ソードアート・オンライン 〜君と共に〜   作:楽々亭

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今回は完全オリジナル?になります。



第08話 決意と分岐

 攻略組に混乱をもたらした双頭の巨人との激戦から一夜明けた翌日、攻略組の組織図に大きな変化が見られた。

 それは《MTD》のゲーム攻略からの離脱。第25層のボス戦で多大な被害を受けた《MTD》は、『ゲーム攻略よりも下層の治安を優先』と大きく方針を変えた。

 《MTD》の最大の武器は、ギルドメンバーの多さだ。これまで、その人数の多さを活かした迷宮区のマッピングや情報収集力に助けられたことは、少なくない。しかし《MTD》が攻略から離れるため、そのしわ寄せが他の攻略組に今後くるだろう。シンカー達もそれがわかっており、攻略組の各ギルドやソロプレイヤーなどに直接会いにいって頭を下げていた。

 

 

 

 

 

 そのさらに翌日、第22層の宿で、カイト・キリト・ユキの3人は朝食をとっていた。パンを食べ、コーヒーを飲むカイトと、《Weekly Argo》に目をとおすキリト。ここまでは至っていつもの光景だが、カイトとキリトがユキに視線を移すと、そこにはパンを両手で持ち、目線をやや上にしてどこか遠い目をしているユキがいた。

 

「ユキ?」

「ん? 何?」

「いや、別に……」

 

 声をかければ反応は返ってくる。しかし、パンを一口食べるとまたすぐにボーッとしてしまう様子は、まるで「食べる」と「考える」を別々に行うよう脳が命令しているかのようだ。二日前の攻略戦が終わってからというもの、気が付くと彼女はこの調子である。

 

「何か考え事か?」

「ん……ちょっとね……。ねぇ二人共、今日人と会う約束してるから、ご飯食べ終わったら出かけるね」

「へー、誰と会うの?」

「突然ですが問題です。私は今日、一体誰と会うのでしょう?」

「ほんとに突然だな」

「ヒントは二人もよく知ってる人だよ…………はい、時間切れ!」

「答えさせる気ないだろっ!」

「兎に角、夕方には戻ると思うから、心配しないでね」

 

 そう言って、ユキは再び朝食のパンを食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終わってからユキとは別行動となり、カイトとキリトは第23層に来ていた。

 転移門から出ると季節が春ということもあり、転移門広場を囲うように植えてある桜の木が満開に咲いていた。天へと伸びる無数の枝から咲いた花は時折吹く風によって散らし、桃色の花びらが場を鮮やかに彩る。現実となんら変わらない光景に目を奪われるが、すぐに主街区の入り口に向かって進んでいった。

 

 主街区の入り口付近にいるNPCからクエストを受注し、そのままフィールドへ出る。

 クエスト《蒼の巨石》は、NPCの娘が石のモンスターに攫われてしまったので助けにいって欲しい、という至って単純な内容だが、クエスト達成までの流れが非常に面倒くさい。

 まず今回討伐対象である石のモンスター《グランバ》を、湧きが収まるまで一定数倒さなければいけない。だがこのモンスターは全身石の鎧で覆われているため防御力が異常に高い。まともに戦えばかなり時間を要する。

 全て倒し終わると親玉の《キング・グランバ》との戦闘になるが、こちらも防御力の高さに加え、攻撃力もやや高く設定されている。全ての戦闘を終えるとNPCの娘を連れて帰る段取りになるのだが、道中襲ってくるモンスターから娘を守りながら街まで戻らなければならず、もし娘に設定されたHPがゼロになるとクエスト失敗となり、また最初から始めなければならない。

 このクエストの報酬は上質なインゴットで、二人はそれを目的にこのクエストを受注している。しかし手間とクリアにかかる時間を考えると、そのあまりの面倒臭さに敬遠する者が多く、クリアした者は数名と言われている。

 

 二人は主街区から東にあるゴツゴツした岩山を訪れていた。岩は銅成分を多く含んでいるため赤みを帯びており、所々で木や背丈の低い草が岩の表面を覆っている。

 足場の悪い岩山を登り、Y字型の分かれ道を右に進む。その先には高さ10メートル程の岩壁に挟まれた、幅10メートルの谷底が目の前に見えた。谷底を道なりに直進していくと、周りを岩壁に囲まれた円形上の場所に出る。そして一番奥の壁際には地面に横たわっている、今回の救出対象であるNPCがいた。

 

「ここか」

「そうみたいだな」

 

 その呟きを合図にしたかのように、岩壁の上から体長2メートルの人型モンスター《グランバ》三体がカイトとキリトの前に飛び降り、姿を現す。ドラム缶のような太い腕と胴体を持ち、全身に纏っている赤い石はその身を守る鎧と化している。人間で言う顔に当たる部分には二つの穴が空いており、その奥にはぼんやりと淡く光る眼光が覗いていた。

 二人は背中に背負っている剣を抜き、カイトが先行して一番前にいる《グランバ》に攻撃を仕掛けるため接近する。この手のモンスターは両手斧や両手剣といった火力の高い武器でいくのがセオリーだが、カイトは力で勝負するのではなく、技術で勝負しにいった。

 《グランバ》の右拳がカイトを叩き潰さんと思いきりふるわれる。しかしカイトにとっては難なく避けれるスピードだ。

 

「よっ、と」

 

 ヒラリと躱して右腕の、人間でいえば肘の関節を突きで狙う。カイトの狙いは各関節部分にある、石と石の間にある隙間だ。

 

「はぁっ!」

 

 吸い込まれるようにして剣が隙間を刺すと、ソードスキルでもないただの剣撃にも関わらず、HPが大きく削られた。

 《グランバ》の防御力は確かに高いのだが、それは石の鎧で覆われている部分に限った話。その下の皮膚は存外弱い。ただその皮膚を狙うには各関節にある剣一本がギリギリ入るわずかな隙間を正確に突かねばならず、少しズレれば石に弾かれてしまい、HPは数ドットしか減らないだろう。このモンスターを効率良く倒すには正確な技術を必要とする。

 肘の次は肩、膝と続けて攻撃し、ポリゴン片となった。すぐさま二体目が両手を組んで大きく振りかぶり、カイト目掛けて振り下ろす。これを避けて肘の関節を狙ったが、角度が悪く石に弾かれた。カイトはキリトとスイッチして一度後退すると、今朝の出来事を思い出す。

 

(ユキは今頃、誰と会ってるんだろう?)

 

 今朝の朝食時にユキが言っていた人と会う約束。その後追求することはなかったが、正直気にはなっていたのだ。

 

(25層攻略から変だけどそれと何か関係が? ……それとも誰かとパーティー組んでクエスト行くとか? でもそれならオレ達がいるし…………男か? だとすると考えられるのはクライン・エギル……ディアベル辺り……いやいや、確かにユキは親しみやすいから交流広いけど――)

「カイトっ!」

 

 そこまで考えて思考が中断された。もう一体の《グランバ》の左拳がカイトの身体を吹き飛ばしたのだ。考え事に集中しすぎて回避を怠ってしまった。

 

(ダメだダメだ。今は戦闘に集中しないと!)

 

 体制を立て直し、頭を振って石のモンスターに集中する。だがカイトの心にはまださっきの考えが引っかかり、言い表せない思いが渦巻いていた。

 

(なんだ、このモヤモヤした感じ……)

 

 

 

 

 

 延々と湧き続ける《グランバ》を倒すと、モンスターの湧きがピタリと止まる。おそらく規定討伐数に達したのだろう。最後の一体を葬り、ここからが本番と意気込む。ポーションを飲んで体力を全快にし、剣を構え直すと、大きな影が二人を覆う。

 見上げれば《グランバ》の倍以上の大きさを誇る巨体を持ち、青い石の鎧を全身に纏った《キング・グランバ》が岩壁から降ってきた。着地すると強い地響きと土煙を撒き散らし、HPバーが三本表示される。その頭にはキングの名に相応しい、黄金色に輝く王冠をのせていた。

 手順は先程と同じ――――といきたい所だが、関節の隙間は《グランバ》よりも狭く、レイピアやエストックでなければ攻撃できない。両肩にある大きな隙間なら片手剣でも突くことはできるが、如何せん位置が高い。なのでここからは正攻法で倒すことにした。

 

「カイト、右膝を集中攻撃して部分破壊(パーツブラスト)を狙うぞ!」

「オッケー!」

 

 硬い装甲をもつ特定のモンスターは、一点を集中して攻撃すると《部位破壊(パーツブラスト)》を引き起こす。これを行う事によって装甲の一部分が砕け散り、弱点とも言うべき急所をさらけ出すことになる。二人は今回それを狙うことにした。

 狙いは右膝一点。《キング・グランバ》から繰り出される右拳の正拳突きを左に避け、片手剣突進技のソードスキルを立ち上げるが、真っ直ぐ突き出された右腕は横に薙ぎ払われ、吹っ飛んだカイトは岩壁に叩きつけられる。《キング・グランバ》は倒れているカイトにその巨体を使って突進してきた。カイトは横に回避し、その際片手剣水平二連撃《ホリゾンタル・アーク》を放つ。

 

「やっぱ硬いな……」

「こればっかりは時間を掛けないとな」

 

 HPの減少は見受けられない。だが今は大ダメージを与えるための準備期間でしかない。焦らず、ゆっくりと深呼吸し、再び動き出した。

 

 

 

 

 

 いったいどれほどの時間を費やしたのだろう。ようやくその身に纏う石の鎧にヒビが入ると、音を立てて崩れ去り、鎧の下にある柔らかい皮膚を露出する。

 各々がソードスキルを喰らわせると先程とはうってかわり、HPが目にみえて減少する。ここまでくればあとは早い。ひたすら破壊した部位を叩くだけだ。

 攻撃するたびにガクンと減少するHP。そしてHPが赤く染まると変化がみられた。《キング・グランバ》が腕を地面と水平に持ち上げ、その場で独楽のように回転しだしたのだ。回転速度は増し、二人に向かって接近してくる。

 

「うおおおおお!?」

「いやいや無理無理!」

 

 高速回転した《キング・グランバ》から必死に逃げるカイトとキリト。攻撃など出来るわけもなく、ただひたすら逃げる。事前に情報を得ていたためこの行動を知ってはいたが、話に聞くのと実際に見るのでは受ける印象も全然違う。

 だがこれはプレイヤー側にとってチャンスでもあり、回転速度が少しずつ減少し始める。

 

「カイト、そろそろだ。タイミング合わせて行くぞ!」

「わかった!」

「……三……二……一……今!」

 

 回転が完全に停止した。ここから数秒間《キング・グランバ》の動きも完全に停止する。再び動き出す前に決着を着けたいカイトとキリトは、弱点を露出している右膝を切るために駆け出す。しかし、《キング・グランバ》はその場で地面に膝をついてしまったため、弱点部分が隠れる形になってしまった。

 

「キリト!」

「あぁ、わかってる!」

 

 前へ前へと動く足を止めることはせず、両者右足で踏み切って思いっきりジャンプした。その身を空中に投げ出し、それぞれ剣先を肩にある石と石の間の大きな隙間に向ける。

 

「うおおお!」

「はあああ!」

 

 気合の入った叫びとともに、二人の片手剣が敵の身体に深々と突き刺さる。HPが減少し、最後には空になって《キング・グランバ》の身体は爆散した。

 

「終わったーー!」

 

 数時間に及ぶ激戦の末、勝利したカイトは緊張状態から解放され、その場で大の字になって寝転がった。

 

「カイト」

「ん?」

 

 だがリラックスしたのも束の間、キリトの呼ぶ声に反応して視線を向けると、ある場所を指差していた。寝転がったまま顔をそちらに向けると、そこには未だ地面で横たわっているNPCがいた。

 

「あ……そうだった。……まだやる事あったんだっけ」

「そういうこと」

 

 クエストはまだ終わっていなかった。

 夕日が赤い岩山を照らして岩肌をさらに赤くする。カイトが起き上がって伸びをすると、メッセージを受信する音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事にクエストを達成して22層の宿に戻る。ドアを開けて中に入ると、奥にあるテーブル席でユキが座っていた。ユキも二人の存在に気づき、手を振る。

 

「おかえり。遅かったね」

「うん。ちょっと面倒なクエストやってて。……ところで話って何?」

 

 さっき届いたメッセージはユキからだった。内容は簡潔に『話があるから宿で待ってるね』というもの。

 

「うん。私の泊まってる部屋で話そっか」

 

 ユキは席を立ち、二階へ続く階段を上り、カイトとキリトもそれに続く。部屋の前まで来ると扉を開け中に入り、部屋の中央に置いてあるテーブルを挟んで三人が椅子に座ると、ユキから話をきりだした。

 

「あのね、これは突然で戸惑うかもしれないけど……私、ギルドに入ろうと思ってるんだ」

「ギルドに?」

 

 ユキの話とはギルドに入りたい、というものだった。二人ともユキからギルドの話が出てくるとは思っていなかったので、少々驚く。

 

「どこのギルドに入るつもりなんだ? 《MTD》……はないか、攻略から離れたし」

「じゃあ《風林火山》とか?」

「あそこの人達はみんな良い人だけど……クラインさんが……」

 

 クラインはギルドメンバーからの信頼も厚く、男からすれば頼りになる兄貴分だ。しかしどうも彼は女性を相手にすると猛烈なアピールをするため、女性には若干引かれる部分がある。哀れ、クライン。

 

「じゃあ《聖竜連合》?」

「あそこはレアアイテムのためなら犯罪ギリギリの事もするでしょ? そういうのはイヤ」

 

 ユキは即座に否定した。たしかに《聖竜連合》はレアアイテムのためなら犯罪コードギリギリのこともする。見方を変えれば、そこまでしてこのゲームの攻略に力を入れているということになるのだが、ユキはそれを良しとは思っていない。

 

「てことは……《血盟騎士団》か」

 

 《血盟騎士団》。団長のヒースクリフを筆頭に副団長のアスナ、それ以外のギルドメンバーも実力者ばかりで《MTD》や《聖龍連合》程人数は多くないが、少数精鋭の攻略組ギルドだ。特に副団長のアスナは《閃光》と呼ばれ、その二つ名の通り、細剣から繰り出される突きを目で捉えるのは容易ではないほど速く、その実力も折り紙つきだ。

 

「うん。今日はアスナに話を聞きに行ってたんだ」

 

 ユキは今日、《血盟騎士団》に入るつもりでアスナに詳しいことを聞きに行ったのだ。会う約束をしていた相手がアスナだったと知って、カイトは無意識にホッとする。

 

「それにしても何で急に……」

「実を言うと、前から考えていたんだ。……ねえ、カイト。第1層のボス戦前にした約束、今でも覚えてる?」

「……忘れるわけないだろ」

 

 それは『お互いに相手を守れるよう、背中を預けれるくらいに強くなろう』といったもの。ユキがここまで頑張ってこれたのは、この約束が彼女を支えているといっても過言ではない。

 ちなみにキリトはその事を知らないので、一人だけ頭上に疑問符を浮かべる。

 

「最近、二人がどんどん私より先にいっちゃってる気がして、焦ってたの。それにこの前のボス戦でも私は足手まといになって、危うくカイトも死んじゃいそうだったし……」

「別に気にするなよ。それにユキは弱くなんかーー」

「カイトは優しいから、そう言ってくれるって思ってた……。でもね、今のままじゃいつかきっと、私は二人と並んで戦えなくなる気がするんだ……。勿論、これは私の我儘だって自覚はしてる。だけど守られてばっかりのままじゃ、私が納得できないの……」

 

 ユキはカイト達と背中を合わせて、対等な立場で一緒に戦いたいと思っている。だがユキは守られてばかりの自分が嫌で、そんな現状を変えたくてギルドに入ることを決意した。

 

「だからお願いします。私のためだと思って、二人から離れてギルドに入らせて下さい」

 

 ユキはそう言って二人に対し頭を下げる。カイトとキリトは顔を見合わせると、フッ、と小さく微笑んだ。

 

「もう決めた事なんだろ? だったらユキのやりたいようにすればいいさ」

「……二人共、怒ったりしてない?」

「怒るわけないだろ。むしろ何で怒るんだよ」

「でもまあ……少し寂しくはなるかな?」

 

 これまで一緒にいた仲間が一人減る。アスナの時もそうだったが、自分の進むべき道を見つけたのは仲間として応援したくなる反面、ほんのちょっぴり寂しく感じもする。

 

「まあ攻略組にいる以上、ボス戦なんかで嫌でも顔合わせするけどな」

「あ、酷い! 私に会うのが嫌なんだ!」

「例えばの話だ! た・と・え・ば!」

 

 そのやり取りを見ていたキリトが笑い、カイトとユキもつられて笑う。三人揃って冗談を言い合うのも、こうして笑い合うのも、今夜を境にしばらくはお預けだろう。

 

「じゃあ二人の了承も得たし、早速明日入団しに行くね!」

「ギルドを追い出されないように気を付けるんだぞ、ユキ」

「キリト酷いっ!」

 

 

 

 

 

 翌日、約5ヶ月もの間カイトの名前の下にあった《Yuki》の名前が消え、彼女は《血盟騎士団》に入団した。ゲーム開始当初からずっと一緒だった二人は別々の道を歩むことになったが、それは些細な分かれ道。二つに分かれたその道が、また一本に交わると信じて――。




特定部位の集中攻撃で発生する『部位破壊』は独自設定となります。

戦闘描写がいまいち自信ないorz

現在書き溜めの修正をしつつ投稿していますが、このあと投稿予定の本編二話+番外編二話分で一章終了の予定です。それまでは一話完結でサクサク進みます。

『書き溜めてるならサッサと投稿しろ!』なんて思う方もいる(いたらいいなあ……)でしょうけど、読み返すと気になる箇所が幾つも目についてしまって……

引き続き感想・ご指摘・誤字報告お待ちしていますm(_ _)m
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