船倉までは居住区に戻り、更にその下の機関室を抜けていく必要があった。近づくにつれて振動とエンジンの音が大きくなる。居住区を抜け、機関室までの通路を通り抜けようとすると、手前の小部屋の壁に影が見えた。その影は見覚えのある形を作っている。
すげぇ、本当にレイヴンだ。
一応警戒しながらも部屋を覗くと、積み上げられた荷物とライトによってたまたまできた影だった。レイヴン人形を期待した俺の気持ちを返して欲しい。
まぁこの世界ではなくて当然か、むしろなんで
レイヴンと言えば、この2年の間に『シャドー・モセスの真実』のゲーム化の話が発表された。もちろん監督は我らが神である。
そしてその新作ゲームの名前は・・・
"SOLID SNAKE and Shadow Moses"
うん、名前、変わっちゃった。
インディ・ジョーンズ風の名前なのは狙ったのか?監督のことだし狙ったんだろうなぁ。
当然と言えば当然だがハードはPS3、PS版をプレイした身からするとリメイクのようで感慨深い。この感覚を持つのはこの世界にただ1人に違いない。
だが、もしタンカー事件の犯人としてソリッド・スネークの名前が広まれば、間違いなく発売中止になるであろう。
それは阻止しなければ、この世界のステルスアクションゲームの芽を摘ませはしない!
雑念と共に機関室を進むジョニー、しかしながら警戒はしっかりしている。巡回の兵士を避けて機関室の出口まで到着したが、センサーで封鎖されている。センサーから伸びるケーブルの先には怪しげな装置が繋がっている。
まぁ、爆薬だって知ってるんですけどね。
通常、
X線も無しに銃で起爆装置を撃って破壊とか、専門家が見たら目を回してひっくり返るかな?
そんなことを考えながらバッグパックの中からPSSを取り出す。
この銃は弾薬に消音機能がついた特殊な銃だ。
手の中で銃が跳ねる。
爆発することなく、無事に爆弾の解除に成功した。思わずため息が漏れる。分かっていても爆弾を銃で撃つのは精神衛生上よろしくない。
ついでに置き土産だ。
ジョニーはブットパックの中から小型の装置を取り出す。携帯サイズでアンテナが何本か伸びており、ぱっと見、無線機のように見える。
ジョニーが持ち込んだのはジャマー、いわゆる電波妨害装置である。自分の乗り込む船が沈められると知っていて何も対策をしない訳にはいかない。
爆弾を遠隔で起爆出来ないようにするために取る手段としてはさほど珍しいものではない。事実、米軍でも
だが、電波を妨害するというのは単純なことではない。妨害したい周波数帯を考慮する必要がある。分かっているのは
周波数帯関係なく妨害をかける方法もあるが、効果が落ちるのと装置の大型化を引き起こす。範囲も問題だ。広げるには出力を上げれば良いが、そうすると電池の消耗が早くなる。電池をデカくすれば解決できるが、これまたモノが大きくなってしまう。
結局、東欧系の無線機と起爆装置に使われる周波数を調べて、装置を複数種類用意することにした。出力は少し上げて時間を捨てた。長々と留まるつもりはないからな。
気休めにしかならない気がするが、ないよりマシだと思う。どれかが上手くいけばラッキーだ。この先々でも何個か置いておこう。
ジャマーを置いたジョニーは機関室を出て船倉への通路を進む。
もう少しだ、さっさとやることやって帰ろう。
暗い通路で先を急ぎ、逸る気持ちで注意力が落ちたのか、曲がり角で兵士とばったり出くわしてしまった。相手も予想してなかったようだ、暗視ゴーグルで表情は見えないが動揺を感じた。
相手がライフルを突き出してきた。右手でいなして顔面に左を合わせる。カウンター気味に入って怯んだ。銃を振り回そうとするのを制しつつ、すかさず右を叩き込んだ。完璧に顎に入り、相手はそのまま気絶してしまったようだ。
危なかった!CQCの訓練の成果だな。
スネークにCQCを教えてもらうのには結構苦労した。最初お願いした時はどこでそいつを知った?と詰問され、咄嗟にネットを漁ってたら見つけたことにしたが納得してない様子だった。使う気にならないと言って、教えるつもりもないと頑なだった。
それならばと格闘訓練をしようと誘って、微かな記憶を頼りに見よう見まねで仕掛けてみることにした。前世の学生の頃、友達とふざけて真似をしていたのがこんなところで生きるとは思いもしなかった。
結果?気づいたら俺はお空を眺めてたよ。
スネークは自然と体が動いたようで、俺のやった動きに驚いていた。
その後も何度も何度も仕掛ける俺にスネークが根負けし、基礎から教えてもらえるようになった。役に立つ技術だし良いじゃないかとオタコンの後押しがあったのも効いたようだ。
スネークに言わせると「猿真似の中途半端な技術で実践して怪我でもされたら目もあてられん」ということだった。ツンデレかな?
気絶した兵士を暗がりに隠して船倉を目指す。今度は油断せずに進むとしよう。
船倉の入り口で兵士がいる。無線で話しているが聴きづらいようで警戒が疎かだ。ジャマーが役に立っているのか?辛うじて聞こえる音と状況から察するに無線の相手はゴルルコビッチ大佐だろう。上の制圧が終わり、残すは船倉のみのようだ。不味いな、急がないと。
しかし邪魔なところにいるな、無線が終わったところで気絶させるか?
そうしているうちに無線が終わったようだ。仕掛けようとすると新たに人の足音が近付いてくる。慌てて物陰に隠れた。兵士も気づいたようで、音の方に銃を向け
ちらと様子を窺うと、長い銀髪にロングコート、拍車のついたウエスタン・ブーツという出立の男だった。
「ああ、貴方でしたか・・・シャラシャーシカ。大佐と一緒じゃないんですか?どうしてここに?」
兵士は相手が誰か分かって気を抜いたが、思いがけない人物の登場に疑問を口にする。シャラシャーシカと呼ばれた男は答えることなく、左手で腰のリボルバーを抜いた。
兵士が驚いて息を呑む音と銃声が重なる。頭から血を流し、驚愕の表情のまま床に倒れた。
器用に銃を回転させホルスターに戻し、通路を元から来た方向へと戻っていく。
「同志よ・・・大佐と共に沈め!」
やがて暗闇で男の姿は見えなくなった。
『ジョニー、まだかい?船倉に侵入した?』
「予定より手間取っている、既にベラザノ橋を通過したようだ」
『分かった、
『大丈夫か?ゴルルコビッチ達も船倉を目指しているはずだ』
「それなんだが・・・オセロットがいた」
『なんだって?』
驚くのも当然か、まさか直接乗り込んでくるとは思わないだろう。
『まさか奴も出てくるなんて・・・』
『それだけ新型が重要ということか?』
「それだけとは思えんな、たった今仲間を撃ち殺したぞ。オセロットは奴らを利用してるだけのようだ」
『仲間を?ますます分からないね』
「メタルギアが狙いなのは同じなんだろうが、手に入ったところで裏切るつもりじゃないか?」
知ってるからとあまり答えを言いすぎるのもマズい、バランスが難しいな。
『目的が別にあると?』
「あくまで推測だ、今は考えても仕方ない。もう演説も始まってる、急ぐぞ」
船倉の中には海兵隊員が整列して演説を聞いていた。この部屋は大型スクリーンに映し出された映像を流している。この先にメタルギア本体がある筈だ。
『ちょっと待って、ジョニー。ちょっと気になることが起きてるんだ』
「どうした?手短に頼むぞ」
『誰かが僕らのやりとりをモニターしてるようなんだ』
「モニター?俺はナノマシンがないからモニターも何もないだろ?」
『リアルタイムな情報は位置情報ぐらいだね。それでも何かしてくるわけでもなくモニターしてるだけなんだ。それがかえって不気味で。この通信も傍受されてるかもしれない』
ナノマシンがなくてもやっぱりダメか。くそぅ、『愛国者達』に目をつけられたくなかった。
『とりあえず、通信の暗号化プロトコルを変更するよ。あと、念のために写真の送信経路を変えたいんだ』
「そこなんだが、今映像が流れているのは知ってるな?」
『そうだね。船から何処かに飛ばしてるみたいだけど、
「その映像データも記録できないか?」
『データを?出来なくはないけど暗号化されてるよきっと』
「ここのワークステーションから写真のデータを送るんだろ?同じ経路で映像もいけないか?こっち側の設定は俺がしておく」
『・・・なるほど、君がいるならそれもアリだね。分かった、設定を見直すよ。ジョニーは写真を急いでくれ』
あくまで写真は必要か。できればチョロっと設定して、映像を送れたら後は帰ろうと思ったんだけどな。
船倉の中は広いはずだったが、整列した海兵隊員と鎮座する新型メタルギアのせいで狭く感じられた。事実、気づかれずに行動できる範囲は限られている、苦労しそうだ。
RAYと名付けられた新型メタルギアは、直線の多かったREXに比して流線形の多いデザインだ。滑らかな表面は光沢を持ち、機械というより巨大な生物のようにも感じられる。
REXを見た時ほどの衝撃を感じないのは、世界中でメタルギアの亜種を見てきたせいか?まぁ、スネーク達とその全てを破壊してきたのだが。
だが、それらとも比べてもコイツは明らかに別次元の代物だ。対メタルギア用メタルギアの名は伊達ではないのだろう。
RAYをバックに、1段高くなった場所で海兵隊司令官のスコット・ドルフが演説している。海兵隊員達は熱のこもった演説に聞き入っているようだが、油断はできない。急ぎつつも慎重に動こう。
演説を聞き入る海兵隊員の隙を掻い潜って写真を3枚、正面と横、そして海兵隊のマーキング入りをしっかり撮影した。時間がない、早く設定して映像と一緒に送らなければ。
ワークステーションにカメラを繋げてデータを移す。それと同時にタンカー内のネットワークから映像を引っ張ってくる。タンカー内のモニターに映ってたからな、これなら上手く行きそうだ。
オタコンから無線が入る。
『どうかなジョニー?』
「良いタイミングだ。ちょうど映像データも持ってこれた、写真も準備できてる」
『それじゃここからは僕の出番だね、任せてくれ』
オタコンが遠隔でやってるようだ。アプリのパッチに偽装したプログラムで画像と映像を取り込むようにやっている。
『よし!上手くいった!写真はバッチリ、映像も完璧だ。僕のREXとは方向性が違うけど、こいつスゴいね!』
『用は済んだな、早く離脱するんだ』
オタコンのオタクな部分が興奮する中、スネークが冷静に指示を出す。だが、少し遅かった。いや、向こうが間に合ったと言うべきか?
「このメタルギアRAYによって、我々海兵隊が新しい時代を築くのだ。以上、解散!」
海兵隊司令官の演説が終わった。と言うことは次は