都の人間が月に移住する当日、壁の外では数え切れないほどの妖怪が見える。だがそれに対抗するかのように人間達も隊列を組んで待ち構えていた
「第一列、射撃開始!!」
戦線の火蓋は付喪神達の銃や弓によって開かれた。向こう側はてっきり初っ端から突撃してくるものだと考えていたようで動揺していたようだが、直ぐに向こうからも「パンッ、パンッ」と銃撃してくる音が聞こえてきた。
とは言えこちらは塹壕の中から射撃をし、敵は敵で要塞のような壁の上から打ってきているので両者とも殆ど損害といった損害は出てないだろうが……
「萃香、俺等は彼奴等の気を引いてるから今のうちに切り込みを頼む」
「わかった。皆の者、この『萃香』に続けー!!」
「「「オオーー!!!」」」
これから彼女と共に最前線で戦う妖怪達はこの集団の中でもかなりの強者揃いだが……
萃香達の突撃に気が付いたようで俺等から狙いを変えたようだ。実際に何体かは打たれて戦列から脱落したやつがいるが、無事に要塞に入り込んで白兵戦ができているようだ。
「よし、俺達も前進するぞ! 総員着剣して突撃!!」
萃香が開いてくれた敵戦列の間が塞がれるのを避けるために賭けに出ることにした。生まれたばかりの付喪神で人間に白兵戦を仕掛けて勝てるかといった不安はあるが、他に回す兵力もないので俺らが向かうしかない
「よっしゃぁ〜俺らを捨てた人間共に復讐だぜ!!」
「皆殺しにしてやる!」
「道具による下剋上だ!!」
……一部天邪鬼みたいな奴がいた気がするが幸い士気はこれ以上にないくらい高いようで安心した。やはり遠くからチクチク攻撃するのは鬱憤が発散しにくいようだ
付喪神を連れて要塞内に入るといきなり洗礼を浴びる。咄嗟で最近都で借りた(死ぬまで)唐傘で刀の攻撃を止め鍔迫り合いに持っていったが……重ぇ、ゴリラかこいつの腕力は……
そう考えながら後ろに飛ぶ
「誰がゴリラよ……」
使い手は以外にも女の人間だった。体は細いが、筋肉質は良好で髪も派手な紫色だがポニーテールになっていることから見た目以上に武人……その中でも上位の人間に見えた
「雌ゴリラなんてあんたしかいないだろ?」
「(ブチッ)……貴様だけは絶対殺す!!」
女は刀を上段に構えてこちらに向かって来る
「いやー、おっかない女性だこと。これなら萃香の方が百倍マシだな、」
俺は能力を発動する。幸い女にはこちらの能力は把握していなかったようで足元を救う
勿論そのスキを逃さず近くの物と位置を逆転して擬似的に瞬間移動し、後ろから傘の柄を女の首に引っ掛けて壁に叩きつけた
が流石に多少負傷していたが再び切りかかってきた。追加で何やら刀に炎を纏っていたが
「……思い出したわ、貴様2ヶ月前の侵入者ね」
「おや、流石に身バレはしていたか」
さっきより威力が増している気がするので受け流すことにした
「貴様のような強さで小賢しい妖怪は初めてよ!」
話しながらも攻防戦を繰り広げているとあることに気づく。本人からは特に違和感は感じないのだが、刀からあのサグメのような力を感じ取れた
「こりゃ神の力を借りてやがるな……!」
「フッ…ようやく気付いたようね、これが私の能力よ!!」
「ふーん、その刀面白いね。ちょっと借りるよ」
能力で俺の持ち物と入れ替える
「なっ……これは」
女の手には刀ではなくピコピコハンマーに変わられていた。驚いた顔も含めて滑稽な姿だ
「じゃあこれは借りていくぜ」
「な…!! 巫山戯るな貴様……!!!」
もはやマトモな武装をしている者は全く驚異とは言えない格好だった
「大丈夫、死ぬまで借りるだけだから」
再び能力で後ろに回り込み、今度は傘で叩きつけた
……一息付け周りを見ると悲惨な状態になっていた。辺り一面は妖怪と人間の血で満たされており、お互いの戦力は壊滅状態に近いものだ
俺も周りに合流して前線を押し上げようとしたが数が少ないこちら側とは違い、戦力が多く防衛側の人間はどんどん補充されていくので徐々に劣勢になっていった
「クソッいくら減らしてもキリがねえ……!」
そういえば萃香達の部隊の影が見えない……まさかあいつら敵陣の奥に行ってるんじゃないか……?
だとしたら不味い! 何とか彼女達を包囲から救うためにも前進しなければ……!!
それから何時間経ったのだろうか………もはや付喪神も数える程に減らしてまで前進した先に妖怪と人間の死体の山があった
(まさか……萃香!!?)
俺は飛びつくように死体の山を登る。そしてその頂上に萃香が倒れていた
「おい大丈夫か!? 返事をしろ!!」
「………」
しかし萃香からは返事が帰ってこない。だが呼吸は微かに聞こえるのでまだ今なら救える
(ここでこいつを持ち帰って大人しく地上が消し炭にされるのを大人しく見てるか、見捨てこのまま前進を続けるか……)
俺の頭の中で思考がグルグル回るが視界の端で発砲した兵士の姿が映った
「グ…ガッ……」
どうやら奴らは指揮官である俺に一斉射撃をしたらしい。証拠に体中に風穴から出血している
(クソッ、これ以上は俺まで野垂れ死ぬか……)
「こ、これから副将の俺が指揮権を継承する! 総員撤退だ!!」
そこからこちらの士気崩壊が始まった。既に中堅妖怪は全滅し、残る兵力は付喪神や雑魚妖怪が僅かしかいない。そんな奴らが敵に背中を見せるといい的になるのは当然のことだ
もう俺も妖力切れを起こし頭がクラクラしているが萃香の体を背負い逃げるように撤退している。少しでも体力を残す為に鹵獲した刀等、重い荷物は全て捨てている
「上官、出口が見えてきました!」
「そうか……奇跡的に生還できたな……」
意識が若干朦朧とした頭を動かすとあることに気付いた
おかしい、奴らの追撃がない……
まさか、と最悪の事を想像したとき都の中から「ゴゴゴゴ……」とロケットが発射されるような音がする。もうタイムリミットは短いと本能が叫んだ
「急げ! 奴らのロケットが動き始めたぞ!!」
そこからはもう覚えていない。恐らく残った力を振り絞って塹壕内に潜りトンネル内に入ったのだろう
気付いたら光が一つも入らない場所で5体ほどの五体不満足な付喪神と一向に目を開かない萃香を抱いた俺しかいなかったのだった……
一応話に登場した武人の女の設定的には綿月依姫です。
わざわざ敵に名前を教える阿呆はいないと思ったので名前すら出せなかった……