時刻は夜。襲撃の場所となる町外れの牧場に冒険者たちは集まっていた。
「見えないな」
周囲にはあちこちに篝火が焚かれ光源となっている。しかしゴブリンが来るであろう森の方までは光が届かず闇に包まれたままになっている。
おれは手に持っていた弓を背に戻し、幼馴染に持ってもらっていた槍を受け取った。
「ねえ、あんたそれで戦えるの?」
おれの姿を眺めた幼馴染がそんなことを言ってきた。
今のおれは革鎧を着て左手に木の板の盾。左の腰に鞘に入った長剣を吊ってあり、腰の後ろに短剣と矢の入った矢筒を備え、背に弓を背負っていた。更に先程受け取った槍を右手に持っている。
「うーん……動きづらい。さすがに今度装備の運用を考えるか」
いろいろな状況に対応できるように剣と槍と弓、全部持ってはいるんだが結局相手次第で使うのは決まってしまっているのが現状だ。もちろん使いたくなる状況もあるんだけど、最悪なくても困らないんだよな。
特に弓はほとんど使ってない。すぐに使えるように背負っている必要はないかもしれない……とは思っていた。
(まあその辺は終わった後で考えよう。今は生き残ることが優先だ)
「来たわ!!」
そんなことを思っていると、妖精弓手の闇を切り裂くような鋭い声が響いた。
その声を聞いて魔術師たちが詠唱を始める。程無く森の入り口に靄のようなものが漂い始めた。《
その直後、森から蠢く影が滲み始めた。しかしその影たちの先鋒は靄に入ってすぐにふらつき始め、手に持った大きな物を手放し倒れてしまった。
冒険者の一部がそのゴブリンが持っていた大きな物、ゴブリンスレイヤーが言っていた『肉の盾』を回収に向かった。
「あれが『肉の盾』……聞きしに勝る悍ましさね」
それを見ながら女魔術師が思わずと言った感じで言葉を漏らす。
『肉の盾』。孕み袋や玩具として捕えていた虜囚の女性を木の板に括り付けた物。おれたちが同族殺しを忌避するのを利用して盾にすることにより、魔術や弓矢による遠距離攻撃を躊躇わせるためのゴブリン共の知恵。
今は魔術によってゴブリンの無力化を図り、その被害者たちの救助を優先しているところだ。
それを見ていたら、今度はゴブリンどもの方から電撃が奔る。どうやらゴブリンどもにも
もっともそれらもすぐに妖精弓手による狙撃や魔術師による再びの《
「よし! 呪文遣いは減らしたわ!」
その言葉を皮切りに近接職の冒険者たちも突撃を開始する。
「よっしゃあ! 稼ぎ時だ、かっとべ!」
誰かがそんなことを言いながら走っていく。周りの冒険者たちもそれに続く。
「おれたちも行こう!」
そう言っておれたちも駆け出して行ったのだった。
今回の依頼が始まる前、ゴブリンスレイヤーはおれたち冒険者に対ゴブリン戦術を授けて行った。
曰く『待ち伏せをしろ。奴らは奇襲に慣れていても、奇襲されることには慣れていない』
曰く『姿勢を低くしろ。足元を狙え。奴らは小柄だが、空は飛べん』
曰く『背中を取られるな。常に動け。武器は細かく振れ。体力を持たせろ』
曰く──……
ゴブリンスレイヤーの戦術は尽くが型にはまり冒険者の有利に大きく貢献した。
しかし、
「ひぃ……」
「うわぁ!」
それは冷静に実践できる者たちにとってはという話だ。
おれも新人という立場でこう言うのはアレなんだが、新人の中にはそれができない者たちもいる。
どうもおれたちの配置された周りにはそれができない新人が配置されていたようでゴブリンに殺されそうになっている場面に良く出くわした。
「ふっ!」
「えい!」
もう何度目だろうか。態勢を崩した新人冒険者の援護に入る。運よく間に合い助けられた者もいれば、間に合わず助けられなかった者もいる。
全体数もあとどれだけいるのか不明だが、そんなことをしていたせいか既に女魔術師の
(このままじゃまずいな)
周りをぐるりと見回す。今なら大丈夫そうか。
「落ち着け―!」
周りの新人冒険者に呼びかける。
「敵はゴブリンだ! 力もなければ
新人冒険者たちはおれに注目する。その視線を感じながら更に呼びかける。
「焦らず、確実に戦えば確実に勝てる! 敵をよく見て、躱すなり守るなりして隙を見て攻撃するんだ!」
そう言ってちょうど良く接近してきていた1匹に狙いをつけ相手取る。
「GIHII!!」
欲望に歪んだ表情を浮かべながらゴブリンが襲い掛かってくる。おそらく自分にとって都合の良い事しか考えていないのだろう。後の事の備えが何もなさそうな攻撃をしてきた。
それをできるだけ姿勢を低く状態で待ち受け的を絞り、攻撃の軌道を読んで確実に左手の盾で防ぐ。それだけでゴブリンは武器を跳ね返され態勢を崩す。
そこに右手で持った槍でただ突き込むだけの突きを放つ。それだけで碌な防具を装備していないゴブリンの身体は刃を受け入れその生命を終わらせた。
「これだけでいいんだ! 堅実に戦え! ここで死んでも意味はないぞ!」
そういうと再びぐるりと周囲を見回す。浮足立っていた感じが少し和らいでいるように見える。
(よし、これでなんとか……)
そう思っていた矢先だった。
「出たぞ!
少し離れた戦場でそんな声が聞こえる。そちらを見ると以前対峙した
「
敵の正体を見破った女魔術師が声を上げる。
「
「
そんな奴までいるのか。もっともあちらには槍使いや重戦士がいる。おれたちには相手取れなくてもあの人たちなら問題ないだろう。
だが……
「GURAURAURAURAUー!!!」
「ひぃ……」
それを聞いたこちらの新人冒険者たちは再び怖気づいてしまった。
(クソッ! でもしょうがないか……)
おれも怖気づかなかったと言えば嘘になる。
「おい! そっちにも行ったぞ!」
誰かがそんなことを声を上げる。それを受けて確認すると確かに
(マジかよ……どうするか)
女魔術師の魔法回数も尽きている。前回みたいな不思議な感覚も期待すべきじゃない。だからと言って周りには頼れない。
おれたちで相手取るしかないのか、そう思った時だった。
「俺達にやらせてくれ!」
そう声を上げたのは新米戦士だった。傍らには見習聖女もいる。
しばし二人を見つめる。二人は緊張した面持ちではあったが同時に自信を感じさせる表情を浮かべている。
それを見ておれは笑った。
「頼んだ!」
そうして頼むことにしたのだった。
(大丈夫。俺達ならできる)
勢い込んで任せろとは言ったものの、確実な自信なんてない。
(アイツらにもできたんだ。俺達だってできる)
心の中でそう呟く。不安を打ち消すように。それに、
(俺は一人じゃない)
そう思い傍らに立つ幼馴染である見習聖女を見る。あいつも同じ気持ちだったのかこっちを見ていた。
そうして一つ頷き合った。
「来い! 俺が相手だ!」
俺はそう言って
(マジかよ……こんな奴を初めての冒険で倒したってのか?)
対峙して改めて思った。怖いと。
それでも、と改めて思う。
(俺は一人じゃない。俺達ならできる!)
「うおおおお!!!」
不安を吹き飛ばすように雄叫びをあげて切りかかる。
「GOBUAA!!」
(怖っ! こんなもん喰らったら一撃でペシャンコだ!)
その一撃をなんとか回避をする。近接戦でやり合うのは危険だ。
そう思いもともと打ち合わせをしていた作戦に移行する。
「よっ! せいっ!」
強く切りかからず浅く早く当てる程度に剣を振るう。時折来る攻撃は確実に回避できるように備えながら。
そうしてウロチョロして俺に注目をさせながら位置を調節していく。
「うっ! クソッ!」
余裕だった回避は少しづつ余裕がなくなってくる。心にも焦りが浮かんでくるのを懸命に抑える。
(もう少し……もう少し!)
そう思った時だった。視界の端で紫電が弾けた気がした。
それを見てニヤリと口角が上がる。
(今だ!)
「うおおおおお!!!」
再び雄叫びをあげる。そして今までの消極な攻撃から打って変わり、剣を振り上げ必殺の一撃を繰り出そうと──するフリをした。
「……? ……!」
「《裁きの
見習聖女の祈りに答え、至高神がその御力をここに示す。
天秤剣から放たれた裁きの雷は見事背後から
「よっしゃー!!!」
「やったぁ!!!」
見事
(やるな。でも……)
そう思い喜んでいる新米戦士の方に駆け出した。
「……え?」
新米戦士はそんなおれの突然の行動に理解が追い付かないというような声をあげる。
それには取り合わずおれは槍を突き出し
「……え?」
「……気持ちはわかるが、気は抜かんようにな」
そう言って新米戦士の肩を叩く。
「……はい」
新米戦士はそうして肩を落としたのだった。
ぐるりと周りを見回す。いつの間にか
「みんな! もうひと踏ん張りだ! 頑張ろう!」
「オラオラァ! 新人共に負けんじゃねーぞベテラン共ぉ!!」
こちらの方を気にしてくれていたのか槍使いがこちらの呼びかけに合わせるように檄を飛ばす。
それに応えるように冒険者たちも声をあげた。
それからは順当に掃討戦へと移っていった。
銀等級という英雄たちによる大物狩りや新人によるジャイアントキリングが起こった冒険者たちの士気は高く。
逆に
冒険者たちは牧場を守り切り、勝利したのだった。