銭湯『しあわせ湯』はこの街でも名物となっている銭湯である。
古き良き、その雰囲気で人気のあるが、それよりも大きな特徴があった。
「よって、これでお掃除完了っと。
いやぁ、綺麗になると、気持ち良いなぁ」
そう言いながら、銭湯の掃除を行っている一匹の悪魔がいた。
彼の名は、バイス。
この銭湯の五十嵐家の長男に宿っている悪魔であり、最初は悪魔を思わせる凶悪な風貌だったが、現在はすっかり丸くなり、今では銭湯の看板となっている。
「それにしても、なんでおれっちがマスコットじゃないんだよぉ。
アンケートにだって、ボロ負けだったのにぃ」
そうしながら、何時の間にか持っていたハンカチを口で噛みながら、不満を口にしていた。
どうも彼は自分がマスコットキャラとして採用されなかったことに不満があるようだ。
「らぶらぶぅ」
「きゃぁぁ!! ラブコフちゃん!!」「可愛いぃ!」
しあわせ湯の前にいるラブコフはしあわせ湯の前で客を寄せていた。
ぬいぐるみを思わせるコブラの口から出る言葉は愛らしいもので、それが更に人気を高めている要因であった。
そして、それを見た女性たちが集まってくるのだ。
「おぉい、バイスにラブコフ。
もうそろそろライブが始まるから、入っておいてくれ」
そこに現れたのは、一輝だ。
「了解っす! んじゃ、行くぜラブコフ!」
「らぶっ!」
そんな一輝の言葉を受けて、バイスとラブコフは元気よく返事をして、中へと入っていく。
「わくわくするぜぇ!
久し振りのマリアと翼のライブだなぁ」
そう言うバイスは楽しげな様子を見せている。
それも当然だろう。
認定特異災害ノイズをはじめとする、超常脅威による犠牲者の鎮魂と遺族の救済を目的に企画されたチャリティライブイベント。
このライブイベント限定で風鳴 翼とコラボユニットを結成するニュースは全世界を席巻している。
「いやぁ、一輝とさくらにまさかこの2人が知り合いだなんて、驚きだなぁ」
「もぅパパさんったら」
その事もあって、営業時間が終了頃には、特別にしあわせ湯では常連のお客さん達や家族とともに、このライブを楽しむ為のスクリーンが用意してあった。
もちろんそれは一輝達の両親も同じであり、 彼らは一輝達に頼まれてこのスクリーンを用意してくれたのだ。
そして、いよいよ始まるという時だった。
「ほら、始まるぞ!」
スクリーンに映し出された映像を見て、一輝達が歓声を上げた。
そこにはステージに立つ風鳴 翼の姿があったからだ。
「それにしても、大二が羨ましいよ。
あそこで生で見ているからね」
そうして、ふとスクリーンのライブ会場で見えたのは大二とヒロミだった。
その格好はドルオタを思わせる格好をしていた。
「うわぁ、ヒロミさんも大ちゃん、結構ガチだ」
「あれって、一応護衛の任務という事らしいけど、本当なのかなぁ」
「さくら、そういう事は言わない」
そう言いながら、少し呆れたように言っていた。
そんなライブを行っている時だった。
一輝の懐にあるスマホを見る。
「これは、ごめん」
「仮面ライダーとしての仕事?」
「あぁ、行くぞバイス!」
「うわぁん、ライブを最後まで見たこったよぉ」
「それは、分かるけどな、とにかく行くぞ、バイス!」
その言葉と共に、一輝達はスマホにある指示場所へと向かう。
「行くぜ、バイス!」
「オーケー!
さっさと片付けて、ライブを楽しもうぜ!!」
【Flying by! Complete!】
その音声と共にプテラゲノムへと変身する。
同時にエアバイクへと変わったバイスに乗り込み、現場へと向かう。
現場では、既に大きな火事が起きており、被害は拡大続けていた。
『一輝君、聞こえているか?』
「はい、この火事は一体」
『原因は未だに不明だ。
だが、現在も広がり続けている。
一輝君とバイスはこのまま現場の火事の制圧を行った後、すぐに響君と合流してくれ』
「分かりました」
同時に現場に辿り着くと共に、一輝達に襲い掛かったのは、見渡す限りの炎が広がっていた。
「一気に決めるぞ!」
【My name is! 仮面ライダー!】
鳴り響く音と共に、一輝はバリッドレックスへと変身する。
同時に近くにある建物に向かって、殴る。
建物にある炎はバリッドレックスの拳に触れると共に、徐々に凍り始める。
「うひゃあぁ、もぅ、この光景も見慣れたねぇ」
そうして、戦っている同時刻だった。
しあわせ湯にいる元太に異変が起きていた。
「っぐっ」
「えっパパ!?」
「元ちゃん、どうしたの?」
突然、元太が心臓を押さえながら、苦しむ。
「何かが、近づいている」
そして、再び、光景は一輝達の元に。
火事を鎮火している中で、ふと、バイスが後ろから視線を感じる。
【Decide up! Rise.Rage.Requiem.仮面ライダー!】
バイスの言葉を聞き、一輝もまた振り返る。
そこには、1人の仮面ライダーがいた。
その姿はまさにシロクマを思わせる鎧を身に纏い、両腕には鋭い爪を備えていた。
「あれって、ヒロミさんが使う奴と同じデモンズドライバー?」
「けど、なんか雰囲気違うよね?」
疑問に思う一輝達を余所に、謎のライダーはその鋭い爪を一輝達に向けて襲い掛かる。
「くっ、このっ!」
咄嵯に一輝は腕の装甲で防ぎ、その反動を利用して距離を取る。
一方でバイスの方にも攻撃を仕掛ける。
しかし、それを察知したのか、素早く避けて反撃を行う。
両者の攻撃がぶつかり合い、周囲に衝撃波が走る。
「お前は、一体何者なんだっ!!」
「教える理由はない」
一輝の言葉を無視し、謎のライダーは攻撃を繰り出す。
一輝はその攻撃を受け止めながら、その正体を探る。
(なんだろう、この感じ)
目の前の相手から感じる感覚。
それはまるで自分を見下すような、どこか小馬鹿にしたような気配を感じた。
「所詮、貴様は悪魔ではない。
本来の力を発揮していない、お前もな!!」
そう言い、一輝とバイスに向けて、両手から氷弾を放つ。
その一撃を受け、吹き飛ばされる。
地面を転がりながらも、何とか体勢を立て直す。
一方、一輝の頭の中では、先程の言葉が何度も繰り返されていた。
《本来の力》とは一体、どういう意味なのか? その言葉の意味を考えるが。
「おい、一輝!
のんびりしている場合じゃないぞ!」
相棒であるバイスの言葉に我を取り戻す。
「あぁ、分かっている!」
とにかく、目の前にいる奴が誰だか分からないが、止めないといけないのは変わりない。
「一気に決めるぜ!」
その言葉と同時に、全身から冷気を漂わせながら一輝は構える。
そのままゆっくりと歩み寄り、拳を構える。
対する謎のライダーは、右腕を横に伸ばす。
すると、右手から巨大な爪が出現し、その切っ先が一輝に向けられる。
互いに間合いを詰める。
先に仕掛けたのは、一輝だった。
勢いよく飛び掛かり、その勢いのまま右ストレートを喰らわせる。
その一撃を謎のライダーは左腕の爪で受け止めるが、その威力を殺しきれず、後方へ大きく後退する。
すかさず、バイスは追撃を仕掛ける。
「おりゃああぁ!!」
しかし、謎のライダーはそれを難なく避ける。
だが、それも想定内だ。
なぜなら、これは一輝の攻撃ではなく、バイスの連撃なのだから。
その後も一輝とバイスは交互に拳や蹴りを繰り出していく。
そして、ついにバイスが渾身の一撃を叩き込む。
「貴様ああぁぁ!!!」
【Charge……ウィープスフィニッシュ!】
その音声と共に謎のライダーの両腕の爪は巨大化し、そのまま一輝達に近づく。
対して、一輝はそのままリバイスドライバーを操作する。
【バリッドレックス! フィニフィニフィニッシュ!】
鳴り響くと共に、一輝の身体が冷気を纏い、それに連動するようにバイスの身体もバリッドレックスを思わせる氷の鎧を身に纏う。
同時に一輝とバイスは謎のライダーに向かって駆け出す。
両者の距離が近づくにつれ、周囲の温度が下がり始める。
それに比例するように、両者のスピードが上がる。
互いの攻撃がぶつかる瞬間、周囲が光に包まれる。
光が晴れると、そこにいたのは、変身を解除した一輝の姿があった。
そして、彼の前には変身を解除したと思われる謎のライダーがいた。
「ぐっ」
「あらあら、さすがはこの時代の最強のライダーというべきかしら」
「っ!」
聞こえた声と共に、一輝達の前に現れたのは、また別のライダーだった。
その腰にはデモンズドライバーだが、未だに疑問が尽きない。
「お前を殺す!
そして、風鳴翼もぉ」
「まったく、ディアボロ様から細胞を分けて貰って、悪魔になったばかりなのに」
「ディアボロ?」
「ふふっ、話はここまで。
また会いましょう、五十嵐一輝にバイス」
その言葉と共に、彼女は姿を消した。
そして、再び現れた時には、既にその姿はなかった。
「くそっ、なんだよ、あいつらはっ」