恋のカケ❌チガイ   作:生き残れ戦線

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第二話

今日の授業は昼で終わりだった。

 

解散の流れが終わり今は生徒達が思い思いの時間を過ごしている。

帰りの準備を整えた生徒が走って教室を退出している。

帰宅部かなと思いながら赤兎も教科書を通学鞄に入れていく。

 

俺は今後の身の振り方を考えていた。

この学校に来た最大の目的である篠花さんとお近づきになるという当初の目標は一番最初で躓いた。俺が我を忘れて告白をしたせいで。

もう絶望的かもしれないが俺は諦めたわけじゃない。

機会があれば何度だってやるつもりだ。

 

だがまずはこの学校に慣れるのが先だと思う。

それが告白の成功を上げる、唯一の可能性だ。。

まあつもり何が言いたいかというと友達作りである。

学校生活において最も大事だと言っていいだろう。

 

言ってみれば学校生活というのは集団生活を養うための場だ。

コミュニケーションを学び対話をし気の合う人間とグループを作る。

そうやって人間は昔から和をもって貴しとしたのだ。

その最もな理由は敵を作らないためだ。

同時に外敵を排除する為でもある。

 

長々とご高説を垂れているが結局何が言いたいかというと現在僕はひとりぼっちだという事だ。あれええ?一限目の質問の時はあんなに寄って来たのに、今では僕の周りは閑散としている。

どこを見ても生徒達はグループを作って、その中で談笑している。

不思議な事にもうグループが出来上がっているのである。

どうして?

 

理由は簡単だ。

竜門も言っていたじゃないか。

ここに居るのは昔からの馴染ばかりだと。

エスカレーター式ゆえの弊害。

もう友達グループが出来上がってる問題。

そして俺は特待生という名の異分子。

しかも早々に問題行動を起こした問題児だ。

最初の友達作りの難易度としてはかなり高い。

 

どうするべきか、このままでは三年間ぼっち生活を余儀なくされるぞ。

流石にそれは避けるべきだ。

ちなみに竜門は部活動があるらしく、既に教室を出ていた。

やはり体育会系のバスケ部だった。あの体格なら良い動きをするんだろうな。

できれば学食でも誘おうと思っていたんだが。

部活なら仕方ない。

 

他にどこか俺が入れそうな良いグループはないかと教室内を観察していると。

ガラリと音を立てて三人の生徒達が入って来た。

誰だろう知らない顔だ。

 

その時、教室内の視線が一斉に赤兎に向いた気がした。

いや誰も顔を向けて俺を見たわけじゃない。

ただ何となく緊張が走った気がしただけだ。

意識が俺の方に向いた。それを感じ取った。

 

俺だけ分かっていないが、みんなはあの生徒達が俺に用があって来たと考えているのだろう。

何だろうと考えながら入って来た生徒達を観察して見る。

この学校、結構規則緩いんだな。

そう思うぐらいには服装を崩している。

所謂ノリにのっちゃってる系男子だな。

顔も良いし女子からも人気がありそうだ。

きっと学校内でも上位グループだぞ。

 

そんな事を観察して思っていると、三人組は口を開いた。

 

「ここに特待生枠で入って来た奴いるー?」

 

このクラスに特待生は一人しかいない。

つまり俺だ。

みんなの視線が今度こそ俺に向いた。

それを見て三人組も俺に視線が向いた。

不躾に俺の事をジロジロ見ると心なしか余裕の笑みを浮かべる。

なんだ?

 

「ああ君が噂の特待生くんか」

 

ドカリと竜門の席に座る。まるでこちらを威圧するように。

ほか二人が俺を囲むように立つ。

ここで腕章が二年生のものである事に気づいた。

おいおい、いきなり上級生からこんなことされたら普通の奴だったら委縮しちまうぞ。

それが狙いか?

 

「噂は聞いてるよ、面白い奴が入って来たってさぁ。あの篠花さんに告白したんだって?勇気あるなあ君......ほんとに面白いよ」

 

席に座った恐らくリーダー格の男はにこやかだ。

だがその眼だけは笑っていない。

やはりそうだこいつらは何か俺に対して気に食わないんだ。

これは因縁を吹っ掛けられに来たってことか。

 

彼らが来た理由を赤兎はある程度推察できた。

間違いなく篠花さん関連だろう。

こいつらは俺が篠花さんに告白したのが気に食わないんだ。

だからって俺に会いに来る理由は分からんが。

 

「俺はショウ、よろしくね赤兎くん」

 

俺の名前を知っている、やはり最初から俺が狙いか。

 

「あのさ俺達と友達になってくんない?」

「ん友達?」

「そうそう面白いじゃん君、仲良くしてほしいなーって思ってさ。だから君に会いに来てみたんだよ」

 

......友達か。

悪くないな。俺としても友達が欲しかったところだし。

こいつらが何を考えているかは別として受けてみるのも案外悪くないんじゃないかね。

どーせぼっちになるよりかは誰かといた方が良い。

それに敵意があるからといってまだ敵になったわけじゃない。

不良時代もこれぐらい日常茶飯事だった。

 

「いいですよ」

「よし!じゃあさ、これから学食に行こうよ!友達になった記念に」

「学食!僕も行ってみたかったんですよ!」

 

嘘じゃない。学食は入学した時からの楽しみの一つだった。

いったいどんな物が食べられるのかとワクワクしていたのだ。

だから彼らが誘ってくれたのは好都合だし意外と嬉しかった。

 

三人組と赤兎は教室を出る。

その際、クラスメイト達が神妙な顔で見ている事に気付いた。

案外、心配してくれているのかもしれない。

俺なら大丈夫だと言いたかったが何も言わず三人組の後についていった。

 

そうして五分後、連れてこられたのはレストランと疑わんばかりに豪華な食堂.....ではなく。その裏の食堂裏だった。ここからでも良い匂いが漂ってくる。

腹減ったなあ。

この時間帯、食堂内はきっと盛況だろう。

こんな場所に来る者は誰一人としていない。俺達を除けばだが。

何となく彼らの魂胆が見えて来た。

だがセキトは一応分からないふりをした。

 

「食堂に行かないんですか?」

「.....馬鹿だな、ここでいいんだよ」

 

三人組の態度が変わった。

表面上あくまで友好的だったものが明確に敵意に変わった瞬間だ。

どうやらもう隠す気はないらしい。

 

「集団生活において大事な事が何だか知ってるかい?」

「.....その集団の社会性を学ぶこと」

「そうだ、そしてルールを知る事、空気を読む事、そのルールに逆らわない事だ」

 

もう分かるよねとでも言いたげに首を傾げる。

俺も頷いた。

なるほど何が言いたいのか全然分からねえ。

 

「君はもうルールを破ってしまったんだよ。知らないでは済まされない事だ、ことこの学校の中においてはね」

「だからボコろうって訳ですか俺を」

「うん目障りなんだよお前みたいな異分子は、何も知らないくせして勝手にウロチョロされるのは困るのさ。だから俺達はお前が変な事をしでかさないよう釘を刺しに来た」

 

セキトは心の中で笑った。

.....何だ大差ないじゃねえか。

不良時代に通っていた中学と何も変わらねえんだな。

上が下を虐げる構図は。

 

「学校の規則を破った心当たりはないんですが」

「いーや?お前は明確にルールを破った。それは柊篠花に近づいた事だ。」

「たったそれだけの事で?」

「少なくともお前如きが近づく資格はない」

 

ここは監獄かよ。

そう思わずにはいられなかった。何だかよく分からないがとても窮屈だ。

こいつら本気で言ってんのか。

もしそうだとしたら異常だな。もっと他に何か理由がありそうだが。

 

「.....まあそりゃ彼女が近づくなと言ったなら、そうしますがね。先輩方に言われてはい分かりましたと頷けるほど利口だったら俺は最初から彼女に告白なんてしていませんよ」

「.....そうか、それじゃあ教育してやらないとな!」

 

そう言うと反抗的な態度が気に障ったのかシュンの手が動いた。

高々とかかげたかと思うと張り手がセキトの顔面目掛けて振り下ろされる。

セキトはしっかりとその軌道を見据え。

そして——バチンと音が鳴った。

張り手の衝撃でセキトの顔が横を向いている。

 

「.......」

 

躱そうと思えば躱せた。あの程度の攻撃なら目を瞑っても避けられる。だがセキトはそれをあえて受けることにした。

避ければ抵抗されたと見なして相手を激昂させるだけだからだ。

ここは甘んじて受けいれて耐える。

だがもう一度やられたらセキトの堪忍袋の緒が切れない保証はない。

 

耐えているのはあくまで自分の為だからだ。

反撃すれば半殺しにしてしまう。そうなれば俺はもう学校にはいられない。

だから耐えろ俺の理性。

ジッと耐えるセキトを見て恐怖に怯えて動けないのだとシュンは確信した。

 

「赤兎くーんこれで少しは分かったかな自分の立場を」

「シュン君やりすぎじゃねwこいつビビッて動けてないじゃんw」

「情けない奴だな男なら一発やり返せよな泣き虫男が」

「ぼくはずっと前から好きだったんです付き合ってくだちゃい!」

「ぎゃはははは!」

 

好き勝手セキトをこけにしまくる三人組。

もし不良時代のセキトを知る者が見ていたら顔を真っ青にしてあいつら死んだわと十字を切った事だろう。それほどの蛮行であることを彼らは知らない。

だがセキトは耐えた。

我慢だ、我慢しろ俺。ここで手を出せば奴らの思う壺だ。

何も出来ないセキトに対してシュンは気を良くしたのか。

とうとうその言葉を言い放つ。

 

「じゃあ——お前今日から俺達の友達兼パシリな」

「よろしくねセキトくーん」

 

もう完全にセキトの事を格下と認定して決めつけている。

最初からコレが目的だったのだろう。

立場の弱いセキトを自分達の玩具に出来ると判断して、初めからこうするつもりだったのだ。

取って付けたような友達というのもきっと言い逃れの為のモノでしかないのだろう。

虐める気だ。

 

「分かったならはいと鳴けよおい!」

「......分かりました言う通りにします」

 

こうしてセキトはシュンたちのパシリになった。

セキトの学校生活初日はスクールカースト最下位から始まったのである。

 

 


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