「ベルには本当に迷惑を掛けっぱなしでつらいんだ…。あの黒いミノタウロスの戦いでも肝をつぶしたのに、深層からの帰還でベルの左腕がめちゃくちゃになった時は腰が抜けそうになったよ…。ああ、あの時はありがとうね。あ、それ取って。」
「はい、これですね。いえ、組成が残っていたから何とかなりました。少しでも欠けていたら駄目だったでしょう。」
「ありがと。…私のような腕を取り付けられるのはいいけど、また借金が増えるからねえ…。それだけじゃない。神フレイヤの魅了騒動で、ベルにひどい態度を取ってしまったのを知った時は、死のうかと思ったよ…。」
「それは許しませんよ、エリスイス、ベル・クラネルも、そうなるのは絶対に望まないはずです。」
少しだけ話しましたが、ベル・クラネルはそういう人のはずです。
貴女がそれをすれば、あの人は深く悲しみ自分を責めるでしょう。
「分かっているよ、ベルはそういう子だってこと。アミッド、あんたはあの子が強くなってから知り合ったみたいだけど、私はベルが駆け出しのころから知っているんだ。」
「(セバスさんからは才能がないと聞いていましたが)その時は、どういう人だったでしょうか?」
「あの子は冒険者に向いてない、本当に不向きなんだよ。それに、あの子は騙されやすいんだ。ここ、オラリオにいちゃいけない子なんだ。そう、どこかのどかな村で暮らしている方が向いているんだ。」
「(エリスイスにそこまで言わせるとは、セバスさんの言う通りですね。)そうでしたか…。」
「あんたはあの子がランクアップを立て続けにして、才能があると思うかもしれないけど、右腕を失った私が見ても、ベルに才能はないんだよ。だから一文無しになってでもいいから、オラリオから出てどこかでのんびりと暮らしてほしい、と思った時もあったよ。」
「エリスイス…。」
「でもベルはこの半年で第一級冒険者まで、来てしまった。もうオラリオから簡単に出られなくなった。でもねアミッド、あの子は私が知らないとこで、多くの血と涙を流しているんだよ。それを考えるだけでもつらいんだ、ここ半年間で、あの子を見てきた私にとってはね。」
本当に……弟のように可愛がっていますね。
「昨日、ミアハ様から聞いてびっくりしたよ。ベルがお祖父さんにお粗末な扱いをされて育ってきたって。ベルはお祖父さんをすごく慕っていたのは、ベルから聞いて知っていた。けど、そんな扱いをされてきたなんて知らなかった。それに、あんなに怒っていたミアハ様を見たのは初めてだよ。」
「私もです。ディアンケヒト様も引いていたくらいでした。」
「あの爺が?まあ、そうなるのはわかるよ。だけど、私は納得したよ。」
「納得、ですか?」
「うん、ベルはね。まあ、話してみたらわかるけど本当に初心な子なんだ。あの年で初心な子はここオラリオ、いや世界を見てもそんなにいないんじゃないかな?だけどね、あの子はハーレムとかダンジョンに出会いを求めてる、とか言っているんだよ。」
「ププッ。」
何ですか、それは。矛盾しているじゃないですか。
そういえば診察の時でも、私と目を合わせず赤面していましたね。
女性に対して免疫が全くないのに、どうやってそれができるというのですか…。
「まあ、笑うよね。初心なのにそんなのできるの?と疑問に思ったんだ。それで、そのお祖父さんから碌でもないことを教え込まれた、ということから、納得したというわけ。」
「なるほど…。」
「でもね、お祖父さんが死んだふりをして育児放棄したというのは、さすがに許せない。あの子がどんなにお祖父さんを慕っていたかを、知っているんだ。だからそれを騙すようなことをするなんて、ひどすぎる。たった半年間だけどあの子を見てきた私でも、怒りを覚えたよ。」
「私もです。いかなる理由があろうとも、きちんと責任を持って育てるべきです。例えベル・クラネルの命を助けるためと言っても、そのようなことはするべきではありません。」
「ホントだよ。ん、こんな感じかな。」
「あ、できましたね。」
エリスイスとこう話すのは数年ぶりですね。
これもベル・クラネルの人徳のなせる業でしょうか。
彼にある意味、感謝しなければいけませんね。
【ミアハ・ファミリア】が息を吹き返し、エリスイスとこう話すことができたのは、彼に関わり彼と助け合ってきたことにあるのですから。
「ご歓談の最中ですみませんが、できたようですね。」
「あ、はい。こちらです。ただ、被験者が飲んでみないとわからないのですが…。」
「お預かりいたします。エイナ嬢に飲んでいただきます。」
「後でいいので、効能と結果を教えて下さい。」
「ふむ…その必要はないかと、先日と同じようにうちの浴場で疲れを癒やすついてで、確認されてはどうでしょうか?」
「そうですね…。その方がよさそうですね。」
あの気持ちよさは、ホームでは味わえませんからね。
死の病の特効薬を調合し、ベル・クラネルを死から引っ張り出すだけですから。
ええ、そう思わないとやってられません。
「ねえ、ちょっといいかな?ベルの方、かなりヤバい感じなんだけど…。」
「ナァーザ嬢、ご心配いりません。あれはまだ死の7歩手前です。」
(十分ヤバいんだけど…。うわ、変な音を鳴らしながらぶっ飛ばされている。)
「カサンドラさんにできるところまで、やっていただきましょう。」
「あんた…カサンドラにも、聖女を名乗らせる気?」
聖女というより、オラリオ上位の治療士ですね。
「【フレイヤ・ファミリア】の【黄金の魔女】ヘイズ・ベルベッドたちもいますが、オラリオでは治療士が圧倒的に不足しています。カサンドラさんにも一角を背負っていただきます。」
「それはうちにとっては非常に助かるけど、いいの?」
「ええ、それは私にとって悪いことではありません。精神疲弊によって救えない命も多くありました。ヘイズ・ベルベッドは神フレイヤの命令があれば助けるでしょう。ですが、命令次第では助けない命もあるでしょう。それら全てを私一人で背負わせる気ですか?エリスイス。」
「まあ…気持ちはわからんでもないけど…。」
「エリスイス。私は聖女という名に疲れました。救えない命もあったというのに、何が聖女ですか!」
「…………。」
いけません。
つい、旧知に対して本音をこぼしてしまいました。
「すみません。つい取り乱してしまいました。」
「いや、あんたのそれを久々に見たからびっくりしただけ。まあ、カサンドラにも経験値を積ませてもらうには丁度いいし。手に負えなくなったら助けてあげなよ。」
「もちろんです。」
理解してくれる人がいるのはいいですね。
少しは気が楽になりました。
カサンドラさんも日に日に、腕を上げていっていますね。
……このような状況はマッチポンプと言いませんでしょうか?
そして、ベル・クラネルの特訓が終わりました。
昨日と違い死にかけた回数は減りましたが、それでも見ていられないくらいでした。
エリスイスは3回目から目を逸らし、耳を閉じてました。
気持ちは分かります…。
そしてメイさんがベル・クラネルを羽交い締めにし、バーチェさんの造りだした猛毒を飲ませたのを見た時、エリスイスはやはり取り乱し怒っていました。
そして彼がもがき苦しんでいる最中で、エリスイスはカサンドラさんに「治せ!」と喚き立ててメイさんに取り押さえられていました。
昨日と同じく、ベル・クラネルは何とか克服しましたが、また気絶しました。
そして今、私とエリスイスは【ヘスティア・ファミリア】の浴場で疲れを癒やしています。
先程、元ギルドの受付嬢のエイナ・チュールに特効薬を飲ませました。
飲ませる前に診断しますとセバスさんの見立ての通り、やはり死の病にかかってました。
前兆段階なので、気づかないのは当然です。
結果は、成功でした。
気だるさや咳などが完全になくなり、かなりよくなったとのことです。
本当に彼の血は抗体なのですね…。
まずは様子見で、これからも特効薬作製に集中しましょう。
治療?考えないことにします。
そうしなきゃ、やってられません!
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