今回メリル視点のみ。
少し長ったらしくなってしまったかも。
雪原を突破し核弾頭保存棟に到着したメリルは、体についた雪を払い落とした。不凍糖ペプチドとナノマシンの偉大さを身をもって実感する。
ふぅと一息ついて緊張で強張った体をほぐす。地雷原のことは聞いていたが、まさか戦車がいるとは!
メリルの存在はテロリストの知るところにあるはず。だが、ここで不審な動きをしても怪しまれる。そこでメリルは賭けに出た。堂々と、雪で霞む戦車をまるで気にしない風に進んだのである。
M1エイブラムスのセンサー類は優秀だ、まずこちらに気づいてるだろう。しかし、戦車は動きを見せなかった。もしその気になれば、同軸機銃や銃座の
メリルは賭けに勝った。
もしジョニーが知ってて言わなかったのならば抗議の声を上げたいところであったが、緊張が切れて緩んだ思考が時間と共に徐々に回復し、慌てて無線で
「スネーク?今どこ?」
「メリルか、ちょうど搬出口から雪原に出たところだ」
よかった、間に合った。スネークの声を聞き思わず安堵する。
「スネーク、気をつけて。そこには「地雷原のことか?」じ、え?」
メリルの言葉に被せてスネークが喋る。メリルは困惑を隠せずにいた。
「そ、そうよ。地雷探知機をうまく使って」
「そうするつもりだ。だがのんびりもしてられない、戦車に狙われたらお終いだ」
「・・・戦車のことをどうして?」
スネークのためにと準備した言葉が宙に浮かんで消えていく。慌てて無線で呼んだ自分がひどく間抜けに思えてきた。
「部外者から無線があった。ディープ・スロートと名乗っていた、どうやら近くにいるらしい」
「ディープ・スロート?一体何者?」
「わからん。本人曰くファンの1人だそうだ、心当たりはないがな」
「・・・それ流行ってるの?」
「・・・?」
スネークには何のことか分からないが、メリルには心当たりがある。だが、彼は作戦への関与は避けたいと言った。どうなっているの?
「とにかく、極秘の周波数に割り込んできたんだ。こちら側にも
「・・・なんだか嫌な感じね。私も注意するわ」
「そうしてくれ、これ以上の厄介ごとはごめんだ」
思わず苦笑いを浮かべるメリル、スネークの捻くれた答えにも慣れてきたようだ。
「いい、スネーク?戦車の狙いは確実に貴方よ。私には見向きもしなかった」
「だろうな、だが逃げるわけにもいかん。なんとか突破するしかないな」
生身の人間が碌な対戦車兵器もなしに戦車に立ち向かおうというのに、スネークの声には恐怖も焦りも感じられなかった。いつも通り、当たり前に困難に立ち向かう、これが伝説の英雄か。格の違いを見せつけられた気がした。
「気をつけてね、スネーク」
気遣う言葉のはずが酷くむなしく感じられた。
スネークのことは気がかりだがメリルに出来ることは何もない。それに、彼に問いたださなければならない。周波数を合わせ、ジョニーを呼び出す。
「ジョニー?聞きたいことがあるわ」
「どうした、何か問題が?」
「雪原に戦車がいたわ、あなたは知ってたの?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「
「顔は君にぶたれたがな」
「茶化さないで、どうして言ってくれなかったわけ?」
「逆に聞くが、言ったところでどうしたんだ?碌な武器もなしに、どうするつもりだ?ダビデよろしく、石でも投げたのか?」
「それは・・・」
「メリルもわかっている筈だ。だからこそ無事にやり過ごした、違うか?」
「・・・・・・」
「いいか、メリル。歯痒い気持ちも役に立ちたい気持ちも分かる。だが、まずは生き残ることだけを考えるんだ。俺が言ったこと、覚えているか?」
ジョニーの問いに、答えを探る。
「"自分にできる最善を尽くす"?」
「そうだ。俺たちは映画の主人公や、神話の生き物、ましてや
俺たち新米という彼の言葉はまるで、血気盛んに逸る若者を宥める年長者のようであった。女だから、若いから、経験が浅いからと否定するでもなく、自らの無力さを嘆き不貞腐れるわけでもない、前向きな気持ち。
「幸いにして、今の俺たちには口煩い上官はいない。何かを無理強いされることもないんだ。死なない程度に失敗しても誰も構うことはないさ」
人が死なない程度の失敗とは随分と幅が広い。スネークは苦い顔をしそうだがね、と続けるジョニーの気の抜けた言葉に釣られ、メリルも肩の力を抜く。
「・・・そうね、ごめんなさい。私、焦ってたのかも知れない」
「それを自覚して素直に謝れるだけ十分さ」
「ありがと、もう1ついいかしら」
「他にも何か?」
「私じゃないわ、スネークの方」
「スネークがどうかしたのか?」
「スネークに部外者から無線が入った。ディープ・スロートと名乗ったそうよ。心当たりはある?」
「ディープ・スロート・・・」
考えるように言葉を切るジョニー、もう少し揺さぶりを掛けてみよう。
「彼は何者なの?貴方の知り合い?」
「知り合い?どうして?」
「彼も"ファンの1人"だそうよ、あなたのスネーク・
「知り合いにそんな奴はいない、俺に仲間はいない」
「そう、仲間じゃないのね。じゃ、何を知っているの?」
「どういう意味だ?」
「あなたが戦車がいるのを知らなかったなら問題ないわ。でも、あなたは知っていた。だったら、幾ら戦車相手に歯が立たないにしても私を通じてスネークには伝える筈よ。それを言わなかったのは必要が無いから、スネークに伝える何者かを知っているからよ。違う?」
「・・・単純に伝え忘れていたという線は?」
「面白い冗談ね、今更新米ぶっても可愛くないわよ。さぁ、知っていることを話してちょうだい」
間違いない、ジョニーは何かを知っている。
「・・・驚いた、意外と見えているようだ」
「失礼ね、はぐらかそうたってそうはいかないわ」
「これでも褒めたつもりなんだがな、まぁいい。やつについて教えられることはあまり無いぞ、それでもいいか」
「大事なのは敵か味方かよ、どっちなの?」
「・・・敵でも味方でもない、俺達とは違う世界の住人だ」
珍しく、ジョニーの言葉の切れが悪い。言葉を選んでいるようだ、
「要領を得ないわね、どういう意味?」
「言った筈だ、教えられることは少ないと。やつに関しては俺も詳しく言えない。FOXHOUNDの暗部、とだけ言っておこう」
「FOXHOUND?奴らの中にスパイが?」
「さてな、分からないことばかり議論しても仕方がない。メリルは今どこなんだ?」
結局はぐらかされてしまったが、彼はこれ以上話すつもりもないようだった。必要が無いということなのか、仕方がない。
「核弾頭保存棟の入り口よ」
「そうか。分かっていると思うがそこでは武器の扱いに注意しろよ」
「勿論よ、頼まれたって撃ったりしないわ」
「分かってるなら大丈夫だな。スネークがオ・・・エメリッヒ博士と合流するまでやり過ごすしか無いな」
「これ以上北に進むとなると地下のルートから行くしか無い、地下1階で待つわ」
「そうか、気をつけろよ。FOXHOUNDのやつらがスネークを待ち構えている可能性もある」
「この格好なら問題ないでしょ?」
「今も昔もFOXHOUNDは少数精鋭の異能集団だ、甘く見ない方がいい。特に、マンティス。やつに心を読まれたらすぐバレるぞ。洗脳されて操られるかもしれん」
「随分とその超能力者を警戒するわね?」
独房でも言っていたが、ここにきてまたサイコ・マンティスの話題になる。なぜここまで警戒しているのか?
「訳も分からず奴らに同調して蜂起に参加させられてたんだ、気分も悪くなる。それに、奴が君の心を読んで俺の洗脳が解けたのがバレるとマズい」
「そう言えば、どうしてあなたは洗脳が解けたの、ジョニー?」
「・・・俺にも分からん」
そういうジョニーは明らかに何か心当たりがある風である、なぜ隠すのか。
「ウソ、何か心当たりがあるみたいね?」
「・・・あっているとは限らない」
「今はなんでも手がかりが欲しいの、やつに対抗できるかも知れない」
躊躇いながらもジョニーは重い口を開いた。
「・・・自分という存在を強く認識したからだ」
「自分という存在?どういうこと?」
「あるきっかけで自分が何者か分かったんだ、それが原因だと思う」
「なんだか抽象的ね、そのきっかけって?」
「本当に言わないとダメか?」
「何よ急に、随分と勿体ぶるわね。早く言ってちょうだい」
いつもと打って変わって煮え切らないジョニーの態度に焦れる。
「・・・君に会って名前を聞いた時だ」
「・・・なにそれ、ふざけてるの?口説いてるつもり?」
こんな時に冗談を挟むなんて、大真面目に聞いた自分がバカみたいだ。
「だから言いたくなかったんだ・・・」
「ふざけたことを言った自覚はあるようね」
「もともと信じてもらえるとも思ってない」
「今のを聞いて正気を疑わない方がどうかしてるわ」
拗ねたように喋るジョニーに怒りを通り越して呆れるメリル。
「それで?王子様のキスで目を覚ました王女様は何が言いたいのかしら?」
「勘弁してくれないか、自分でもよく分かってないんだ。ショックで洗脳が解けたのかもしれん」
「人に会ってショックとは失礼ね」
「・・・とにかく、何らかのショックで洗脳が解けるとすれば、やりようはあるが・・・操られた時にどうするかが問題だ。既に操られている以上、肉体的、物理的なショックは1人では無理だ」
「私があなたみたいに、人の顔を見てショックを受ける人ならよかったのにね」
「・・・今、なんて言った?」
チクチクと嫌味を挟むメリルの言葉にジョニーが反応する。癪に触ったか。
「何よ、あなたみたいにってのが気に入らなかった?」
「その後だ」
「?
「・・・・・・」
訳も分からず言葉を繰り返したメリルに対してジョニーは黙り込んでしまった。
「ねぇ、何か言ったらどうなの」
「いや・・・でも確かに・・・いけるか・・・?」
「急にどうしたのよ一体、訳がわからないわ」
「・・・マンティスの
「トラウマ?どういうこと?」
「トラウマを思い出して奴が取り乱せば、操られていても抜け出せるかもしれん」
「そうは言っても奴のトラウマなんて知りっこないわよ」
メリルは直前に配属されたばかり、しかもFOXHOUNDの隊員の過去は謎に包まれている。
「・・・奴のトラウマは、親殺しだ。」
「親殺し・・・」
「そうだ、マンティスは幼い頃に親を殺している。あと、顔もだ。奴は自分の顔を見るのを嫌う。奴のマスクの下に意識を向けるだけでも効果があるんじゃ無いか?」
「・・・そんなに上手くいくかしら?」
「どうだろうな、やってみないと分からない。ダメだったら後はスネークに任せるしか無い」
メリルは半信半疑で尋ねたが、ジョニーは開き直ったのか楽観的に答えた。ソリッド・スネーク、彼ならば超能力者でも難なく勝てるのだろうか。
丁度スネークのことを考えたところに、外から爆音が響いた。外の雪と分厚い壁で遮られていても分かる音だった。
「今の音、聞こえた?」
「ああ、たぶんスネークが戦車と接敵したんだ」
「やっぱりそうね・・・」
「メリル、もう分かってるな」
「ええ、頭では理解してるわ。何もできない歯痒さもあるけどね」
「今はスネークを信じるんだ。なに、あの伝説の英雄にかかればすぐ終わる」
「たまにあなたの能天気さが羨ましくなるわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ。また何かあったら連絡してくれ」
「ええ、それじゃ」
通信を終えたメリルは地下に向け出発する傍ら、短い間にジョニーへの評価が激しく上下していた。今の評価は正体不明の変人、多分悪い奴では無いと思う、と言うものだった。
人の顔を見て目が醒めたと、意味不明な発言には未だに納得してない一方、彼の言葉は信じられるとも思っている。矛盾する感情を胸に歩みを進めるのだった。