なめし革を重ね鎧の形に整えたもの。
防御力はあまり期待できないが軽い剣やナイフくらいの攻撃は防ぐことができる。
初めての冒険の強い味方となってくれるだろう。
そこには多種多様な武器や防具が所狭しと並べられていた。
部屋の隅の方には木箱や樽が置かれその中に数打ちの長剣や、木の柄に穂先を付けただけの槍が無造作に置かれている。かと思えば業物の大剣や斧槍のような大型武器が壁掛けに飾られ店の威容を彩っている。他にも各種鎧や盾の類がトルソーや棚に飾られ店を賑やかにしていた。
夢の中で数多くの武器や防具を見てきたとはいえ、こうもたくさんの武具があると心躍るというものだ。
だから、
「一番いいのを頼む!」
「寝言は寝て言えクソガキ」
そんなことを言ってしまったのも仕方のないことだと思う。
「すみませんでした……」
ここは冒険者ギルドに併設された工房。おれはそこで恐縮といった感じで謝っていた。
「ふん……それで、なにが欲しいんだ? 剣が欲しいならそっち。槍ならそこだ」
親方然とした店主が話しかけてくる。おそらく新人といえば武器を買いに来るというのが定番なのだろう。いかにも数打ちといった剣や槍の置き場を案内してきた。
「いや、おれは防具を買いに来たんだ」
しかしおれは防具を買いに来たのだ。
夢の中で戦いを重ねるうちに行きついた考えがある。すなわち、護りこそ肝要なのだと。
「あん? なんだ鉄の胸当てでも買いに来たのか?」
店主がおざなりに、それでいてどこか試すように聞いてくる。
「そいつも悪くないがまずは全身を守れるようになりたいところだな」
「……続けな」
どうやら要望を聞いてもらえるようだ。なら相談してみよう。
「強力な攻撃で素早く敵を倒すってのも手だけど必ずできるもんでもないだろ? それより防具を整えてできるだけ安全を確保してから削って仕留めるほうが確実だろ。特に手足の防具は重要だな。足を傷つけられて動けなくなれば遠からず殺される。手を傷つけられれば武器が持てなくて戦えなくなってやっぱり殺される」
おれの考えを告げる。しばしこちらを見定めるように黙っていた店主はそれを聞いた後口を開いた。
「……素人にしちゃあ悪くねえ考えだ。それで? おめえはどれだけ持ってんだ」
「持ってる?」
「金だよ金。おめえがいくら高尚な考えを持っていようがそれがなきゃ売らねえぞ」
「あ、ああ。これだ」
自宅から持ってきた金の入った袋をカウンターに置く。それを店主が検めながら聞いてきた。
「そういやおめえ武器はどうすんだ?」
武器か。できればほしいと思ってはいるがとりあえず、
「できれば剣が欲しいとは思ってるけど、最悪こいつらでどうにかするつもりだ」
と腰に吊るした棍棒と背負った盾、それと弓矢を示す。
「なんだそりゃ? 木製の
「まあ所詮素人の作ったもんだしな」
「あん? なんだおめえが作ったのか?」
「ああ。もしかしたら金が足りないかもと思ってね。こんな盾でも強敵相手でもなけりゃ役に立つだろうし、先手を取れれば弓で奇襲できる。
「ふん……まあいい。数えてみたがな、これっぽちじゃおめえの願いのすべては叶えられんな」
やっぱりか。さてどうするか……
「……どこまでだったらできる?」
「そうさな……
ふむ…そういうことなら。
「……防御優先でお願いします」
「ようし! 商談成立だ!」
そういうことでおれは防具を手に入れたのだった。
「待ちな」
買った鎧の調整してもらったり、金がなくて買えないながらも兜や冒険者セットの購入を勧められたりしてからしばらくし、用事も終わり店を出ようとした時に店主に呼び止められた。
「こいつを持ってけ」
そう言って店主は何かを差し出してくる。
「親方!? そいつは……」
店の奥で作業をしていた丁稚奉公の青年が焦ったような声を上げた。釣られるように店主が差し出してきたものを見る。
ナイフだ。
「こいつはこのあいだ物は試しってことでこいつに打たせてみた物だが、まあ使い物にならねえものが出来上がってな。溶かすか捨てるかってところだったんだが、おめえ使ってみねえか」
「え、でも……」
「使ってみてこいつに教えてやれよ。使い物にならねえってな」
……少しは認めてもらえたんだろうか。
「ありがとうございます……」
「こいつにてめえの作ったものは使い物にならねえって教えてやれって言ってんだ。礼なんかいらねえよ」
「ゴブリン退治に行くわよ!」
貰ったナイフを布で包み腰に吊るしながらギルドに戻ってくるといきなりそんなことを言われた。
武闘家らしく動きやすそうな胴着に身を包んだ少女、幼馴染の女武闘家だ。
「……なんだって?」
「だからゴブリン退治に行くわよ! 依頼人さんの娘さんが攫われたんですって! 早く行きましょ!!」
「……あーわかった。わかったからまずは後ろの娘たちの紹介をしてくれないか」
とりあえず話を打ち切り幼馴染の後ろにいる見知らぬ娘たちの紹介をしてくれるよう頼む。
「そういう時は自分から名乗るべきじゃないかしら?」
そう言ってきたのはいかにも魔術師といった風情の少女。ローブを着てとんがり帽子をかぶり、杖を携えている。
メガネをかけ落ち着いた雰囲気ながら勝ち気も見える自信家といった感じだ。
「あ、あの、わたしは地母神様の神官です! よろしくお願いします!」
そう言ってきたのはこちらもいかにも神官といった風情の少女。神官服というのだろうか。白と青を基調とし、所々に装飾の入った服を着て錫杖を持っている。
こっちは対照的におどおどとして緊張を隠し切れない弱気さを感じる。こんな娘が冒険者になろうとするとはちょっと意外だな。
「おっとこりゃ失礼。おれはこいつの幼馴染の戦士だ。よろしく」
「私は魔術師よ。……あなたほんとに戦士なの? 剣の一本も持ってないみたいだけど」
彼女の言葉もごもっともなんだろうな。
なにせおれの今の恰好ときたら、買って装備してきた地味な
強いて言うなら腰に布で巻いたナイフを吊ってあるといった風体だ。
「あんた何しに行ってたのよ。なんで武器買ってこなかったのよ?」
「金がねーんだ。防具だけで限界だったんだよ。まあ
「……もう! まあいいわ。それじゃ、行きましょ」
そんなこんなでおれたちの初めての冒険が始まるのだった。
「……」
出かける時妙に不安げな感じで見てくる受付嬢の様子が気になったが。
未熟のナイフ
丁稚奉公の青年が打ったとされるナイフ。
一応刃物としての機能はあるがあまり頑丈さはない。
大きな期待はしない方がいいだろう。