恋のカケ❌チガイ   作:生き残れ戦線

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プロローグ1 セキト

それは一年前の事だ。

 

その少女に俺は一目ぼれをした。

一目見て誰かに惚れる何てそれまでの俺は信じていなかった。テレビの中だけの物語だとそう思っていた。だけど俺は不良に絡まれているその子を見た時に雷に打たれる様な衝撃を受けた。

正しく俺の中の価値観が動く程の激震と言っていいだろう。

 

考えるよりも勝手に体は動いていた。

不良共の手を掴み何とか俺の力で退かせる事が出来た。

 

いや....ここで嘘は吐けない。正直に言おう。俺もまた不良だった。

その町では指折りの不良だ。殴り掛かって来る奴らの拳をそらし逆に顔面にパンチを叩き込んてやった。もうナンパ出来ないだろうなアレでは。

 

ちなみに俺の外見的特徴ですが両親から頂いた黒髪はまっ金髪に染め上げ、目尻の辺りには黒い稲妻のタトゥーをいれていました。今思えばお恥ずかしい限りです。思春期真っ盛りのクソガキだったのです。

 

俺は....いえ僕はその日から変わる事を誓いました。

なぜなら助けた彼女は一言でいえば清楚でした。

儚げな一輪の花とでも言いましょうか。とても美しい女性でした。

 

この時、おこがましい事なのですが僕は彼女の恋人になりたいと思いました。

ですが同時に僕と彼女は相容れない存在なのだと痛感していた。

だってそれでは先程の不良達と同じではありませんか。

 

軽率に告白すればやはり同じ不良かと失望されるのは目に見えていました。

だからその時、僕は必死に心の動機を押し殺しながら彼女の元を離れました。

彼女の制服を記憶に刻み込みながら。

当然ですが彼女が安全な帰路に着くまではその様子を遠巻きに眺めていました。

無事に駅の中に入った所で監視を止めました。

未練が残りましたが仕方ありません。

 

そしてその後、僕は彼女の制服をヒントに学校を調査しました。

愚かしい事ですが僕は自分の意思を止められなかったのです。

もう一度彼女に会いたい。その一心でした。

幸い彼女が在籍する学校の特定は直ぐにすみました。

なぜなら彼女の制服はその町一番の学力と品位を誇るとされる篠芽柊(しのめひいらぎ)中等学校の物だったからです。エスカレート制。彼女の身に着けていた青い腕章から同じ三年生である事が分かり。

上手くいけば一年後には同じ学校を通う生徒になれます。

 

そう僕は無謀にも篠芽柊高等学校の入学を決めたのです。

 

あの子に相応しい男になるために。

特待生枠を狙い猛勉強を行いました。

授業を妨害する馬鹿達に一喝すると先生の授業を大人しく受ける真面目なクラスに変わりました。こうやって努力を重ね環境を整えていきながら僕は先生方の叡智を吸収していたったのです。

みるみるうちに僕の学力は上がっていきました。

正直限界はとうに超えていました。ですがそれを上回る原動力が僕を前につき動かした。

人の限界を超えさせるモノ、それこそが愛だったのです。

 

不良時代、力以外の答えを見つけられなかった僕はようやく答えを見つけたのです。

 

そして一年後、そこには別人の僕が立っていました。

染め上げていた金髪は黒髪に、もう剃りこんでしまっていた刺青は仕方なく髪を伸ばす事で隠しました。常時人を睨み上げる険のあった目は日頃から笑顔を作る事で消す努力をしました。

もうそこにいるのは不良だった頃の僕ではありません。

篠芽柊高等学校の一員更木赤兎(ざらきせきと)だ。

 

入学して早々、僕は彼女を見つけた。

彼女はひときわ目立っていた。一年前と変わらず彼女は清楚だ。

恐らくそれは既に高校でも周知されているのか、彼女の周りには一線を引いたような空間があった。それを生徒達は遠巻きに見ていたのです。

 

僕は彼女を発見した瞬間、その無人の空間に飛び込みました。

そして告白しました。付き合って下さいと。

 

彼女の答えは簡潔でした。

 

「お断りします私好きな人がいるから」

 

琵琶のような澄んだ声音でただそれだけ言うと彼女は僕の前から去りました。

去ったというか教室に向かうために通り過ぎただけですが。

こうして僕の一年間の努力は報われる事無く幕引きとなったのでした。

 

勿論彼女の事は恨みません。きっと僕なんかよりも素晴らしい男性がいるのだと、その人がきっと彼女を幸せにしてくれるだろう.....と僕は信じています。だから悲しくなんてありません。だらだらと目から流れ落ちるのはきっと彼女を祝福してのもの。

だから......くそっ。

 

「ううわあああああああああん!!」

 

衆目の中、人目をはばからずに泣き崩れる男がそこにいた。僕だった。

 

さようなら僕の初めての恋。

しばらくして泣き止んだ僕は教室に向かった。

 

 

 


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