新たな仲間を加えたおれ達は今新たな問題に直面していた。すなわち、
「隊列とか……どうしようか?」
ということだ。以前新米戦士と見習聖女と組んだ時にも思ったことだが、人が増えればいいというものでもない。
新たに加わった盗賊商人は元青玉等級とのことだが、だからこそ実力というものがわからない。また盗賊、斥候という役割が実際にどんなことができてどれだけできるのか、おれ達は詳しくは知らない。
「という訳で、何かいい案はないですか?」
なので当人に聞いてみることにした。
「そうだにゃー……
盗賊商人はしばし考えるような仕草をした後そんなことを言ってくる。
「迷宮探索?」
「そうにゃ。ウチはナイフは使えるけどあんまり戦うのは得意じゃないにゃ。だからその辺は今まで通りって事になると思うにゃ」
「うん」
「ウチみたいな斥候職はもっぱら探索とか索敵が主な役割ってことになるにゃ。あとは宝箱があったりしたら罠の解除とかかにゃ」
「なるほど」
「そこで、迷宮探索にゃ。迷宮ではどこから何が来るかわからないし、罠が仕掛けられててもおかしくないにゃ。つまり斥候の出番ってわけだにゃ。その動きを皆に見てもらって判断してもらいたいにゃ」
ふむ。理は通っている気がするな。だが。
「危険じゃないですか?」
確かにそれで実力のほどはわかるかもしれない。でもそれで大したことなくて、被害が出ましたじゃ話にならない。
その考えを読み取ったのだろう。盗賊商人はしたり顔で頷く。
「そこらへんも考えてあるにゃ。迷宮探索とは言ったけど、未知の迷宮に行こうとは思ってないにゃ。そんな未知の迷宮がそうそうあるわけないしにゃ。行こうとしてるのは既に探索が済んでる迷宮にゃ」
そこまで言ってぐるりとおれ達を見る。
「それに見た感じ皆はまだ迷宮には行ったことはないんじゃないかにゃ?」
「はい」
「だったら経験しておいて損はないんじゃないかにゃ?」
そう言われしばし考える。確かにどこかで経験しておく必要はありそうかな。どちらにしてもリスクは負わなければならない、か。
そう考え幼馴染と女魔術師を見ると二人もこちらを見ていた。見た感じ特に不満や不安なんかは感じていないように見える。
「わかりました。そういうことなら行ってみましょう。それで、どこに行くんですか?」
盗賊商人はおれ達の結論に納得したようには一つ頷いた。
「行こうとしているのは、『棄てられた
『棄てられた砦街』
辺境の街から歩いて半日といった所にある古い時代の街の遺跡。こういったものは各地にあるらしく、それこそ辺境の街の地下にも埋まっており、下水道として利用しているくらいだ。この遺跡もその一つなのだろう。
この遺跡は『砦街』という名のとおり堅牢な石造りでできていて、どれほど昔の物なのかは皆目見当もつかないが今もって壊れなさそうな威容を誇っていた。構造としては『砦街』の由来でもある見張り塔があり、塔の中腹から居住区に繋がっている。居住区には同じように石を積んで作られたいくつかの民家が立ち並んでいる。居住区の更に奥には下層の居住区へと続く道があるらしい。雨風に曝されていたせいだろうか。石で作られた壁や床には苔が生えている。ここで戦闘になるというのなら足を滑らせないような気配りが必要になってくるかもしれない。
戦闘になればの話だが。
探索済みというのは間違いではないのだろう。生き物の気配というものは感じられない。ただ静寂によって支配されている。
そんな場所を歩きながらふと思ったことを盗賊商人に聞いてみることにした。
「どうしておれ達だったんですか?」
「え?」
その言葉に先頭に立ち索敵をしていた盗賊商人が歩みを止めこちらに振り替える。
「いや、商人さんは元青玉等級なんでしょう? だったら別におれ達みたいな新人の一党じゃなくてもっと上の等級の一党に売り込んでもよかったんじゃないかって」
考えてみればその通りだ。青玉等級といえば中堅どころ。腕のほどは確かに確認する必要があるかもしれないがもっと上の等級の一党、鋼鉄等級や青玉等級の一党に売り込んでもよかったはずだ。
「なんでおれ達だったんですか」
「あー……」
盗賊商人はしばらく考え込んでから口を開いた。
「実は盗賊っていうのはなかなか難儀な
そう言ってから少しバツが悪そうに頭を掻きながら視線を落とした。
「そのくせがめつい奴が多いから結構一党内でもトラブルになりやすくてにゃ。新参者っていうのはあんまり入れてもらえないにゃ。その点新人であればそういうことを知らないから入れてもらえるかなって。……ごめん」
そこまで言って気まずそうに黙り込んでしまった。
「あー、いえ。こちらこそすみません。言いづらい事を言わせてしまって……そういうことなら大丈夫です。おれ達は気にしませんから。なあ?」
「う、うん!」
「ええ」
幼馴染と女魔術師にも同意を求める。
「と、とりあえず先に進みましょう。邪魔をしてしまってすみません」
そう言ってちょっと気まずい雰囲気になりながらも探索に戻るのであった。
下層の探索に入る。
下層は上層の民家が立ち並ぶ構造とは違い、壁に並ぶように扉が付けられ、その先はベッドを置いたらあとはもう碌に物も置けないような小さな部屋となっていた。ここが『砦』ということを考えたら兵士用の部屋だったのかもしれない。
「ちょっと待つにゃ」
部屋の一室を探索しようとした時、盗賊商人から待ったの声が掛かる。
「罠があるにゃ。わかるかにゃ?」
そう言われ目を凝らしてみる。特に変わったところがあるようには思えないが……?
「あ! もしかしてこれ? この糸みたいなやつ!」
幼馴染が何かに気付いたように指をさす。その指をたどるように視線を向けると確かに僅かに煌めく細い糸のような物があった。
「そうにゃ。たぶん……」
そう言って糸に触れないように部屋に入る。
「ああやっぱり。ボウガンが仕掛けてあるにゃ。たぶんもともとはここに何か……そうだにゃ。ちょっとしたお金でも置いてあったんだにゃ。で、間抜けな侵入者であればこの仕掛けに気付かずにブスリ、にゃ」
そんなことを言いながら盗賊商人は手慣れた様子で罠を解除してボウガンを回収する。
「それどうするんですか?」
「まだ使えそうだし街に帰ったら売るにゃ。皆に付き合ってもらってるのに無報酬ってのも流石に悪いからにゃ」
「そういえばこれって誰が仕掛けたんでしょう?」
「……さあ? こういうところは盗賊が入り込んで根城にしてたりするからそいつらが仕掛けてたりしたんじゃないかにゃ?」
「聞いた限りだとここらが最奥だと思うんだけど……」
そう言いながら一番奥の壁にアーチ状に作られた入り口を潜る。
そこは住人たちのための運動場だったのだろうか。そこそこ大きな広場となっていた。奥に見える壁には大きな穴が開いている。
その広場の中央付近まで進んだ時のことだ。
ズシンズシンという重々しい足音と共に壁に開いた穴からそいつが現れたのは。
「あ、ああ…」
長身で屈強な人型。常人では持ち上げる事も難しそうな鉄塊のごとき大鉈を両手に携えている。そして一体どうなっているのだろうか?首から上には山羊の頭蓋骨が乗っかっている。
「ヌゥ…貴様ラ、ナゼココニイル?」
「
『山羊頭のデーモン』がそこにいた。
棄てられた砦街
『城下不死街』モチーフのダンジョン。モチーフなだけですべてが同じという訳ではない。
構造としては入り口としてハベルの戦士がいた見張り塔があり、螺旋階段を上っていくと塔の中腹から街部分に出られる。そのまま上がると屋上に出られるが城下不死教区へと繋がっている連絡橋はなくなっている。
街部分も下層へと続く鉄格子の扉がある部屋までで、火継ぎの祭祀場への道はなくなっている。
下層も不死教区への道はなくなっている。また山羊頭のデーモンがいる部屋の横にある最下層へと続く階段もなくなっている。
山羊頭のデーモンがいたところは狭い部屋のようになっていたが、そこは訓練場のような広間となっており動き回るのに支障はなくなっている。