涙も止まり、いつもの調子に戻った直葉は、悠人と一緒に《ダイシー・カフェ》で待たせていた和人とユキの元へと行き、二次会でまた会う約束をしてその場を分かれた。和人は直葉と自宅へ、悠人はユキを近くの駅まで送り届けるため、それぞれが肩を並べて歩き出した。
しかし、《ダイシー・カフェ》の前から数十メートル歩いた先で、悠人の隣にいるユキが立ち止まり、ふっと後ろを振り返った。それに気が付いた悠人も同じように振り返るが、視線の先にはつい今しがた分かれたばかりの和人と直葉が2人に背を向けて歩き去っていく姿だけで、その他は特に何もない。和人と直葉の後ろ姿を見ているのか、若しくはそれ以外の何かに視線を向けているのか、悠人はわからなかった。
「直葉ちゃんと何を話したの?」
ユキは視線を悠人に向けると、ストレートに思ったことを彼にぶつけてきた。彼女の顔は真剣そのものだが、胸中で何を思っているのかまでは読み取れない。
『改めて見ると、ユキってまつげが長いんだなあー』などと呑気なことを頭の片隅で考えながら、悠人は噓偽りで着飾らない言葉を返した。
「告白されたよ」
「…………そっか。そうなんじゃないかなって、思ってたんだ」
ユキの両眼がほんの一瞬だけ見開かれたが、すぐに力の抜けた声が返ってきた。おおよその予想はついていたらしいが、わかっていても驚きを隠せなかったようだ。
「なんでそう思ったの?」
「前にも言ったけど、直葉ちゃんは悠人が好きなんだろうなっていうのは、なんとなく感じてたの。それで、さっき直葉ちゃんが悠人を呼び止めた時、決意を固めたような顔をしてたから、自分の気持ちを伝えるのかなーって…………。それで、悠人は直葉ちゃんからの告白に、なんて返したの?」
「気持ちは嬉しいけど、ごめんって答えた。でも、そう言われる前から、直葉ちゃんはオレとユキの関係に気付いていたみたいだよ」
直葉から告白された時は頭が回らなかったが、今になって考えると、はたから見てユキとの関係がただの友人以上であるのを察する判断材料は、幾らでもあったのだ。例えば、頻繁にお見舞いに来たり、はたまた筋力を取り戻すためのリハビリに立ち会うといったことを、『仲の良い友人』というだけでそこまでするのは考えにくい。
そういった要因が幾つも合わさった結果、直葉は誰に聞くまでもなく、2人の関係に気が付いたのではないだろうか。
「結果が望んでいるものにならないとわかっていたけど、自分の気持ちに区切りをつけたかったみたい。誰にも言わないまま、自分に嘘をついて過ごすのが、直葉ちゃんには耐えられなかったんだ」
無論、恋い焦がれる想いを隠し通し、今まで通りに悠人と接する未来を選択することも出来た。現実世界の桐ヶ谷直葉として、時には仮想世界のリーファとして言葉を交わし、些細なことで笑い合う――――それだけの事でも、直葉の心は十分満たされただろう。
ただ、風船に空気を入れ続ければいずれ破裂するのと同じで、歯止めをかけていた気持ちはいつか限界をむかえる。膨らんで大きくなる前に、まだ小さいうちに区切りをつけておけば、受ける傷は浅く済み、綺麗さっぱり諦めて心機一転出来ると直葉は考えたのだ。
しかし、後者は兎も角、少なくとも前者に関して言えば、直葉は気持ちの概算を見誤っていた。予想していた結末にも関わらず、胸を穿った痛みは想像以上に大きなもので、堪えきれずに溢れた涙がその証拠だった。
「……強いね、直葉ちゃんは。もし私だったら、傷付くのが怖くて、とてもじゃないけど口に出して言えないもん」
ユキが口にしたのと同じ事を、悠人も思っていた。
好意を伝えて願いが叶うのであればそれが最善だが、そうならなかった場合、代償として胸を引き裂かれる痛みを伴う。その後の関係がギクシャクしてしまう可能性だって、絶対にないとは言い切れない。
ユキと悠人が直葉の事を強いと評した理由は、通常の告白と違い、傷付くとわかっていながらも彼女が1歩踏み出したからだ。そんな強さを持ち合わせているのは、悠人とユキが知る限り、直葉以外には存在しないだろう。
「それはオレも同じだよ。ユキに限った話じゃないさ」
「……じゃあ、私達、似た者同士だね」
そう言って、ユキは悠人の右手をとった。仄かな手の温もりが伝わると同時に、悠人の鼓動が小さく脈をうつ。
悠人は自分の右手をとった細く白い指先を見た後、顔を持ち上げてユキを見た。自然とユキの黒い瞳と視線が交錯し、そのままじっと見つめ合う。数秒間、お互いに何も言葉を発することはなかったが、ユキが照れ隠しの混ざった笑みを零した時、またしても悠人の胸が波を打った。
「正直に言っちゃうと、変わらずに私を選んでくれたって知った時、嬉しかったよ。……ただ…………」
「…………ただ、何?」
「う〜ん…………なんていうか、ほら。オフ会の前に、綺麗な人と会ってたでしょ。私が来た時、ちょうど親しげに話してたし」
「ああ、りーちゃんのことか」
オフ会を開く前の《ダイシー・カフェ》で、悠人と理沙はカウンター席で談笑し、ユキ達が店に来たところで理沙は帰ってしまった。ユキが2人のやりとりを見たのはほんの少しだけだったが、どれだけ親密な間柄なのかはすぐに理解したらしい。お互いを愛称で呼び合っていた時点で、ただの知り合い以上であると予測するのは簡単だった。
「たしか前に悠人が入院してた時、私、1回だけ会った覚えがあるんだけど…………悠人って、その、お姉さんがいたりするの?」
「いないよ。オレ、一人っ子だし」
「だよね。じゃあ、さ…………昔、年上の女の人と付き合ってたりとかは?」
「いや、ないよ」
「そっか……。じゃあ…………う〜ん…………」
急に困ったような顔になったユキは、頭をひねって黙り込んでしまった。理沙の事で何かを気に掛けているというのはなんとなく分かるのだが、彼女が今どのベクトルで考えを凝らしているのか、そこまでは流石の悠人も分かりかねる。
「さっきから、一体何を言いたいん…………」
彼女につられたわけではないが、ここで悠人もユキと同じように、頭をひねって黙り込んだ。気に掛けているのが理沙個人ではなく、理沙との関係についてであれば、少しだけ答えが見えてくる。
よくよく考えれば、悠人と理沙が親戚であるというのを知っているのはエギルくらいのもので、悠人はこの事を誰かに話した覚えがない。そもそも、理沙を紹介するような場面が1度なかったのだから、仕方がない、と言えば仕方のない事なのだが。
そして、ユキが理沙に会うのは今日で2回目(理沙がALOのアバターで会った回数を入れるともっと多い)だが、ユキにしてみれば、その2回とも『知らない女の人が悠人に会いにきている』ように映っているだろう。『2人は
「…………りーちゃんの事、なんか勘違いしてない?」
「…………え?」
「昔付き合っていたなんて事実はないし、そもそもあの人はオレの事を恋愛対象として見てないから」
巡らせていた考えの核を掴まれたらしく、ユキの肩がわずかにぴくりと動き、表情が一瞬固まった。
「だから、変に心配する必要なんてないんだよ。全然、まったく、これっぽっちも」
「…………悠人って、私の考えていることが分かるの?」
「もしこの場で肯定したら、ユキは信じるの?」
「今だったら素直に信じちゃいそう」
ユキは表情を緩めると、次いで手にとっていた悠人の右手を離し、彼の右腕を抱え込むような形でくっついてきた。そうすることで2人の距離は縮まり、先ほどよりもさらに彼女の顔が近くなる。
「じゃあ、私が今何を考えているのか、当ててみて」
ユキは悠人を見上げながら、唐突にそんなことを言ってきた。
悠人は彼女の大きな瞳の奥を覗き込み、ユキもまた、そんな悠人に負けじと見つめ返してくる。至近距離でお互いの顔を見つめ合う機会など滅多にないので、慣れないシチュエーションのためか、2人の頬がほんのりと赤色に染まった。
「…………この後にある二次会のこと?」
「残念、違います!」
「じゃあ、さっきのオフ会であった出来事とか?」
「それも違う。さっきの核心を突くような読心術が見る影もないね」
「それはユキの言動にヒントがあったからであって、いきなりノーヒントで当てろって言うのは無理な話だろ。……降参。わかりません」
「諦めが早いなあ。……じゃあ…………正解は、ね…………」
ほんの少し、ユキは組んでいた腕の力を緩め、悠人に寄りかかると、靴のかかとを持ち上げた。
唇を重ね合わせるだけの口付けだったが、確かな暖かさを悠人に残し、ユキはそっと彼から離れた。紅潮していた頬はさらに赤みを増し、ユキは悪戯っぽい笑顔で悠人に微笑む。その姿に、思わず悠人も目を奪われた。
「…………びっくり、した?」
その問いに対して、反射的に悠人は首を縦に振る。起こった出来事があまりにも衝撃的すぎて、悠人の思考は停止し、頭は真っ白な状態となっていた。
思考の死角を突かれると、突かれた本人も驚くほど咄嗟に反応できなくなる――――と、脳内メモにしっかりと書き記していた悠人でさえ、ユキの不意打ちは彼の想像を2段、3段飛び越えたものだった。一体どこでこんな事を学んだのだ――――と思うが、その答えは他の誰でもない悠人自身だ。不意打ちは彼の十八番なのだから。
「今の、私のファーストキスなんだ」
実を言えば本人が知らないだけで、ユキがALOで眠っている時に悠人としているのだが、そんな細かい指摘はこの際どうでも良かった。ユキの大人びた微笑みが、自然とそんなことを思わせてしまう。
「悠人が固まるなんて珍しいね。作戦成功、かな?」
悠人がユキに対して1本取ることはあっても、その逆は中々ない。ユキの勝ち誇ったような顔が生意気だが、今の悠人の心境ではそれさえ可愛らしく、同時に愛おしく思えた。
だが、彼女を想う気持ちと、『ユキにしてやられた』という敗北感は全くの別物だ。さらっと流すことが出来れば良かったのだが、悠人もそこまで大人ではないらしい。やられっぱなしは、性に合わない。
「…………悠人?」
未だ何の反応も示さない彼を訝しみ、ユキは小首を傾げたが、そんな彼女を気にも留めず、悠人は頭で思った事をすぐさま行動に移した。
目には目を。
歯には歯を。
不意打ちには不意打ちを。
「…………んっ……!?」
彼女がした事を真似るように、悠人は懐へ滑り込んで距離を縮めると、ユキの肩に手を添え、瞼を閉じ、ついさっき重ねた唇を今一度重ね合わせた。ユキから受けたのと同等、若しくはそれ以上の愛情を余すことなく伝える方法が、彼はこれ以外に浮かばなかったのだ。
最初こそ力んでいたユキの肩も徐々に力が抜け落ち、いつしか彼女は悠人に全てを委ねていた。彼が伝えてくる愛情に浸り、幸福という名の充実感が心の底まで染み渡っていくのを、彼女は感じていた。
かといって、ずっとこのままでいるわけにもいかず、悠人は名残惜しそうに触れていた唇を離す。彼は閉じていた瞼を開き、視界の大部分を占めているユキを見ると、そこには目尻がとろんと下がった色っぽい表情で自分を見つめる少女の姿があった。
「さっきのお返しだ」
「…………バカ」
ユキは上目遣いで悠人を睨みつけるが、声のトーンからして満更でもなさそうな様子だった。
いつの間にか2人だけの世界を構築していたことに、悠人もユキも、遅まきながら気が付いた。照れ臭さと気恥ずかしさがほどよくブレンドされた笑みをお互いに零す。
(やっぱり良いな。この感じ…………)
独特の雰囲気と、安心感。気持ちが良いくらいに歯車が嚙み合わさるようなこの感覚を、悠人はユキ以外の誰かで味わったことがない。『相性が良い』『波長が合う』等といった表現を世間ではするが、きっとこれが、そうなのだろう。
「…………ユキ」
「…………なあに?」
和やかな雰囲気に包まれている今なら、言えるかもしれない、聴けるかもしれない――――そう思った悠人は、緊張していることを悟らせぬよう、極力柔らかな口調と物腰を意識しつつ、口を開いた。
「アインクラッドの75層でさ、オレと勝負したの、覚えてる?」
「75層…………もしかして、キリトと団長のデュエルを始める前にやったやつのこと?」
「そう、それ。…………じゃあさ、その時にした約束事は?」
「…………覚えてるよ。だってそれ、私が言い出した事だもん」
浮遊城の第75層が開通して間もない頃、『アインクラッド最強を決める』と題したキリトとヒースクリフによる一騎打ちは、2人の記憶に新しい。
この時、勝負が一試合だけでは物足りないという考えから、カイトとユキが前座でデュエルをしたのだが、その際にユキから『負けた人が勝った人の言う事を何でも聴く』という提案をしたのだ。結果的にカイトが勝利したのだが、それからすぐにゲームがクリアされてしまったので、彼は勝者の権限を行使する機会を失っていた。
「まさかとは思うけど…………」
「そのまさかだよ。今、ここで、ユキにはオレの言う事を何でも1つ聴いてもらう」
「え〜、もう期限切れじゃないの?」
「そんなものはありません」
キッパリと切り捨てた悠人に向かって二言ほど文句を垂れたユキだったが、元はと言えば彼女が言い出した事の上に、敗者はユキだ。それ以上強く言い返す事はせず、すんなりと受け入れた。
「それで、私は一体何をすればいいの?」
「オレがユキにしてほしいのは、今から話す事を聴く、それだけだ」
「え? そ、それだけでいいの?」
「ああ。大事なのは話の中身なんだけど、それを聴いてどうするかは、ユキに任せる。…………こればっかりは、ユキの気持ちを尊重したいし」
後半の部分は小さな声で呟いたため、ユキの耳には微かにしか届かなかった。小首を傾げ、訝しむような表情で悠人の顔を覗き込むが、彼の心を読み取ることが出来なかったため、近すぎず、かといって遠すぎることもない丁度いい距離で2人は向き合った。
「それで、どんな話なの?」
「ああ、いや、その……なんていうか、さ…………」
ユキに促されて話そうとしたが、つい言葉が詰まってしまう。格好良くさらりと言うつもりだったが、いざ言うとなると気持ちがこもり、緊張がついてまわってしまった。
生唾と共に緊張を腹の底へと流し込むと、悠人は再度口を開いた。
「…………オレ達が出会ってから2年経つけど、今まで色んなことがあったよな。泣いたり、笑ったり、たまーに喧嘩したり。そのほとんどがアインクラッドの思い出だけど、仮想世界にいた頃のも、現実世界に戻ってからのも、ユキと一緒に過ごした時間は、オレにとってかけがえのない大切なものなんだ」
約1万人のプレイヤーが浮遊城に閉じ込められたあの日、2人は出会った。
『ゲームオーバー=現実での死』という環境下に身を置いた事実に頭が追いついたユキは、絶望し、自ら命を絶とうとしたが、そこから彼女を救い出したのは悠人だった。彼のきまぐれ、もしくは思いつきとも言える行動がなければ、ユキは今頃、この世にいない。
ささいな事をキッカケにして出会った2人だが、時間を共有していく中でお互いがお互いの存在を大きく意識するようになるのに、そう時間は掛からなかった。いつの間にか芽生えて育った恋慕の情も、振り返ってみればそうなるのが必然だったのだ。あの日の出会いは、『運命』と呼ぶのに相応しい出会いだったのだから。
「昨日の夜、今までの事を振り返ってたんだけどさ…………改めて言うまでもないけど、オレ、やっぱりユキが好きだ。この気持ちは、今も、昔も、そしてこれからも、きっと変わらないと思う」
気持ちをユキに伝えた悠人は、今一度頭と心を整理した。
前置きはここまで、本題はここからだ。
「それで、その…………ユキに頼みというか、お願いがあるんだ。ちょっと根気と我慢を強いるような事なんだけど…………」
「全然想像がつかないんだけど…………。それで、どんなお願いなの?」
「ん。まあ、その、なんだ…………オレもユキも今はまだ学生で、親から離れて自立してないけど、大人になったら違うだろ? やる事なす事、全部自分の意思と責任で決められるわけだ。……まだ先の、ユキにとってはオレよりも少し遠い未来の話に感じるだろうけど…………その時が来たら…………オレ、ユキの事を迎えに行きたいと思ってる。……それまで、ユキには待っていてほしいんだ」
真っ直ぐな眼差しと共に気持ちを伝えた悠人は、知らず知らずのうちに入っていた肩の力を少し抜いた。ふう、と小さく息を吐き出した後、そのままユキの反応を伺うが、それはそれは、はたから見てなんとも分かりやすい反応だった。
まず最初に両眼を見開き、次いで頬を紅潮させ、最後は両眼に滲んだものが一粒の雫となってユキの頬を伝った。彼女の中で移ろう感情が、手に取るようにわかってしまう。
「……ねえ、悠人。それって、もしかして…………」
「最初に言っただろ? 今のはただの『お願い』だ。来るべき時が来たら、その時はちゃんとした言葉で、ユキにもう一度きくよ」
今はまだ、その時ではない。現実的に可能ではあるが、現時点でユキを本当の意味での相棒、パートナーとして受け入れるのは、時期尚早というものだ。彼女を迎え入れて守りきるほどの力がないのは、悠人自身、百も承知している。
だが、この先ずっと一緒に歩んでいきたいと願う気持ちは本物で、せめてそれだけでも伝える事が出来れば、という考えが彼にはあった。近いのか、遠いのか、そもそも来るのか来ないのかすらわからない不明瞭な未来の話だが、この想いが途絶える事なく、いつか本当の意味で彼女と共に並び歩ける日が来るのを、彼は強く信じている。
「本当は、もっと早くに言うつもりだったんだ。でも、ゲームは途中でクリアされるし、現実に戻ってきたと思ったらユキは帰ってきてないし…………中々タイミングが掴めなくてさ」
そう言って悠人は顔を背け、指先で頬を掻く仕草をした。一世一代の告白を成し遂げたは良いが、やはり気恥ずかしさは残るらしい。照れ隠しの時にする癖は、相変わらずだった。
そんな悠人の様子が可笑しくて、だけどちょっぴり可愛くも思えて、ユキは思わず顔を綻ばせた。
「えへへ、そっか。…………悠人の言う通り、確かにこれはちょっと我慢が必要になりそうだね。でも…………」
ユキが足を一歩踏み出したかと思うと、そのまま悠人の真横を通り過ぎ、歩みを止めることなくそのまま数メートル先まで進んでいった。悠人が振り返って彼女の背中を見ていると、ユキはふと足を止め、くるっと回れ右をして悠人と向き直る。
「あんまり長く待たせないでね。悠人がグズグズしてるうちに、私の気持ちが変わっちゃう可能性だってあるんだよ?」
「そ、それは困るな…………」
「でしょ? だから、私のこと、しっかり捕まえててね」
ユキは右手を持ち上げると、悠人に向かって白く細い指先を差し出した。
一方、悠人は差し出された手を掴むため、彼女の元へと歩み寄る。手の届く距離まで近づくと、左手を伸ばし、そっと彼女の右手に重ねた。
悠人の手の温もりが伝わるのを愛おしく感じたユキは、幸福な現実に思わず頬を緩め、そんなユキを見た悠人も、彼女につられて笑みを零した。
「行くか」
「うん」
触れ合っていた手が繋がれると、2人は歩調を合わせて歩き出す。
並び立つその後ろ姿は、あの世界にいた頃と変わらない。
それはこの先も、きっと変わらないだろう――――それが、2人の未来の概算だった。
無事にタイトル回収。これにて『ソードアート・オンライン 〜君と共に〜』本編の最終回です。
ここまでくるのに約3年……途中で投げ出すことなくこれたのは、読者の方々から暖かい声を頂けたのが大きな要因だと思います。本当にありがとうございます。
せっかくのあとがきですので、色々書こうかな、と考えていましたが、それはもう少しあとにとっておきます。本編はこれで締めますが、ここから本編を補足、若しくは後日談的な意味を込めて番外編を複数話掲載するつもりですので、全て投稿し終えたその時に書こうと思います。内容が整い次第投稿しますので、もう少々お付き合いください。
引き続き、感想、評価、お気に入り等お待ちしております。