「おいどうした大丈夫か?」
昼休みが終わり戻って来たセキトは机に突っ伏していた。
見るからに覇気がない。死にそうなくらい弱っている。
クラスメイトの視線が痛いがどうでも良かった。見かねた竜門が声をかけてきた。セキトは顔を上げる。死にかけの虫の様な様相にクラスメイト達から「やっぱりいじめられてるんじゃ」「先生に言った方が」なんて会話が聞こえてくるが全部無視する。
というか今のセキトには聞こえていない。
「.....柊さんと友達になれた」
「へえそれは良かったじゃないか!.......何でそんな元気がないんだ?」
ぽつりと呟かれた言葉に竜門は驚いた。
あの柊篠花と友達になるなんて凄い事だ。
だったら何でこんなにもセキトは覇気がないんだ?と疑問に思っているとセキトは悩ましいとばかりに言う。
「一週間前の騒動知ってるよな?」
一週間前、それは告白騒動の事だろう。もはや伝説と云ってもいいぐらい尾ひれが付いているらしいが。他人の自分でも記憶に新しい忘れるはずがない。
「ああ普通忘れるわけない」
「.....でも柊さん忘れてた、俺の顔も覚えられてなかった」
「え、それは......」
何も言えなかった。まさか誰よりも覚えておいてしかった人に覚えられていないなんて。可哀そうすぎる。自分だったら泣くかもしれない。
「これって完全に脈なしって事だよな?」
「そんなことないんじゃないかなあ?」
竜門の台詞が空々しく響いた。
根拠のない否定は慰めにもならない。
するとセキトががばりと上半身を起こしたと思ったら竜門に詰め寄る。
「柊さんの好きな人って誰なんだよ!知ってたら教えてくれ!」
「お、落ち着けっ」
肩をがくがくと揺らされ舌を噛みそうになる。
ハッと正気に戻ったセキトが謝る。
「悪いどうかしてた」
「ほんとだよ.....しかし柊篠花の想い人ねえ」
実はいま学園でホットな話題がそれだ。
あの告白騒動によって彼女は言った。好きな人がいると。
本人の口から語られた言葉に学園中の生徒達は驚愕した。
男を寄せ付けなかった彼女には実は密かに思う人物がいる。
それはいったい誰なのか学園内か外の奴なのかでも論争になっていた。
もしかしたらそれは自分かもと夢想する者もいた。
柊篠花の想い人とはいったい誰なのか?
みんなが知りたがっている。
「分からないんだよなそれが。噂レベルなら同じ教室の奴、クラブの人間、教師や関係者とか候補者は何人か出てるらしいんだがな」
どれも精度の低い噂程度の域を出ない。
本命は未だ現れていなかった。
「もし何か分かったら教えてくれ噂でも何でも」
「分かった聞いといてやるよ」
しかし凄い奴。ここまで打ちのめされてめげないとはね。
普通なら諦めそうなもんだけどね.....俺みたいに。
「どうして笑ってるんだ?」
「お前みたいにはなれねえと思ってな」
だからこそ竜門は思う。こいつの事は最後まで応援してやろう。
例えその最後がどんなに悲劇的なものになろうとも友人として助けてやる。
その為に少し酷な事を話そうと思う。
「俺みたいにならねえよう今のお前の立ち位置を教えてやる」
ずばりスクールカースト最下位だ。
そう竜門に言われたセキトは首を傾げる。
分からないのも無理はない。
この学園にはカースト制度がある。
無論それは表立って存在しない。裏のルールだ。
大まかに上から三年、二年、一年の層があり更にグループ、個人で細分化されていく。その情報はとあるサイトを通じて評価されていくのだ。
その評価でいけば赤兎はEランク。最低評価だ。
虐められても仕方ないと言われるレベルだ。
クラスの奴らもそれを知っているから二年の先輩たちが来た時も直ぐに意味を察していたし、自分の評価が下がるのを恐れて助けられなかった。
この学園はカースト制度によって支配されている。
「どうやったら評価を上げられるんだ?」
「色々あるテストの成績や実績、学園で行われる行事で活躍したりすると生徒達がSNSに上げる。それを基に評価が上がる。町のボランティアで上がった奴もいたな」
「つまり評価するのは生徒自身か」
「そういう事だ、だからこそ評価は強い影響力をもつ」
赤兎の評価を下げたのも学園の生徒達だ。
それだけ気に食わないと思った人間が多かったのだろう。
なんせカースト最上位の天上人に告った外様の下人だ。
評価は奴隷以下だろう。
「天上人とか奴隷とか本当に学園かここ?」
「そりぁ閉ざされた閉鎖的な空間だからな。戦国時代と変わりはしないさ」
徳川家の江戸時代より昔かよ。
赤兎が呆れた目で教室を見る。さっと視線をそらすクラスメイト達。俺達の話す話題に興味津々なのが伺える。そのくせ関りをもとうとしない。難儀だなと思った。
「俺はその戦国大名様に目を付けられた哀れな足軽か」
「まあそんなところだ」
赤兎は屋上の事を話した。
二年生の裏に誰かがいる事。そいつが黒幕である事を。
竜門は驚いたが成程と納得した。ありうる話だ。
「それで俺に二年を差し向けた奴は誰だか分かるか?」
「そこまでは分からん。だが恐らくは三年だと思う」
「質問を変える。柊篠花に好意や執着心を抱いている奴は?」
「.....そういえば半年前にも告白した上級生がいたな」
「誰だそいつは」
「成宮って先輩だ成績優秀で評価はAランク......でも退学してるんだよその人」
「退学?理由は?」
竜門は悪いなと首を振った。
「分からないんだよ忽然とその人は学園から消えた」
確かあれも告白から一週間後くらいの事だったろうか。
.....そういえばその時もあの二年生たちが先輩と一緒にいたような
そうだ。当時は一緒に行動しているのをよく見かけた。
食堂で自分は見ていた事がある。
まさか彼らが?
「.....赤兎、気を付けろよお前」
考えすぎかもしれないが、もしかすると危ない目に逢う可能性だってある。竜門の感じてる危機感が赤兎にも伝わったのか神妙な顔つきで頷く。
「分かった今後は目立つ行動は控える」
そう言った放課後の事である。
「やっほー!一緒に帰ろう更木赤兎くん!!」
そう言って教室に現れた東条真子が椅子に座るセキトの元まで来たのは。
既に幾つもの賞を総なめにしている陸上部若手のホープ。推定ランクB、将来的にAは確実だとされている才媛の登場に教室が色めき立つ。
ちょっとした学園の有名人がなぜ赤兎に用が。
その赤兎はなぜか少し怒った顔で。
「一応礼は言っとくけどよ......なんで彼女を一人で行かせた?」
「ごめんね、でも大丈夫だったでしょ?」
あっけらかんと言う彼女にセキトは彼女の実力なら確かにあの三人を相手にしても問題ないだろうと考えた。彼女の力を買っての事か。
「信頼してるんだな」
「してるよ勿論じゃなきゃ僕も行ってたさ」
「.....分かった、だったらこれ以上は言わねえよ」
「へへへ良かった君に嫌われたかと思ったよ、僕は君の事が大好きだからね」
その発言にクラスメイト達がポカンとする。
おいおれの聞き間違いか?いや俺もそう聞こえた様なといった男達の声がちらほら。一部の人間からは鬼のような形相で睨まれている。
「おいおい下手なこと言うなよな勘違いされるだろ」
「そうだね勘違いされるといけないから今の発言の意味を言っておくとライクではなくloveだよlove♡」
訂正させようとしたら更なる燃料を投下しやがった。
教室の評価は分かれた。
何故か自分の事のように嬉しそうな女子と今にも喉元に嚙みついてきそうな目の男子で。
おいおい唯一同情してくれてたクラスメイトからの評価も地に落ちそうなんだが。
Eより下ってあるんだろうか。
「冗談はそこまでにしろ今日あったばかりだろ」
「そうかな?愛に時間なんて関係ないと思うけど、ねえ一緒に帰ろうよー」
「勝手に一人で帰りなさい、俺とあんたは友人でもないだろ」
「えーでも.....」
——彼女も一緒だよ?
その言葉の意味を理解するのに時間を要した。
その間に教室の扉が開く。
そこから現れたのは柊篠花だった。容姿端麗、成績首位、誰もが認めるランクAの登場に時が止まる。誰も目を離せない。セキトもだ、彼女が目の前まで来るのをポカンと口を開けて見ているしかなかった。真子がクスリと笑った気がしたが気にもならない。
「いきなり来てごめんなさい、もしよければですが友人として一緒に帰りませんか?」
「喜んで!!!」
タイムラグはなかった。反射神経で答えていた。
その横で竜門が頭を抱える。
目立つなって言ったのに。
もうどうなってもしらないぞ。
一波乱は確実に来る。分かってるのかこいつは。
危惧するがセキトにはもうどうでも良かった。
ただただ彼の顔が晴れやかだったのは言うまでもないだろう。