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演説をしていたスコット・ドルフ海兵隊司令官に対して、整列した海兵隊員が敬礼をする。司令官が答礼をする中、乾いた拍手の音が聞こえた。静寂の中、やけに大きく聞こえる。
「いい演説だった。流石は海兵隊司令官、
足の拍車を鳴らし、演技がかった仕草をしながら男が姿を現す。謎の男の登場に場の空気は一気に変わる。
「だが、それだけだ。アメリカ人は己の言葉に酔う余り、真実を語れない」
「何者だ!」
海兵隊員が司令官の周りを固め、銃を構える。
「俺はシャラシャーシカ、またの名をリボルバー・オセロット」
オタコンを無線で呼ぶ。
「オタコン、映像は見えてるな?」
『バッチリだよ、まさか本当にやつが出てくるとはね』
「しっかり記録しといてくれ」
『任せてよ、それより離脱できそう?』
「それなんだがな・・・」
逃げたいのは山々なんだが、オセロットの登場で海兵隊員の動きが激しくなった。別のルートを確保しておくべきだった。
「チャンスを待って、混乱に乗じるしかなさそうだ」
『どうにも嫌な予感がする、何が起こるか分からない。スネークも急いで準備してるけど、気をつけて』
オセロットが話を続ける。
「新型の性能はよく分かった」
「こいつを奪う気か?」
「奪う?返してもらうのだよ」
司令官の後ろに人影が忍び寄る。セルゲイ・ゴルルコビッチだ。周りの海兵隊員が気づいた時には司令官はゴルルコビッチに羽交い締めにされ、喉元にマカロフを突き付けられていた。
「誰も動くな!いいな!このタンカーにセムテックスをたんまり仕掛けた。こいつを押せば爆発する」
オセロットは左手に握られたスイッチを高く掲げて周りを牽制する。銃を構えた海兵隊員達がジリジリと距離を取る。
「そうだ、誰も死にたくはない」
少し包囲の輪が緩んだところで上からロープが垂れ下がり、ゴルルコビッチの兵士が次々と降下してきた。あっという間に有利なポジションを奪われ海兵隊員達は狼狽える。
「もうすぐ目標地点だ、急げ!」
兵士達はオセロットの言葉に従い、RAYを動かすべく準備を始めた。
海兵隊司令官がRAYをどうするつもりかと問うと、ゴルルコビッチが声を荒げて答える。故郷を、友人を、プライドを金で買われた怒りに満ちていた。この新型を利用してロシアを再建するつもりだと言う。
「残念ながらそれは違う、大佐。どこにも売るつもりはない。言ったはずだ、返して貰うと」
オセロットの突然の発言にゴルルコビッチは顔を歪めた。司令官も困惑している。だが、オセロットの次いだ言葉は2人にとって予想外のものだった。
「『愛国者達』に、な」
「『
海兵隊司令官が顔を青くし、ゴルルコビッチは顔を怒りで赤らめる。
「オセロット!貴様、この私を裏切るつもりか!?」
「私のボスはお前ではない」
「何?ソリダスとはまだ・・・」
「大佐、悪く思うな?ロシアの再建になど興味はない」
「オセロット!いつからだ!?」
「鈍いな、同志!まだ連邦が存在した時からだ」
うーん、オセロットにロシアに対する愛国心があったことなんか逆にあるのか?
それにしても『らりるれろ』、いや『愛国者達』か。ナノマシンで上手く発音出来なくなるとか冷静に怖くない?
ジョニーが見ている前で状況が著しく変化し続ける。ゴルルコビッチの怒りを受けて兵士達も動揺し始める。海兵隊員達は成り行きを見守る他なかった。
「いいか、新型に搭乗できるのは1人だけだ」
オセロットがゴルルコビッチに背を向け、感情のない声で告げる。
「大佐、娘と共に死ね」
先に動いたのはゴルルコビッチの方だった。海兵隊司令官をオセロットの方に突き飛ばし、オセロットにマカロフを向けた。
オセロットが振り向きながら脱ぎ捨てたコートがゴルルコビッチとの間で翻り、銃声が船倉内に響く。
コートが床に落ちると同時に、ゴルルコビッチと海兵隊司令官が倒れた。オセロットの左手には煙を上げる
「セルゲイ、その腕では現役引退だな」
オセロットが一瞬で全弾を撃ち尽くしたSAAをその場に落とした。
「・・・裏切り者めっ・・・」
ゴルルコビッチが口から血を流し、絞り出すように声を出す。海兵隊司令官も体を撃ち抜かれ既に絶命している。
突然の出来事に海兵隊員もゴルルコビッチの兵士達も状況を理解できず、混乱から回復するのに時間を要した。
一部が混乱から立ち直り、行動に移そうとした。その瞬間、オセロットが左腰のホルスターからもう1丁のSAAを引抜き、手近な者から撃ち殺した。銃をクルクルと回してホルスターに納める。
早い!スネークといいBIGBOSSといい、よくこんなやつと渡り合えたな。右手ならもっと早いのか?絶対に奴とは戦わないぞ。
オセロットが起爆装置を掲げた。
「見せ物は終わりだ!生きたい者は逃げるがいい!まだロウアー・ニューヨーク湾だ。必死に泳げば岸まで辿り着けるかもしれんぞ!」
オセロットが起爆装置を押すと爆音と振動が起きる。近くでは無いようだが、海兵隊員とゴルルコビッチの兵士共に大混乱だ。
クソッ、やっぱりジャマーはカバーしきれなかったか!近くの爆発は止められたみたいだが、船のダメージは大きいようだ。船体の軋む音が聞こえる。ただでさえ嵐で波が高い。このままでは沈むしかないだろう。
そうしている間にも状況は悪化する。海兵隊員と数少ないゴルルコビッチの兵士で銃撃戦になり、オセロットに射撃を浴びせる者もいる。だが、オセロットは気にすることなく悠々と歩いてメタルギアの操縦席を目指している。
爆発もまだ続いている。既に船は浸水が進み、傾き始めている。
『ジョニー、大丈夫かい!?』
オタコンが慌てたように聞いてきた。おそらく映像が途切れたのだろう。
「何故かまだ無事だよ。いよいよマズイけどな」
『僕たちも今向かってる、なんとかして船から逃げるんだ!』
言われなくてもそうするよ!さっさとおさらばだ!
逃げる前にチラッとオセロットの方を向くと目が合ってしまった。オセロットも気づいたようだ。
「貴様、もしやシャドー・モセスの?」
フェイスマスクを着けてるのに何故わかる?てか、なんで覚えてるんだよ!忘れとけよチクショー!
「あの男ではないと思っていたが・・・まさか貴様とはな」
「アンタも相変わらず『
オセロットが目を細めて、値踏みするような視線を向けてくる。
「相変わらず分からない男だ、何故奴らと一緒にいる?」
「・・・成り行きさ。そう言うアンタは立派な右腕がついてるじゃないか。そいつは
「・・・もちろんだ。試してもいいが、
危うい会話を続けながらチャンスを窺う、出来るなら今すぐにでも逃げたい。
「俺で悪かったな。まぁ、これでスネークはタンカーを沈めたテロリストにはならない、『伝説の英雄』のままだ。アンタらの思い通りにはさせん」
オセロットが一瞬驚いたような顔をしたが、その後耐えきれないと言った様子で笑い始めた。
「何がおかしい?」
「分かってないな。伝説とは語り手によって紡がれ、受け手によって形作られるものだ。そこに真実は必要ない、ましてや本人である必要もない。
なんだ?何を言っている?
困惑するジョニーを他所にオセロットはRAYのコックピットに乗り込み、起動シークエンスを始める。反応が遅れたが、ジョニーはもう用はないとRAYに背を向けて走り出した。
ジョニーの背にオセロットの声がRAYの外部スピーカーを通じて浴びせられた。
「さらばだ。タンカーと共に沈め、
ジャマーがある程度役に立ったのか浸水は予想より激しくない。とは言え、沈むのは時間の問題だ。傾いた通路を出口を目指して急ぐ。
昔のFPSであったな、沈む船から逃げるやつ。俺にとっては昔でも、この世界では1週間前に出たばかりの新作だがな!
そんなことより早く甲板に出ないとマズい。意識しまいとしてきたが、演説が終わってオセロットが現れた頃から腹の調子が悪くなっていた。今や明確に腹痛を感じ始めている。
流石に沈みつつあるタンカーでトイレには行けない。下手すると逆流してくる可能性すらある。ドライスーツを着たのも悪手だった。脱ぐのに時間がかかる上に、このまま漏らしたらドライスーツの中で大惨事だ。
濡れる前提で普通の戦闘服にすればよかったか?いっそオムツでも履いておけばよかった。
後悔と便意は先に立たず、今は我慢しかない。全力でトイレもとい脱出を目指しているが、所々にゴルルコビッチの兵士が残っており度々交戦していた。
リーダーのセルゲイは既に死んだと言うのに厄介な。ん?リーダー?
オルガのこと忘れてた!
慌てて目的地を上甲板に変更する。麻酔はまだ効いているはずだ、このままではタンカーの沈没に巻き込まれてしまう。浮き輪を着けて来たが、流石にそのまま浮いてくれるとは思えない。
オルガを助けないと
幸いにも上甲板に向かう経路の方が敵がいなかった。退避したか、もう誰もいないと判断したのか。
上甲板に到着するとジョニーが離れた時のまま、オルガは残されていた。こうなると浮き輪じゃなくてライフジャケットの方がいいな。まだ余裕はあるか?
ジョニーがライフジャケットを船内で探そうとすると、船体が一際激しく揺れた。何事かと見ると、メタルギアRAYが船体を切り裂いて出て来た。
目に見えて傾きが大きくなってきた。この大きな船体でもあれだけのダメージでは長くは持たない。
いよいよこのままでは沈没に巻き込まれてしまう。
上甲板から下を見るとまだ救命ボートが残っていた。あいつを使って取り敢えず凌ぐしかない。
オルガを抱えて下を目指すが、傾斜と揺れで歩くのも精一杯だ。四苦八苦しながら甲板まで降りた。既に喫水がかなり低く、海面はすぐそこだ。密閉式のボートにオルガを乗せようとすると一気に船が傾く。
くそっ!ボートは間に合わない!
ジョニーはオルガを抱えたまま、荒れる海へと飛び込んだ。
オルガの浮き輪で浮かぼうとするが、荒れる海では2人分の人間を浮かすには頼りない。
ジョニーは一度手を離し、腰の左右につけたフローテーションの紐を引く。紐を引くとボンベの炭酸ガスによって瞬時に浮きが膨らんだ。保険のつもりだったけど、つけてて良かった!
なんとか浮力を得たジョニーは再び浮き輪を掴み、オルガが沈まないように注意しながら少しでもタンカーから離れようと泳ぐ。
「ジョニー!」
自分の名前を呼ぶ声に顔を向けると小型艇が接近してくるのが見えた。船首にスネークがいる。と言うことはオタコンが操縦してるのか。
これで助かると気が抜けたのが悪かったのか、激しい腹痛がやってきた。ヤバい、1番の修羅場だ!
「ジョニー、大丈夫か!?」
「俺より先にこっちだ、上げてくれ!」
オルガを先ずは引き上げてもらう。続いてジョニーがボートへと上がる。
他に生存者がいないかタンカー周辺を見渡すが、この嵐だ。おそらく絶望的だろう。早々に切り上げて、4人を乗せたボートは岸を目指す。
「よく場所がわかったな?」
「君が飛び込むところを見てたんだよ。全く、見てるこっちが寿命が縮んだよ」
舵輪を握るオタコンが答えた。
「話は後だ、急いでここを離れよう」
「そうだな、騒がしくなる前に離脱しよう」
「厄介なことになったね」
「ああ、そこのお嬢さんのことも含めてな」
そう、今は話してる時じゃない。
まずは早く岸に上がってくれ!腹が!