もとい、再開します。
今回は原作3巻の収穫祭エピソード。
作品全体としては布石とか掘り下げの話になります。
…全部書いてから投稿する?忘れちまったよ、そんな言葉
暑さの盛りも過ぎ、季節は秋。
各地では小麦等の穀物をはじめとした作物の収穫も済み、豊穣を司る地母神への感謝を表す収穫祭の準備に大忙しだ。
辺境の街も変わらず、むしろここらの土地でもっとも大きな地母神の神殿のある街として、中央にも負けじと活気に満ちている。
祭り目当てに近隣の人々が足を運び、そんな者達を目当てに方々から旅芸人の一座や大道芸人たちが訪れ、行商人たちも商売の機会を求め街へと流れ込んできている。
そしてそんな外から訪れた者達の財布のひもが緩むのを狙って街の人々もまた、飲食店をはじめとした出店を出し、周りに負けじと声を張り上げている。
街はいつも以上に活気と喧騒に包まれていた。
「なん、ですってぇ!!!?」
女武闘家はそんな喧騒すらも叩き潰さんとばかりに怒号を上げた。
「落ち着いてちょうだい! 私の言い方が悪かったわ! 別にあなたに魅力がないとかそういうことじゃなくてね? ……あの、聞いてる?」
女魔術師のそんな言葉を聞いているのか、いないのか。
女武闘家は歯を剥き出しにしながら辺りを睥睨するのであった。
時間は少し巻き戻る。
彼女たちは辺境の街にある、行きつけにしている酒場で仲間達と待ち合わせをしていた。
「そういえば、あなたはアイツを誘わないの?」
女魔術師はふと思い出したように女武闘家に問いかけた。
彼女の言うアイツとは、もちろん青年戦士の事だ。
「え!? な、なんで!? べ、べつにあたしはアイツのことなんか……」
「へえ?」
面白いように反応を返した女武闘家を、女魔術師は面白い物を見つけたと言わんばかりに片眉を上げた。
「じゃあ、私が誘っちゃおうかしら?」
「え!?」
「あら、別に構わないでしょ? あなたはアイツのことをなんとも思ってないんだから」
「う……」
そう言われ、女武闘家は言葉を詰まらせる。そんな彼女が面白かったのか、女魔術師は噴き出した。
「アハハ! 冗談よ! 安心しなさいな」
女武闘家はその言葉を聞き、あからさまに胸を撫でおろす。
女魔術師はそんな彼女に思うところがあったのか、少し居住まいを正すと再び口を開いた。
「……安心してるところ悪いけどね。あんまりうかうかもしてられないと思うわよ?」
「え?」
女魔術師は言葉を探す様に目線を宙へと彷徨わせる。
「……あなたがどう思ってるかは知らないけれどね。アイツはいい男よ。一見大望を抱けないような田舎者優男だし、それも間違っていない。でもそれだけの男じゃないのは私たちが一番よく知っているでしょう?」
「……」
「大望を抱けないのは、自分の身の丈を知っているから。人によっては小さい男みたいに思うかもしれないけれど、アイツのあれは堅実と言っていい物よ。刺激を求める女には物足りなくても、平穏を求める女には魅力的に思えるものよ。しかも、いざという時は身体を張ることを厭わない気概もある」
それに、私達女のこともちゃんと尊重してくれるしね。
そう言って女魔術師は言葉を締めた。
その言葉を聞き、女武闘家は考え込む。
自分にとっては彼はどこか自信なさげで覇気のない男だと思っていた。だからこそ、自分がそばにいて引っ張ってやらなきゃいけないと思っていた。
その見方は、間違いなのだろうか?
「今アイツにそういう話がないのは、成人しているとは言え、私たちがまだまだ子供だから。それから、あなたがアイツの傍にいるからよ」
「……あたし?」
「ええ。少し調べればアイツの傍にあなたがいるのはすぐにわかる。そしてあなた達が幼馴染だということもね。アイツを魅力的に感じるような女に、そんなあなた達に割って入ろうとする気概は基本的にはないわよ」
「……」
「とは言え、あくまで基本的によ。ダメで元々、玉砕覚悟で動かない奴がいないとも限らない。そうなった時、アイツはどういう答えを出すかしらね?」
そう言われ再び考える。
彼と自分は、ただの幼馴染だ。優しい彼が、そういう誘いを受けたとしたら、戸惑いながらも受け入れるのではないだろうか。
「それに……」
今更ながらに不安を覚えた女武闘家を知ってか知らずか、女魔術師は
「私の見立てが間違いじゃなければ、アイツ、あなたの事を女として見てないんじゃない?」
「女として見てないっていうのは、あくまで仲のいい幼馴染とか、頼りになる仲間として見ているって意味でね……」
女魔術師の宥めるような言葉は、頭が白熱した女武闘家には届かない。
彼女は何かを探す様に、獣のように歯茎を剥き出しにし、目を吊り上げて辺りを睨み付けていた。
彼女の怒号を聞き、何事かと観察していた周りの客たちも、目をつけられてはたまらないと一斉に顔を背け目線を下げて縮こまる。
しばし酒場に沈黙が広がる。
カラン。
程無くしてその沈黙を破るようにドアベルが響く。
その音を聞きつけたのか、女武闘家は即座に入り口の方を振り返った。
入ってきたのは、彼女達の待ち人である青年戦士と盗賊商人だ。
「ちょっとあんた!!」
女武闘家はその身から発する怒りを表す様にずんずんといった足取りで彼らに近づいていく。
彼女の怒りを察したのか、青年戦士と盗賊商人の二人は思わず背筋を伸ばす。
女武闘家は二人の前に辿り着くと、盗賊商人のことなど目に入らぬとばかりに青年戦士を睨み付けた。
「あんた! 祭りの日の予定は決まってる!?」
「え、いや、特には……」
「だったら、あたしに付き合いなさい!」
そう言うと、彼女は大きく息を吸った。
「あんたにあたしの魅力、魅せつけてやるんだから!!!」
彼女のその勢いに気圧されたのか、無言で青年戦士は首をコクコクと縦に振った。
そんな彼の態度に満足したのか、彼女は鼻を鳴らす。
と、そこで頭が冷えたのか、彼の傍らにいた盗賊商人の表情を見て顔色を青くする。
盗賊商人は、いかにも面白い物を見たと言わんばかりにニマニマといった表情を浮かべていた。
そこで自分がとんでもない事を、とんでもない場所で言ったことを悟った彼女は、油の切れた蝶番のようにギリギリと店の中を振り替える。
女魔術師を筆頭に、店の中にいた客も店員も一様に自分を見ていた。みんな盗賊商人と同様の表情を浮かべていたのは言うまでもない。
「やるじゃない! こうしてはいられないわ。そうと決まれば今から準備よ!!」
「え!?」
そう言って女魔術師は女武闘家の手を取り、店の外へと駆け出していく。
「いやぁ、イイモン見たな!」
「若いっていいねぇ……」
「ボウズも頑張れよ!」
それに伴い店にも活気が戻っていく。
「……え?」
何が何やらまるでわかっていない、青年戦士を置き去りにして。