オセロットと協力関係を結んだ後、ジョニーは多忙な日々を過ごしていた。
まず部隊の装備の近代化と並行してナノマシンの導入を進めた。オルガも特に反対することもなく、後ろ盾にオセロット、いや『愛国者達』がついてることもあって導入自体はスムーズにことが進んだ。
尤も、言い出しっぺとなったジョニーは大忙しだった。武器情報や個人情報の登録で残業が続いたときは腹痛が悪化しかけた。機密情報だから関わるのは最低限が良いといったオセロットを呪った。
高価なAN94、新しい迷彩服と装備一式、その他ありとあらゆる武器装備を部隊規模で手に入れられる経済力、併せてナノマシンに対応した個人識別装置を導入できる技術力、『愛国者達』に協力すればするほどその力を見せつけられる。オルガなんかは大して気にもしてなかったようだが、知らない方が幸せとはよく言ったものだ。
武器装備の更新を進める傍ら、米海軍特殊部隊に属する対テロ訓練部隊が壊滅したと、スキャンダラスに報道されていた。
死の細胞、デッドセル、ゲーム内では半年前として語られた事件が現実として起きている。
全ては予定通りなのだろう。
その一方で、ビッグ・シェル襲撃についてオルガにはまだ伝えられていなかった。巨大なビッグ・シェルを制圧するのにゴルルコビッチ部隊の協力は不可欠だ。にも拘わらず伝えられなかったのは、サニーという最大の脅迫材料がないからである。
その時は突然やってきた。
次の仕事の話とオセロットに呼び出され、オルガと2人指定された場所へと向かった。
オルガは文句を言っていたがジョニーは2人とも呼ばれた時点で察した。オセロットのやつには事前連絡とか報連相とかの概念はないのだろうか?
デッドセルのメンバーと彼らのボスとの対面を想像してジョニーはかなり緊張していた。どんなリアクションなら違和感を持たれないか。全く動揺しないのも変な気もするし、かと言ってわざとらしく反応するのも疑われそうで悩んでいた。
その緊張をオルガに悟られまいとしていたが、流石にバレてしまう。訝しがるオルガに、我々2人が呼ばれるとなると大きい仕事ではないかと思うとどうしても、と本音半分に適当に誤魔化した。大きいどころか国盗りに匹敵するような大事件なのだが。
指定の場所に着くとオセロットが待っており、オルガ達を案内する。デッドセル達との仲介役はオセロットで、この顔合わせもオセロットが準備しているのだろう。奴らの仲間として、そして『愛国者達』の"演習"を取り仕切る立場としても都合がいい。
案内に従い部屋に入るとジョニーの想像通り、デッドセルの3人ともう1人、窓から外を眺める男がいた。入室者に気づいているはずだが構う風でもなく、自然に振り返り顔をこちらに向ける。白髪に髭を生やし、鋭い眼光が厳格な雰囲気を生み出している。テレビで見た時よりも老けているが間違えようがない。
前大統領ジョージ・シアーズその人であり、第3の
これには流石のオルガも驚きを隠さず、オセロットを睨んで問いただす。
「依頼人は前大統領?一体なんの冗談かしら?」
「そうでもない、何せ相手が相手なのでな」
またオセロットが適当なことを言っている。だが、あながち間違いでもないからタチが悪い。
「それで、一体私たちに何をさせようというのかしら?」
「そう身構えなくとも良い、お前達の部隊にやってもらうことはシンプルだ」
「それは私から話そう」
ソリダスが静かに、しかし威厳を持った話し方でオセロットの話を遮った。遮られたオセロットが意外そうな顔をしている。
「キング、よろしいので?」
「優秀なゴルルコビッチ部隊あってのこの作戦だ、誠意を尽くそうじゃないか」
ソリダスはどこか芝居がかった様子で続けた。
作戦はビッグ・シェルに視察に来るジョンソン大統領以下政府の要人を人質に取り、米政府と交渉するというものだった。ビッグ・シェルの制圧と交渉間の警備が俺達ゴルルコビッチ部隊の任務となる。
「大統領を人質にするなんて簡単に言うわね?
「心配は要らない、彼等も同志だ」
「だとしても、交渉に入る前に突入されたら逃げ場がない。特殊部隊が来たら抑えきれないわ」
「ほう?随分と弱気だな?」
オセロットがオルガの発言に挑発混じりに尋ねる。
「昔ならまだしも、今の部隊では悔しいけど無理ね。私やジョナサン、他の古株の同志ならなんとか、他はまだまだ足りないわ」
おや?俺もそこに入るのか?
気になるところがあったが今の部隊の話は同意せざるを得ない。時を経て経験を重ね確かに強くなってきた部隊だが、タンカー事件でできた戦力の穴を塞ぐにはまだ足りない。
尤も、この場にその穴を塞いであまりあるピースがあるわけで。
「それなら心配無用だ、そのための彼等だからな」
ソリダスが鷹揚に答える。
「その3人が?何者なの?」
「
「
「紹介しよう、ファットマンとヴァンプ、そしてフォーチュンだ」
今や悪名の方が有名になってしまったデッドセルだが、そもそもソリダスことジョージ・シアーズ大統領直属に組織された精鋭だった。味方にいるなら心強い・・・かな?いや、やっぱりおっかないわ。
ファットマンはニヤニヤしながらグロックを分解しては組み立てを繰り返しているし、ヴァンプはフォーチュンの後ろで無表情で控えている。フォーチュンはほんの少し会釈のような反応をしただけだった。
さらに地雷なのがデッドセルも一枚岩ではないことだ。ファットマンはどちらかと言うと『愛国者達』側の人間、"演習"のための雇われだ。残りの2人がまともかと言えば、本気で民間人を殺そうと計画していたみたいだし厄ネタが過ぎる。
こいつらには関わらないように心がけよう!
「仕事の話はわかった。でも、大統領を人質に取ったぐらいでそんなに上手くいくかしら?ヘリで脱出もニューヨーク湾のど真ん中ではすぐ見つかるわ」
一通り説明を聞いたオルガが疑問を口にする。だが、ソリダスはその疑問を待っていたかのように口角を歪めながら答えた。
「いいや、脱出の心配は無用だ。そのためのビッグ・シェルだからな」
「どういうこと?」
「必要がないのだ。ビッグ・シェルは偽装だ、新型メタルギア建造のためのな」
「新型メタルギア・・・」
今度はオルガが忌々しげに顔を歪めた。
それもそうだろう。2年前、メタルギアRAYを奪う作戦で
そんなオルガの様子を知ってか知らずかソリダスが続ける。
「そうだ、そしてこのメタルギアには核がある。メタルギアと核、そして大統領、これで奴らと渡り合える」
ソリダスが情緒豊かに説明する。まるで演説のようだ。
よく言うよ、誠意を尽くすなど言っているが嘘じゃないか。
ある程度想像はしていたが、ソリダスの話を聞いてもジョニーは冷めた感想しか出てこない。会う前の緊張は霧散していた。
ソリダスの目的は交渉ではなく、
だが、『愛国者達』の正体を知る身としてはどこまで効果があるか怪しんでいる。確かに一時的には奴等との関わりを断てるかも知れないが復旧されれば元の木阿弥だ。大元をなんとかしなければ意味がない。ソリダスも大元を断つ計画を立ててはいたようだが、正体を読み違えていた。
『愛国者達』に近づくための鍵が新型メタルギア、もっと言えばそこに存在するAI、G.Wだというのは合っている。だが、『愛国者達』について、12人の老人たちによる賢人会議を最高意思決定機関とする組織だと、ジョンソン大統領もソリダスも語っていた。 歴代の大統領にはそのように嘘が伝えられてきたのだろう。今もソリダスはG.Wのデータから居場所を特定し排除しようと考えている筈だ。
では真実はどうかと言えば、『愛国者達』の正体はAIによる実体なき組織、AI自身も人ではなく規範、秩序そのものだと
かと言って教えてやるつもりもない。ソリダスが知ったら何をするか予想できない。こちらとしては『愛国者達』の排除だけでなく、BIGBOSSの居場所を突き止め奪還しなければならない。下手なことして居場所が分からなくなっては困る。
そのための
「それで、その後は指名手配されて一生お尋ね者って訳ね?」
そんなことを考えているとオルガが不穏な台詞を口にする。
「隊長?」
「私達のメリットが少なすぎるわ、部隊の皆を危険に晒しすぎよ」
おおっと、これは不味いな?
「何を言うオルガ。これが成功すればアメリカの威信は失墜、新型のデータを使えばロシア再興も叶えられるぞ?」
「親父の遺志を継いで?親父を見殺しにしたあんたからそんな台詞が聞けるとはね」
うん、ジョニーもそう思います。
冗談はさておき、サニーが人質になっていない以上ゴルルコビッチ部隊が協力する理由もメリットもオルガの言う通りほとんど無い。だが、生半可な傭兵崩れではそもそもビッグシェル占拠が厳しいだろう。
オセロットに協力すると言った以上、なんとかせねば。
「待ってください隊長」
「ジョナサン?」
「確かにリスクは大きいですが、良い機会かも知れません」
「良い機会ですって?」
余りいい表情では無いが、オルガの気を引けた。さて、上手くいくかな?
「ええ、ロシアに帰り、落ち着ける場所を見つけられるのでは?」
「あら、あなたアメリカ人じゃなかった?いつからそんなにオセロットと仲良くなったのかしら?」
「そう言うことではありません。まぁ、全くの無関係ではありませんが。ビジネスの話です」
「ビジネス?」
「ええ、シャラシャーシカの言う通り、この事件が成功すればアメリカは大騒ぎです。特に国民から政府と米軍への信頼はガタ落ちになるでしょう。そうなれば間違いなく規模縮小の流れになります。そこが狙い目です」
この先の流れを知っているからこその発言だが、これ話して大丈夫か?オルガだけでなく、ソリダス達まで話を聞いていて声が震えそうだ。
「今の対テロ、地域紛争の時代、既に
「それはそうでしょうね、でも似たような傭兵ビジネスはいくらでもあるわ」
「確かに。ですが成長するこの分野で、部隊の
この話を無表情で聞くオセロットが1番怖い。
BIGBOSSとミラーが始めた戦争ビジネスが『愛国者達』によって戦争経済へと作り上げられようとしている。戦場を統制・管理するシステム、その完成の決め手が今回の"演習"、S3計画の最終試験という訳だ。
"オセロットにも全てを伝えていた訳ではない"
AIは
答えの出ない問いよりも、まずはオルガの説得だ。
「だったら何故ロシアに?この国でもいいじゃない?」
「流石に大統領を人質にして得た金でビジネスができるほどこの国も寛容ではないのでは?それに、私達の部隊のバックグラウンドはロシア、近代化の進まないロシア軍にとって自由に使える戦力としての売り込みもし易い。
実際、MGS4で登場した5大PMCの中にロシア系の会社もあった筈だ。自分達に近い企業の方が受け入れ易いだろうし、退役軍人の受け皿としてもお互いに利益ある関係になると踏んでいる。
「・・・貴方はそれでもいいのかしら?」
「自分ですか?どう言う意味です?」
オルガは少し考えて質問してきた。何故ここで俺の話を?
「貴方はアメリカ人で、今の部隊だって色々な国から多くいるわ。私の都合だけで連れて行けないし・・・皆ついてくるかしら?」
「部隊の奴らに確認は必要でしょうね。希望して残る者たちには苦労かけるかも知れませんが・・・どうでしょう?この国に残る者たちの面倒を見てくれませんか?」
「構わんよ。ゴルルコビッチ部隊は優秀と評判だからな、歓迎しよう」
ソリダスは面白そうにして答える。
「どうですか隊長?この仕事で手に入れた資金が有れば無理な話では無いと思います」
「・・・まぁいいわ。ロシアに行ってから泣き言は聞かないわよ」
よし、説得成功!
オルガがどこか不満げな顔なのが気になるが、これで良い筈だ。
最終的に原作通り身代金の半分を貰い、ロシアに帰るための資金とする条件で落ち着いた。ソリダスの本当の目的が核発射と愛国者達の居場所を突き止めることにあることも教えていない。
オルガにロシアに行くと伝えたがおそらく実現はしない。ソリダスの目的は達成されず、資金も手に入らないからだ。オルガには悪いが、スネーク達とも2年の約束だったしな。ビッグシェル事件が原作通りに進むか分からないが、どこかでどさくさに紛れて抜け出そう。
「本当にロシアに来るつもり?」
ソリダス達と条件を詰め終わった後、オルガが確認するように聞いてきた。
一体どうしたのか。やたらと疑われているのは何故だ?どこかでボロが出たか?なんとか誤魔化せないか。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、実は祖父がロシアに居ますし」
「何それ、初耳ね」
「と言っても、自分も会ったことはないのですが。詳しいことは知りませんが、元軍人でエリートだったとか」
本当はGRUにいた事を知っている。素顔は知らないが1964年の8月から9月にかけてどこでなにをしていたのかよく知っている。
「居場所は分かりませんが、いつか話してみたいですね」
「そうね。向こうに着いて落ち着いたら探してみるのも良いかも知れないわ。わ、私も親父のツテで役に立てるかも知れないし」
「本当ですか?楽しみにしてますよ」
是非、若かりしBIGBOSS、いやその時はまだネイキッド・スネークか。彼と会った話を聞きたいな!
次回、プラント編