この話から書き方を変えようと思います。
ゆるして…ゆるして…
夏の盛りも過ぎ、涼やかな秋の風が吹き始めた頃のある日の夜。青年戦士一行はとある広場になった平原にいた。
広場にはそこらで拾ってきたのか、石で竈門が組まれ火が焚かれていた。その火の上には彼らが持ち込んだ鍋が掛けられ、その中には狩った野鳥が香草などと一緒にグツグツと煮られている。
「うん。良さそうかな」
調理をしていた女武闘家がスープを一口掬い味見をして満足そうな声を漏らす。
ふいに吹いた風が食欲をそそる香りを運び、青年戦士達は思わず口内に溜まった唾を音を立てて飲み込んだ。
そんな彼らの様子を見て女武闘家はクスリと一つ笑いを溢した。
「じゃあ、いただきましょうか」
その一言と共に、彼らの夕餉が始まったのだった。
「うーん♪ おいしいにゃー♪」
ここは街道沿いに作られた休憩所。彼らは依頼の帰りに一夜を明かすために
今回の彼らの依頼は調達依頼。といっても以前のようなキノコ人のような討伐依頼とも言えるようなものではなく、普通の薬草採集だ。
決して油断していいものではないが、危険度は低いという事でいろいろと道具を買い込み、親睦を深めがてらこのようなことをすることにしたのだった。
「旅先でこんなに美味しい物を食べられるとは思ってなかったにゃ。武闘家さんはいいお嫁さんになりそうだにゃ」
「そんな……でもありがと」
盗賊商人が料理に舌鼓を打ちつつ、調理を担当した女武闘家を褒め称える。女武闘家も恥ずかしがりながらもまんざらでもないといった感じでその称賛を受け取った。
「ところでぇ……魔術師さんは、料理とかはしないのかにゃ?」
「……うるさいわね」
「まあまあ」
盗賊商人は返す刀とばかりに女魔術師に揶揄う様に問いを投げかける。その問いには答えず、不貞腐れたように女魔術師は応じた。
どうやら女魔術師はほとんど家事の経験がなかったらしく、冒険者になるにあたり掃除や洗濯は習ったようだが、食事に関しては食堂で済ましていた関係でやったことがなかったらしい。
元々はみんなで分担しようという話だったが、彼女は料理に関してはあまり役に立たなかったのであった。
「しかし、この指輪の効果はすごかったよな」
青年戦士はそんな彼女らのやり取りを苦笑しながら見つつ、自分の手を前に突き出して眺める。
その指には鮮やかな緑色の珠が嵌められ、その周りに花の装飾がされた指輪が嵌められていた。
それは、虚ろの大樹からのお礼としてもらった鮮緑の珠を指輪として加工したものだ。
『緑花の指輪』と名付けられたそれの効果は、スタミナの急速回復とでも言うべきものだ。
虚ろの大樹からもらった鮮緑の珠の効果は、虚ろの大樹から帰還する際に早々に発覚した。
虚ろの大樹は地上から地下に潜っていく構造、つまり最奥まで続く障害物のある長い下り坂だった。当然帰りは障害物を避けながらの上り坂を登ることになった。
あまり体を動かすことに自信がない女魔術師と、チェインアーマーとは言え全身鎧の重装備の青年戦士は憂鬱そうに進んでいたところ、思いのほか負担が少ないという事を不思議に思い、もしやと思いいろいろ試したところ、この珠にそんな効果があることに気付いたのである。
「この感じなら、アレも期待できるかにゃ……」
盗賊商人が思わずといった感じでそんな言葉を漏らす。
その顔は真剣な表情で思案しているようでありながら、その瞳はどこか楽しげだった。
「アレ?」
「この間の依頼の時に
「へえ……」
「流石にこの指輪みたいに常時効果を発揮するなんてのは期待できないにしても、一時的にでも発動するだけでもいろいろ恩恵は考えられるにゃ」
スタミナの回復速度の向上と聞くと一見地味に聞こえるが、その恩恵は多岐に渡る。
負担の大きな作業をする時などに服用すれば効率の向上が見込めるだろうし、効果時間次第では長距離移動をする際にも重宝しそうだ。
もちろん激しい動きをする戦闘時に使うのも良いだろう。強敵と戦ったり、大量の敵と長時間戦ったりする際に生死を分ける一手になりうるかもしれない。そうでなくても戦いが有利になるのは間違いがないだろう。
冒険者はもちろん、一部の一般人にも需要がありそうだ。
後に『緑花のポーション』と名付けられたそれは、たくさんの人に長らく重宝される事となるのだが、それはまた別のお話。
「しかし、本当にこの料理はうまいにゃ。よく不自由な旅先でこんなにうまい物ができるものだにゃ?」
談笑をしながらの食事もほどほどに進んだ頃に改めて盗賊商人が食事の感想を述べる。
「あー、あたしはもう親がいなくてね。それで家事は昔からやってたんだ。それの影響かな」
「それは……ごめん」
「あ、大丈夫大丈夫! だいぶ昔の話だしね。それに親はいなくても、こいつの家族に良くしてもらってたから、寂しかったとかはなかったかな」
そこまで言うと女武闘家は何かを思い出したように顔を上げた。
「そうよ、普段から料理してたってのもそうだけど、あんたがいろいろ家に持ってきてはあたしに料理をさせてたからじゃない」
「あー……その節はお世話になりました」
青年戦士は懐かし気な表情をしつつ、お礼とも謝罪ともつかないそんな言葉を口にする。
青年戦士は弓を自作するにあたり、調整がてら野生動物の狩りに勤しんでいた時期があったのだ。
「いや、家に持って帰ってもかあちゃんは丸焼きくらいにしかしてくれなくってな。それでおすそ分けがてらこいつの家に持っていったらいろいろ作ってくれたもんだから、つい……」
「つい、で持ってくるんじゃないわよ。まあ家計的には助かってたけどさ」
「ふーん……」
青年戦士と女武闘家がそんな幼馴染特有の昔話を楽しんでいると、盗賊商人が興味深げな声を上げる。
「今の話を聞くに、もしかして他にもいろいろ作れたりするのかにゃ?」
「作れるって料理の事? まあ、それなりにはできるつもりだけど」
「レシピとかも作れたり?」
「え、さあ……作ったことはないからわからないかな」
女武闘家のそんな言葉を聞くと、盗賊商人は考えるように俯いた。
しばらくすると考えがまとまったのか再び顔を上げた。
「だったら、作ってもらえないかにゃ?」
「それはいいけど……わかりづらいかもしれないわよ」
「そこで、にゃ。魔術師さんにも協力してもらえないかにゃ?」
「え、私?」
突然の飛び火に女魔術師は驚いたような声を漏らす。
「魔術師さんはいっぱい本とかも読んでるにゃ? それなら読みやすい本、見やすい字とかもわかるんじゃないかにゃ?」
「……まあ、そうかしら、ね」
「その経験を活かして、武闘家さんのレシピ作りを手伝ってほしいにゃ」
「それは、いいけれど……」
「それに、これは魔術師さんにとっても悪い話じゃないと思うにゃ」
「……どういうこと?」
そこまで話をすると、盗賊商人はニンマリと口の端を上げた。
「レシピ作りの際に言葉で聞いてるだけだとわからないにゃ? だから、一緒に料理をしていろいろ教わればいいにゃ。どうかにゃ?」
「ああ! ……一緒にやりましょ?」
その言葉を聞いて女魔術師は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら、悩むように唸り声を上げる。
しばらくそんな感じにしていたが、諦めたように息を吐いた。そして、
「…………よろしくお願いするわ」
小さな声で、そう言ったのだった。
普段勝ち気な彼女が、料理なんていう普遍的なものにそんな悩まし気な態度をしたのが面白くて。
「あはははは!!」
彼らは楽しげな声を平原へと響かせるのだった。
そんな彼らの事を、
「ところで、それは何に使うんですか?」
「それは、後のお楽しみ♪」
後日の話。
「なかなか儲かったにゃ」
そう言って盗賊商人は仲間にお金の入れられた袋を配る。
どうやら、以前のレシピを知り合いの商人を通じて商品として売りに出したらしい。これはその売上金という訳だ。
なんでも素人にもわかりやすい作りで、旅先でもできる料理という事で遠出するような人たちに受けたのは勿論、一般人にも家で旅の空気が味わえるとかで受けたらしい。
何が売り物になるのかわかったものじゃないな。
青年戦士たちはそんなことを思うのだった。
緑花の指輪・緑花のポーション
ダークソウルにおける緑花の指輪と緑花草。
効果のほどはダークソウルと同じ。