ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

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新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

年が新しくなったということで、章も新しくなりました(?)。
ここからは戦闘シーンを盛り込みつつ、話を進めていきます。



第9章 -妖精達の乱舞-
第61話 溝と遭遇


 

 愛車のクロスバイクに(またが)り、ユキとキリトが入院している病院にたどり着いたのは、午前10時を少し回った頃だった。最早世間話をする程度にまで顔馴染みとなった受付の看護師と会話を交わし、悠人はすぐにユキのいる病室へと向かう。

 

 昨日はALOでアスナと再会後、彼女が今後の旅で使う装備を新調した。アスナのお気に召す物が比較的早く見つかったため、領地内にある随意飛行訓練場に足を運び、少しだけ飛ぶ練習をしたのだが、これが思いの外難しい。NPCの解説では『背中に仮想の骨と筋肉が伸びていると想定し、それを動かすイメージ』とあったが、元々背中に翅がない人間に、ないものをあるとイメージするのは高難度ミッションだ。解説を聴いたカイトは早速想像力を働かせたが、翅が小刻みに震える程度にとどまった。

 一方、たった一回の解説で随意飛行をマスターしたアスナは、まるで昔からやり方を知っていたかのような飛び方だった。翅を輝かせながら自由に飛び回るその姿は実に楽しそうで、いつまでも無限に広がる空を駆け回りたい、と思っているのが表情に表れていた。

 その後はアスナ先生指導の下、どうにかカイトも飛び方を会得したが、アスナの家の事情を考慮して早めにログアウトした。そして意識が現実に戻ると、見計らったかのように理沙から電話があったが、その時の謎めいた言葉は未だわからぬままだ。

 

(たしか、アスナは今日来れないって言ってたっけ)

 

 別れ際、彼女は明日――つまり今日1日の外出を母親から禁止されているらしく、キリトとユキの見舞いには行けない旨を伝えられた。どうもアスナの母親は教育熱心らしく、SAOに囚われて遅れている分を取り戻すため、彼女に課題を幾つも課しているらしい。外出禁止はアスナが課題に取り組むためのものであり、『1日勉強に集中しなさい』という裏返しだ。

 そのため、明日奈は与えられた課題を終わらせるため、今頃机に向かっているだろう。悠人とは夕方にALOで待ち合わせをする約束なので、それまでには終わらせてくるはずだ。

 よって、暇を持て余している悠人は、午前中に2人のお見舞いに行き、午後には家に戻ってALOにダイブするつもりでいる。ユキとの時間を共有した後、次いでキリトがいる病室へ向かい、部屋に入って彼の寝るベッドに近付いた。

 仕切りのカーテンに手をかけて払い、姿を見るよりも早く、眠っているキリトに声をかけた。

 

「キリトー、来たぞー」

 

 そこにはいつも通り、ナーヴギアに頭をすっぽりと覆われているキリトがいた――――が、ベッドを挟んで悠人の向かい側には少女が椅子に腰掛けており、2人の視線がぶつかった。

 

(……誰?)

 

 そんな疑問が悠人の頭に浮かぶが、自分はこの少女を一度目にした事があるというのを思い出した。記憶が間違っていなければ、少女とはこの病室の入り口ですれ違っている。肩のラインでカットされている黒髪とキリッとした眉が印象に残っていたので、間違いないと確信した。

 

「えっと……お兄ちゃんのお知り合いですか?」

 

 キリトを『お兄ちゃん』と呼んだ少女は、どうやら悠人の事を覚えていないらしい。一瞬すれ違った程度なのだから、それは致し方ないというものだ。

 

「もしかして、君はキリトの妹?」

「……桐ヶ谷和人は、私の兄ですけど」

「だよね。そうじゃなかったら、『お兄ちゃん』なんて呼ばないもんなぁ」

 

 あはは、と笑いつつ頬をかいた悠人は、そのまま言葉を紡いだ。

 

「はじめまして、オレは倉崎悠人。キリトと同じ元SAOプレイヤーだ」

 

 その一言で自分がまだ悠人に対して名乗っていないことに気付き、少女は立ち上がって会釈した。

 

「はじめまして、私は桐ヶ谷直葉っていいます。……その、倉崎さんは、向こうでお兄ちゃんとどういう関係だったんですか?」

「悠人でいいよ。うーん、そうだなぁ……仲間であり、ライバルであり、友人でもある存在かな。キリトとはコンビを組んでいた時期が長かったから、SAOで過ごした時間のほとんどはこいつと一緒だったよ」

「そ、そうなんですか」

「うん。キリトはSAOの中でもトップクラスのプレイヤーでさ、すごく強かったよ。時々こっちの想像を超える事をして驚かせたり、無茶やって周りを困らせたりもしたけど、みんながキリトを頼りにしてたのは間違いない。それだけ、君のお兄さんは凄かった」

「そうなんだ……お兄ちゃんは、そんな風だったんだ」

 

 SAO内部であった出来事は、同じSAOプレイヤーしか知りえない。外部から知ることのできた情報は、誰が、いつ、どの階層にいたかということだけなので、具体的な内容はSAO生還者(サバイバー)に聞く以外方法がないのだ。だから、兄がSAOの中でどういった存在だったのかを、直葉は今の今まで知らなかったはずだ。

 ――と思った悠人だったが、よくよく考えればそうではない。あの日、悠人が直葉とすれ違った時、自分より先にキリトの見舞いに来ていた人物がいたのを思い出す。それは悠人と同じSAO生還者(サバイバー)であり、誰よりもキリトの事を想っている人物だった。

 

「そういえば、明日奈とはもう顔を合わせてるはずだけど、キリトについて何か聞かなかったの?」

 

 明日奈の名を口にした瞬間、直葉の表情がわずかに曇る。悠人はその瞬間を見逃さなかった。

 

「明日奈さん、ですか。確かにあの人とは何度か会ってますけど、あんまり話したことはないです」

「え? なんで?」

「それは、その……」

 

 途端、直葉の顔にかかっていた影が濃さを増す。SAOのキリトを知ろうとするなら、明日奈は適任者の1人だ。話の所々で惚気が入る可能性大だが、頻繁に病室を訪れる彼女なら遭遇する確率も高いだろうし、その機会は十分過ぎるほどあっただろう。何か訊けない理由、あるいは訊きたくない理由があるのかもしれないが、それが悠人には全く思いつかない。

 

「倉さ……悠人さん、1つ教えて下さい。お兄ちゃんは、ゲームの中で明日奈さんと…………結婚してたっていうのは本当ですか?」

 

 直葉は澄んだ瞳で真っ直ぐ悠人を見る。目には力強さが増しており、悠人は口にした言葉から覚悟を決めたような重みを感じた。まるで認めたくない真実を受け止めるようで、その真剣味溢れる姿勢に対して誤魔化してはいけないと思い、彼ははっきりと事実だけ口にした。

 

「そうだよ、2人はSAOで夫婦だった。出会った当初はそんな空気を微塵も感じさせなかったし、お互いの意見がぶつかって一触即発する事もあったけど、ゲームがクリアされる少し前に結婚したんだ。2人が夫婦でいられた時間は短かったけど、好きな人と一緒に過ごせるっていうのは、きっと毎日が充実してたと思う」

 

 夫婦ではなかったにせよ、悠人自身も同じような環境に身を置いていたため、これに関しては確信をもってそう言えた。

 刹那、対面する直葉の表情が曇る。まるで認めたくない事実を突きつけられたが、それを一生懸命に飲み込み、受け入れようとしているようにも見えた。今頃、直葉の中では葛藤という名の激流が渦巻いているはずだ。

 

 キリトの妹である彼女が、『キリトと明日奈が結婚していた』という事実の何に対して苦しむような表情をするのか、悠人は尋ねてみたい衝動に駆られる。

 しかし、それを口にする前に思いとどまり、言葉を腹の底に押しやった。出会ったばかりの相手の心に対し、土足で踏み入るような真似はすべきでない。野暮というものだ。

 それに、キリトという存在を架け橋にして出来た繋がりは、きっとこの後も続く。今は話せないだろうが、もしかしたらいつかは心を許し、胸の内に秘めたものを話してくれるかもしれない。

 

「……君が一体何に悩んでいるのかは訊かない。話したくないなら話さなくていいし、それを無理矢理訊き出すような真似をするつもりもない。でも、自分から話したくなったら、話してくれ。オレにできる事は聞き役に回ることぐらいだと思うけど、それで気持ちが楽になるなら、協力する」

 

 だから彼は、少しだけ直葉の心に自分の心を歩み寄らせ、彼女から近付いてきてくれるのを待つことにした。

 俯きがちだった直葉の顔が持ち上がり、悠人を見る。彼の目から見てだが、少しだけ、ほんの少しだけ、顔にかかっていた陰りが和らいだ。

 

「――って、初対面の奴が何偉そうな事言ってんだって感じだよな」

「いえ、そんな事ないです。思いもよらない事を言われてちょっと驚きましたけど……なんか、嬉しかったです。ありがとうございます」

 

 直葉の悩みが消えたわけではないが、そんな言葉をかけてくれる人は今までおらず、自分の好きなタイミングで気持ちを吐き出していいと言われた事で、気持ちが楽になった気がした。会ってまだ数分しか経っていないが、悠人の放つ柔らかな雰囲気に感化され、直葉は数年振りにかつて和人へしたのと類似の甘えをみせる。

 

「悠人さん。お兄ちゃんがゲームの中でどんな風に過ごしていたのか、私に教えてくれませんか?」

「あぁ、もちろん」

「あっ! それともう一つ……」

 

 この瞬間、直葉の気持ちは、悠人の元へ1歩だけ距離を詰めた。

 

「お兄ちゃんと一緒に冒険してた、悠人さん自身の事も教えてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルヴヘイム・オンラインには、そこに住まう妖精が全部で9種族存在する。

 天高くそびえる世界樹の(ふもと)には央都アルンがあり、ここを中心として9種族の領地がアルンを囲うようにして配置されている。央都までの道のりは約50キロメートルで、たどり着くまでには様々なフィールドやダンジョンを通過しなければならないが、最初はどの種族も必ず領地近郊のフィールドを横断しなければならない。

 シルフなら古森、サラマンダーなら砂漠地帯、スプリガンなら古代遺跡地帯といった具合であり、これらはフィールドの奥深くへ進めば進むほど出現するモンスターも強くなっていく傾向にある。例えば、今まさにカイトとアスナが相手をしている敵は、ウンディーネ領の初級ダンジョンならボス級の戦闘力を誇っている。

 

「――やあぁぁっ!!」

 

 しかし、2人の戦いはそんな事情を感じさせないものだった。

 カイト達の現在地はウンディーネ領に隣接したフィールドである湿地帯。低本草と水で地面を覆われており、所々で冠水している場所もある。この湿潤な土地では先ほどから水に由来するモンスターが立ちはだかり、領地を出てから5度目となる戦闘が、今まさに行われているところだった。

 敵は3体。そのどれもが人の姿をしているが、体表は水の膜で覆われている。胸の中心部に黒い玉が見えるが、おそらくそれがモンスターの核をなしている部分であり、同時に弱点なのだろう。

 流水系に分類される敵は共通して物理耐性が高く、一方で魔法耐性は低いのが特徴だが、このモンスターに限って言えば、核部分を物理属性の武器で攻撃すれば十分なダメージを与えられるらしい。

 それが判明して以降、カイトとアスナは核に狙いを定めて戦闘を行っている。効率が上がった上に攻撃パターンのバリエーションが多くないのもあって、戦闘スピードは目に見えて飛躍した。

 

「アスナ、カウントスリーでスイッチするぞ。……3……2……1……スイッチ!」

 

 スイッチ直前でアスナが1体を屠ったかと思いきや、消滅したモンスターの後方にいた別の個体が間を置かずに襲いかかる。アスナは剣で受けずにバックステップで回避し、入れ替わりでカイトが前に出ると、すかさず上段から剣を振り下ろした。彼が照準した核部分には寸分違わず命中し、金属同士が接触した際に発生する甲高い音が響き渡る。手応えとエフェクトからして、クリティカルヒットしたのは間違いなかった。

 攻撃がヒットした際のノックバックでモンスターが後方に吹き飛ぶと、その後を追うためにカイトは踏み込み、大地を蹴る。ステータスの許す範囲で出せる速度で瞬く間に肉薄すると、振り下ろしていた剣を跳ね上げ、下から上への逆袈裟斬りで追撃。これが決定打となり、蓄積していたダメージと合わせてモンスターのHPを余すことなく削り切った。

 

 2人の連携で残っていた1体も苦戦することなく倒し、敵がポリゴン片に変わる様を見ながら、カイトは剣を鞘に納める。

 かつては毎日のように戦っていたので、戦闘開始前は2ヶ月以上も間が空いた久しぶりの戦闘に若干の不安を覚えていたが、その思いは剣を振るたびにどこか彼方へと消え去ってしまった。寧ろ今は新しい旅の始まりを楽しむ余裕が生まれているほどである。

 そこでふと、カイトは隣に立つ新たな旅路のパートナーを見やった。かつて《閃光》とまで呼ばれた光速の剣技は健在であり、精密さや動きはやはりというか、目を見張るものがある。組んで間もないカイトとの連携も取れており、戦闘の安定感は手練れのアスナによるものが大きいだろう。アスナとコンビを組むのはこれが初めてだが、ユキやキリトとはまた違った安心感があった。

 

「どうかしたの?」

 

 あまりにもじっと見ていたからか、それに気付いたアスナから(いぶか)しむ声があがる。そこではっと我に返ったカイトは、かぶりを振りつつ正直な気持ちを述べた。

 

「いや、アスナは相変わらず綺麗だなーと思って」

 

 ここで言う『綺麗』とは、アスナ自身ではなく剣の技術のことを指しているのだが、言葉を受け取った彼女は前者の意味で捉えたらしい。最初はきょとんとしていた顔がみるみる赤く染まり、かあっと顔全体が熱くなる。

 

「ほ、褒めても何も出ないわよ」

 

 彼女の反応を見たカイトは、自分が発言が言葉足らずなことに遅れて気付いたが、わざわざ訂正する必要もないかと思い、口を閉じた。剣の技術だろうがアスナ自身だろうが、どちらもカイトにとっては綺麗という表現がピッタリの対象なので、嘘ではない。

 

「まったく……キリト君もカイト君も、2人は時々天然な発言で人を驚かすよね」

「えっ? どういう意味?」

「別にわからなくていいわよ。ただ、私とユキはそんな2人のせいで病気になった被害者ってこと」

「あの、アスナさん? ますます意味がわからないんですが……」

「だからわからなくてもいいの。はい、この話はお終い」

 

 アスナは両の掌を胸の前で合わせ、話がこれ以上進まないように強制シャットダウンさせた。

 

「ところで、領地から結構遠くまで来たと思うけど、私達はあとどれくらいで《虹の谷》に着くのかしら?」

 

 ウンディーネ領から世界樹が屹立するアルンまで最短ルートで行くと、《虹の谷》と呼ばれるフィールドダンジョンに到達する。いってみれば、ここが2人にとって最初の難関になり、なにがなんでも到達しなければならない場所だ。

 領地直近のフィールドとはうって変わり、《虹の谷》からは出現するモンスターが間違いなく強くなる上、トラップの数と種類も多くなり、行く手を阻む障害は今までの比ではないだろう。谷の内部には中立域の街が存在するため、そこにある宿でセーブすることになるが、万が一にでもたどり着く前に死ぬわけにはいかない。もしそうなった場合、また領地からスタートすることになるため、キリト救出に大きなタイムロスを伴うこととなるからだ。

 

「だいぶ近くまで来たのは確かだな。出発した時と比べて明らかに近くなってるし」

「うーん……そうだ。ユイちゃん、聞こえる?」

 

 アスナの問い掛けに呼応し、彼女の肩の上で光が凝集したかと思いきや、それはすぐさま形を整える。現れたのはアスナの愛娘であり、《ナビゲーション・ピクシー》のユイだ。

 閉じていた瞼を持ち上げ、小さな翅から燐光を散らしながらアスナの前までくると、向き直って視線をアスナに向ける。

 

「はい、ママ。どうしましたか?」

「ユイちゃん、あそこに大きな山があるけど、着くのにあとどれぐらいかかるかな?」

 

 アスナが指さした方角には、湿地帯の先にそびえ立つ巨大な山脈があった。雲を突き抜けてそのさらに上にある頂上付近は、冠雪しているせいか真っ白に染まっている。

 

「ここまでの移動速度と残り距離から算出しますと、あと15分ほど飛行すれば到着出来ます」

「そっか。じゃあ、あともう少しだね。翅も回復して飛べるようになっただろうし……行こう、カイト君」

「あぁ」

 

 頷いたカイトは背中の翅を展開し、地面につけていた足を浮かせてその場から垂直方向へ静かに飛ぶ。最初は苦労していた飛行もコツを掴んでからはスムーズに出来るようになり、飛ぶことに関してはマスターしたとみてよいだろう。

 一方のアスナも同様に翅を展開させ、離陸するとカイトと肩を並べた。そして2人は光の粒子を翅から煌めかせ、飛んで移動を開始する。

 

「しっかし、本当にデカイな。一体何メートルあるんだろう?」

「正確な数値は不明ですが、飛行限界高度以上なので、相当な高さであるのは間違いありません」

「まぁ、飛んで超えられるような高さじゃ存在する意味がないしな。ところで、山脈の中に入る洞窟の入り口はこの先?」

「はい。このまま真っ直ぐ進んでもらえれば大丈夫です」

 

 一定のスピードで飛行し続け、一行は洞窟入り口までの距離を着実に詰める。そしてとうとう、一枚岩の壁が綺麗に切り取られ、ぽっかりと大穴が開けられている光景をカイトは視認した。ユイの言った洞窟の入り口とやらは、きっとあの大穴だろうと彼は確信する。

 

「――ママ、カイトさん、止まってください! 何かがこちらに向かって高速で接近しています。これは……」

 

 あと500メートルほどで洞窟の入り口にたどり着くだろうという時、ユイが警告を発した。

 次の瞬間、カイトは背筋が凍りつくほどの寒気に襲われた。ハンターが獲物を見定め、じっとこちらを観察するような熱い視線を全身に浴びたかと思いきや、それは獲物を狩るという猛烈な殺気に変わる。考えるよりも早く、瞬間的に防衛本能が働き、危険信号を受信した彼はすぐさま行動に移した。

 

「アスナ!」

 

 並走する彼女の腕を掴むと、有無を言わさずに垂直方向へと急浮上。彼の第六感と咄嗟の回避行動が功を奏し、間一髪で2人がつい今まで飛行していた場所を謎の黒いエネルギー弾が通過した。後方から飛来したそれは真っ直ぐ突き進み、進行方向にあった山肌と衝突して消滅した。

 カイトは掴んでいたアスナの腕を離して反転すると、アスナもそれにならって後方を向いた。モンスターがポップする演出もなしに後方から奇襲を受けたということは、十中八九攻撃してきたのはプレイヤーのはずだ。そう考えた彼が視線をはしらせると、すぐに自分たちと正対している人影を発見した。

 背中に薄い黒色の翅を生やしているその人物は、黒いロングコートを身に纏ったスプリガンと呼ばれる種族だ。右手にはロングコートと同色の片手剣を携えているが、この時点でカイトとアスナはスプリガンに対して懐かしい雰囲気を感じ取っていた。その姿は、まるで彼らがよく知る剣士を彷彿とさせるようで――――。

 

「……探す手間が省けたな」

 

 数多くの戦場を背中合わせで生き抜き、時には互いに研鑽し合った友の姿を見間違えるはずがなかった。そしてそうとわかった瞬間、彼と同じ格好をしたスプリガンから急に大きなプレッシャーを感じると同時に、これから始まる戦闘の火蓋は既に切られているのだと直感した。

 

「…………キリト、くん……」

 

 背中には右手の剣と同じ業物をもう1本背負っており、それは《黒の剣士》の象徴の1つである《二刀流》を証明している。まだ距離があるにも関わらず、2人は空気を伝って相手から発せられた剥き出しの敵意を肌で感じていた。思わずアスナは息をのむ。

 《エリュシデータ》に酷似した剣の腹に陽光が反射し、カイトは少しだけ目を細めた。

 

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