ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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3章最後のエピソード。都市依頼編
原作だと9巻最後に新米戦士と見習聖女の呼び名が変わるんですが、今作ではこの話から変えさせてもらいました。
あと黒曜等級昇級も明確にいつなったのかもわからないので、もう昇級してることにさせてもらいました。


不死教の街

 青年戦士は手に持った串焼きの肉をがじりと噛み付いた。

 口の中に芳醇なタレの味が広がる。

 冬を越せないと判断された年老いた家畜を潰して得られたという肉は硬く筋張り決して食べやすいものではない。

 それを青年戦士は力任せに噛み千切る。

 ブチブチと筋が切れる音と共に肉を口に取り込み、今度は口内で咀嚼を行う。

 その行為は人の食事としてはあまり質の高いものではないが、『喰らう』という生存本能の根本を刺激し、青年戦士に得も言われぬ充足感を齎した。

 

 

「~♪」

 

 

 愉悦に弾む心のままに下手くそな鼻歌を歌いながら借り物の遠眼鏡をのぞき込む。

 拡大された視界には、遥か遠くに広がる街並みと楽しげに笑い合う人々の姿が見えた。

 

 

「いかがですかな? ここから見える街の景色は」

 

 

 そう話しかけてきたのは今回の依頼人である教会長だった。

 彼もまた片手に遠眼鏡を携えている。

 

 

「最高ですね。遠眼鏡、ありがとうございます」

 

「いえいえ。こちらこそ依頼を受けていただきありがとうございます」

 

「何か困ったことがあるなら冒険者にお任せを、なんて。まあ流石になんでもはできませんが」

 

 

 苦笑しながら青年戦士はそんなことを言った。

 

 

 

 

 

 彼は今回とある街での都市依頼(シティーアドベンチャー)を引き受けていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの依頼終わり。

 いつも通りささやかながら宴を開き、無事生還できたことをお互いに祝っている時に彼らは現れた。

 

 

「よ、よう」

 

「こんばんは」

 

 

 そう声を掛けてきたのは新米戦士と見習聖女──いや、棍棒剣士と至高神の聖女だ。

 彼はいつの頃からか棍棒と長剣の二刀流という特異なスタイルを取るようになり、面白がって周りがそのように揶揄するようになっていた。

 彼女も少し信仰者としての位階(レベル)が上がったのか、見習い扱いされなくなっている。

 

 久しぶりに見た彼らには少し変わったところがあった。

 首に掛かる認識票(プレート)が白から黒へと変わっていたのだ。

 彼らも無事黒曜等級へと昇級できたらしい。

 

 

「久しぶりだな。どうしたんだ?」

 

「あー……」

 

 

 問いかけられた棍棒剣士は気まずそうに言葉を濁し顔を逸らす。

 そんな彼の横腹を何かを促す様に聖女が肘で突いた。

 

 

「とりあえず、座ったらどうだ」

 

 

 何か事情がありそうだな。

 そう思った青年戦士は落ち着いて話ができるように座ることを勧める。

 

 

「お、おう。ありがとう」

 

 

 渡りに船とばかりに棍棒剣士は席に着く。

 そんな彼の態度に呆れたようにため息をつきながら聖女も席に着いた。

 

 

「で?」

 

「え?」

 

 

 まずは緊張をほぐすためにしばらく宴会を続け、それなりに落ち着いたと思ったところで話をするように促した。

 

 

「え? じゃないよ。何か話が合ったんだろ」

 

「う……」

 

 

 そう問い詰めるも棍棒剣士はなおも言い淀む。

 

 

「いい加減諦めなさいよ。あんたが悪いんでしょ?」

 

 

 流石に見かねたのか聖女が口を挟んできた。当たり前だが彼女は事情を知っているらしい。

 それを受け棍棒剣士も覚悟が決めるように胸に手を当てて深呼吸をする。

 それからパン! と音を立てて手を合わせた。

 

 

「頼む! 手伝ってくれ!!」

 

 

 そして青年戦士を拝みながらそう懇願したのだった。

 

 

 

 

 

 

 彼らの話はこうだ。

 とある街で毎年冬に行われる恒例の祭りがある。

 その祭りの名は『不死の英雄祭』と言い、かつて存在したという英雄に肖り、彼の英雄譚の旅を真似ることにより疑似的に英雄を産み出し、厳しい冬という苦難の、そして翌年の守護を願うという祭りらしい。

 

 そしてその祭りのメインイベントは、最後に『王』と呼ばれる敵役と英雄役が戦い、英雄側が勝利することによって新たな英雄の誕生を祝うというもの。

 

 

「でも最近は盛り上がりに欠けるらしいんだ」

 

「盛り上がりに欠ける? 面白そうな祭りだと思うんだけど……」

 

 

 そう疑問を呈すも、その答えを聞いて納得した。

 

 要するに、『王』とはやられ役なのだ。

 

 負けるとわかっている役をやりたがる者は少なく、ようやく見つけた引き受けてくれる者も義務的に熟すばかりで、英雄の誕生という熱狂を表現するには役者不足だという。

 

 それでも祭りというだけで楽しいものだし、所詮はただの恒例行事。そうして産み出された英雄が本当に助けてくれるわけでもない。

 それはわかっているが、やはり依頼人としては本気で行い、伝統を継いでほしいと願っているという。

 

 

「そんなふうに話してる依頼人……その街の教会長さんと会ってな。その時に勧めちゃったんだよ。冒険者に頼んでみたらって」

 

 

 冒険者であれば、依頼という形で引き受けたのであれば、それは仕事となる。

 そして依頼を引き受けておきながら、依頼人の意向に沿わずにいい加減に済ませるとなれば自分の評価にかかわる。

 それ故相応の働きは期待できる。

 なるほど。理にはかなっているように思えた。 

 

 そしてそれを真に受けた依頼人が英雄役と敵役両名の募集をかけたという。

 それを近くで見ていた棍棒剣士はこれ幸いと早速英雄役に立候補し、引き受けた。

 

 しかしその後に誤算が──これを誤算と言えるかは甚だ疑問だが──起こった。

 

 敵役に立候補する者が現れなかったのだ。

 

 当たり前だろう。

 冒険者とは多かれ少なかれ総じて自信家だ。自分に自信があるから『危険を冒す』ような生業を選んだのだ。

 当然相応にプライドが高く、仕事とはいえ負けるようなことを許容できようはずもない。

 依頼を受けたのであれば、相応の働きをしなければならない。逆に言えば、依頼を受けなければそんなことは関係ないのだ。

 

 

「お前が敵役をやればいいんじゃないか?」

 

「そう思うでしょ?」

 

「……」

 

「お前な……」

 

 

 その問い掛けに棍棒剣士は沈黙を持って答えとした。

 プライドが高いのは彼も同じの様らしい。

 

 こんな態度を取ってはいるが、聖女によれば一応どうしても見つからなければ自分が敵役を受け直すつもりではあるという。

 それでも、万が一に賭けてこうやって打診をしにきたという。

 

 

「それで、どうかな?」

 

「……」

 

 

 聖女がそう改めて問いかけてくる。棍棒剣士は何も言ってこないが、それでも期待をするような目を向けてきている。

 

 

「いいよ」

 

 

 そんな二人に青年戦士はあっけらかんといった感じであっさりと了承の返事を返した。

 

 

「い、いいの? 無理してない?」

 

 

 受けてもらえないと思っていたのだろう。聖女は狼狽えた様に聞き直した。棍棒剣士も驚いた様に目を見開いている。

 

 

「別にここで負けてもなんかあるわけじゃないしな。友達のために一肌脱ぐのも悪くないだろ」

 

 

 普通ならば確かに受けないのかもしれない。

 しかし青年戦士にとって、自分は大した人間ではないという思いが既にあった。

 故に敗北を不名誉と思うことはなく、それどころか友人の力となれるのならば頼みを引き受けることに否やはなかった。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 今までの自分の態度に思うところがあったのか、棍棒剣士は居住まいを正し、深々と頭を下げて礼を言った。

 青年戦士はそんな彼に手を振りながら話の先を促した。

 

 

「いいって。それより、その街はどこにあるんだ?」

 

「あ、ああ。俺達の故郷の近くにある街でな。『不死教の街』とも呼ばれている場所だ」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな経緯があり、青年戦士はその『不死教の街』に訪れていたのであった。

 

 この『不死教の街』は小高い丘に作られたそれなりの規模の街だ。

 丘の頂点に街の規模に似つかわしくない大きな大鐘楼付きの教会が建てられ、そこから円状に発展していったような街だった。

 

 青年戦士は今、教会の屋上であり、大鐘楼をつなぐ通路にもなっている部分に立って街を見下ろしていた。

 遠眼鏡の向こうでは棍棒剣士が街のあちこちを走り回っているのが見える。

 

 教会長曰く、彼は今『不死の英雄』の旅の模倣をしているという。

 本来ならば世界中を巡り、根の国や死者の国とも呼ばれる地下にあるという国まで赴いたというかの英雄だが、流石にそんなことを真似るわけにもいかないので、街の特定の場所を巡ることでそれを模しているという。

 またそれぞれの場所で試練を熟すことで力を示し、英雄として相応しい力を示した者に道具や装備を与えたという伝承も真似ることで、英雄役を英雄に相応しい格好をさせていくらしい。

 

 

「……あれ、大丈夫なんですか?」

 

「あはは……」

 

 

 そんなことをしている棍棒剣士を眺めていた青年戦士は思わずと言った感じでそんな声を漏らした。

 青年戦士のその言葉に教会長も苦笑を溢す。

 

 棍棒剣士が今行っているという試練はそれぞれ、力の試練、技の試練、知恵の試練とされている。

 

 力の試練では肉体的な強さを。

 技の試練では器用さなどの感覚を。

 知恵の試練では知識や発想力を問うという。

 

 力の試練はよかった。流石は前衛職の冒険者、この程度はなんてことないと余裕綽々といった感じだった。

 次の技の試練はまあまあ、といったところだった。力の試練程ではないが力を示すには十分だっただろう。

 だが知恵の試練は悲惨の一言だった。周りの人々はそんな彼を見て面白いものを見たと笑い、心配そうに彼について回っていた聖女も頭を抱えていた。

 

 

「……」

 

「……どうかされましたかな?」

 

「いえ……」

 

 

 棍棒剣士もそんな周りの反応を受け、誤魔化す様に頭を掻いて笑っていた。

 そんな彼を見て、青年戦士は心がざわつくのを感じた。

 

 この感情はなんだろうか。しばらく自分に問いかけていると、ふと気づいた。

 

 

「なるほど……」

 

 

 感情の正体は、苛立ちであった。

 棍棒剣士は『英雄』だ。この祭りの間だけであろうとも『英雄』なのだ。

 にも拘わらず彼はその自覚がないように思えた。

 

 

 自分はあんなものに負けないといけないのか……? 

 

 

 そう思うと流石に苛立ちを感じざるを得なかった。

 

 しかしこれは依頼。仕事だ。

 手を抜いたりするわけには……

 

 

(いや待てよ?)

 

 

 何かを思いついた青年戦士は教会長へ訊ねた。

 

 

「教会長さん」

 

「なんでしょう?」

 

「おれへの依頼は、『王』として『英雄』に敗れる事。そうですね?」

 

「ええ、そうですが……」

 

「つまり、最終的に負ければその過程は問わない?」

 

「まあ、そう、ですな。……あの? いったいなにを?」

 

「なにちょっと思いついたことがありましてね。その確認ですよ」

 

 

 そう言う青年戦士の顔には笑顔が浮かんでいた。

 

 

 女武闘家がこの場に居れば懐かしさを覚えながらこう言っただろう。

 

 いたずら小僧が久しぶりに顔を出したと。

 

 

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