ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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旧きの終わりと新しきの始まりと

「旧年はお仕事お疲れさまでした! 無事生き残れたことを祝して、乾杯!!」

 

 

 幾度目かもわからない乾杯の音頭がギルド併設の酒場に響く。

 

 現在は新年初日の日の出前といったところ。先達曰く毎年恒例だという大宴会の真っ最中だ。

 酒場には今辺境の街にいる全冒険者が一堂に会しているせいで大混雑となっていた。

 

 前年の己の武勇伝を高らかに主張する者。

 今年の活躍を今から予言するお調子者。

 そして、かつて存在して、今はもういなくなってしまった者達を偲びながら酒の肴として笑い合う者達。

 

 笑って叫んで涙して。そして最後には再び乾杯を交わして笑顔へ戻る。

 かつての成功を祝し、或いはかつての悲劇を乗り越え、より良き未来へと辿り着けるように。

 冒険者達はどんちゃん騒ぎを繰り返す。

 

 

「いやぁ、すげえな」

 

「ほんとね」

 

 

 もちろん青年戦士達一行も宴会へと参加していた。

 青年戦士と女武闘家はそんな酒場の様相に戸惑いの声を上げる。

 故郷でもこういった新年祭のような物は勿論あったが、所詮は百人もいるかどうかといった田舎の農村。そんなところでここまでの規模になるはずもなく。

 一年近く冒険者として辺境の街で過ごしたとは言え、流石に空気に乗り切れずにいた。

 

 

「どうしたのかにゃ?」

 

 

 そんな二人に盗賊商人がそう声を掛ける。

 ちなみに女魔術師は既に酔いつぶれ、いつかのようにジョッキを握りしめながらテーブルに突っ伏して眠りこけていた。

 

 

「いや、改めてすごい熱量だなって思って」

 

「ああ」

 

 

 青年戦士のその言葉に盗賊商人は納得の声を漏らした。

 

 

「そうだよねぇ。ウチも初めての時はびっくりしたもんだにゃ」

 

 

 そう言って盗賊商人は懐かしそうに眼を細めた。

 

 

「まあ、その辺はみんな通る道だにゃ。みんなもそのうち慣れると思うにゃ」

 

「そんなもんですかねぇ……」

 

「そんなもんそんなもん。これからこれから」

 

 

 盗賊商人はそう言ってグビリと酒を飲み干した。

 

 

 

 

 

(これから、か……)

 

 

 盗賊商人は何気なく使ったであろうその言葉が青年戦士の心に波紋を生んだ。

 

 

(おれはこれからどうなる……いや、どうしたいんだろうな)

 

 

 青年戦士にとって冒険者という職や立場に特に思うところはない。

 農家の次男として生まれ、継ぐ家も土地も財もない故、生きる糧を得るための手段として冒険者を選んだに過ぎない。

 せっかく得た戦う力を使いたいという思いがないでもないが、基本的にはいつか辞めるつもりの腰掛けに過ぎないと思っていた。

 

 それ故目的意識というものが希薄だ。

 輝かしき未来のことを考えた時、明確な情景が何も浮かばない程度には。

 

 

 まるで(ひかり)無き暗闇にいる気分だ。

 

 

 そんなふうに思い、青年戦士は心に影を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさーん! 日が上がったみたいですよー!!」

 

 

 青年戦士がそのように考え込んでいると、そのような言葉が聞こえてきた。

 

 

「日の出だって! 見に行きましょ!」

 

「ちょ!?」

 

 

 突然不意打ち気味に女武闘家に腕を掴まれ、青年戦士はたたらを踏むように立ち上がった。

 

 

「いってらっしゃい。ウチらはここで待ってるにゃー」

 

「そう? じゃ、行くわよ!」

 

 

 女武闘家はそう言って走り出す。当然掴まれている青年戦士も引き摺られるように駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

「眩し……」

 

 

 白。酒場を出て初めに思ったのは、それだった。

 昨日降っていた雪が地面に積り、それが風に巻き上げられ太陽の光を乱反射させ、視界を塗り潰していた。

 

 

「うわぁ……!!」

 

 

 眩しさに目を細め、掌で(ひさし)を作っている青年戦士の隣で、女武闘家が感嘆の声を上げる。

 

 

(こいつは相変わらずだな)

 

 

 眇めた目に映る彼女の姿は、子供の頃から比べれば随分と大きくなり、女らしくなった。

 にも拘わらず、その振る舞いは子供の頃から変わらない。その事実に青年戦士は思わず笑みをこぼした。

 

 

「……なによ」

 

「なんでもないよ」

 

 

 自分が笑われていることに気付いたのだろうか。女武闘家は口を尖らせた。

 そんな彼女が面白くて青年戦士は今度こそクツクツと笑い声を漏らす。

 

 

「もぅ!」

 

「ハハッ!」

 

 

 そんな青年戦士に、照れ隠しなのか女武闘家は彼を叩き始めた。

 しばらくじゃれ合いのようなやり取りをしていたが、ほどなく満足したのか女武闘家も同じように笑い声をあげ始めた。

 

 

「……さて、そろそろ戻ろうぜ。宴もお開きにして休もう」

 

「そうね。……そうだ!」

 

 

 酒場に戻ろうとする青年戦士の背中に、女武闘家が何かを思いついたかのような声を投げかけた。

 何かと思い、青年戦士が振り返ると。

 

 

 

「今年もよろしく!」

 

 

 

 そこには、彼女の背後に浮かぶ太陽にも負けないような輝く笑顔があった。

 

 その時、青年戦士の心の闇に一筋の光が差した気がした。

 

 

 

 

「……」

 

「なによ? なんか変な事言った?」

 

「いや……」

 

 

 青年戦士は自然と口の端が持ち上がっていくの感じる。

 何がしたいのか、どうなりたいのか、そんなことはまだわからない。

 それでも。

 

 

(また来年も、こいつとこんなふうに過ごせたらいいな)

 

「なんでもないよ。こっちこそ、今年もよろしく」

 

 

 青年戦士は、そんなことを思ったのだった。

 

 

 




これが3章最後のお話!
長かった…。

彼らはこれからも今までと同じようにいろんな仕事したり、いろんな場所へと出向いたりします。

東に助けを求める人がいれば飛んでいき、西に未知や謎があると聞けばいそいそと出かけ、南に面白いものがあると情報を仕入れれば物見遊山へ出向き、北に巨悪の影ありと聞けばイヤイヤながら討伐に出かける。

安全第一を活動指針として、討伐依頼はできるだけ避け、他の冒険者があまり見向きしないような地味な依頼を受け続けるような便利屋として活動していきます。
それゆえギルドからの信頼厚く、ゴブスレさん並に昇級していく予定です。

あと一話神の座の様子を描いて最終章に入ります。
よければ最後までお付き合いください。
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