大して長くないため、解けるとすぐにその場を離脱し、ボスから少しだけ距離をとって振り返る。すると、視界の端で動く赤い侍の集団がカイトの目に映った。

 

「うおおぉぉぉっ!!!!」

 

 裂帛の気合いを腹の底から惜しまず吐き出し、鍛え抜かれた名刀を大上段からの垂直斬りで一閃。山吹色のライトエフェクトを纏った刀は目を背けたくなる程の輝きを放っているが、それは持ち主であるクラインの決意と意志に呼応しているかのようだ。見事な連携プレーを見せつける《風林火山》はクラインを筆頭に一致団結し、勇猛果敢にボスに立ち向かっていた。

 《血盟騎士団》や《聖竜連合》のような大規模ギルドではないが、少人数ならではの息のあった連携は目を見張るものがあった。お互いの武器や動きを理解し、絶妙なタイミングでスイッチして着実にダメージを積み上げていく。仲間へのフォローも早いため、体制を崩されたとしても即リカバリーが可能。それらの様子を見て、カイトは彼らなら手を貸すまでもないだろうと判断した。

 

 その刹那、キリト、アスナ、ヒースクリフに猛然と大鎌を振るっていたスカルリーパーが急遽行動パターンを変化。攻撃を中止し、身体を反転させて部屋の中を時計回りに疾駆する。まるでキリト達との戦闘を一時中断し、体制を立て直そうとしているかのようだ。

 だがキリト達への攻撃を中止しただけであって、他の者に対してはその限りではない。現にスカルリーパーはフロアを縦横無尽に駆けながら大鎌を振るい、視界に映ったプレイヤーを片っ端から蹴散らしている。その巨躯が疾駆する様はダンプカーが猛スピードで突っ込んでくるようなものだった。

 

「やばっ!?」

 

 そしてとうとうカイトにもその順番が回ってきた。右に大きく旋回したスカルリーパーの進行方向には、一時離脱して状況観察をしていたカイトが立っている。直前で方向転換してくれるのならば別だが、変な期待は寄せないのが良いだろう。事実、ボスの眼は真っ直ぐカイトを捉えているため、間違いなく次に狩るべき獲物として認知していると思ってよさそうだ。

 ここで彼のとれる行動選択肢は3つ。カウンター狙いで一撃喰らわせるか、身を守るため防御に徹するか、攻撃範囲外に逃れるよう回避するか。

 突っ込んでくるスカルリーパーに対して1人で反撃する余裕はないため、これは論外。盾を持っていない彼が防御するなら蓋然(がいぜん)的に武器で受けることになるが、キリトでさえ完全に受け止められなかった一撃を剣一本で凌ぐのは不可能だ。よってカイトが選択すべき行動は、回避一択。

 

 逡巡(しゅんじゅん)したのも束の間、一呼吸おくと恐怖を押し殺して前に駆け出す。両者の間にあった距離は瞬く間に縮まり、スカルリーパーが右の大鎌を振りかぶると、カイトは走りながら剣に左手を添えて肩に担ぐ姿勢を保持した。剣が光を帯び始める。

 その直後、鎌が床から1メートルの高さで水平軌道を描きながらカイトに迫り、上半身と下半身を分断しにかかる。対してカイトは前に倒れるようにして上半身を傾け、身を低くすると、頭頂部の髪を数本分刈り取られつつも回避に成功した。風を鋭く切り裂いた音に冷や汗をかくが、集中力を保持したまま、ソードスキル発動のタイミングを完全に倒れるギリギリまで図る。

 そしてその瞬間はすぐに訪れた。空振りに終わった右の鎌の失態を挽回すべく、今度は左の鎌がカイトに迫る。先程の水平軌道ではなく、ボスは上から下への垂直軌道で彼を左右に分断させようと企んだ――――が、結果としてはまたしても失敗に終わった。

 ペールブルーの強い輝きを放ちながら、片手剣基本突進技《レイジスパイク》が発動し、カイトは突き出した剣に引っ張られる形で急加速し、骨鎌を回避したからだ。トンネルをくぐり抜けるようにしてボスの身体をすり抜け、彼は骨鎌の危機から脱出。スカルリーパーとカイトの位置は完全に入れ替わった。

 

(よしっ!)

 

 ソードスキル――主に突進技だが――で得られるシステムアシストの推進力を利用した緊急回避は彼の十八番。タイミングはシビアで、誤ればそれこそ命取りになるが、的確に使いこなせれば利便性の良さも相まって有効に活用できる。わずかな間隙(かんげき)をぬって両の骨鎌を回避したのは、2年に及ぶ経験から得た賜物だ。

 

 骨鎌の脅威をかいくぐったカイトが生を勝ち取ったと確信すると、剣の纏っていたペールブルーの燐光は急速に薄れて技後硬直(スキルディレイ)が訪れる。危険が過ぎ去った今となっては些細な事だとタカを括っていたカイトだが、それは油断以外の何物でもなかった。スカルリーパーの攻撃手段は鎌だけではないと、実際にその眼で見ていたにも関わらず……。

 硬直しているカイトの背中にチラリと視線を向けたスカルリーパーが、針のように尖った尾の先端を器用に動かし、彼の身体を貫かんと突き出した。背中に目がついているわけでもない彼はその事がわからず、死角から迫る死の気配に気が付かない。よって彼はボス戦開始からわずか数分の後、この世界から退場する運命にあった。彼女がいなければ、の話だが――――。

 

 ――ガキイィィン!!

 

 背側――それもかなりの至近距離から金属同士が衝突したような甲高い音が響き、硬直が解けたカイトは反射的に振り返る。何が起こったのかを理解するのに要した時間は、瞬き一つ分で事足りた。

 この世界で出会い、寄り添い、心を許し、誰よりも信頼する1人の少女。一見すると可憐な印象を抱かせるが、華奢な身体の内側にはしっかりとした芯を宿し、長い時間をかけて強くあろうとして確固たる決意を実現させたその意志力には、カイトも尊敬の念を抱くほど。デスゲーム開始初日、《はじまりの街》において年相応の脆さをさらけ出していた彼女は、見違えるほどの成長を遂げた。

 凛とした姿勢で屹立しているユキの顔を、ボスの尾針と純白のダガーナイフが衝突した際に発生した火花が照らす。突如現れ、死の危険から救ってくれた戦乙女(ワルキューレ)の登場に、カイトは頼もしさを感じずにはいられない。

 

「ありがとな、ユキ。助かった」

「『背中を守る』って約束だったからね。これくらいトーゼンだよ」

 

 スカルリーパーが止まることなく走り去り、遠ざかったことで若干の会話をする余裕が生まれた。

 

「私ね、ボス戦前にカイトが私を頼ってくれたことがとっても嬉しかった。だから私は……その期待に応えたいの」

 

 カイトがユキを尊敬しているように、ユキもまた、カイトを尊敬している。そんな相手から期待にも似た言葉を投げかけられ、頼りにされているとわかれば、普段よりもさらに奮励(ふんれい)してしまうのは当然と言えた。

 

「行こう、カイト。ボスを倒しに」

「……あぁ」

 

 恐怖の種をばら撒いている悪鬼討伐のため、2つの影は再び動き出した。

 




前話の終わりにあった「背中を守る」を文字通り体現。彼女は寄せられた期待にしっかり応えました。
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