第1章 開幕
旅立ちの日、始まりの日
旅立ちの日の朝、夢を見た。
見たことも聞いたこともないはずなのに、どこか懐かしく慣れ親しんだような世界を巡る夢。
忘れられたような最果ての牢獄を脱出した。
亡者蔓延る朽ち果て滅びた街を駆け抜けた。
この世の穢れの掃き溜めのような地の底に築かれた呪われた村を探索した。
侵入者を拒む数多の罠を張り巡らされた古城を攻略した。
荘厳で巨大な捨てられた神々の都を巡った。
溶岩に沈む都市に巣食う悍ましき蟲を駆逐し、水晶に覆われた谷を住処とするウロコ持たぬドラゴンを討伐し、大墳墓の最奥にて眠る死者を統べる者を葬り、光差さぬ深淵に封じられた4人の怪人を滅ぼし、
灰の降り積もる始まりの地の最奥にて待つ古き王を殺す。
そんな、いつもの夢。
おれはこの夢を子供の頃から幾度となく見続けてきた。
初めて見たのは旅の吟遊詩人が村に訪れた日。一宿の恩として村の集会所で英雄譚を語ってくれた日の夜のことだったと思う。
英雄譚を聞き、興奮しながら眠りについたはずなのに気付くと牢獄に囚われていたことにひどく驚いたことを覚えている。
夢の中のおれは大人の姿をしていた。着古したような革鎧を着て、折れた直剣を片手に持って牢の一室に囚われていた。
しばらく呆然としていたら突然上から人の死体が降ってきた。なんだと思って上を見ると騎士がこちらを見下ろしていた。彼はこちらを見下ろしてからそのまま去っていった。
死体を調べてみると鍵がついていたのでそれを使い牢の外に出た。ここはどこなのか調べるためあちこち見てみることにした。途中あちらこちらで骨と皮しかないような人、亡者とでも呼ぶべき奴らがいた。そいつらに見つからないように刺激しないようにしながら歩くと、大きな鉄扉で閉じられた広間に出た。そこで奴に出くわした。
醜く肥え太った
奴はその巨体に見合った巨大な槌を携えており、それをこちらに躊躇なく振り下ろしてきた。
こちらには革鎧と折れた剣しかない、これはたまらんと逃げ回っていると広間の隅に人は通れるけど奴は入れないような通路があるのに気づきそこに飛び込んだ。ひとまず一息つきながらさてどうするか考えるもなにも浮かばずとりあえず探索を続けることにした。途中で誰かが使っていたのか打ち捨てられていた
しばらく探していると牢の一室にあの騎士がいることに気が付き彼のもとへと駆け出した。彼は屋根から落ちたのか瓦礫の上に倒れていた。
特に知識のない自分でも瀕死だとわかる状態で、彼も自らの死を悟っていたのか近づいてきたおれに話しかけてきた。
曰く、自らが背負う使命を代わりに全うしてほしいと。
死にゆく者から使命を受け継ぐ。まるで英雄譚の序章のように思ったものだ。
ならば英雄らしく悪しき者を打倒しようと手始めにあの
あっけなくその手に持った巨大な槌に叩き潰されて、死んだ。
……さすがに飛び起きた。悪い夢だと思って忘れることにした。
しかし忘れることは許されなかった。次の日もその次の日も同じ夢を見たのだ。違うことといえば鉄扉の前の、何故か剣が突き立てられ何かの骨を燃料にした焚き火の前で目を覚ますようになったというところか。
死ぬのが嫌で、焚き火の前で目覚めを待ったこともあった。しかしいつまでたっても目覚めは訪れずしかたなく再び
日に日にやつれていくおれを心配した家族や幼馴染に問い詰められたこともあったがこんな夢を見ているなんて相談もできなかった。
それでもこのままじゃ埒が明かないと柄にもなく頭を使い考えを巡らせ少しずつ戦えるようになっていき、ついに死闘の上に打ち倒すことに成功した。
その後は牢獄を脱出した後、何故か大ガラスに連れ去られたところで目を覚ました。あまりの嬉しさに喜びの声を上げて家族に怒られたものだ。
それからはしばらくその夢を見なくなったがふとした折にまた夢を見るようになった。まるで思い出せというように。
夢を見るようになる条件は正確にはよくわからないが冒険や戦いの話に胸躍らせた日の夜から見始めているような気がする。まるで忘れるなというように。
今日は滅びた街の奥にある鐘楼を目指す途中、数多の亡者が屯する場所を通り抜けようとして失敗し滅多切りにされて死んだ。
…雑魚と侮るな。数の暴力を畏れよということだろうか。
「ちょっとー! まだ準備できないのー?」
幼馴染が呼んでいる。準備はできているがもう一度確認しておこう。
街で買い物をするために貯めた金の入った袋。
一応という感じで作った自作の武具である
準備はできた。さあ旅立とう。
今日からおれも冒険者だ。
手製の武具
戦士が木材を加工して自作した武具。
使えないことはないが、あてになるものでは決してない。
できるだけ早急に装備を更新した方がいいだろう。