リディアン跡地での戦いから立花響は眠っていた。
そこで見ていたのは悪夢だった。
しかし、実際に響自身が経験した出来事だった。
リディアン音楽学校に通う前、ツヴァイウィングの惨劇が起きた過去。
事故当時の状況がきっかけとなった誤解が産んだ迫害、それは彼女に対する追及は家族にも及び、それに伴う父親の蒸発など、身に余る理不尽に苛まれる日々を過ごすことになる。
そんな中で、響の母は彼女が提案した事。
それは親戚の家でしばらく隠れ住む事だった。
当初は少し、いやかなり不安だった。
響にとって、それまでの経験もあり、簡単に信用して良いのか。
しかし、そこで待っていたしあわせ湯での日々は迫害を受けていた彼女にとっては確かな癒やしとなった。
彼女の事情を知り、常に心配してくれる兄ような一輝。自分と同い年であるさくら。時折帰ってくるが彼女を気遣う大二。
五十嵐三兄妹に加え、動画投稿で一攫千金を狙うダメ親父だが、家族を思う気持ちは本物の父親五十嵐元太に、そんな彼を愛する五十嵐幸実。
彼らは響達を快く受け入れており、親友の未来とも一緒に過ごせる。
つらい1年を乗り越えた先にあった日々を思い浮かべる中で、ふと悪夢の中で誰かが見つめる気がした。
「ほぅ、あの小僧が気に入っているだけあって、奇妙な運命を持つ小娘だな」
聞こえた声。
それはこれまで感じた事ない悪寒であり、何かがゆっくりと見られる。
「今は手を出せないし、喰らうつもりもない。
まぁ、復活するまで、ゆっくりと貴様達の悲劇を楽しませて貰おう」
何もかも見透かしたようなその声がゆっくりと離れていった。
同時に見えたのは、医務室のライトだった。
起き上がろうとするも力が入らず、体中が痛む。
それでも何とか身を起こす。
「っ大丈夫か!」
「一輝さん」
目を覚まし、隣にいる誰か。
同時に手を握り締めた事に、響は安堵するような気持ちがした。
「ごめんなさい、私、また暴走してしまって」
それと共に思い出すのはリディアン跡地で暴走しかけた事。
目の前にいる敵を倒す衝動に駆られ、敵味方が分からなくなりそうだった。
その時、一輝が止めなければ、どうなっていたのか、響には分からない。
「謝らなくていいよ。俺の方こそ助けられてばかりだからさ」
一輝の手を借りながら、ベッドから立ち上がる響。
その姿を見ながら、一輝は言う。
「それより、まだ休んでてもいいんだよ? 」
「大丈夫ですよ、平気へっちゃらですから」
そう言いながら、少し笑みを浮かべると
「お見舞い持って来ましたよぉ!!
って、あれ、イチャイチャしていた?」
そう言いながら、医務室に入ってきた明るい声の持ち主に、響は思わず目を開く。
「えっばっバイス!?
なんで、バイスが実体化しているんですか!?」
「あぁ、響ちゃんの看病に必要な物を用意するように頼んだんだ。
まぁ、こいつの事だから、遊びたいから実体化したような感じだと思うけどな」
「もぅ、酷いじゃないか!
まぁ、結構正解だけどなぁ、はい、これおにぎり!」
「あっありがとう」
そう言いながら、バイスから渡されたおにぎりに戸惑いながら受け取る響。
そこには少し喧嘩している様子の一輝とバイスだが、それは以前まで険悪している雰囲気ではなく、むしろ仲が良いように見えた。
「それにしても、なんか悩み事がある様子だけど、もしかしてまた気になるあの子への思いが爆発しちゃった!」
「気になるって!」
バイスの一言に響は思わず一輝を見る。
目の前にいるバイスになぜバレたのか焦るように見るが、一輝本人は首を傾げる。
「バイス、気になるあの子ってなんだ?」
「もぅ一輝ったら、そんなの決まっているじゃない。
響ちゃんの気になる子は、勿論」
すぐにでも大声を出してでも止めようとした。
しかし
「調ちゃんに決まっているでしょ!」
「わっと?!」
しかし、バイスの口から出てきたのは、想定外の言葉だった。
「どうしたんだ?」
「いっいえ、なんでもないです?」
「なんか、可笑しな響ちゃん?」
響の様子を見て疑問に思う一輝とバイス。
そうしている間、響は拳を握り締める。
「けっけど、なんでいきなり気になると思われたの?」
「えっそりゃ、決闘で思いを伝える事ができなかったからだよ。
響ちゃんは偽善者って言われて、ショックだったから、何か言い返せるかなぁと思ってさぁ」
バイスの言葉と共に、響もまた、その出来事を思い出すと共に、悪夢の中の光景が重なる。
自分だけ生き残った。だからシンフォギアで1人でも多くを助けたかった。しかし、それは調の言う所の偽善であった。
「そうだね、確かに、気にしているかも」
その言葉と共に響は握り締めていた手を離す。
「うんうん、やっぱり女の子だねぇ」
その様子を見て満足そうな顔を浮かべるバイスは言う。
「よし!なら、退院したら、すぐにしあわせ湯に行こうぜぇ!」
「えっ?」
いきなりの言葉に目を見開く響だが
「バイス、良い事言うな。
『人間、どんなことがあっても熱いお風呂につかれば復活できる』という母さんの言葉もあるしな」
「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。私はまだ怪我が治っていないんですよ!!」
「治ったらだよ。
それにな」
それと共に一輝は響の手を握る。
「たぶん、俺も響ちゃんも似ていると思ったから」
「えっ」
その言葉に少し戸惑いを隠せない。
「いつからか自分に興味が持てなくなり、誰かに興味を持ってもらうことでしか自分でいられなくなっていた。
だから、俺の勝手な想像だけど、そんな所が似ているかなって」
「それは」
その言葉に響は否定できない。
無意識だったかもしれない。
それでも、目の前にいる誰かを助けるために戦っていたのは確かだ。
「まぁ、そうじゃなくても、俺は響ちゃんと一緒にいるのは楽しいと思っているから」
「私もですよ」
一輝に釣られるように響は笑顔を見せる。
「まっ、そういう事だ。
それに、今回の件でフィーネの動きも制限できたはずだ。
そこからでも、ゆっくり考える時間はある」
「そっか、それもありますよね」
「そうそう、だから今は体を休めて元気になること。
そうしないと、またバイスが暴走して面倒事になるからさ」
「ちょっ、酷いよぉ」
そう言いながら、医務室を出る二人。
「ありがとうございます。おかげで少し楽になりました」
「そうか、良かった。それじゃあ、俺達はもう行くけど、何かあったらいつでも呼んでくれ」
「はい、分かりました」
そう言って、二人は去っていく。
「やっぱり、暖かくなるな、あの人といると」
それと共に自然と出た言葉。
笑みを浮かべながら、響は胸の中にある思いと共に思い浮かべる。
つらい時に助けてくれた兄のような存在である一輝。
兄のように慕っていたはずだが、それは何時からか分からない。
それでも確かに分かる事は
「好きに……なったんだろうなぁ」
その一言と共に響は目を閉じた。