ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

87 / 102
第76話 飛翔する妖精達とグランドクエスト(後編)

 

(ここまでか…………っ!)

 

 今まさに守護騎士による背後からの強襲を受けようとしているカイトは、この世界に来て初めての『死』を予感した。不意を突かれたせいでアバターの動きは止まり、回避も防御も、とてもじゃないが間に合いそうにないタイミングだった。

 しかし、振り下ろされた長剣が自身の身体に喰い込む直前、暖かな光の粒子がカイトを包み込み、真っ赤に染まっていたHPバーが瞬く間に全快した。次いで全快になったばかりのHPが守護騎士の剣によって2割ほど減少したが、レッドゾーンに突入していた数秒前とは違い、鮮やかな青いエンドフレイムと成り果てる心配はもうない。

 

「おおぉぉっ!!」

 

 真紅のダメージ痕を刻み付けられたカイトは、裂帛の気合いと共に剣を下から上へと跳ね上げ、守護騎士を垂直方向に斬りつける。反撃の剣は、敵のHPを余すことなく奪い取った。

 彼の窮地を救った現象は、間違いなく回復魔法によるものだ。アスナがとっさに機転を利かせて使用したのだとカイトは一瞬思ったが、離れた場所で新たな敵と斬り結んでいる彼女に、そんな余裕はありそうにない。

 そうなると、別の第三者の介入という答えに行き着く。何気なくカイトが眼下を見下ろすと、開いたままの入り口付近で、2つの影が両手をかざした状態で立っているのを彼は見つけた。

 シルフ族のイメージカラーである緑色の装備に身を包み、後ろで束ねた黄金色に輝く髪が静かに揺れる。共に大樹の頂へと昇りつめる決意を固めたリーファが、カイトとアスナを助けに来たのだ。リーファとは別でもう1人いるおかっぱ頭の少年に見覚えはないが、おそらくはリーファの友人だろう。

 

(……ありがとう)

 

 心の内で礼を言うと、聞こえている筈はないが、リーファが仄かに微笑したように見えた。

 気を引き締め直したカイトは、一目散にアスナの元へ駆け寄り、彼女と相対している守護騎士を背後から一閃。視線を一瞬だけアスナと交錯させた後、2人は背中合わせの状態になり、剣を構えた。

 

「大丈夫か?」

「……うん、心配しないで。こんな所で止まってられないもの」

 

 アスナが肩で息をしているのが、背中越しに伝わってくる。幾ら肉体的疲労がないとはいえ、精神的に追い詰められるのは、カイトだけに限った話ではない。進めば進むほどゴールから遠ざかっていくような感覚は、当初抱いていた挑戦心をガリガリと削っていく。

 しかし、アスナに関して言えば、それは当てはまらないようだ。

 挑む気持ちを失わせるどころか、寧ろ真逆の効果を生み出しているようで、声色から伺える力強さは一向に衰えていない。気持ちの高ぶりは止まらず、上へ飛翔し続ける事しか頭にない彼女にとって、『後退する』という選択肢はないのだろう。

 

「負けてられないな……」

 

 そんな様子の彼女を見て、カイトは思わず言葉を漏らした。剣を握る右手の力が、無意識に強くなる。

 そんな中、最も近くにいた敵の陣営が剣を突き立て、カイトとアスナに攻め立ててきた。向かってきた守護騎士と斬り結ぶが、数体の群が2人を素通りし、さらに高度を下げて下へ下へと飛んでいく。訝しんだカイトが通り過ぎた敵の跡を目で追うと、どいやら反応圏外にいるはずのリーファ達にタゲがいっているようで、獲物に飢えた剣をギラつかせながら急降下していた。

 

(ヒールを唱えたプレイヤーにも反応するのかっ……!?)

 

 モンスターがプレイヤーにタゲを移すのは、モンスターの反応圏内に侵入するか、武器や魔法で攻撃された場合だ。つまり、逆説的に考えれば、モンスターの反応圏外にいるか、攻撃しない若しくはダメージを与えない補助スペルを使用することで直接戦闘に参加しないなら、敵に襲われる心配はない…………筈だった。

 だが、守護騎士にはその常識が通用しないらしく、味方を回復する魔法――もしかすると支援魔法(バフ)に属するものも――を使用すると、殲滅対象とみなして攻撃するようアルゴリズムが組まれているようだ。

 

「リーファっ!!」

「大丈夫ですっ!!」

 

 打てば響くような声で応答すると、リーファは敵影を迎え撃つために抜剣する。おかっぱ頭の少年も彼女と同様、己の武器である腰の短剣を抜き取った。

 

 気持ちとしてはリーファ達の助太刀に行きたいところだが、カイト達に襲いかかってくる守護騎士の数が止むことはないため、自分の身を守るので手一杯なのが現状だ。他人の身を案ずる余裕があるなら、その分は己が身の安全を確保する事に注ぐべきである。『君を守ろうとしたら背中から斬られて死にました』なんて話は格好がつかないし、言われた側もどう反応すればいいのか困るだろう。

 ここは感情で動くのではなく、合理的に判断して行動すべきだと脳内で警鐘を鳴らし、カイトは歯をくいしばって踏み止まった。手の届く距離、目で見れる範囲にいる人全てを救うなんて思い上がっているわけではなく、ただ単に見捨てるという行為をしたくない、それだけだ。身の丈に合わない理想を追い求めるのは、時として手痛いしっぺ返しを喰らうというのを、カイトは重々承知している。

 誰だって苦しい場面だし、リーファは見た目も中身も女の子だが、相当な実力の持ち主だ。カイトに守ってもらうほど弱いわけでもなく、何より彼女自身からは力強い返答を貰ったばかり。ここでリーファを信じなければ、かえって彼女に失礼だ。

 

「おおぉぉおおっ!!!!」

 

 他の事に割いていた思考を無理矢理頭の片隅に押しやり、再度戦闘に意識のピントを合わせる。ブレていたピントが照準されれば、あとはモンスターを討つことだけに全神経を集約すればいいだけの話だった。向かってくる敵を1体、時には2体ずつ確実に屠り、少しずつ高度を上げていく。

 そうして高度を上げていくうちに、否が応でも天蓋が視界に入ってくるが、やはり恐ろしい数の守護騎士によって高密度の壁が形成されているのは変わらない。モンスターの壁を突き破って突破するには、強引に活路を開いてやるしかないが、それにも限界はある。大火力の殲滅魔法で一掃できれば話は早いのだが、カイトにはまだそこまでの威力を誇る魔法を習得出来ていない。

 

 守護騎士の鏡面マスクに剣を突き立てると、敵が断末魔の声を上げながら消滅していくが、その声に混じって頭上から呪詛めいた低音が舞い降りてきた。ふと顔を上げると、またしても守護騎士たちはスペルを詠唱し、ついさっきと同じように光の矢で構成された雨を降らせようとしていた。

 カイトは1度身に受けたからわかるが、光の矢には僅かだがスタン効果があるらしく、喰らえば他の守護騎士が近接攻撃を仕掛けてくるに違いない。リーファの支援で1度は窮地を切り抜けられたが、今の彼女は手一杯の筈だ。おそらく、2度目はない。

 嫌な予感がカイトの脳裏をよぎり、身体が強張ったが、守護騎士たちのスペルを掻き消すほどの声が足元から轟いたため、カイトはさっと視線を下に向けた。

 

(あれは…………っ!)

 

 大扉から新緑の鎧に身を包んだ多数のシルフの戦士が密集して隊列を組み、天蓋目指して突入してきたのだ。彼らの装備は遠目から見てもわかるほど煌めいていることから、エンシェントウェポン級であるのは間違いない。その数は50を優に超える。

 そして、予期せぬ援軍はそれだけにとどまらなかった。

 シルフの精鋭部隊に続き、遠雷と聞き間違えてしまいそうな重低音の雄叫びが響いたのだ。その正体は銀白色の鱗の上から重厚な金属鎧を着込み、プレイヤーの数倍はある巨軀で空を駆ける飛竜。鋭利な鉤爪と獰猛な牙を剥き出しにし、双眸はギラギラと輝いている。

 そんな飛竜を銀の鎖で出来た手綱で操っているのは、頭の両脇から生える三角形の耳と、腰のアーマーから尻尾を覗かせている戦士だ。こんな特徴を持つ種族は、ケットシー以外に他ならない。さらに言えば、彼らこそが竜騎士(ドラグーン)隊と呼ばれるケットシーの精鋭であり、これまで秘匿され続けた切り札(ジョーカー)ともいうべき存在が、カイトたちを助けるために天蓋へと飛翔していた。

 新たな挑戦者が押し寄せるようにして突っ込んできたため、守護騎士たちはスペルの詠唱を中断し、標的をカイトからシルフとケットシーに移す。長剣を突き立てて急降下する守護騎士に対し、2種族合同部隊は迎え撃つための準備を整えた。

 

「アスナっ!!」

 

 心強い援軍部隊が到着してくれたのならば、遮二無二突貫するのを一時中断する。アスナも援軍の存在には気が付いていたらしく、カイトの呼び声には即座に反応し、小さく頷いて距離を取った。

 

「ドラグーン隊、ブレス攻撃用意!!」

 

 可愛らしくもよく通る声は、ケットシー領主のアリシャ・ルーだった。10騎の竜騎士はドーム中央部まで上昇すると、その場でホバリングし、アリシャを囲うようにして円陣を組む。飛竜が長い首を曲げて上を向くと、牙の奥で橙色に光る炎が見え隠れした。

 

「シルフ隊、エクストラアタック用意!!」

 

 朱色に塗られた扇子を掲げて指示を飛ばしたのは、シルフ領主のサクヤだ。彼女の声が響くと、密集した陣形で固まっていたシルフ隊が長剣を両手で持ち、剣先を頭上に向ける。すると、エメラルド色の光が生まれて剣を包みだした。

 今もなお壁から新たな守護騎士が産み落とされているためか、天蓋にはおびただしい数の敵がうようよしており、まるで虫の群れを見ているかのようだった。その大群は耳を(つんざ)く奇声をあげて突進してくるが、アリシャとサクヤの双方はすぐに攻撃の指示を出さず、ギリギリまで引き付けるためにぐっと唇を噛み締めている。

 守護騎士の群れを充分引きつけたと判断したのか、まずはアリシャが右手をあげ、声高々に叫んだ。

 

「ファイアブレス、撃てーーっ!!」

 

 次の瞬間、飛竜の喉元が一瞬膨らんだかと思いきや、口から直線軌道の超長距離火炎ブレスが発射された。ブレスは凄まじいスピードでドーム内を駆け登り、10本の火柱を構成すると、守護騎士の群れに迫っていく。

 ブレスが敵の元へ突き立つと、炎が守護騎士を吞み込み、眩い閃光が弾けた。着弾した瞬間に炎が膨らみ、爆炎による轟音がドーム内を激しく揺さぶる。天蓋はクリムゾンレッドに染まり、呑まれた守護騎士達の残骸が散ると白い炎となって消えていった。

 

「フェンリルストーム、放てっ!!」

 

 アリシャに続き、今度はサクヤが合図を出した。

 シルフ隊は一切のズレなく動きを合わせ、待機状態だった長剣を突き出した。50本の剣からは雷光が疾り、ジグザグな軌道を宙に描いて縦横無尽に駆けていく。攻撃は敵に当たると貫通し、1度で複数の敵を纏めて屠った。1発当たりの火力と派手さは飛竜の火炎ブレスに軍杯が上がるが、総合的に見ればシルフ隊のエクストラアタックも遅れを取っていない。

 

「……おぉ…………すごっ……」

 

 無意識にカイトの口から感嘆の声が漏れる。増える一方だった敵の数が、ここで(

ようや)く目に見えて減少しているのがわかった。

 しかし、壁からはいまだ新しい守護騎士が生成されており、放っておけば折角減った数が元に戻るどころか、再び増加の一途を辿るだろう。

 

「すまない。遅くなってしまった」

 

 不意に駆けられた声にカイトは反応して後ろを振り返ると、すぐそこにサクヤがいた。彼女の隣には耳をしきりに動かしているアリシャもいる。

 

「ごめんネー、これでも結構急いだんだけど……。それにしても、こっちの到着を待たないで先に入っちゃうなんて、意外とせっかちなんだネ」

「オレとアスナの探し人が世界樹の上にいると思うと、待ちきれなくてね……。でも、ありがとう。おかげで助かった」

「礼を言うのは……」

「まだ早いんじゃないかナ〜?」

 

 領主2人の息の合いっぷりにカイトは笑みを零すが、すぐにその表情を引き締め、頭上を見上げた。

 

「シルフとケットシーは、さっきみたいに敵の殲滅を頼む。敵の壁に穴が出来たら、隙をみてオレ達が突っ込むから」

「その事なんだが、シルフとケットシー各種族で1名を選出するから、その者達も君と一緒に同行させてくれ。一応皆には3種族合同の攻略と銘打っているから、ウンディーネのみでゲートを目指していては、後で他の者達に説明しづらいからな」

「あぁ、そういう事なら。……で、誰が行くんだ?」

「シルフからはリーファを連れて行ってくれ。それで、ケットシーなんだが……」

「はいはーーい! 私が行くヨ〜」

 

 勢いよく右手を挙げて主張したアリシャが意気揚々なのに対し、サクヤは頭を抱えていた。呆れ半分、諦め半分といった具合だ。

 

「い、いやいや、ちょっと待て! 領主は全体の指揮をとらなきゃいけないから、アリシャが抜けるのはダメだろう。他の奴を……」

「え〜? 私も空中都市がどんなのか見た〜い!」

 

 子供のように駄々をこねるアリシャをどうすればいいのか困り果てたカイトは、サクヤに目で助けを求めた。

 しかし、サクヤは首を左右に振り、小さくため息をついた。

 

「はあ…………すまない。ルーはこう言い出したら聞かない奴なんだ。ケットシーの指揮をとる者は代理をたてるから、ここはのんでくれないか?」

「…………うっかり死んでも後悔するなよ」

 

 了承したカイトに向け、アリシャは親指を立てて顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 その後の戦闘は、間違いなくALO史上最大の大規模戦闘となった。

 飛竜のブレス攻撃とシルフ隊の剣から放たれる雷光により、守護騎士の残骸が宙を舞う。天頂に近づくほど守護騎士の湧出スピードも上がるが、敵の壁に深い穴を穿たんと皆が懸命に攻撃を仕掛け続けた。その中でもやはり目を引くのは、先頭を飛翔するカイトとアスナの両名だ。

 《黒の剣士》討伐の際にドロップした細身の黒い片手剣は、どうやら古代武器(エンシェント・ウェポン)に匹敵する性能を有しているらしい。それは元々のカイトが持つステータスの高さと組み合わさって相乗効果を生み出し、敵を一撃で亡き者にする威力を誇っていた。

 アスナに至っては所有する武器のグレードがカイトに劣るものの、彼女のプレイヤースキルに依存する正確無比な突き技がことごとくクリティカルヒットを生み出し、一撃ないし二撃で敵を屠っていく。神速とも呼べる突き技を視認するのは、並大抵のプレイヤーでは捉えることが出来ないだろう。

 そんな鬼神の如き強さを目の当たりにしつつ、リーファとアリシャも2人に続き、突破口が開く瞬間を逃さぬよう神経を張り巡らせていた。

 そして、その瞬間は訪れた。

 飛竜の爆炎とシルフ隊の刀身から放たれた閃光により、守護騎士の壁に穴が空いたため、天頂で鎮座するゲートがわずかに顔を見せたのだ。穿たれた穴は小さいが、ここを抜ければゲートはすぐそこだ。4人は一瞬だけ背中に力を溜めると、翅で空気を叩いて一気に急浮上する。

 4つの影が弾丸となってゲートに迫るが、これ以上の前進は許さないとでも言わんばかりに守護騎士がカイト達の進行する軌道上に立ち塞がった。

 

「リーファ、アリシャ! オレ達の後ろに!」

 

 簡潔にそれだけ言うと、カイトとアスナが横並びになり、その後ろを追随する形でリーファとアリシャが飛翔する。陣形が整うと、カイトは左手を前にし、右手を肩に担ぐ姿勢をとった。アスナも剣を持つ右手を少し後ろに引く予備動作(プレモーション)をとり、これから放つ最上位剣技の準備をした。

 剣技を繰り出すのに適した瞬間となるまで我慢し、タイミングを見計らうと、2人の剣士は身体に染み付いている突き技を鋭く放った。

 

「おおおおおっ!!!!」

「やああああっ!!!!」

 

 カイトは背中の翅で得た推進力を上乗せし、ジェットエンジンのような音を轟かせながら空気を切り裂く強力な剣技を。

 アスナは光を置き去りにするかのような速さで右手を閃かせ、自身が敵を貫く彗星と化す剣技を。

 一直線に空を駆ける2人の行く手を複数の守護騎士が阻むが、剣先に触れた途端に吹き飛び、散り、霧散していく。心なしか剣が赤と白の淡い光を纏っており、まるで思いの強さ・深さが反映され、具現化したかのようだった。

 最早そんな2人を止めることなど出来るわけもなく…………。

 彼らは、最後の直線を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 カイト達は守護騎士の壁を突き破り、天蓋の頂で待ち構えていた円形のゲートがはっきり視認できる所まで辿り着いた。ゲートの周囲からは今も絶え間なく新たな敵を産み落としているが、それよりも早く、ゲートに到達して空中都市に逃げ切れる自信が彼にはあった。事態が滞りなく進めば、の話だが――――。

 ゲートに到達する寸前で違和感を感じたカイト達は、背中の翅でブレーキをかけると同時に衝撃に備える。

 

「うぐっ――!」

 

 猛スピードで特攻したために無事では済まなかったが、直前の減速が功を奏し、いくらかダメージを緩和することが出来た。全身が痺れるような感覚に襲われるが、今はそれよりも問題とすべきことがあった。

 

「なんで……なんで開かないの?」

 

 接近すれば自動的に開くものだとばかり思っていたゲートが、手で触れるほど近くにいても開く様子が全くなかったのだ。

 

「くそっ! 開けっ……開けよっ!!」

 

 八つ当たり気味にゲートを剣で攻撃するが、ゲートは沈黙を固く守ったままだ。カイトは苛立ちを募らせてさらに強く攻撃しようとしたが、アスナの服のポケットから飛び出したユイの一言で、彼は動きを止めた。

 

「この扉は、システム管理者権限でロックされています。プレイヤーには絶対開けられません!」

「なっ……!」

「そんなっ……!」

 

 ユイは小さな掌でゲートの表面に触れながら、衝撃の事実を告げた。

 クエストフラグの見落としやゲート開放に必要なアイテムがないといった理由なら、まだ理解も出来るし諦めもつく。突破に必要なものを揃え、再度挑戦するという選択肢もある。

 だが、『管理者権限』というワードを持ち出されてしまっては、どうしようもない。そのたった一言が、彼らの前に決して乗り越えられない壁を作り出してしまった。

 背後で守護騎士が殺到する気配を感じとるが、カイトも、アスナも、リーファも、全身の力が抜けて抵抗する気すら失せていた。

 しかし、アリシャ・ルーだけは違った。

 

「システムアクセス・コードを使うんだヨ! 早くっ!!」

 

 その言葉でハッと我に返った3人が顔を見合わせると、アスナはポケットに入れていた銀色のカードを取り出し、ユイに差し出した。意図を察したユイは手を素早くカードの表面にかざすと、カードからユイへ、光の筋がいくつも流れ込む。

 

「コードを転写します!」

 

 次いでユイがゲートの表面に触れると、彼女の触れた箇所から青い光が徐々に広がり、ゲートそのものが眩い光を放つ。準備が整ったと判断したユイは、小さな右手をアスナに伸ばした。

 

「皆さん、手を繋いで下さい! 間もなく転送されます!」

 

 言われるがままに皆が手を繋ぐと、アスナは左手の指先でユイの手を掴む。

 その直後、背後から迫っていた守護騎士の剣が、最も近くにいたカイトを標的にして襲いかかった。カイトは振り返り、目を固く閉じて身体を強張らせたが、剣が身体に喰い込む感覚は訪れなかった。それもそのはず、既に彼の身体は透過し始め、転送待機状態に移行していたからだ。

 鏡面マスクの奥で憎々しげな視線を送っているであろう守護騎士を一瞥すると、カイト達はデータの奔流となってゲートの中へ突入した。

 




暇さえあれば過去に投稿した話を修正中です。
ただ、特に初期の頃のは修正箇所が多すぎて、真面目に直そうと思うと時間が足りない……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。