ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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『立派な騎士』

「……? ストップ!!」

 

 

 隠された通路の先をしばらく走った後。突然盗賊商人が制止の声を上げた。

 

 

「どうし……」

 

「シッ!!!」

 

 

 どうしたのか。そう問い掛けようとした青年戦士を盗賊商人は強く沈黙を促した。

 驚きながらも彼女を見るとピクピクと耳を動かしているのが見えた。

 1秒、2秒、誰も動けない時間が続く。荒くなった息、早くなった心臓の鼓動だけが鼓膜を震わせた。

 

 

「……追ってこない?」

 

「え?」

 

 

 そう言われ耳を澄ます。今まで近くで聞こえてきていた骨がぶつかり合う音が、今は遠くの方から微かに聞こえるのみとなっていた。

 

 

「……はぁー」

 

 

 冒険者達は安堵の息を漏らしその場に頽れた。

 ここはまだ敵地であり、安全になったとは限らない。そうはわかっていても気を抜かずにはいられなかった。

 

 

「……とりあえず少し休憩しよう」

 

「それはいいけど……。これからどうするの?」

 

「……後ろには戻れない以上、奥に行くしかないだろう。もしかしたらさっきの声の主が何か知ってるかもしれない」

 

「声? そういえばさっきなんか言ってたわね」

 

「ああ。さっきの壁の時にも聞こえたんだ。『そのまますすめ』って」

 

「ふーん……」

 

 

 女武闘家には聞こえなかったのだろう。青年戦士の言葉を胡乱気な態度で聞いている。

 とはいえ証明する手立てもない。故に。

 

 

「とにかく今は体を休めよう。話はそれからだ」

 

 

 

 

 

 

 

 休憩とはいえそんなに時間が取れる状況でもない。

 手持ちのポーションを服用し、比較的大きな傷に包帯を巻き、呼吸を整えたらすぐに行動することになった冒険者達は、すぐにその足を止めることになった。

 

 

「よく来てくれた」

 

 

 通路は短く、程無く最奥と思われる部屋へと辿り着く。

 そこには騎士甲冑を着た男が居た。

 

 

「まだまだ未熟ではあったが、見事な戦いぶりであったよ」

 

 

 ブルーのサーコートが印象的な鎧を纏い、古びた鞘に納められた長剣を携えている。

 ただ立っているだけだが、その立ち姿には一切の隙は見当たらない。

 また不思議な白い輝きを纏っており、本人の放つ覇気も合わさり自然と頭を垂れたくなるような雰囲気を纏っていた。

 

 

(というか白い輝き? もしかして……)

 

 

 そんなことを思うも、今はそんなことを考えている場合ではないと思い直し、青年戦士は声を掛けた。

 

 

「あなたですか? おれに声を掛けてくれたのは」

 

「如何にも。届いてよかったよ」

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「うむ」

 

「それで不躾なんですが、あなたはいったい……?」

 

 

 そう彼が問いを投げかけるも。

 

 

「騎士だよ。ただの騎士だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 そう答えられるのみだった。

 

 

「それより、君達は冒険者というものなのだろう?」

 

 

 はぐらかされているように感じるも、あまり気にすべきでもないかと思い、頷いて話を促した。

 

 

「冒険者とは人の頼みを聞き、それを叶えるものだと聞いた。相違ないか?」

 

「えーっと……まあ、あってる、かな?」

 

「では君達に頼みたいことがある。聞いてもらえるだろうか」

 

 そう言われ冒険者達は居住まいを正した。

 

 

「頼みと言うのは他でもない。彼らを眠らせてやってほしいんだ」

 

「彼ら?」

 

「君達が戦っていた者達だよ」

 

 

 その言葉にピンと来ると共に、青年戦士はその内容に目を見開いた。

 

 

「もしかしてスケルトンを倒せってことですか? おれ達には手段が……」

 

「わかっている。その手段は私が持っている」

 

 

 騎士はそう言ってその手に持った剣を鞘から引き抜いた。

 その剣は一見普通の長剣に見えたが、よく見ると普通ではない所があると気付く。

 

 

「これ……刃が潰されてる? まさかこれで殴れとでも?」

 

「まさか」

 

 

 青年戦士は思わず胡乱気な声を溢した。

 そんな彼の態度を気にも留めずに、騎士は彼に剣を差し出す。

 

 

「両手で持ち、顔の前に掲げるんだ」

 

「……こう、ですか?」

 

「うむ。そして祈ってみたまえ」

 

「い、祈る? 祈るって……どうすればいいんですか?」

 

 思わず青年戦士は一応聖職者でもある盗賊商人を振り返った。

 

 

「あー……ウチはこう、心の中で交易神を思い浮かべて集中すると、なんというか、繋がった感じがしたりするんだけど……わかる?」

 

「わからないです……」

 

 

 信仰者特有の感覚は、信仰に縁もゆかりもなかった田舎者に理解しがたいものであった。

 

 

「ふむ……では、君にとって大切なものを心に思い浮かべてみたまえ」

 

「大切なもの……」

 

「なんでもいい。敬愛する人。家族や友人。君の仲間達でもいいし、あるいは君にとっての宝物でも構わない」

 

「……」

 

 

 心の裡に自分の大切だと思うものを思い浮かべる。そうしていると握った剣から何かの意思を感じた気がした。

 

 

「よし。そのままこう思うんだ。『我が手に力を』と」

 

 

 そう念じた瞬間、剣が輝きを放ち始めた。

 

 

「おお……」

 

 

 神聖というのはこういうことを言うのだろう。青年戦士は自然とそう感じたのだった。

 

 

「その状態であれば彼らを浄化し、眠らせることができるだろう」

 

「それはわかりましたけど……こう言ってはなんですが、何故おれ達に? この剣があるのであればわざわざ人に頼む必要な無いような……」

 

「そうしたいのはやまやまなのだがな……」

 

 

 そう呟くと騎士は寂し気に俯いた。

 

 

「私にも思うところがあるのだ。できれば聞かないでほしい」

 

 

 騎士はそういうと再び顔を上げる。兜に隠された顔からは表情は読み取れないが、これ以上は話す気がないのは見て取れた。

 

 

「それでどうだろうか? 引き受けてはもらえないだろうか」

 

 

 

 

 

 

 答えは、(イエス)だ。それしかない。

 あのスケルトンをどうにかする手段を自分達は持たず、彼はそれを持っている。彼の力なくして自分達は生き残る術を持たない以上、彼の意向に沿うのが当然のことだった。

 そうでなくとも困っている人を助けることは間違いなく善行だ。何も悩むことなく引き受けるべきことなのだ。

 

 

「……」

 

 

 にも拘わらず青年戦士の口はそのように動いてくれなかった。

 青年戦士の脳裏にある情景が浮かぶ。

 

 

(今はこんなことを考えている場合じゃない。わかっている。わかっているんだ……)

 

「ちょっと?」

 

「どうしたの?」

 

 

 仲間達も彼の様子がおかしい事に気付いたのか声を掛けてきた。

 

 仲間達の事も考えれば自分の思いなど封じるべきだ。そのはずなのに。

 

 

(……クソッ)

 

 

 喉が干上がっていく。緊張で体が震える。

 

 

『お前がダサい格好してりゃ、一緒にいる嬢ちゃん達もダサい連中だと思われるんだよ』

 

 

 かつて重戦士に言われた言葉が脳裏に木霊した。

 

 

(ええいままよ!)

 

 

 覚悟を決め青年戦士は口をこじ開けた。

 

 

「……話は、わかりました」

 

「うむ。では」

 

「まだです!」

 

 

 青年戦士は鋭く制止の声を上げる。

 今から彼は不遜なことを言おうとしている。それがわかっている故、勢いをつけるために大きく息を吸った。

 

「まだおれ達の話が済んでいません」

 

「……どういうことだい?」

 

「冒険者は頼みを聞き、叶える者。そう言いましたが、実は少し違います」

 

「というと?」

 

「冒険者は依頼を受ける代わりに、報酬という対価を受け取るんです。あなたの頼み……依頼の報酬の話はまだついていません」

 

「報酬だと……」

 

 

 騎士は不愉快そうな声を漏らした。仲間達も驚愕の表情を浮かべている。

 当然だ。こんなこと今言うべきことではない。

 それでも青年戦士は更に言葉を紡ぐ。

 

 

「そうです。おれ達に、命を懸けるに足る報酬を提示してください」

 

 

 青年戦士は挑むように騎士を睨み付ける。決して引くわけにはいかないと再び大きく息を吸い込み、口を開く。

 

 

「それとも、あなたは今日あったばかりの見ず知らずのおれ達に、自分の願いのために命を掛けろと求める恥知らずなのですか?」

 

 

 

 

 

 青年戦士の脳裏によぎった情景。それは牧場防衛戦の時のゴブリンスレイヤーと槍使いであった。

 あの時槍使いは今の青年戦士のように、依頼を受けるためにゴブリンスレイヤーに報酬を要求していた。

 あれはゴブリンスレイヤーを助けるための、彼なりの大義名分を得るための行為だと思っていたが……

 

 

(もしかしたら、それだけじゃなかったのかもしれないな……)

 

 

 槍使いと少し付き合ってみればわかる。彼は決してゴブリンスレイヤーを見下したりなんかはしていなかった。むしろ認めていると言っていいだろう。

 

 もっともプライドの高い彼がそれを認める事はないだろうが……

 

 だからこそ、あの時のゴブリンスレイヤーが許せなかったのかもしれない。

 彼はあの時、結果的にとはいえ縋ろうとしていた。自分の認める男が、そんな情けない姿を晒そうとしていたのが許せなかった。

 

 だからこそ、依頼という体を取ることで、貸し借りなしの対等を保ちたかったのかもしれない。

 

 青年戦士も同じだ。

 そんな意図はないのだろうが、今この騎士は人の弱みに付け込んで自らの願いを叶えようとしている。

 

 青年戦士は、この『立派な騎士』にそのような真似はしてほしくなかったのだ。

 

 

 

 

 

「ハ」

 

 

 騎士はしばらく驚いたように黙り込んでいたが。

 

 

「ハハハハハ!!」

 

 

 程無く大笑いを始めた。

 

 

「成る程、成る程。然り、確かに然りだ」

 

 

 騎士は最後にくつくつと笑うと冒険者達に優雅な一礼を示した。

 

 

「──失礼した。冒険者達よ。持つ物少なき我が身であるが、依頼を受けてもらえるのであればそれぞれに出来る限りの礼をしよう。差し当っては、依頼を達成してくれた暁にはこの剣をそのまま差し上げよう。報酬としては不足ないと思うが……」

 

「おれはそれで大丈夫です」

 

 

 青年戦士はそう答えた。

 

 

「それなら……あなたはこの遺跡の事を知っていますよね?」

 

「ああ」

 

「でしたらその情報を私にくださらない?」

 

「それは構わないが……本当にそれでいいのか?」

 

「もちろん。私達は元々それが目的でここに来てますから。それに情報というものは価値あるものですわ、騎士様(ジェントル)

 

「成る程。では私が知る限りの事を話してあげよう。期待していてくれお嬢さん(フロイライン)

 

 

 女魔術師も意図を察したのか、そんな芝居染みたやり取りで報酬を求めた。

 

 

「それでそちらの二人は?」

 

「えーっと……」

 

「うーん……ウチとしては金目の物の方がうれしいんだけどにゃ……」

 

「金目の物……少し待ってくれ」

 

 

 そう言うと騎士は石碑の裏に回り──騎士に目を奪われていたせいで気にしていなかったが、石碑は最初からあった──跪いた。

 

 

「────」

 

 

 そして何かを呟いた後、何かを取り出した。

 

 

「これで大丈夫だろうか」

 

 

 そういって取り出したのは古びた袋であった。

 

 

「おお! 宝石! …………う、うう」

 

 

 中身は宝石であった。盗賊商人はそれを見て瞳を輝かせるも、すぐに悩むように唸り出す。

 

 

「……じゃあ、これを」

 

 

 程無く苦虫を嚙み潰したように表情を歪ませながら、宝石を一つだけ取り出して受け取った。

 

 

「ふむ? 別にすべてでも構わないが」

 

「戦士さんが言ったでしょう? 『命を懸けるに足る報酬を』って。ギルド的にどれくらいが適正かはウチにもわかりかねるけど、それは流石に貰い過ぎってのはわかるにゃ」

 

「……そういうものか」

 

「そういうものだにゃ」

 

 

 盗賊商人はそう言って交渉を終わらせた。

 

 

「うーん……やっぱりあたしはいいかな」

 

「しかし……」

 

「元々あなたの助けがなければあたしたちも打つ手がなかったですから。突然こいつがこんなこと言い出さなければ普通に頼みを聞くつもりでしたし」

 

「おまえな……」

 

 

 青年戦士の発言の意図がわかっているのか、わかっていないのかそんなことを言い出した。

 女武闘家は青年戦士をジト目で見遣り、青年戦士はそんな彼女を呆れたように見た。

 

 

「とにかく、あたしはこれで大丈夫!」

 

 

 こうなった女武闘家は折れない。

 長い付き合いでそれを理解した青年戦士は一つため息をついた。

 

 

「ま、まあそういうことなので、これで報酬の話は大丈夫です。少し貰い過ぎな気もしますが……」

 

「ふっ。ならばこう言おうか。ほんの心遣いだ。遠慮なく受け取ってくれ」

 

「……そういうことなら、遠慮なく」

 

 

 

 

 そう言うとお互い居住まいを正す。

 

 

「では、改めて依頼を引き受けてもらえるかな?」

 

「もちろんです。後の事は、冒険者にお任せあれ」

 

 

 依頼人は報酬を用意し、冒険者はそれを対価に依頼を受ける。

 ここになんの瑕疵無き契約は結ばれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで……最後だ!」

 

 

 青年戦士は輝く刃で持ってスケルトンの最後の一体を切りつけた。

 刃の光が移ったようにスケルトンが白く輝き、程無く崩れ落ちる。

 既に長い年月が経っていた故だろうか、或いはこの光の効果なのか、残されるべき骨もすぐに灰となった。

 

 数えきれないほどいたスケルトンたちだが、倒すことは簡単だった。

 

 

「彼らはここまでは入ってこない」

 

 

 騎士のその言葉どおりスケルトン達は通路のある一定の位置から入ってこようとはしなかった。

 それ故少しづつスケルトンを誘引し、一体ずつ対処すればいいだけだった。

 

 

「……ありがとう。後は私が知ることを語るのみだな」

 

 

 そう言って騎士は出口に向かって歩き出す。騎士と出会った部屋がこの遺跡の最奥だと聞かされていた冒険者達も彼のあとに続く。

 

 そうして騎士は様々な事を話し出した。

 

 ここがかつてとある国に存在した救国の英雄の墓であること。その英雄の祖国である神聖国家と呼ばれていた国の事。そして、守護者(ガーディアン)であったスケルトン達のこと。

 

 

「彼らは『不死の祝福』を受けし選ばれし勇士たちだ」

 

「祝福? ……ああいうのは()()と言うのでは」

 

()()だ。……気持ちはわかるがな。それでも、彼らにとっては祝福だったのだ。かの国において死してなお忠義を尽くせる。それは何よりの栄誉だったのだ」

 

 

 昔と今。或いは土地や情勢の違いか。

 かつてここに住まいし者達と、今を生きる自分達では価値観が違う。

 

 そんな当たり前の事を考えさせる騎士の話を聞いていると、ランタンの放つ炎の光とは違う光が前方から見えてきた。

 

 

「出口だな」

 

 

 冒険者達が遺跡に入った時は朝だったが、出る時にはもう日が暮れようという時間だった。

 ほんの半日探索をしていただけだが、それでも太陽の光というものは確実に彼らの心に安寧を齎してくれた。

 

 

「これで……いや、もう一つ頼みができたな」

 

 

 冒険者達が自らの生を実感していると、同様に太陽を見つめていた騎士がそう呟いた。

 

 

「私にはもう支払えるものがない。だから聞いてくれなくても構わない」

 

 

 騎士は独り言のように言葉を続けた。

 

 

「願わくば、どうか知っておいてほしい。覚えておいてほしい」

 

 

 

 

 

 私達はあの時、この世界で間違いなく生きていたのだと。

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に騎士は白い光の粉となり消えていった。

 

 

「……え? え!? き、消えちゃったよ!?」

 

「こうなるのか……。というかなんで驚いてるの? もしかして気付いてなかった?」

 

「いやぁ、なかなかできない経験だったにゃあ」

 

 

 そんな彼女らの姦しい声を聞きながら、青年戦士は左手を握りしめた。

 

 

「……忘れるわけないだろ」

 

 

 彼の手の内には譲り受けた直剣が収められた鞘が握られている。それを壊れんばかりに握りしめた。

 

 

「おれ達の冒険の記録(たからもの)だ。頼まれなくたって忘れるもんか」

 

 

 鞘はまるで壊れる気配はなく。変わらず形を保ち続けている。

 騎士がそこにいた証が、確かにそこにあったのだった。

 

 

 




祝福の直剣

アストラの直剣モチーフの武器。信仰不足だと剣としても扱えないってどういうことやねんということで刃が潰されている。

かつて存在した神聖国家にて信仰されていた神の祝福が込められている。
しかしその信仰も既に忘れられて久しく、力も大部分は失われている。
今は所有者の祈りに反応し、短時間僅かに光を取り戻すのみである。


ということでこれにて調査依頼はおしまい。

一応の設定。
登場した騎士はアストラのオスカーモチーフのキャラ。
ダークソウル世界では使命の途中で志半ばで倒れた彼だが、この世界では祖国が窮地に陥った際にそれを救うために王より命を受け、見事成し遂げ国を救い救国の英雄となった。

神聖国家アストラ。
騎士の祖国であり、アストラの直剣が神聖属性を帯びていたりすることを考えて、なんらかの神を奉じることを是とした国家。
国の方針か、神の教えか。信仰していた神の資料は残されておらず、詳細はわかっていない。
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