1月ギリギリ間に合いましたが、やや短めです。
オルガはタンカー事件から然程日を待たずして退院した。そもそも負傷していた訳でもなくただ眠らされていただけで、雨に濡れたことによる低体温で若干の衰弱が見られただけだった。
同志達はお腹の子に何かあっては大変だとなかなか退院をさせてくれなかったが、オルガからすれば
退院までにシャラシャーシカことリボルバー・オセロットとも連絡がついた。生きていた事に驚き、無事を一応喜んでいるようだ。親父達を見殺しにしたこの男はハッキリ言って気に入らない。その態度を隠すつもりもなかった。
だが、オセロットは意外にも手を差し伸べてきた。行く当てがなければここを頼るといいとロシアン・マフィアと渡りをつけてくれた。
あの男の手を借りるのは癪だが、現実問題、今のオルガ達は
病院から出て早速、オセロットに指定された場所でマフィア達とコンタクトをとった。オルガ達にとって意外だったのは、彼等はオルガ達を歓迎した。あのゴルルコビッチの部隊という名前が役に立ったようだ。
荒事を専門とする彼等は正確にはマフィアと繋がりのある非合法組織と言うべきらしいが、その違いがオルガには分からなかった。家族達を食わせていければどうでも良かった。
これで全てが今まで通りかというとそんなことはなかった。損耗を出した部隊の立て直し、欠員の補充が喫緊の課題だった。
武器装備は頼めば用意してもらえた。世界中に根を張るロシアン・マフィアの力という訳だ。問題は人だ。特にタンカー襲撃部隊はゴルルコビッチの部隊の中でも精鋭揃いだったのが痛かった。
2年前のシャドーモセス事件の後、職に溢れたゲノム兵達の一部を吸収したが、彼等は能力は高いが経験の足りない
そんな折に発生したこの事態にオルガは四苦八苦していた。経験豊富な優秀な人材がいなくなり、残された少ない人間で部隊を育てていかなければならなくなった。
時折マフィアや組織から依頼される仕事だけで食べていくには厳しい。世界各地の紛争地帯を渡り歩くにはいささか心許ない練度の部隊、ある程度の質と量が補充に求められていた。オルガの取れる手段は少なかった。何とかして人を呼び込むしかない。
ロシアン・マフィアのネットワークだけでなく、民間軍事会社界隈にも情報を流して人を集めようとした。結果、集まった人材は玉石混淆、まずまずな結果だ。
成り立ちからして基本的にロシア系しかいなかった部隊も今では国際色豊かだ。何か問題が起きる可能性もあるが、今必要とされるものが揃った。
オルガはようやく希望の光が見えてきたように感じた。そんなオルガのお腹はタンカー事件の時に比べて明らかに大きくなっていた。
※※※
「射撃用意、
ライフルの銃床をしっかりと肩付し、的を狙い引き金を引く。こんな感じで訓練するのも久しぶりで、軍にいた頃を思い出して懐かしくすらある。
「射撃止め、的を確認しろ!」
一旦
ジョニーは今、ゴルルコビッチの部隊にいる。タンカー事件でオルガの扱いに窮した俺はただ解放するのではなく、監視と情報収集を兼ねてゴルルコビッチの部隊に潜入することを提案した。
勿論、この突飛な考えにオタコンもスネークも反対した。当然だ、危険を冒して潜入するのに結果が得られる可能性が低いと普通なら考える。俺だって、この先何が起きるか知らなければこんな提案はしないし、したくもない。
オルガを解放した後も議論を続けていたが、タンカー事件の報道が風向きを変えた。サイファーに撮られた俺のピースサインの写真がタンカー事件の首謀者、ソリッド・スネークとして報じられた。あの時のスネークの顔は忘れられない。
正直すまんかった。
報道を受けて俺達が『愛国者達』に嵌められた事に2人とも気がついた。罠の可能性は最初から考えてはいたが、『愛国者達』の力とやり方について危機感を持ったようだ。
そりゃそうか、わざわざタンカーをもう1隻持ち出して沈めて本当に重油をぶちまけるような奴らだ。何も思わない方がどうかしている。
『愛国者達』への対策と今後のこと、特にオルガ達の扱いを話し合い、ゴルルコビッチ部隊への潜入を2年間という期限付きで認めさせることができた。別に期限は無くても良かったが、少しでも認められ易くするために設定した。
そういう訳で今、ジョニーは比較的穏やかな日々を過ごしている。何せ、いつ何が起きるか分かっているのだから常に気を張る必要がない。2人には悪いが楽をさせて貰う。
とは言え、ジョニーはサボっているわけでもない。ビッグシェル事件に備えて人間関係の構築と情報収集だ。ジョニーが当初配置されたのはシェル1中央棟、ゴルルコビッチの精鋭達の1人として扱われていたはずだ。その後何故かオイルフェンスの警戒だったが・・・。
尚且つ、もうすぐオルガの子供、サニーが生まれる。
そう、サニーだ。
とにかく、ある程度出来るアピールをしておけば部隊の中でも動きやすくなるはずだ。自分で言うのもなんだが、本気を出すと多分悪目立ちしてしまう気がする。適度に手を抜きつつ、頑張っていこう。
※※※
あれから数ヶ月、一時はどうなることかと思ったが部隊は思ったより上手く回っている。
やはり経験豊富なベテランは何者にも代え難い。元からいるロシア系の兵士や元ゲノム兵達と、今回新たに加わった新人とで問題が起きるかと危惧していたが杞憂に終わったようだ。初めこそやり方の違いや考え方の相違でぶつかることもあったが、戦場で共に戦い、生死を共にした戦友としてお互いを認め合った。
加入組の中でも
単独行動を好むきらいはあるが、連携や支援攻撃は完璧にこなしている。特に潜入を得意とし、単独で大きな戦果をこの短い期間であげている。ヘリや航空機の操縦もでき、ロシア語の日常会話も問題ない。何でも屋のマルチプレイヤー、
昔鍛えられたおかげだと本人が謙虚なのもいい。お腹が弱いようでよくトイレに行くが、それも人間味があっていいと思えるぐらいだ。
そんなことを考えるオルガは今、前線から離れ書類仕事に専念している。お腹が大きくなり、オルガとしてはできるだけ共に戦いたい気持ちだったが、自分達は大丈夫だから大人しくしてくれと周りが強く反対した。
タンカー事件で失ったものは大きいが、順調に立ち直りつつある。変わる部隊を寂しいと思う気持ちもあるが、やはり成長する
このお腹の子供も皆と同じように成長している。予定日はもう直ぐだ、いつ生まれてもおかしくない。こうしていると、自分だけが取り残されてるような気がしてどうしても気が逸る。
頼りになる家族がいるんだからと気持ちを抑えて、その大事な家族と共にお腹の子と腕に抱く日をオルガは楽しみにしていた。
※※※
「ジョナサン、隊長が産気づいた!もうすぐ生まれるぞ!」
興奮した仲間が早く病院に行こうと急かしてくる。遂にこの日が来たか。直ぐ行くから待ってくれと仲間を部屋から追い出して、ジョナサンことジョニーは準備をしつつ、これからのことに思考を巡らせる。
賽は投げられた。
この小説を書いてる影響か、クリスマスに食べたスモークターキーで3日間トイレと友達になりました。