ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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今回は先輩冒険者回

視点が『青年戦士』→『槍使い』→『重戦士』と変わっていきます。


先達の手解き

 おれは今辺境最強と名高い槍使いと相対していた。

 

「よーし、どっからでも掛かって来やがれ!」

(どうしてこうなった……)

 

 

 

 事の発端はそう、

 

「槍がほしいな」

 

 というおれの発言だった。

 

「なんでよ。剣があるじゃない」

 

 幼馴染がごもっともなことを言ってくる。

 

「いや、そうなんだけどさ」

「何か理由があるの?」

 

 女魔術師も口を挟んできた。

 

「ほら、おれたちのやり方だとおれが最前衛で壁役やってる時は剣でいいんだけどさ」

「うん」

「こいつが最前衛で戦ってる時は、おれはいざという時の交代要員とあんたの護衛も兼ねてるだろ?」

「そうね」

「その時に手持無沙汰だよなーって」

 

 そうなのだ。当たり前だが剣は決してリーチが長いものじゃない。ある程度距離があると届かなくなり、できることがなくなってしまうのだ。

 

「で、そういう時に槍だと遠間から牽制だけでもできるし、なにより突きは小さいモーションでも高い攻撃力が期待できるからあって損はないと思うんだけど」

「ふーん……そういうことなら、買っちゃえば?」

 

 ということで買うことにしたのだが、どこからかその話を聞きつけた槍使いが、

 

「なら俺が使い方を教えてやるぜ!」

 

 ということで今に至るのだった。

 

 

 

(……いや切り替えよう。これはチャンスなんだ)

 

 そうだ、こんな機会は他では絶対にありえない。

 

(現役最高峰の槍の腕、味わわせてもらおう)

 

 そう思い、手に持った模擬戦用の槍代わりの棒を突き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(気に入らねぇな)

 

 最近我が麗しの受付さんに言い寄っている男がいる。

 そいつは最近売り出し中だか新進気鋭の新人一党だか知らないが、田舎者の戦士の男。

 受付さん的にはただの近所のガキか弟かといった立ち位置みたいだが、男の方がどう思っているかわからん。いやあれほどの美人に良くされて惚れない男がいるものか。

 かといってそんなガキにいちいち目くじら立てるのも器が狭いというもの。今は静観の時かと思っていたが、どうもそのガキが今度槍を買うという話を聞いた。

 

(あいつは確か剣を持っていたはずだが……)

 

 ということは武器を変えようというのか。

 

(気に入らねぇ。男だったらこれぞと思った武器を極めるもんだろうが)

 

 とはいえそれで槍を選んだというところは認めてやらんでもない。

 これはもしかしたらチャンスかもしれない。

 

(あいつに槍の手ほどきをしてやることで、受付さんに好印象を抱いてもらえるかもしれない!)

 

 そうと決まれば善は急げ。ということであのガキを見つけて誘ってやったんだが。

 

 なんなんだこのガキは。

 どれだけできるか確認するために自由にさせてみたら、ギリギリ棒が届く間合いでチクチク突いてくるだけ。

 

「ほう」

 

『辺境最強』と謳われ、現役最高峰の槍使いと自他共に認める俺には持論がある。

 すなわち、『槍』こそが最強の武器であるということだ。

 

 槍のことを『遠間から突くだけの武器』などと言う物の道理がわからん奴もいるがそんなことはない。

 柄を長く持ち、突きは勿論のこと、穂先を引っ掛けるように斬る、振り回して叩き潰す。柄の中ほどを持って穂先や石突きを叩きつけたり、柄による防御や押し付けての拘束、他にも移動などの多種多様な技。近づかれたとしても更に柄を短く持ち穂先による突きや切り裂き、武器の長さを活かした足払い。そして単発なれど高威力の投擲。

 

 勿論使用者の腕や槍の品質にもよるが、遠中近すべての距離、どんな状況にも対応できる万能の武器。それが『槍』だ。

 間違ってもこのガキみたいに突くだけの武器じゃない。

 

「おもしれぇ……!!」

 

 このガキは一見物の道理がわからん奴だ。だがよく見ればこいつなりに考えられてることがわかる。

 間合いギリギリを保つのは状況を見極めるための余裕のため。チクチクと突いてくる……手打ちの突きを多用するのはどんな状況にも即応するために隙を作らないため。

 そして『遠間から突くだけの武器』として使ってるのはそれが何よりの強みだからだ。今回は俺も槍持ちだから意味はないが、相手の攻撃が届かない距離から一方的に攻撃できる。それに勝る強みなどあるものか。

 

 こいつは『槍』という物をわかってる奴だ。

 

(槍の使い方を教えてやろうかと思ったが、ヤメだ)

 

 ベロリ、と舌舐めずりをして意識を切り替える。

 

(さあて、この手強き不届き者をどう料理してやろうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなかやるな、あいつ」

 

 俺の傍らに立つ女騎士が感心したような声を漏らした。俺も黙って首肯して肯定する。

『辺境最強の一党』と称されていようと、ウチのガキどもはまだまだ未熟。

 ということで一党の頭目として今日も今日とて訓練をと思っていたら、『辺境最強』の槍使いがこの間ウチの女騎士が迷惑をかけた戦士のボウズを連れてきた。

 最初は指導目的みたいだったが、何故か模擬戦をするみたいになったので見学をさせるかと思って見ていたのだ。

 

「……あの、そんなにすごいんですか? あの人」

 

 そう聞いてきたのは圃人(レーア)の少女巫術師(ドルイド)。さすがに後衛職には伝わらんか。

 

「そうだな、少し解説してやるか。おい、お前らもよく見とけよ。……バカ、お前らが見るのはあっちだ」

 

 槍使いの方に魅入っていた半森人(ハーフエルフ)の軽戦士と只人(ヒューム)の少年斥候(スカウト)にも声を掛ける。

 槍使いは見てもしょうがない。あいつのあれは天才の御業だ。真似しようとしてできるものじゃないし、真似できるほど才能があるなら真似なんかする必要はない。

 

「まずは間合いの取り方だ」

 

 あのボウズは自分の攻撃が届くギリギリを保ち、攻撃を仕掛けていた。いや、正確に言えば相手の攻撃が届かない所に陣取りつつ、攻撃をする時だけギリギリ攻撃が届く所まで踏み込んでいると言うべきか。

 

「今回は相手が同じ槍使いだからわかりづらいかもしれないが、あの間合いを保っていれば相手の攻撃に対応してから動くことができる」

 

 相手が攻撃をしたければ間合いを伸ばす類の攻撃をするか、近づくかする必要がある。そういう類の行動は多かれ少なかれなんらかの予備動作(モーション)が発生する。

 そいつを見て動けるなら回避も防御も思うまま。うまくいけば、

 

「おっと!? やるじゃねーか」

 

 攻撃の軌道を見切ってのカウンターを決められる。今は槍使いの突きを見切り、紙一重で躱しながら突きを打っていた。

 どんなベテランでも攻撃の瞬間は隙ができるものだ。そこをつけるなら大きな効果が期待できる。突きというものはもともと高い威力が有る。それこそカウンターなら突き出すだけで必殺を狙ったり重症を負わせることができるだろう。

 

「お、ちょうどいいな」

 

 今度はボウズの方が攻勢に打って出た。と言っても間合いギリギリを出たり入ったりして突いてるだけだが。

 

「ああいうのは地味に見えるが、やられる側としてはかなり嫌に感じるもんだ」

 

 ボウズの突きは威力は大したものじゃないが、隙が小さい。そこを突こうとしても間合いギリギリを出たり入ったりしてる関係で反撃しようとした時にはもう間合いの外とか、だからといって追って行こうとすればかえってこっちが隙を晒すことになるだろう。

 

「っ!!」

 

 しかもボウズは盾持ちだ。攻撃する時も防御の意識は忘れていない。ボウズに攻撃を届かせたければ距離の壁を越え、盾をうまく搔い潜る必要がある。それができなければ今みたいに盾に弾かれて終わりだ。下手をすればカウンターを取られて生命が終わることになるだろう。

 

 そして攻撃も防御もリスキーとなるとどうするかと考える必要が出てくるわけだが。

 

「うお!? アブねっ!」

 

 そうなると意識に隙ができる。今回はおそらく槍使いの方は思いのほかできるボウズにどこまでやるか考えたってところなんだろうが、そこを隙と見たボウズが今までの消極的な感じとは打って変わって飛び掛かるように突きを繰り出した。

 槍使いは流石といったところか言葉とは裏腹に余裕で躱したが、本来ボウズが戦う相手の力量(レベル)であればあれで決まりだろう。

 

「お?」

 

 しかもそのまま攻勢に移るでもなく距離を取って仕切り直した。それも追撃を警戒してか転がるように横っ飛び(ローリング)して一気に距離を取った。そして再び間合いギリギリを保つ。

 

「嫌だねぇ、ああいうのとやりあうのは」

 

 その戦いぶりに思わず本音が漏れる。

 

「あなたでもですか?」

 

 軽戦士が聞き咎めたのか問いかけてきた。

 

「ふん……別に問題にもならんがな。まあ、面倒には感じるってところだ」

 

 素直に称賛するのが気に入らず思わずそんなことを言ってしまった。まああながち間違いでもないんだがな。

 ただ強い奴より、ああいう堅実な奴の方が厄介だ。

 

(しっかし本当にどこで身に付けたのかね、あんなやり方)

 

 観戦と解説に戻りながらも、そんなことを考える。

 こいつらは気づいてないと思うがああいうのは経験者(ベテラン)のやり口、それも膨大な経験があって初めてできるやり方だ。あのボウズの年齢でできるものじゃない。才能が有ればできるというものでもない。

 しかも前衛でできるようになるには相当死に掛けるような経験が必要になる。そしてそんな経験をしてれば仮に生き残ったとしても傷は絶対に残るのに、そういったものもない。

 

 自らの顔に刻まれた傷痕をなぞりながら更に考える。

 

(あのボウズの年齢でああいうことができるようになるには……そうだな)

 

 以前聞いた与太話みたいに、凄腕の冒険者が輪廻転生とやらで転生した……とかな。

 さしずめ、魂の冒険者(ソウル・アドベンチャラー)ってところか。

 

(まさかな。バカバカしくて笑えてくるぜ)

 

 自分の妄想と言っても過言ではない考えに苦笑を漏らす。

 それを不思議そうに見てくるガキどもを誤魔化し、観戦へと戻るのだった。

 

 

 

「ぐえ!?」

 

 模擬戦はほどなく終わった。勝負は槍使いの勝ち。

 まあ当たり前だ。戦いのようになってたのはあくまで槍使いが手加減してたからだ。

 ボウズが経験豊富な凡人なら、槍使いは経験豊富な天才だ。才能に勝る上位互換に勝つのは至難だ。

 

「はっはぁ!! どうよこの華麗な槍さばきは!!」

 

 華麗な槍さばきとは言っているが、勝負の決め手はあまりにも崩れないボウズに業を煮やした槍使いが手加減を少し緩めたことによる格闘による崩しだ。槍さばきはあまり関係ない。

 

 なのでとりあえずこれだけは言っておいてやろう。

 

 

 

 

「大人気ねーぞー」

「うっせぇよ!!!」

 

 

 

 




スピア

2~3メートル程の木の柄に穂先が付けられただけのスタンダードな槍。辺境の街の兵士の装備にも正式採用されている。
攻撃範囲は狭いが、刃で刺し貫く刺突攻撃は硬い敵にも有効で大きなダメージが期待できる。



これで2章はあとは牧場防衛戦をやって終わりです。やっと準備が終わりました。
冒険者周りやギルドとの縁繋ぎに、武器の打撃・斬撃・刺突と長物が使える紹介、そしてなにより黒曜等級になったのでお出かけができるようになりました。

明日には防衛戦も終わらせられればいいなぁ…

そういえば今更なんですが、主人公の青年戦士とその前世である不死人の裏設定的なものを活動報告に乗せてありますので気が向いたらそちらもどうぞ。
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