今回は戦士くん掘り下げ回です。
「ふっ……ふっ……」
剣を振るう。振り上げて、振り下ろす。息を吸っては振り上げて、息を吐きながら振り下ろす。
強さはいらない。派手さもいらない。小さく、鋭く、
飽きもせずに、素振りを繰り返す。
「ふっ……ふっ……」
重心を傾け、地面を踏みしめる。生み出された力で胸を反らすように剣を振り上げる。
再び重心を傾け地面を踏みしめる。今度は地面に向かおうとする力を逃さぬように身体を操作しながら再び剣を振り下ろす。
自分が身体をうまく使える事を確認しながら、よりうまい身体の使い方を模索しながら素振りをする。
「ふっ……ふっ……」
暑さの上昇も収まり柔らかな風が肌を撫ぜる、時刻にして午後4時頃。
おれはギルドの裏の草原で鍛錬をしていた。
あの宴会はあの後、女神官の新たな仲間である妖精弓手と鉱人道士、蜥蜴僧侶が参加したことにより当初の予定とは違い純粋な飲み会の体を成した。
そしておれたち3人は見事飲み潰され二日酔いとなったのだった。
今日は全員使い物にならないということで朝会った時に今日は休みにしようということになった。
午前中は気持ちの悪さに苦しみながらも自室で休み、午後になったらだいぶ収まったということで感覚を取り戻す意味も込めて鍛錬をしていたのだった。
「ふっ……ふっ……ふう」
鍛錬を初めてからだいぶ時間も経ち、そろそろ一息つけるかと剣を下ろし空を見上げる。
まばらに千切れた雲の隙間から見える濃い青を帯び始めた高い空は、夏の訪れを予感させている。
(そういえば……こんな日だったか)
ふと思い出す。あの日もこんな空だったなと。
(あいつのオヤジさんが死んだのは)
10歳くらいのころだったと思う。
そのころのおれは死生観……というのだろうか。そういった感性が、物を知らない子供だからというのとは関係なく狂っていたと思う。
当たり前だ。夢とはいえ、幾度も死んでるんだ。しかも眠れば再び同じような夢を見る。まるで蘇るみたいに。そのうちどうせ死んでも生き返る、みたいな考えを持つのは必然だった。
そんな考えを持っていた当時のおれはかなりのお調子者だったと思う。現実でも死んでも目が覚めるだけだ、みたいに思っていたのだ。
だから将来冒険者になって夢の中みたいに強力な怪物を倒し英雄になるのだと、そんな都合がいい考えを持っていた。
それが変わったのが幼馴染のオヤジさんが亡くなった時だった。
今日みたいな夏の前のある日のことだった。いつものように朝のうちに家の仕事を手伝い、午後は幼馴染と遊んでいた。遊んでいる途中でふと幼馴染が何かに気付いたように家に帰ってしまい、おれも家に帰ってしばらくたった時だった。
幼馴染が慌てておれの家に飛び込んできた。物凄く焦っている感じでおれの親に捲し立てていた。親も何が何やらわからないといった感じをしていたのを見て、おれが幼馴染を宥めて落ち着かせ話を聞くと家に帰ってしばらくするとオヤジさんが倒れたのだという。
話を理解した親は家を飛び出し、幼馴染の家に向かった。おれもその後を幼馴染と共に追う。
幼馴染の家に着いたおれたちが見たのは床に倒れ伏す幼馴染のオヤジさん。おれたちが幼馴染の家に慌てて向かうのが他の村の人にも見られたのか、近所の人たちもなんだなんだと顔を見せに来た。
そうして大人たちが倒れたオヤジさんを調べて首を横に振るのが見えた。そうして幼馴染にこう伝えたのだ。
「残念だが……君のお父さんはもう亡くなっている」
それを聞いて泣き崩れた幼馴染のことは今も覚えている。そしてそんな幼馴染を不思議そうに思ったことも。
翌日、村人たちの手によって幼馴染のオヤジさんは葬られた。
幼馴染は何日も塞ぎ込み、そんな姿を俺も見続けていた。2日経ち、3日経ち、オヤジさんが蘇ってこないことを不思議に思い、親に聞いたんだ。
あいつのオヤジさんは蘇らないのかって。
そんな無神経な問いを発したおれに、親は一瞬カッとなって怒鳴ろうとした。しかしすぐに思い直しておれを諭すように話してくれた。
人は死んだら終わりなんだって。
それからだ。現実では夢みたいに死んでも目が覚めるなんてことはない、死ねば終わりなんだって思うようになったのは。そして、おれは世の英雄みたいになれない、そんな特別な存在じゃないって思うようになったのは。
話に聞く英雄たちはみんな、ただ偉業を成したから謳われるようになったんじゃない。偉業を成して、
そう悟ったんだ。そして幾度も死ななければ怪物を倒すことができなかったおれはそんな器じゃないんだということも。
気付けばもう日が傾き空も赤く染まっていた。
しばらくそんなことを考えていたせいだろうか。休憩を始めてからだいぶ時間が経っていた。
最後に一振り、剣を振るう。それを最後に剣を鞘にしまう。
そうして改めて思った。
(死ねば、終わりなんだ)
その思いを噛み締めるように一度瞑目をする。そしてギルドへと帰っていったのだった。
そんなこともあり、戦士くんは慎重派になりましたとさ。