「虚ろの大樹……ですか?」
「ええ。……といっても、私も詳しく知っているわけじゃないんだけど」
そう言って妖精弓手は伝説を語り出した。
「虚ろの大樹。それは、岩石と巨木と怪物に支配された時代の存在。神代の時代の生き証人」
「岩石と巨木と怪物……?」
「ええ。今は私達秩序の勢力が世に広がっているからわかりづらいかもしれないけれど、この四方世界は混沌に支配されていた時代もあったらしいわ。そして、混沌の勢力に支配されている時代の世界は文明が破壊され、同時に自然の力が強まるとも聞いているわ。……本当かどうかは、知らないけれどね」
妖精弓手の語りは続く。
「その時代は秩序の勢力、私達のご先祖様達が当時の混沌の勢力の首魁を討ったことにより終わりを迎えた。その時の戦いはとても激しいもので、今の時代の戦いとは比べ物にならない威力の応酬をした結果、岩石は砕かれ、巨木は倒れた」
「……それで、ここにその巨木が埋まっている……と?」
「……たぶん?」
妖精弓手はそこまで言うと途端に自信なさげになった。
「いや、私も故郷の長老衆からそんな話を聞いたことがあったってだけで、別に当時生まれてたわけじゃないからね? 話としては面白かったとは思うけど、正直今を生きる私としては別に重要な話じゃなかったから、そこまで覚えてないのよ。聞いたのもかなり昔、それこそ私が子供の頃だったと思うし」
「
「……1500年くらい前? 私が今2000歳だから、たぶんそれくらいだと思うけど」
「ただ、私が森を出る際に改めて言われたことがあったから、そんなことがあったなぁって思い出してたのよ」
「言われたこと?」
「外の世界で生きている大樹が有ったら種なり苗なりを回収して森に持って帰って来いってね」
「私はこのまま中に入って探索をしてくるけど、あなた達はどうする?」
大岩の下から現れた虚ろの大樹の入り口、恐らく枝の内部へと侵入する。
地面の中にあり太陽の光は届かないはずなのに、不思議と内部は仄明るかった。
「なんで明るいんですかね?」
「さあ? まあ光る苔とかもあったりするしその類がこの中で育ってたりするんじゃない?」
そんな会話をしながら、坂になっている道を進む。
道の終わりは大きな空間に繋がっていた。恐らく虚ろの大樹の幹の部分なのだろう。
枝もおれ達が楽々歩いていられるような大きさだったが、幹はその比ではない大きさを誇っていた。
仄明るい程度の光量しかないことも原因だと思うが、見上げても天井部分となる反対側の幹が見えないほどだ。
この樹はほぼ真横に倒れているようで、幹の部分も坂になって更に下の方へと伸びていた。
「とりあえず、あれを目指しましょうか」
妖精弓手はそう言ってすっと下の方を指差す。
指の先のずっと奥の方に鮮緑の光が揺らめいていた。あれが何なのかはわからないが、とりあえず何かがあることは間違いないだろう。
そう思いおれ達は歩き出す。
「歩きにくいですね……」
どういう生態をしているのか、幹の内部にも拘わらず、簡単に折れる程度の細い枝や、おれ達が乗っても折れないような太い枝があちこち張り巡らされている。
歩いている所にも太い枝が障害物のように巡っており、乗り越えたり、避けたりするのを割と手間に感じ愚痴を溢す。
「つべこべ言わずキリキリ歩きなさい」
妖精弓手は流石の身軽さで持ってヒョイと乗り越えていく。同じく身軽な武闘家の幼馴染と盗賊商人も楽々乗り越えていく。
逆に割と重い装備をしているおれや、あまり身体能力は高くない女魔術師は少し遅れ気味だ。
「戻ったらなんか悪路踏破の訓練でもした方がいいかね……」
女魔術師を見ると目が合い、互いに苦笑しながら歩を進めるのだった。
それなりの距離を歩きようやく目的地、巨木の根元まで辿り着いた。
根元は坂となっていた道中と違い、どういうわけか水平の広間になっていた。
「凄いですね、これ……」
そして鮮緑の光の正体を確認する。その正体は広間の中央に床から生えているような台座の器に溜まった輝く緑色の水だった。
「で、どうするんです?」
よく考えたらおれ達は特に虚ろの大樹に用はなかった。
なので用があるであろう妖精弓手に話を振る。
「ねえ! いいかしら?」
自分に任せられた事がわかったのだろう。妖精弓手は広間に響くような大きな声で呼びかける。
その声に反応するように、中央の器の水の輝きが強まる。もしかして意思があるのだろうか。
「あなた、よかったら私の故郷の森に来ない? ここで朽ちていくよりもマシじゃないかしら?」
そして妖精弓手。流石は
彼女達の話は続く。
「たぶん、あなたの同族も森にいると思うわ。……ええ、そうね。少なくとも、ここよりはずっと良いところよ」
交渉が終わったのだろうか。その言葉を聞いて程無く、まるで妖精弓手の言葉に応えるように水の輝きが強まっていった。
「うわ、まぶし……」
次第に輝きは直視することもできなくなるほどに強まり、思わず目を腕で覆う。と思ったら突然その輝きは失われた。
輝きが失われるとともに、カタリ、という音がした。
「これは……」
音のした方を見ると、水のなくなった器の中に植物の大きな種が一つと、湛えられていた水と同じ色をした鮮緑の小さな珠がいくつか残っていた。
妖精弓手は器に近づき残された種を摘み、しばらく眺めていたと思ったらそのままその種を自分の荷物へとしまう。
「はい。こっちはあんた達によ」
そう言って残っていた小さな珠の方をおれ達に差し出してきた。
「これは……?」
「この樹からのお礼よ。受け取っておきなさい」
そう言われ小さな珠を受け取る。よくわからないが、何か不思議な力を感じる。
何かの役に立つかもしれない。ありがたく受け取っておこう。
「よーっし! 今回はいい冒険だったわ! じゃあ帰りましょ!」
妖精弓手のその言葉を受けておれ達は元来た道を引き返し、帰路へとついたのだった。
虚ろの大樹
『大樹のうつろ』モチーフのダンジョン。
ダークソウル世界のように垂直に立っているのではなく、ほぼ真横に倒れているので落下の危険等はない。また、特に生き物が入り込んでいるということもなく敵もいない。