源武神話 作:アークナイツは初めて半年
仮面ライダー。
1971年に第一号が生誕した正義のヒーロー。
その歴史は50年と長く、多くの人に愛されて来た。
俺もその1人である。
怪人と同じルーツながらも、困っている人を助ける、大切な人を守るためにその力を振るうその姿はとても美しい。
俺は令和から参戦した新人ファンではあるけれど。
仮面ライダーが好きという気持ちは並以上にある。
テレビに齧り付き彼らの戦いに魅了された。
それと同時に思ってしまう。
——俺自身は到底なれそうにないなぁ…。
と。
彼らには意思があった。
何かを想い、奮起する心の強さがあった。
だが、俺にはそんな決意は持てない。
俺は弱い人間だ。自分より強いやつには勝てず、弱い奴にも負けることがある。
あぁ、負けたちゃったな…で、終わってしまう。
熱意を持ちづけることがキツイ。
俺はきっと、仮面ライダーには相応しくない。
なのに…なんでだろう。
そんな俺が、生まれ変わった世界で。
その憧れた仮面ライダーの力を手にしたのは。
この世界に生まれてはや10年。
未だに答えは出てこない。
♢♢♢♢♢
「ぜああああっ!」
『がああああああああっ!?』
渾身の力を込めて大剣を振るう。
それだけで野盗たちは吹き飛んでいった。
ある者はボールのように地面を転がり、またあるものはコンクリートに叩きつけられ血飛沫を散らす。
一方的な蹂躙がそこにあった。たった1人の少年によって部隊と呼べる人数を蹴散らされていく。
身軽なものが背後に回り込む。
回し蹴りで弾き飛ばした。
堅牢な盾を構えた大男が突進する。
上段に構えた大剣を振り下ろした。一刀両断。
アーツを術師が解き放つ。
獣のように姿勢を低くし回避。疾走、両断。
返り血が少年を赤く染めた。
血が地面の窪みに溜まっていく。
野盗は既に全滅していた。
わずか数分。
正確に刻むと151秒の間に起こった出来事である。
大剣にこびりつく血を払い落としながら少年は無線機を手に取る。周波数を合わせ、依頼主に戦闘終了の報告を送った。
「はぁ、やっぱり戦いはキツイな…。
次はもっと楽な戦場にしてくれない?
『君程の戦力を遊ばせているなんて勿体無い』
「あ、ダメっすか…そっすか…」
ガックリと肩を落とす。
はぁ、とため息を吐くその顔には僅かばかりの笑みが浮べられていた。なんだかんだで頼られることが嬉しいのか、少年は頬に浮き出た
『…なるほど、野盗が3回襲撃してきたと』
「びっくりですよ。一体何運ばせたんすか」
それもブツを目的地に送り届けた後にも襲撃されたのだから驚きだ。しかも届け先から野盗を殲滅させてくれと追加で依頼されたのだから怪しさ満点である。
『私も知らない』
「えぇ…」
ロドスの3大トップの1人がそれでいいのだろうか。少年は思わず困惑した。指揮能力はずば抜けているのに肝心な情報はあまり知らされていないようである。
『コホン、それで。野盗の気配はもうしないんだな?』
「…あぁはい。常に感じてた視線がなくなったんで全滅したと思いますよ。念のため調べときます?」
『いや、それは後日他のオペレーターに調べてもらう。君はそういうのあまり得意じゃないだろう』
「うるさいですね…」
脳筋傭兵なんだから仕方ないだろ、と心の中で毒づく。言い訳にもなっていないため口には出さない。
「じゃあ俺はこのまま帰還ってことでいいっすかね」
『あぁ。できれば寄り道せずにな』
「流石にしませんよ。10とはいえ社会人ですから」
『そうしてくれると助かる。君を待ち侘びる人たちからの苦情が耐えないんだよ…いや本当にお願いね』
「何それおもしろい。じゃない。わかりました!すぐに帰りますね」
『君本当に頼むからな!?』
ドクターの悲壮な声に思わず本音が漏れた少年はクスクスと笑みを零す。少年は大剣を背負い、待機させていたバイクにまたがる。自分の身長用に調整された
「それじゃあコードネーム【バスター】これより帰還します」
『ああ。我々は君の帰りを待っている』
ブツッ、と無線が切れる。少年は嬉しそうに無線機を懐にしまうとバイクを発進させていった。
♢♢♢♢♢
「……今回は、使わなかったようですね」
「ハイ」
医務室。製薬会社ロドスの内部に存在する割と地位の高い(融通の効きやすい)場所だと聞いたことがある。
その白く清潔感のある部屋で俺は1人の医者と対峙していた。医者と言っても俺が通信していたドクターではないが、そのドクターの健康管理を受け持っている医者でもある……ややこしいな。
名前は確かフォリニック…だっけ。
彼女は俺の身体検査の結果が記録されたカルテを見て、ふぅ、とため息を一つ吐いた。あ、目頭を抑えてる。
「やっと言うことを聞いてくれましたね…!」
すみません。
いや本当に気苦労をかけます。
「今回は
「…本来であれば、その戦闘すら控えてもらいたいものですが」
「俺、文字書けないし読めないから書類作業とか無理っす」
そう。俺はいくら重い病気に罹ろうと傭兵もどきとして活動している以上は戦闘は避けられないし、頭が悪いのでそれ以外の仕事もできない。言葉は不思議パワーで何故か理解できたのが唯一の幸運か。
フォリニックさんによるとこれも俺のアーツの一環らしい。音に乗せられた
なので憎悪とかもダイレクトに受けてしまうらしい。
辛くなったらいつでも来てとも言われた。
…まぁぶっちゃけ説明されても分からん。だが言葉の壁を気にしなくていいのは便利である。
というか俺自身でもよくわかってないアーツを理論立てて仮説を打ち出せるフォリニックさんがすごい。
また尊敬する箇所みっけたな。
でもそろそろ時間だ。
「そろそろいいですかね。俺、ちょっと会う約束してる人がいるので」
「わかりました。今日はこのくらいにしておきましょう…あぁ、来週の定期検査は忘れないように」
「はーい」
椅子から立ち上がり、壁に立てかけていた大剣を背負う。このずっしりとした重みが心地よい。
…なんかフォリニックさんが親の仇を見るような目で剣見てる。こえー。
「それじゃ、失礼しましたー」
気まずくなった俺は返事も聞かずに医務室から退室して行った。
♢♢♢♢♢
あの剣がなければ。
フォリニックはそう考えずにはいられない。
「源石融合率…34%」
正直、どうして生きているのかわからないレベルの数値だ。分厚い服でなんとか誤魔化しているが、あの小さな背中はビッシリと源石で覆われている。
初めてそれを見た時。思わず吐瀉物をぶちまけてしまいそうだったとフォリニックは記憶していた。次いでどうしてここまで放っておいた、どうやったらこんなになる!と柄にもなく取り乱した覚えがある。
それに対する少年の答えは、
『
である。少年がロドスに訪れた際に所持していたのは、わずかな食糧とその大剣。あとは3冊の本の様な物のみであった。
原因は明らか。フォリニックは医者として大剣及び本の使用を禁じようとしたが、本人に拒否された。
『なんていうか、俺、こいつから離れたらあっという間に死にそんな気がするんですよね』
実際。
少年の戦闘力はその大剣に依存したものであり、通常の大剣を使用させたところ、露骨に弱くなったと報告されている。皮肉にも、少年を蝕む大剣が少年を守る唯一の剣であり盾となっていた。
ロドスは慈善事業団体ではない。
治療にはある程度の対価が必要となる。
そして少年には戦うことしか対価を払う能力が無い。
源石病から救うはずが、対価のせいでより悪化させてしまう悪循環。本末転倒もいいところだ。
「………」
無理を言って担当医になったはいいものの、状況はそこまで好転していない。今日になってようやっとアーツなしで戦闘を終えたくらいだ。歩みは牛歩と言っていいだろう。
しかし進んでいることには違いない。
彼はまだ10歳なのだ。それに少年の体の源石病への耐性は凄まじい。
10年間アレを使い続けてまだ生きているのだから。
使いさえしなければ…ロドスの治療を受けていればきっと長生きできる。
「戦い以外出来ないなら、できる様になるまで教えた方がいいわよね…よっし!」
パァン!と頬を叩く。仕事で忙しい身ではあるがやれるだけやってやる。
本人は頭が悪いからと言って避けているが、今から始めれば数年後には戦わずとも暮らせる様になるかもしれない。医療オペレーターとしては少し行き過ぎた行動かもしれないが、彼女に迷いはなかった。