ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

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物語が二十五層まで飛びます。



第07話 『ごめん』と『ありがとう』

「それでは、攻略会議を始めたいと思います」

 

 今回のフロアボス攻略で全体指揮を取るディアベルの声が、攻略会議の場である《MTD》のギルドハウスの一室に響き渡る。

 

 現在の最前線は第25層。第1層こそ攻略に1ヶ月かかったが、それ以降の攻略は順調に進み、当初は不可能に思われた百層攻略にも希望がみえはじめていた。そして『10層ごとに強力なボスが出現するのでは?』という予想もたてられたが杞憂に終わり、攻略組は初のクォーターポイントに挑むことになる。

 

 最前線の第25層は巨人族の巣窟だったため、ボスも巨人が予想された。偵察隊の報告により案の定巨人型モンスターだったのだが、その姿は20メートルをゆうに超える《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》という名のボス。

 浅黒く筋骨隆々とした身体、両手には戦斧(バトルアックス)を持ち、最大の特徴は《双頭》であるということだ。

 見た目のインパクトもさることながら、HPバーが五本もあることに加え、その太い腕から繰り出される戦槌(バトルアックス)の一振りは、壁戦士(タンク)でもHPをかなり持っていかれるほどだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1層フロアボス戦以降、度々行動を共にする機会が多かったキリトは、いつしかカイトとユキのパーティーに加わっていた。以前はアスナを加えた四人だったが、アスナは現在とあるギルドに所属している。

 

 攻略会議を終えたカイト・キリト・ユキは、現在拠点にしている第22層のログハウス型の宿に戻っていた。

 22層は森林と湖に囲まれており、迷宮区を除いてモンスターが現れないため、わずか二日というハイスピードで攻略された場所でもある。攻略組にとっては張り合いのない場所とも言えるが、三人はこの長閑(のどか)な風景が気に入っていた。

 宿で夕食を済ませると、カイトは青のストライプパジャマ、キリトは黒いシャツとズボン、ユキは白いワンピースタイプのネグリジェに着替え、それぞれの部屋で就寝する。明日に控えたボス戦に備えて――。

 

 

 

 

 

 翌日、第25層のボス部屋の前に攻略組が集結していた。今回も《MTD》が最も多く人員を投入し、《聖竜連合》、《血盟騎士団》、その他小規模ギルドやソロと続いている。基本的にパーティーは同じギルド内の者同士で組み、ソロで動いてるプレイヤーやパーティーで動いてるカイト・キリト・ユキ等は一つにまとめられた。

 

「では、行きます!」

 

 ディアベルの掛け声でボス部屋の扉が開かれ、カイトは頭をボス戦に切り替えた。

 扉を開けると、部屋の奥に巨大な影があった。事前情報通り、双頭の巨人が今回のフロアボスだ。《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》は侵入者を確認すると、腰に差してある二本の戦斧(バトルアックス)を抜き、咆哮してこちらを威嚇する。

 

「戦闘開始!」

 

プレイヤーとボスが同時に走り出した。壁戦士(タンク)部隊が二手に分かれて先行し、左右からくるボスの攻撃を受け止める。重い鎧で身を固めた壁戦士(タンク)でさえ、盾で受けてもHPが注意域近くまで減少した。ボスの攻撃を受け止めている間に攻撃部隊(アタッカー)がボスに攻撃するのだが……

 

「下がれ!」

 

 ボスの足元を攻撃すると突然右足が上に持ち上げられた。誰かが叫んだが既に遅い。次の瞬間、右足が地面に叩きつけられ、大きな音と共に地面を揺らす。ボスの近くにいたプレイヤーは《行動不能(スタン)》状態になり、皆地面に手をついてしまって身動きがとれない。するとボスが右の戦斧(バトルアックス)を上に高く掲げて勢い良く振り下ろすと、目の前にいる無防備な壁戦士(タンク)六人の命を一瞬で葬った。

 

「嘘だろ……」

 

 カイトは小さく呟いた。

 カイトの装備は群青色のロングコートに片手剣という出で立ちだ。あんな重い一撃はカイトのような装甲の薄いプレイヤーなら掠っただけでも大ダメージは免れない。

 そして今度は左の戦斧(バトルアックス)を薙ぎ払うように振り回し、再びプレイヤーの砕ける音が聞こえた。カイト達は一度他の班とスイッチし、ボスの攻撃パターンを目に焼き付ける。

 

 そこでカイトは気付く。

 《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》の攻撃力の高さから、現在戦闘中の班は慎重に距離をとってやり過ごしているのだが、今は戦斧(バトルアックス)を振り回すだけで、あの足を地面に叩きつける攻撃をしてこない。もしかしたらあれはプレイヤーがボスの真下、もしくはその付近に来ると行う攻撃パターンなのではないかと仮説を立てる。あれは喰らえば間違いなくやられるが、利用すれば同時に大きなチャンスだ。カイトはディアベルの元へ向かった。

 

「ディアベル、一つ提案があるんだけどいいか?」

「……始まったばかりなのに、もう何かわかったのかい?」

 

 作戦は至ってシンプルだった。あのプレイヤーを《行動不能(スタン)》状態にする攻撃。それを利用させてもらうのだ。

 まずさっきと同じように壁戦士(タンク)がボスの攻撃を受け止め、攻撃部隊(アタッカー)がボスの足元へ行く。そしてボスはあの攻撃のために一度足を持ち上げるだろうが、その隙に軸足に一定量のダメージを与えれば《転倒》状態になるだろうと予測した。つまり先程のように後退しようとするのではなく、前進するのだ。そして《転倒》状態になったボスにソードスキルを使えば、ダメージを与えられるだろう。

 

「――てのはどう?」

「……うん、やってみよう」

 

 ディアベルが頷くと作戦を全員に伝え、開始した。

 

 壁戦士(タンク)戦斧(バトルアックス)を受け止め、攻撃部隊(アタッカー)が前へ走る。右足が上がり、振り下ろされる前に反対の軸足を叩くとボスは《転倒》し無防備になる。そこをそれぞれ持ちうる最高のソードスキルで攻撃した。ボスが立ち上がる際の余波でダメージが入ったが、戦斧(バトルアックス)の一撃よりはマシだろう。

 ボスの一撃が重いため油断するとHPが消し飛んでしまうが、ポーションと回復結晶を使って常にHPに気をつけていれば恐れることはない。あとは今の作戦をひたすらくりかえすだけだ。

 

(すごい……)

 

 ユキはカイトがディアベルの元へ駆けつけ、何か話しているのを見ていた。今の作戦を思いついたのはきっとカイトなのだろうと、ユキは直感する。

 

(私も負けてられない!)

 

 ユキは《ミスリルダガー》を持つ手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイトの考案した作戦をルーチンワークのように続ける。《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》の攻撃力に圧倒される場面も多々あったが、五本あるHPバーも上から一本ずつ空になり、残すところ最後の一段となった。

 

「来るぞ! 全員警戒しろ!」

 

 ボスのHPバーの最後の段が赤く染まり、ディアベルが全員に注意喚起する。

 《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》が一瞬動きを止めると、ボス部屋全体を響かせるような雄叫びをあげる。すると、浅黒かった肌が爪先から頭部に向かって赤くなっていき、叫び終わると巨人の身体は全身が赤く染めあげられていた。

 ボスはHPが残り少なくなると、必ず何かしらの変化を起こす。それは武器の持ち替えやMobの出現など様々だ。そして状況から判断して今回のボスの変化は――。

 

「ステータス変化か……」

 

 ボスのステータス変化。それは経験上、攻撃・防御・敏捷の変化が考えられる。特に今回のボスは攻撃力が高めなので、これがさらに上昇したとなると――。

 

(場合によっては一撃必殺もあり得るな……)

 

 だが敵はもう虫の息。この戦いの終わりも間近だ。今までよりもさらに気を引き締め、ボスの一挙一動を見逃すまいとそれぞれが剣を握り直す。

 そして、先に動いたのはボスだった。

 《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》は深く膝を曲げると、部屋の天井にまで届くのではないかと思えるほどの跳躍をする。

 

「全員離れろ! 距離をとれ!」

 

 ボスは20メートル級の巨人。そんな巨体が高い場所から、全体重をかけて落下してくる。訪れたのは部屋に響く轟音と大きな揺れだった。そして運悪くボスの真下にいたプレイヤーは砕け散ったが、着地した際に響いた音で破砕音すら聞こえない。

 フロアにいるほぼ全員が《行動不能(スタン)》で動けないところに、ボスがさらなる追い打ちをかけるべく、戦斧(バトルアックス)を振り回して前後左右のプレイヤーを攻撃する。逃げ遅れてボスの周囲にいたプレイヤー達はなす術もなく、その身体をポリゴン片に変えた。

 

「う、うわああああ!」

「て、転移! 《はじまりの街》!」

「転移! 《タフト》!」

 

 目の前で起こった光景に恐怖し、一人、また一人と離脱するものが現れる。しかし、こんな状況でも諦めず『勝てる』と信じている者達がこの場には何人もいた。 身体の自由を取り戻したカイトはユキの元へ行く。

 

「ユキ。念の為きくけど、ここから逃げる気はないよな?」

 

 カイトの質問にユキはポカンと口を開け、ニッコリ笑うとカイトの頬を軽くつねる。

 

「あるわけないでしょ。わかっててそれをきく?」

「ほへんふぁるふぁっは、ふぁはひへ(ごめん悪かった、離して)」

 

 言われた通りにつねっていた手を離した。

 

「カイトを置いて逃げるなんてできないよ……。一緒に戦おう」

「……ありがとう」

 

 二人は頷き、ボスを倒すべく駆け出した。

 

 

 

 

 

 戦闘は難航した。戦線離脱による戦力の低下。《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》の圧倒的破壊力による死者の増加。HPは残り僅かなのに、慎重になるあまり決定打に欠ける。勝利という名のゴールが果てしなく長く感じられた。

 カイトのHPが注意域になり、回復するためユキとスイッチする。だがスイッチの直後、ボスが膝を曲げ、あの大ジャンプのモーションに入った。

 

「ユキ、下がれ!」

 

 ボスが跳躍し、着地と同時に地面が揺れる。誰もが身動きできない中、ボスがターゲットにしたプレイヤーはユキだった。

 左の戦斧(バトルアックス)を高く上げて、ユキを叩き潰さんと思いきり振り下ろす。

 

「させるかあああ!」

 

 少し離れた場所にいたカイトが敏捷値全開で走る。ボスの落下地点から離れていたカイトはその分《行動不能(スタン)》の時間も短かったようで、硬直がとけると駆け出していた。

 ユキを抱きかかえ、ボスから見て大きく右へ跳ぶ。攻撃は回避したが、戦斧(バトルアックス)が地面に当たった時に発生する余波で二人は吹き飛び、HPが削られる。

 とりあえずの危機は脱したが、まだボスはユキからタゲを外していない。今度は右の戦斧(バトルアックス)を高く掲げ、カイトもろともまとめて殺そうとする。

 

(死ぬ……のか……?)

 

 カイトがそう悟った時、すべての動きがスローモーションに見える。プレイヤーもボスの動きも、ゆっくりと時間が流れているようだ。そしてカイトは身体を動かさず、自身にまもなく振り下ろされる鉄の塊を、ただジッと見ていることしかできなかった。

 だが鉄の塊が振り下ろされることはなかった。二人の前を黒と白の剣士が通る。その影は《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》に突進し、鮮やかな剣技でボスに尻餅をつかせた。

 

「二人とも、急いで回復を!」

「オレ達で時間を稼ぐ、今のうちに!」

 

 アスナとキリトの声で、カイトの感じていたスローモーションの世界が元の速度で動き始めた。二人はキリトとアスナが作ってくれたチャンスを逃さないよう、回復結晶でHPを全快にする。ボスのHPをみると残り数ドット。カイトだけでなくこの場にいる全プレイヤーが、この戦いを終わらせるために総攻撃を仕掛ける。カイトも愛剣《ハウリーグ》を持ってボスに接近した。

 《アナイアレイト・オン・ザ・ギガンテス》の戦斧(バトルアックス)による攻撃は一撃が重いが動きは速くない。自身に向かってくる戦斧(バトルアックス)を右へ左へと避け、懐へ入ると他のプレイヤーと同じように、ボスにソードスキルを喰らわせる。

 

 片手剣三連撃ソードスキル《バーチカル・クエイト》

 カイトが放った青白い残光の三連撃はボスの身体に吸い込まれ、HPを根こそぎ削る。ボスの身体は眩しい光を放ち、最後にはポリゴン片となって爆散した。

 

 

 

 

 

 長かった戦いの後にあるのはいつもの勝利を喜ぶ声ではなく、生き残ることができたことによる安堵と、多くの仲間を失ったことによる悲しみの声だった。特に今回の攻略に大人数を投入した《MTD》の被害は尋常ではなく、リーダーのシンカーもディアベルも、その顔は悔しさで満ちている。

 

 カイトの目の前に初のLA(ラストアタック)ボーナス表示がされる。手に入れたアイテムの確認をしていると背中に軽い重みを感じ、振り向くとユキが背中にもたれかかっていた。

 

「死んじゃうかと思ったよ……ごめんねカイト、私のせいで」

 

 カイトの着ているコートの左袖を掴みながら、小さな声でそう呟く。

 

「……そこは『ごめん』じゃないだろ」

「うん……助けてくれてありがとう、カイト」

「どういたしまして」

 

 袖を掴んでいるユキの手の上に、カイトはそっと右手を重ねた。

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