恋のカケ❌チガイ   作:生き残れ戦線

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第五話

現れた彼女を言葉で表すのは不可能だが、あえて言うなら清楚という言葉以外にないだろう。

すらっとした黒い長髪に整った顔立ち、人一倍大きな目がこちらを見ている。紛れもなく俺の想い人、柊篠花がそこに立っていた。

 

(どうしてここに柊さんが!?)

 

驚天動地とはこの事だ。誰も来るはずのない屋上に人が来た。

それだけらなまだいい。何とかして口止めして見せる。

だが柊篠花本人なら話は違う。

 

...マズイマズイマズイ!

一番見られたくない人に見られてしまった。

ドッと冷や汗が噴き出す。

 

こんな所を視られたら俺が元不良だってバレちまう。

そんな事になったらもう友達になるどころではない。きっと一生敬遠されちまう。

最悪だ。どうすればいい考えろ。

このさいプライドはかなぐり捨てろ。

 

必死に考えあぐねるセキトは動く事すらままならない。

シュンとコウキとナオヤの三人も同様に動けないでいた。一瞬の静寂。

膠着する状況の中で唯一自由なシノハナはシュン達とセキトを交互に見て。

 

「.....虐めの現場があると聞いて来たのですが、加害者はどちらでしょうか?」

 

普通に考えれば三対一でシュン達が加害者だと一目で分かる。

だが篠花の目にはどちらかといえば三人の方が追い詰められている様にも見えるのだ。

事実その通りなのだから、想定していた状況と違っていて戸惑いを隠せていない。

まだ状況を正しく理解していない事に気付いたシュンは心の中で悪い笑みを浮かべる。

柊篠花は学校における権威の象徴だ。

上手く使えば絶大な力を振りかざす事が出来る。

 

.....この状況を逆に利用してやるぞ。あいつを加害者に仕立ててやる。

あいつとは無論セキトの事だ。

シュンは謀略でこの場を脱出する事を考えた。

セキトを罠にかけシノハナの手で奴をこの学校から追放させる。

まずはこの男の危険性を説く。襲われています逃げてくださいこの男は危険です!っといった具合に焦り顔で叫べば世間知らずのお嬢様だ直ぐに信じ込んでしまうだろう。

完璧なプランだ。その第一声を叫ぼうとしたところで、セキトが音よりも早く動いた。

しなしなと膝が崩れ落ちたかと思うとなめくじの如く地面に這いつくばり。

 

「ぎゃあああああ!助けててええええ!この人たちに虐められてますううう!」

 

それはもう情けない姿だった。

セキトは恥も外聞もなく叫ぶと泣き始めたのだ。さっきまで俺達を追い詰めていた気迫は嘘のように消えていた。傍から見れば立派ないじめられっ子である。

その奇行っぷりにシュンはただ唖然とした。

こ、こいつ。恥がないのか......!

 

何よりも不良である事をバレたくないセキトからすればプライドを捨てるぐらいどうって事はなかった。というか衆目がある中で泣いた経験が役に立った瞬間である。

シノハナは一瞬驚いたようだが、直ぐに同情の視線をセキトに落とした。

セキトの情けない姿は特に気にしていないようだ。

むしろ自分の不甲斐なさを責めていた。

 

「.....私としたことが一瞬でも加害者を間違えてしまうなんて」

 

ごめんなさいと首を振り反省を自身に促すと鋭い視線をシュン達に向けた。

びくりと肩を跳ねさせる。

驚く事に先程のセキトかそれ以上の気迫を感じた。

 

「どうやら加害者は貴方がたのようですね」

「っ.....ま、待ってくれ。虐め?何を言ってるんだ?これは単なる遊びですよ、こいつは俺達の友達ですから」

都合の良い設定はこういう時の為のものだ。

責任を取りたくない担任ならこれで問題なく言い逃れで来た。しかし、

「嘘はつかないで下さい、貴方がたの罪が重くなるだけです」

 

柊篠花には通用しない。

彼女はもう知っていた。強者が弱者をどう食い物にするか。

裏の街を歩いてきた彼女にはそれがよく分かる。

だがシュン達は往生際が悪かった。

 

「証拠は?証拠はあるんですか俺達が虐めをしていたって証拠が!」

 

証拠がなければ只の言いがかりだ。

そしてそれはないはずだ。偶然やって来ただけの正義の味方気どりが、俺達を裁くための証拠なんて持っているはずがない。

そうさ現実には都合の良いヒーローなんていやしないのさ。

もし本当にそんなのがいるなら、何で俺達は......。

一年前の日の事を思い出し拳を震わせる。

 

「とにかく俺達が虐めをしたなんていう証拠がない以上は.....」

「——『馬鹿だなここで良いのさ』『目障りなんだよお前は....』『そうか、だったら教育してやらねえとなあ!』」

「なっ!?」

 

突然響き渡る自分の声にシュンが驚く。

見ればセキトの手にペンの様な物が握られていた。

 

「それは!」

「.....録ってないとでも思いましたか?今どきの高校生の必需品でしょ」

 

録音機ボイスレコーダー。今のご時世、中学生でも親が持たせる。

虐めに対する剣であり盾だ。

最近ではペン形の様な小型の物まである。

最もセキトのこれは対虐め用などではなく、中学時代に特待生を目指し必死に勉強していた頃に愛用していた物だ。先生方の授業内容を録り溜めてある。

そこに新たにシュン達が行ってきた虐めの証拠が加わった訳だ。

この一週間、録り続けた罵詈雑言の数々はバッチリ収められている。

言い逃れできない程度に。

 

「虐めは立派な犯罪です、これは私からお父様に報告します、残念ですが仕方ありません」

「そんな待ってくれ一方的すぎるだろ!」

「虐めを受けていた彼もそう思っていたはずですよ?」

「.....はっ、そうだそうだー」

 

シノハナに見惚れていたセキトが遅れて合いの手を入れた。

特にどうも思っていなかったのは見え見えである。

その態度が癪に障った。ぎりっと歯が鳴る。

後ろでコウキとナオヤがまずいんじゃねえかと不安そうに顔を見合わせる。

 

「.....なんだよこれ糞が!」

 

詰みである。最悪退学処分は免れない。

何でこんな奴を助けるんだよ。

何で俺達がこんな目に逢わなければならない。 

何で俺を助けてくれなかったんだよ。

 

シュンの目には憎悪が宿っていた。

視線の先にあるのは柊篠花だ。

権力を笠に着るこの女さえ居なければいい。

 

「追って通達します後日理事長室に来てください」

「.....行くぞお前ら」

 

何も言わずシュン達は屋上を後にした。

その眼に残る憎悪を残して。

無論セキトはそれに気づいていたがシノハナの手前、手が出せなかった。

これが尾を引くことにならなければいいが。

果たして......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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