ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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知ってるものと知らないもの

 冒険者ギルドの裏手には広場……というか空き地の草原がある。

 そこは半ば暗黙の了解として冒険者たちの訓練場所や待合場所の様相を示している。

 

「よっ。そりゃ!」

 

 俺たちは今、先日の話に合った協力関係の一環として模擬戦をしている。

 武器はさすがにそのまま長剣でとはいかないので、ギルドで貸し出しをしている木剣を使用している。

 

「グゥ……っ! おら!!」

(クソ! なんでこんなに……)

 

 相手は先日知りあった3人組の一党の頭目の青年戦士。

 俺は正直こいつのことを舐めていた。こいつのことは前から知っていた。なにせ初期装備が革鎧に棍棒と木の板を組み合わせただけの盾なんて見窄らしい格好の奴なんて目立たないわけがない。更に弓矢も背負っているんだ。同期の間では悪い意味で有名だった。

 先日会った時には棍棒が剣になっていたが、それでも盾はそのまんま。全然強そうじゃないし、今回の模擬戦も胸を貸すくらいのつもりでいた。

 

 それがどうだ。

 

 1戦目はしばし打ち合った後、必勝を期した剣を避けられ、その隙を突かれ負けた。

 

 ならばと挑んだ2戦目。今度は防御を重視して盾を構えて様子を伺っていたら、なんと構えた盾を蹴飛ばされ態勢を崩し敗北。

 

 そして今は3戦目。

 再び打ち合いをしながら勝機を探して隙を伺っていたが、時が過ぎるにつれむしろどんどん俺が不利になっていっている。

 

(なんで!? どうして!?)

 

 同じようにあちらも動いているはずなのに、あいつは多少汗をかいてるくらいで消耗しているようには見えない。にも拘わらず俺は既に肩で息をしている有様だ。

 攻撃も防御もお互い似たような状態なのにどうしてこんなに差が出るんだ。

 いや、本当に似たような状態なのだろうか? 

 俺の攻撃はあいつに当たったとしても、今までの怪物(モンスター)を殺した時のような手応えは感じなかった。逆にあいつの軽く振っているような攻撃を盾で受けたときの衝撃は巨大鼠(ジャイアント・ラット)の体当たりに匹敵するような強さを感じた。

 

(あんな軽く振っているのにどうしてこんなに威力が出る!? どうして俺の攻撃は通用しない!?)

「っ! でぇりゃあ!!」

 

 立て直しを図るために強く剣を振るう。あいつはその攻撃を盾で受け止め態勢を崩した。

 

(! チャンス!!)

 

 やっとできた隙を逃がさないように一気に攻めかかり、剣を振り下ろす。

 頭のどこかで警鐘が鳴っているのを感じる。木剣とはいえ思い切り当ててしまえば怪我は必至。これは模擬戦である。

 そうわかっていても止めることはできなかった。だが、

 

「甘い」

 

 そんな言葉と共に態勢を崩していたはずの青年戦士の身体がブレる。

 気付くと振り下ろしたはずの腕が天を仰いでいた。手に持ったはずの剣の感触もない。

 

 なにが起きた? そんなことを思う間もなく青年戦士の剣が俺の喉元に突き付けられる。

 

「おれの勝ち。……休憩にしようぜ」

 

 警鐘はいつの間にか鳴りやんでいた。

 

 

 

 

 

 

「全敗じゃん。格好悪ぅー」

 

 幼馴染の見習聖女がそんなことを言ってくる。

 

「……」

 

 いつもならムキになって言い返しているところだろうが、そんな気力はない。

 

「……怒った? ごめんってー」

 

 いつもと感じが違うと思ったのかすぐに謝ってくる。だがそれに取り合う気力もない。

 

(俺才能ないのかな……)

 

 そんなことも思えてくる。

 そんなふうに落ち込んでいると、

 

「大丈夫か?」

 

 いつの間にか青年戦士が仲間たちと共にこちらに来ていた。

 

「ああ大丈夫大丈夫。いいとこなしでヘコんでるだけだから」

 

 見習聖女が勝手にそんなことを言う。まあ間違ってないんだけどな……

 

「……なあ。俺は弱いのか?」

 

 思わずそんなことを聞いてしまう。

 

「え?」

「だから! 俺は弱いのかって聞いたんだ! どうせバカにしに来たんだろう!?」

 

 そんなことはない。そんなことはわかっているのに止められない。感情が制御できない。それがまた嫌になってくる。

 

「ちょっと……」

 

 見習聖女が窘めて来る。ただあまりにも普段と違うからかその語調に強さはない。

 

「……ごめん」

 

 カッとなって言ってしまったことをすぐ後悔して謝るが心はまったくすっきりしない。グルグルと薄汚い感情が心を巡っているのを感じる。

 

「……もしかして自分に才能がないとか考えているのか?」

 

 再び項垂れているとそんなことを青年戦士から言われた。

 

「おまえの才能のほどはわからないけど、今回の模擬戦は別におまえが弱くておれが強いとかって話じゃないと思うぞ」

「……え?」

 

 そんな言葉を受け思わず顔を上げる。

 青年戦士は俺のそんな反応に構わず言葉を続ける。

 

「今回の結果は、おれが知ってることをおまえが知らなかった。ただそれだけだと思うぜ」

「知ってる? 知らない? どういうことだ」

 

 青年戦士はしばし考えるようにしてから言葉を紡ぎ始めた。

 

 

 

「まず思ったのは……こいつ武具の使い方下手だなってことだったな」

「うぐっ!」

 

 いきなり痛いことを言われる。所詮俺は田舎者。特に戦い方なんか習ったことはないからしょうがないところだともいえるが。

 

「剣を振るにも盾で防ぐにも意図ってのが見えなかったな」

「意図?」

「例えば……」

 

 そう言って剣を振り始める。その振り様は特に派手さも早さも強さも感じない。強いて言うなら堅実……隠さず言うなら地味といったところだろうか。

 

「これが俺の剣の振り方。……地味とか思ってないか?」

「……」

「いや、それでいいんだ。おれの剣は確実に当てるためや、次に動きやすいように強く振らないようにしているからな。むしろブンブン振ってるように感じられたらヘコむ」

 

 それはわかったけど……

 

「それでいいのか? 敵が倒せないとかないのか?」

「あるさ。でも最初から一撃で倒そうとしてなければ別に問題ないのさ。基本的には傷つければ怯む。怯んでる間に仕留めればいいだけなんだから」

 

 そう言って更に剣を振る。そういう考えを聞いてから見れば、なるほど。確かに隙が少ないように見える。

 

「逆におまえは倒すことを意識しすぎて大振りになることが多かったな。特に1戦目はそれで負けてる」

 

 言われて思い返す。確かになにも考えずに……正確に言うと都合の良いように考えて思い切り振りかぶって攻撃しようとして避けられた。

 

「攻撃タイミングも攻撃の軌道もまるわかりだったぜ。だから避けられた。相手の動きが読めるってことはそれを利用できるってことだからな」

 

 ぐうの音も出ないとはこのことだろうか。自分の考えの浅さを見破られて恥ずかしくなってくる。

 

「武器なんていうのは当てるだけでも重症や致命傷を与えやすいんだ。無理に強力な一撃ってのを狙う必要はない。むしろ当てることが肝要だとおれは思うぜ」

 

 そう青年戦士は締めくくる。

 

「……盾の扱いに関しては?」

「おお、そうだな」

 

 そう言ってまた再び考え込んでから青年戦士は口を開く。

 

「たぶんだけどおまえ、盾ってのは攻撃を防ぐための物って意識があるだろ? おれは凌ぐための物だと思ってる」

「防ぐと……凌ぐ?」

 

 何が違うんだ? 

 

「まあやってることはさほど違いはないけどな。凌ぎ方の1つとして防ぐって手段もあるって感じかな。おれにとっては」

「えーっと……」

「まあこれも見てみないとわかんないか」

 

 そう言って女武闘家と俺に立ち会うように言ってくる。

 

「おまえは盾を構えてこいつの攻撃を防ごうとしてくれ」

 

 その後離れる前に女武闘家に一言二言話をしてから合図を出す。

 

「でやぁ!」

「ぐぁ!?」

 

 女武闘家の攻撃はさっきの戦士の一撃とは比べ物にならないほど重い。踏ん張れずに吹っ飛ばされたほどだ。

 青年戦士が近づいてくる。

 

「あー、大丈夫か? まあ今のが防ぐだな。で、これが」

 

 そう言って今度は青年戦士が女武闘家の前に立ち盾を構える。 

 

「せいっ!」

「ふっ!」

(あっ……)

 

 違いがあると言われてたから、傍から見てたからわかった。

 突き出した盾で攻撃で受けたと思ったら腕を折りたたみ更に後ろに跳躍をしていた。

 後ろに下がりはしたが、ズザリと土を踏みしめたあいつの態勢は崩れているとは言い難く追撃が来ても対処は容易だろう。

 

「と、今のが俺の言う凌ぐだな。守りで重要なのはとにかく態勢を崩さないようにすることだ。強い攻撃なんかは無理に受け止めようとするんじゃなくて、受け流すことも候補に入れるべきだな」

 

 そう言って他のやり方も教えてくれた。盾を傾けて弾くとか、攻撃を受けた瞬間に体を回して衝撃を逃がすとか。あとは低く構えることで狙いを絞ったり、間合いを調整することで相手の攻撃方法を制限するやり方なんかも教えてもらった。

 

「あとは……これかな」

 

 そう言って再び女武闘家と立ち会う。そして、

 

「ココっ!」

 

 今度は攻撃に合わせてむしろ女武闘家に近づいた。そして攻撃を受けた瞬間に更に盾を押し付けるように振るう。

 

「わっ!?」

 

 そして攻撃した側の女武闘家の方が態勢を崩した。

 

「今のは……」

「お? 気付いたか。そう3戦目の最後にやったやつだ。相手の攻撃を殺しつつ受け、その力を逃がしたり跳ね返したりして相手の態勢を崩す。おれはパリィと呼んでいる」

 

 パリィ……そんなことができるのか。

 

「わかったか? これが知ってるか知らないかの差だ。別に難しいことはなかったろ?」

 

 確かに。言われてみればそう思う。自分でできるかどうかはまた別の話だろうけど、やっちゃいけないことを知ってるだけでも不利になりづらかったかもしれない。

 

「んじゃ、おまえもパリィを試してみな」

 

 そう言ってまた女武闘家に話をしてから離れて合図を出す。そして、

 

「でや!」

 

「ぐえ!?」

 

 ものの見事に失敗した。というか、フェイントを掛けられて攻撃を受けることすらできてなかった。 

 

「まあこんな感じに相手は同じように動いてくれるわけじゃないので注意は怠らないようにな」

 

 わかるけど、それを実戦で教えようとしなくてもいいだろ……

 

 

 

 

 

 

 その後も訓練を続けてしばらくした時だった。

 

「精が出るな! 若者たちよ!」

 

 声を掛けてきた人がいた。

 

「あ、あなたは……」

 

 そこにはいたのは吟遊詩人に謳われるような姿をした女騎士。

 白銀の騎士甲冑に身を包む見目麗しい女。大盾に両手持ちも可能な長剣を装備している。

 この辺境において『最高』と称される冒険者の一党の一人だ。

 

「どうだ? お前たちさえよければ私が手ほどきをしてやろう」

「ほ、本当ですか!?」

 

 まさか、こんな幸運に巡り合うことができるなんて! 

 なぜか傍らの青年戦士は焦ったような仕草をしているが、こんな幸運に飛びつかないでどうする。

 

「よろしくお願いします!」

「その意気や良し! では、いくぞ!!」

 

 そう言って女騎士は戦士から奪った木剣で切りかかってくる。

 

(よし、今度こそうまく凌いで……)

 

 考えられたのはそこまでだった。なんとなく、青年戦士に聞かないといけないことが増えたと思った。

 

 防ぐことも凌ぐこともできない一撃にはどう対処すればいいんだ、と。

 

 

 

 

 すさまじい威力の攻撃を受けて吹き飛ばされ意識が飛ぶ直前、頭を抱える黒い鎧を着た重戦士の姿が見えた気がした。

 

 




これにて『新米戦士と見習聖女』編は終了。
前半は『相性ってあるよね』って話。
人がいればいいってもんじゃなくて役割分担とかも重要になってくるので、一党結成は見送りとなりました。書かなかったけど将来的に一党に人員追加したい時に追放とかしなきゃならないのは面倒ごとにしかならないと思っていたり。

後半はダークソウルの戦闘技法なんかの考察とか。
ゲーム的には盾構えてれば全部受け止めてくれるし、タイミングよく盾を振ればパリィができるし、ローリングすれば攻撃よけられるけど、リアルでそんなことできるわけないよなぁってことでいろいろでっち上げてみました。

女騎士さんは『秩序にして善』でありいずれ聖騎士に至る(自称)自分は後進を指導するのも役目か、みたいなことを考えて、熱血教師ゴッコしに来ました。
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