ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

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第05話 攻略会議とはじめての友達

 2022年12月2日。

 デスゲームの開始から早くも1ヶ月が経過し、その間約2,000人のプレイヤーが命を落としていた。アインクラッド外周からの投身自殺や、モンスターとの戦闘によるものなどが主な理由だ。

 SAOのβテストでは2ヶ月で第8層まで到達したというが、現状では8層どころか未だに第1層の攻略もされていない。それは、このゲームが一度死んだら生き返らないデスゲームである、ということが最大の理由だった。戦闘での小さなミスや油断が死に直結する、そんな状況下ではプレイヤーは皆慎重にならざるを得ず、その結果が攻略速度の遅延を招いている。

 

 

 

 

 

 現在、カイトとユキの2人は第1層迷宮区近くの街《トールバーナ》に来ていた。この街の中心には噴水が設置され、その上部からは透き通るような水が絶えず湧き出ている。その噴水を取り囲むように、多くのプレイヤーがこの場所に集まっていたのには理由があった。

 今日この《トールバーナ》で、第1層攻略会議が開かれる。

 

 中心地から少し離れた場所に石でできたすり鉢上の野外劇場があり、第1層攻略会議はそこで行われる。そこには約40人ほどのプレイヤーが集まっており、石段に座って会議が始まるまでの間、各々が自由に過ごしていた。

集合時間より少し早く到着すると、その中にカイトがよく知っている人物がいた。

 

「キリト、久しぶり! 連絡がないから死んだと思ったぞ」

「何言ってんだ。フレンドリストを見ればそれぐらい一目瞭然だろ? そっちこそよく生きてたな、カイト」

 

 1ヶ月ぶりの再会に軽口を言い合いつつ喜ぶ2人だが、キリトは一瞬浮かない顔をした。

 そんな彼の様子を見てカイトは言葉をかけようとしたが、それよりも早く、彼の後ろからユキがひょこっと顔を出した。

 

「もしかして、前にカイトが言ってた元βテスターの人?」

「……あ、ああ、そうそう、元βテスターのキリトだ。キリト、紹介するよ。彼女はユキっていって、オレとコンビを組んでる。」

「よろしく、ユキ」

「よろしくね、キリト!」

 

 カイトの仲介で、2人は軽い挨拶を交わした。

 その直後、野外劇場全体に爽やかな風が吹いたため、2人のファーストコンタクトはそこで中断となった。

 

「はーーーーい!! それじゃあ、そろそろ始めさせてもらいまーーす!」

 

 野外劇場の中央に、1人のプレイヤーが立っていた。おそらくアイテムで染めたであろうシアン色の髪に、腕と肩と胸の部分に鎧を付けた盾持ち片手剣のプレイヤーだった。

 

「今日は、オレの呼びかけに集まってくれてありがとう。オレはディアベル。職業は……気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 SAOにジョブシステムはない。これは冗談だ。だがそのセンスある冗談はプレイヤーにウケ、笑いを誘う。掴みは上々、といったところか。

 

「……今のってどういうこと?」

「今のは――」

 

 ユキはネットゲームを今までやったことがなかったため、所々それらに関する知識が欠けている。戦闘に関わることや初歩的なものは初日に友達が教えてくれたみたいだが、それ以外のことはその都度カイトに尋ねていた。

 今回のディアベルの冗談は、ジョブシステムの存在しないSAOでは知る機会などない。カイトの説明が終わると、ディアベルがパーティーを組むよう促していた。

 

 カイトとユキのパーティーにキリトが加わる。他のプレイヤー達を見ると皆それぞれでパーティーを組んでいたが、その中で1人石段の端でまるで置物のように身動き1つしない、赤いローブを被ったプレイヤーがいた。

 キリトが近寄って声をかけて二言三言交わすと、パーティー申請を出す。ローブのプレイヤーが承諾し、パーティーメンバーに《Asuna》の名前が加わった。

 

「みんな、決まったかな。それじゃあ――」

「ちょお待ってんか!」

 

 野外劇場の最上段から関西弁の男が待ったをかける。ディアベルの声を遮ったのは、サボテン頭のプレイヤーだった。最上段から石段を1段ずつ跳ねて中央にいるディアベルの元へ辿り着く。そのプレイヤーはキバオウと名乗った。

 

「こん中に、全プレイヤーに対して詫びいれなあかん奴がおるはずや!」

 

 キバオウが言う『詫びいれなあかん奴』とは、元βテスターのことだった。

 キバオウ曰く、元βテスターがビギナーを見捨て、自分達だけはβテストの情報をもとにおいしい狩り場を独占し、そのせいでたくさんのプレイヤーが死んだ。今までのことを謝罪し、アイテムとコルを全て差し出さなければ、パーティーメンバーとして命は預けれない、というものだった。

 

 今の話を聞いて、カイトが手を上げる。

 

「キバオウさん、質問です。元βテスターの人達がみんなの前で謝って、アイテムとコルを出せば信用する、ってことですか?」

「そや! それがビギナーに対するケジメ、ちゅうもんやろ」

「それじゃあ元βテスターの人達はその後どうするんですか? アイテムもコルもなければ、とてもじゃないけどボスとは戦えない。今は少しでも戦力が欲しいんだから、自分達で戦力を削るようなことはしないのがいいと思います」

 

 カイトの言うことは尤もな意見だった。ディアベルが言っていたが、第1層を突破することで《はじまりの街》にいるプレイヤーにこのゲームはクリア出来る、ということを示さなければならない。レイドパーティーの上限48人に達していないこの状況で、共にフロアボス戦を戦う仲間を減らすなど愚の骨頂。

 

 カイトの意見にキバオウが言葉を詰まらせるが、すぐに口を開こうとした。しかしキバオウが発言する前に、最前列で座っていた男の手が上がる。

 

「発言いいか?」

 

 そのプレイヤーは立ち上がり、キバオウの前まで歩いて止まる。

 遠くからみてもわかる大きい身体に黒い肌と禿頭、背中には両手持ちの斧を背負ったその男はエギルと名乗った。エギルから感じる威圧感から、キバオウはたじろぐ。

 エギルは腰のポーチから1冊の本を取り出す。それは道具屋で無料配布しているガイドブックだった。そのガイドブックにはクエストの受け方やモンスターとの戦い方など、SAOの基礎知識をわかりやすくまとめたもので、これを持っていないものはいないほど広く普及していた。そしてこのガイドブックを作ったのは元βテスター達なのだが、そのことはあまり知られていなかったようで、周囲のプレイヤー達が驚く。

 

「情報は誰でも手に入れることができたのに、大勢のプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて、『オレ達はどうボスに挑むべき』なのか。それがこの場で議論されると、オレは思っていたんだがな」

 

 キバオウはカイトに続き、エギルの言葉で場の空気が完全に変わったのを察知すると、少し不満そうに最前列の石段に座った。エギルはカイトをチラッと見ると微笑し、カイトは頭を下げる。エギルがもといた場所に戻って座った。

 

「ありがとう、カイト……」

「別にいいよ。万が一ここでキリトが抜けたら、戦力ダウンだからな」

 

 キリトが小声でカイトに礼を言う。

 ディアベルが攻略会議を再開した。するとディアベルもエギルと同じガイドブックを取り出し、こちらは最新版のガイドブックだった。ガイドブックを開いて読み上げる。

 

「ボスの情報だが……ボスの名は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。それと《ルイン・コボルド・センチネル》という取り巻きの2種類がいる。ボスの武器は斧と円盾(バックラー)を使い、4段あるHPバーの最後の段が赤くなると、曲刀カテゴリのタルワールに持ちかえ、攻撃パターンも変わる」

 

 ボスの情報を伝え終わると、ガイドブックを閉じる。

 

「この情報を踏まえて、明日のボス戦に挑もうと思う。あとは、パーティーメンバーと親睦を深めるなり、アイテムの補充をするなり、各自自由に過ごしてくれ。明日はこの街の入り口に10時集合だ。それでは、解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間もあることだし、明日はこのメンバーで戦うんだから、親睦会でもする?」

「私はいい。別に馴れ合うつもりはないから」

 

 カイトの提案をアスナは光の速さで切り捨てた。3人の横を通り抜け、そのまま何処かへ行ってしまう。

 

「あそこまでバッサリ切られるとさすがに凹む……」

「ドンマイ」

 

 カイトがガックリと項垂れると、彼の肩に手を置いてキリトが慰めの言葉をかけた。レイピアの剣先のように尖った一撃は、見事にカイトのクリティカルポイントを抉ったようだ。

 そんな2人をよそに、カイトの後ろにいたユキが正面に回り込んだ。

 

「アスナって女の子でしょ? きっと男の子がいるからちょっと警戒しちゃってるんだよ。この場合は女子同士で話すに限る! というわけで、アスナの所に行ってくるね」

 

 そう言ってユキは2人に手を振ると、アスナの後を追いかけた。ひとまず2人は同じ女性のユキに任せることにする。

 

「そういえば、彼女とはいつからコンビ組んでるんだ?」

「ゲームが始まって2日目から。知り合ったのは初日だけど」

「……もしかして、あの日言ってた気になることって、彼女のことか?」

「まぁ、そうだけど……」

「ふーん……」

 

 キリトはいたずらっ子が面白いネタを思いついた時のような、意味ありげな顔をカイトに向けた。

 

「……言っとくけど、キリトが考えてるようなことじゃないぞ。初日でキリトがオレとクラインを見捨てることが出来なかったように、オレもユキを見捨てることが出来なかった。それだけだよ」

「……まぁいいけど。ユキは元βテスター……じゃないんだよな? ビギナー2人だけのコンビで、よくここまで来れたな」

「ユキはデスゲーム開始前に元βテスターの友達に戦い方を教わってたらしいから、戦闘に問題はなかったし、オレは事前にネットでβテストの情報を調べてたからある程度の知識はあったんだ。まぁ戦い方に関しては誰かさんのおかげだよ」

 

 カイトは流し目で隣にいる少年を見た。目の前にいる少年こそが、その『誰かさん』なのだから。

 

「そりゃどーも。授業料取ろうか?」

「取ろうか? じゃないよ取るなよ。まったく、ガイドブックを無料で配布してる心優しい人もいるってのに」

「オレはそのガイドブックに金を払って買ったんだけど……」

「えっ……ドンマイ」

 

 今度はキリトが慰められる番だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナの後を追ったユキは進んだ先の十字路で立ち止まり、前、右、左と順番に顔の向きを変えてアスナの姿を探した。すると左の道の先にローブを着たアスナの姿を確認する。

 

「アスナ!」

 

 遠くからしたユキの声に反応して足を止め、アスナは後ろを振り返った。

 

「……何?」

「ごめんね、急に呼び止めて。私、このゲームが始まってから自分以外の女の子と話す機会あんまりなくて、アスナに会えたのが嬉しいんだ。よかったらそこで座って話そうよ」

 

 そういってユキはすぐそこにある木製のベンチを指差すと、アスナの手を引いてベンチに腰掛ける。アスナはユキの隣に座った。

 

「そういえばなんでローブを着てるの?」

「……男の人に声を掛けられるのが嫌だから。あなたなら私の言ってる意味がわかるでしょ?」

「あー……なるほど」

 

 アスナの言いたいことをユキが察した。

 ユキはカイトとコンビを組んではいるが、常に一緒に行動しているというわけではない。それぞれ別々に、単独で行動することもある。そういう時に1人でいると男性プレイヤーに声を掛けられる、パーティーに誘われる、といったことがこれまで何度もあったのだ。そういった事が嫌で、アスナはローブを着ているのだろう。

 

「……それにしてもあなた、どうして私の名前を知ってるの?」

「え? 自分のHPバーの下を見て。そこにパーティーメンバーの名前があるから……あっ、顔は動かさずに、目線だけ動かして」

 

 言われた通りにアスナは確認する。そこには自分のHPバーの下に3本のバーが追加されており、上から順に名前を1つずつ読み上げる。

 

「キリト……カイト……ユキ……」

「そう! 私はユキ。よろしくね、アスナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユキがアスナを追ってから少し時間が経ち、頃合いを見てカイトとキリトは2人と合流する。そして2人が見たのは、アスナとユキの女性2人がベンチで談笑している姿だった。

 

「この短時間で随分仲良くなったなぁ」

「あっ、2人とも来たんだ。ねえねえ新発見! さっきアスナにローブをとって顔をみせてもらったんだけど、すっごく美人さんだったよ」

「ちょ、ちょっとユキ!」

 

 表情はローブで見えないが、声の調子からして少し照れ臭そうにするアスナ。どうやら2人は打ち解けたようだ。

 

「そうだアスナ、よかったら私とフレンド登録しない?」

「フレンド登録?」

「そう。メッセージが送れたり、相手の現在地がわかったり、色々と便利だよ。どうかな?」

「……あなたがどうしても、って言うなら」

「本当! ありがとう。じゃあ早速送るね」

 

 ユキはアスナにフレンド申請を出し、アスナの目の前にウィンドウが表示される。アスナが《Yes》をタップすると、登録が完了した。

 

 この日アスナのフレンドリストに、この世界で最初の友達《Yuki》の名前が刻まれた。

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