ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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物凄く難産だった…


Last Ash‐薪の王‐

 異形の同胞の協力を得て、我らは怪物達に勝利することができた。

 怪物の多くは駆逐され、残った奴らもどことも知れぬ場所へと逃げていった。

 差し当っての平穏を我らは手に入れることができた。

 

 

 そして平穏を機に、我らも袂を分かつこととなった。

 

 

 我は子供達を見守るために天に国を築くことにした。

 

 魔女は子供達の近くで力となるために地下に国を創ることになった。

 

 そして死の王も命尽きた者達のための安息を約束する死者の国を治めることとなった。

 

 頼りとなる仲間がいなくなるのは少し不安を覚える。

 しかしそれ以上に未来への希望に胸が高鳴る気分だった。

 

 

 

 穏やかで暖かい蜜月の日々が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふ……フハッハハハァ!!!」

 

 

 吹き上がる炎の柱を前に老爺が哄笑を響かせる。

 初めは噴き出す様に。それが抑えきれず漏れ出すような笑いへと変わり、ついには隠す必要などないとばかりの哄笑へと変わっていく。

 それはさながら、闇に隠された物が『(ひかり)』に暴かれるかのようであった。

 

 

「な、なに!? なにをしたの!?」

 

 

 女魔術師がそう声を上げた。

 その言葉に老爺がこちらへと向き直る。その顔には様々な感情が浮かんでいた。

 

 歓喜。侮蔑。愉悦。苛立ち。興奮。焦り。

 

 名状しがたき表情。ただ、それでも表情を評するとするならば、混沌。

 混沌に堕ちた研究者の姿がそこにあった。

 

 

「なにをした? なにをした、だと? 冒険者風情が、この儂に舐めた口を利きよって……。じゃが、今の儂は寛大じゃ。許してやろうじゃないか」

 

 

 そう言うと老爺はまるで見せびらかす様に大きく両腕を広げた。

 

 

「これは、復活の儀式。薪の王の復活の儀式じゃ。ここには最初から危険などない! 貴様らは、この儂の偉業の証人として呼びつけてやったのじゃ!!」

 

 

 老爺は再び高らかに哄笑を響かせる。

 

 

「……?」

 

 

 青年戦士はその笑いに違和感を感じた気がした。

 まるで子供が本当は悲しいのに、強がって笑い飛ばしているような。

 そんな気配を感じた気がした。

 

 

「薪の王……? それって与太話って話じゃ……?」

 

 

 女武闘家がそう疑問を漏らす。

 その声が聞こえたのか、老爺がギロリと目を彼女へと向けた。

 

 

「与太話じゃと!? 戯けぃ!! 薪の王は確かに存在するのじゃ!! なぜそれがわからん!?」

 

 

 老爺が突然堰を切ったように怒鳴りつけてきた。

 

 

「どいつもこいつも、この儂を嘘つき呼ばわり! あまつさえボケ老人じゃと……? バカにするでないわ!!!」

 

 

 老爺はしばらく息を荒げていたが、程無く大きく息を付いた。

 

 

「……まあよい。何が正しいのかは、すぐにわかる!!」

 

 

 その言葉を最後に再び老爺が火柱の方に向き直る。気付けば、火柱の中に何かの影が揺らめいていた。

 

 

「見るがいい! この儂の偉業を!! そして!」

 

 

 その言葉に呼応するように火柱が収まりはじめ、揺らめく影が確かな像を結び始めた。

 

 

「薪の王の復活を!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──は?」

 

 

 炎の中から現れた存在を見てそんな疑念に満ちた声を漏らしたのは誰だっただろうか。

 

 

「あれが……薪の王?」

 

 

 炎の中から現れたのは、輝かしき装備を身に纏い、威厳に満ちた王と称するに相応しい存在、ではなかった。

 その存在は今しがたの炎に巻かれた故か、はたまた最初からそうであったのか、焼け爛れ歪んだ騎士甲冑を纏っていた。頭部にも異形の王冠のようなフルフェイスの兜を被っており、その姿からは男か女かもわからない。

 立ち姿も猫背のように俯き、威厳とは程遠い。むしろ疲れ果て項垂れている苦労人と言ってもいいかもしれなかった。

 いずれにせよ、王と呼ぶにはあまりにも見窄らしい姿であった。

 

 

「なんじゃ貴様は!?」

 

 

 老爺の怒声が広間へと木霊する。

 

 

「儂は薪の王を呼んだのじゃ! 貴様のようなどこの馬の骨ともわからん奴を呼んだわけではないわ!! 薪の王とは、もっと偉大で、優雅で、雄々しくて……」

 

 

 彼の理想なのだろうか。思う限りの美辞麗句を並べる老爺の怒声が広間に木霊した。

 騎士甲冑を纏う誰か──違うのかもしれないが、薪の王はそれを聞いているのかいないのか。微動だにせずに立ち尽くしたままだ。

 

 

「えーっと……どうしよっか?」

 

 

 女武闘家が気が抜けたように青年戦士に問いかけた。他の仲間達もどこか弛緩したような雰囲気を漂わせている。

 青年戦士としてもどう対応するのが正解なのかはわからない。とりあえず、老爺に声を掛けようとした時だった。

 茫洋と立ち尽くすだけだった薪の王の手がピクリと動いた気がした。

 

 

「!! おい! 離れろ!!」

 

「離れろ!? なぜこの儂が貴様なんぞに指図されなければならん!?」

 

 

 完全に頭に血が上っているのか、無警戒に冒険者達の方へと振り向く老爺。

 

 

「どいつもこいつも儂をバカにしおって! この儂を誰だと思っている!? 儂は薪の王を復活させる偉大なぁ!???」

 

 

 老爺の怒声が突然驚愕の声に変わる。当然だろう。突然自分の胸から剣が突き出すような目にあって驚かない奴はいない。

 

 何が起きたのか。青年戦士達はそのすべてを見ていた。

 

 薪の王が地面に突き立てられていた螺旋の剣を引き抜き、その剣で持って老爺を何の躊躇もなく背後から貫いたのだ。

 

 

「ゴホッ!? ナニが!? グゲッ!?」

 

 

 薪の王はそのまま老爺を蹴り飛ばし、剣から老爺を引き抜いた。

 

 

「わし、は……」

 

 

 老爺がなおも言い募ろうとするように僅かに言葉を漏らし、動きを止める。

 薪の王の復活を企んだ老爺は、その言葉を最後にあっけなく事切れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……どうする?)

 

 

 青年戦士は自問した。

 依頼人死亡により、護衛依頼は失敗。

 これ以上彼らがここに留まる意味はないと言えるだろう。

 もちろん護衛に失敗しておいて、その原因となった相手の討伐もせず逃げるような真似をすれば、無能や臆病者の謗りは免れないだろう。

 とはいえ、彼らにとってあまり名誉というものはそこまで重視するものではない。『命大事に』こそが彼らの信条だ。

 それに今回の依頼は所謂『騙して悪いが』というものに該当すると言っていいものだった。依頼人にも問題があり、一概に彼らに問題があったと思われることもないと思われる。

 

 

(なら、逃げるか)

 

 

 必要ならば命を懸ける事も厭わないのが冒険者。逆に言えば必要もないのに命を懸けるわけではないとも言える。

 戦って得られる物がない現状、未知の敵(薪の王)と命を懸けて戦う意味はない。

 

 そう判断し、撤退の指示を出そうとしたその時だった。

 

 

「な、なにこれ!?」

 

 

 青年戦士の背後で困惑と驚愕に満ちた声を盗賊商人が上げた。

 

 

「入り口に白い霧!? ……出られない!!」

 

「なんだって!?」

 

 

 その言葉を聞き、青年戦士は思わずそちらを振り向いた。広間に入るために潜った入り口には確かに白い靄が掛かり、そこに盗賊商人が手を押し付けていることから壁のようになっていることが伺えた。

 

 ガチャリ。

 

 微かに聞こえた金属音。その音で敵から目を離していたことに気付き、青年戦士は慌てて薪の王に向き直る。

 薪の王はこちらに対し、敵対しようとしているように見えた。ただその動きはどこまでも緩慢で、億劫そうだった。

 

 戦うか、逃げるか。

 

 その選択肢から、逃げるの択は失われた。ならば、成すべきは一つ。

 

 

「やるぞ! 構えろ!!」

 

 

 戦って、生き残る。

 青年戦士は仲間に指示を出しつつ、誰よりも前に出るべく駆け出した。

 

 その動きに反応するように、薪の王の気配が濃密なものに変わる。圧力がのしかかる。

 

 その存在感は王と呼ぶにふさわしい。

 

 

 薪の王が、ここに蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(縦!)

 

 

 剣先どころか剣身すらも霞む神速の振り下ろし。

 それを身体一つ分ズレることにより、躱す。

 

 

(薙ぎ払い!!)

 

 

 薪の王は僅かな足捌きと体捌きのみで、空振りの体勢を横薙ぎの構えに整える。そこから再び放たれる神速の一閃。

 青年戦士は今度は躱せぬと盾を構えて腰を深く落とし、膝の屈伸を活かして重く柔らかくその一撃を受け止めた。

 

 

(突っ…きぃ!?)

 

 

 連撃は止まらない。横薙ぎの勢いそのままに、今度は剣を肩に担ぐ。

 

 刹那の溜め。放たれるは強弓の一矢。

 

 青年戦士はその一撃を身体を反らすことによって躱そうとしたが、直前に過ぎった悪寒に従い無理矢理盾受けに切り替える。

 

 

「グッ…ウゥ……!!!」

 

 

 その判断は功を奏した。薪の王は突きの直後、ぶちかましのような踏み込みと共に切り上げを放ってきた。

 それを構えた盾で受ける。体勢の整わぬ状態で受けたが故に衝撃を受けきれずに手首を痛めたが、その程度で済んだ。

 もし身体を反らすことで躱していれば、踏み込みで体勢を崩され、切り上げで切り裂かれていたことだろう。

 

 切り上げの力を利用して、弾かれるように青年戦士は後ろへと下がり、距離をあけた。

 

 

(強い……!!)

 

 

 青年戦士は態勢を整えながらもそう思案する。

 

 打ち合わせてわかった。薪の王は、確実に自分より強い。

 

 力も、技量も、速さも負けている。幸運があるとすれば、戦い方が似通っていたということだろうか。

 薪の王の戦い方は極めて単純なものだった。

 

 単純な戦い方とはすなわち、基礎的な攻撃を繰り返すというもの。

 

 縦振り、横振り、斜め切り。そして突き。

 ただそれらを極限まで極め、その時々に応じて適切な攻撃を選択する。ただそれだけ。

 それだけだが、能力の高さが対処を困難にしており、それだけなのに恐ろしく強い。

 

 青年戦士も同じようなことをしているが、それはあくまで彼に才能がないが故の苦し紛れからくることだ。

 

 青年戦士は応用(アレンジ)をしない。攻撃の質が下がり、かえって弱くなるから。奥義(オリジナル)も持たない。通用しうる技を考える才がないから。

 

 ただ愚直に基礎を繰り返すのみだ。それぐらいしかできることがないのだから。

 

 それに対して薪の王は違う。この存在の考えはもっと単純(シンプル)なものだろう。

 

 小細工など、無用。

 

 その思想が痛いほど見て取れた気がした。

 

 

 

 

 薪の王も彼我の実力差を理解したのだろう。再び青年戦士へと襲い掛かる。

 

 

「グ……!!」

 

 

 小さく、鋭く、迅く。一切の油断もなく、愚直な攻撃を繰り返す。それだけで青年戦士は傷ついていく。

 同じような戦い方と言っても完全に同じという訳ではない。その誤差が読み違えを生み、読み違えが対応の遅れを生む。

 

 このままいけばそう遠からぬ未来、青年戦士はこの地に骸を晒すこととなるだろう。

 

 

 

 彼が一人で戦っているのであればの話だが。

 

 

 

「!?」

 

 

 青年戦士の背後から突如炎が吹き上がる。薪の王から驚愕の気配が漏れた。

 吹き上がった炎は青年戦士を避けるように弧を描き、薪の王へと襲い掛かる! 

 ……かのように見えた。

 

 

「スゥ……」

 

 

 微かな呼吸音。いつの間にか青年戦士の傍ら、炎が奔ったように見えた逆側に女武闘家の姿があった。

 

 吹き上がる炎の幻影の正体は、女武闘家の手妻だ。

 

 金糸で縁取られた緋色の衣を纏う女武闘家があえて気配を濃くし、揺らめくような大きな動きをすることで、脅威のある炎のように見せかけたのだ。

 襲い掛かるような動きをした後、今度は一気に気配を消し迅速に切り返し、自分の優位を取れる位置に陣取る。その際に衣の各所についた飾り紐が女武闘家が動いた軌跡のように残り、それがまた敵手の気を散らす。

 効果の程は、敵の練度(レベル)にもよるが、僅かな時間敵の注意を反らすといった程度のもの。人によっては無意味と断ずるかもしれない程度のものだ。

 

 だが達人(マスタークラス)と呼ばれるに至った女武闘家にとっては、そんな僅かな時間があれば十分だった。

 

 

「シッ!!」

 

 

 鋭く吐かれる呼気。気勢に反して踏み込みは猫足のように静かに。腰溜めにされた拳はゆっくりと言えるような速度で放たれた。

 知らぬ者が見れば、武を知らぬ女のか弱い抵抗のようにも思えるその一撃。

 

 その一撃には本当に人間に出せるのかと疑いたくなるような威力が乗っていた。

 

 

 

ゴガン!! 

 

 

 

 強振(フルスイング)した大槌が直撃したかのような轟音と共に、薪の王が吹き飛ばされた。

 

 

「……浅い!!」

 

 

 しかしその結果に女武闘家が不満の声を漏らす。

 この一撃は、本来であれば漏れ出る音すら変換した威力のすべてを敵へと叩きこみ、その場で粉砕するという必殺の一撃だ。

 にもかかわらず吹き飛ばされたということは、威力を殺されたという事だ。

 

 

 

 流石にこの一撃で女武闘家が脅威足りうると判断したのだろう。薪の王は今度は女武闘家へと襲い掛かる。

 

 

「させるか!」

 

 

 当然青年戦士は割り込み(インターセプト)をかける。忌々し気な雰囲気を漂わせつつ、薪の王は再び青年戦士へと標的を変えた。

 

 格下と判断した青年戦士など無視すればいいと思うかもしれない。しかしそうできない理由が薪の王にはあった。

 

 その理由とは、青年戦士の右手に携えられた剣だ。

 

 確かに青年戦士の技量は大したものではない。しかしその装備は決して侮っていいものではなかった。

 また青年戦士の大したことのないという技量も、流石に背後から切りつけられて対応できるほど甘いものではない。

 

 なんにせよ、青年戦士は薪の王からある程度の脅威と認められていた。

 

 

 

「これはどうかしら!」

 

 

 青年戦士と薪の王が打ち合っているところに女魔術師が横槍を入れてくる。

 

 放たれた魔術は『力矢(マジックミサイル)』。

 

 基礎的な魔術と言っていいはずのそれは、熟練の魔術師の業により改変(アレンジ)され、数多放たれる矢を束ねたような、太く長い槍を放つ魔術となっていた。

 

 

「いけ!!」

 

 

 裂帛の気合と共に必中の槍が放たれる。

 

 

カァン!! 

 

 

 突如として甲高い金属音が広間へと響き渡る。

 どこから取り出したのだろう。いつの間にか薪の王が左手に盾を構えていた。

 その盾で持って魔法を防いだのだろう。

 

 

「……抵抗(レジスト)された!?」

 

 

 女魔術師の言う通り、あまり魔法が効いているようには見えなかった。恐らく青年戦士の持つ盾と同様、魔法に抵抗する加護のある魔法の盾だったのだろう。

 

 気に留めるべき重要な情報。だがそれ以上に重要なことがあった。

 

 

「気をつけろ! 盾が取り出せるという事は、他の武器を取り出せてもおかしくはない! 見た目に騙されるなよ!!」

 

 

 どこからともなく盾が取り出せるという事は、別の物も取り出せてもおかしくない。

 剣を持っているからと言って距離を取って安心していれば、突然取り出した槍で持って奇襲される。

 そう言う事態を警戒して青年戦士は仲間へと警告を出した。

 

 青年戦士は再び薪の王の妨害をするために相対する。

 最大限の警戒を持って薪の王を注視していると、薪の王は唐突にその手に持つ武具を消した。

 

 

「……?」

 

 

 意図がわからずその場に留まりながら警戒を続けていると、今度は手に炎を纏い始めた。

 薪の王はその手を顔の前に掲げ、祈るような仕草をする。

 

 

「……!! 離れて! 範囲魔法よ!!」

 

 

 女魔術師の警告が耳に入った瞬間、青年戦士は膝から力を抜いた。

 後ろへと倒れようとする身体に逆らわず、そのまま後転(ローリング)して距離を取る。

 

 

(……ダメか!)

 

 

 青年戦士は後転(ローリング)の状態から態勢を整えながらそう直感する。

 薪の王の魔法の発動間近故だろうか。危険の気配が感じ取れた。

 だからこそわかる。

 

 自分は未だに危地を脱していないと。

 

 青年戦士が盾を掲げる。薪の王が炎に包まれた手を地面に叩きつける。

 

 

 

 そして幾本もの火柱が吹き上がる炎の嵐が現れた。

 

 

 

「あっづ……!!」

 

 

 火柱の直撃はしなかった。それでも吹き付ける熱波が確実に青年戦士に焦がす。

 

 

(直撃したら死んでたな)

 

 

 視界の隅に巻き上がる灰を横目にそう思う。

 

 その灰は吹き上がる火柱の直撃を受けた老爺の亡骸の成れの果て。

 

 一瞬で肉体は焼き尽くされ、灰と化していたのを青年戦士は見ていた。

 炎の災いを防ぐ魔法の盾を装備していなければ、青年戦士もこの程度では済まなかっただろう。

 

 

(あんな風には、なりたくないな)

 

 

 焼き尽くされ、カタチを失い、灰となる(可能性の全てを消失する)

 何も残らず忘れ去られ、いなかったことになる。

 そんな未来を思い浮かべ、自分もそうなったかもしれないと思うと青年戦士は恐ろしくなった。

 

 

 

「ポーションにゃ!」

 

 

 いつの間にか近づいて来ていた盗賊商人が薬液の入った瓶を差し出してくる。

 

 

「ありがとう」

 

 

 礼を言い青年戦士は薬を呷る。

 即座に体が熱くなり、力が湧き上がってくる。切り付けられた傷や熱波により炙られた皮膚が癒されていく。

 

『女神の祝福』

 

 それがこのポーションの名前だ。

 これは青年戦士達が探索した遺跡で見つけた、かつて存在した一種の万能薬(エリクサー)、の模倣品だ。

 

 かつて見つけたこれを持ち帰った際に、現代の技術や素材で再現ができないかと考えた研究者がいた。

 青年戦士達一党も素材調達などに協力し、その研究は成功と言っていい結果となった。

 と言っても流石に完全な再現はできず、劣化品と言っていいものだったが。

 それでも既存のポーションよりずっと効果の高いもので、高い効能と即効性を期待できる高級薬(ハイポーション)とも呼ばれている。

 

 もっとも、高級だったり希少だったりする素材や高い技術が求められる故に値段も相応だったりするのだが……

 青年戦士達一党は、再現の研究に協力した縁や、盗賊商人の(コネ)により、比較的安価で入手ができるため、常備薬として利用している。

 

 

 

 

 

 

 

 

『オレは英雄になりたかった』

 

 

 戦闘中にもかかわらず、何故だか再びそんな言葉が青年戦士の脳裏に過ぎった気がした。

 

 

 女武闘家は圧倒的な物理攻撃力を誇る攻撃手(アタッカー)。彼女がいるから、自分は防御に専念していればいい。

 

 女魔術師は多彩な遠距離魔術と冴えわたる頭脳を持つ呪文遣い(スペルスリンガー)。彼女がいるから、自分は敵を押し留めることだけに専念していればいい。

 

 盗賊商人は数多の道具(アイテム)を用意してくれる補助役(サポーター)。彼女がいるから、自分は思い切って敵にぶつかって行ける。

 

 

 じゃあ、自分は? 

 

 

(ああ、そうか)

 

 

 青年戦士は実のところ高い実力を持っているという訳ではない。

 武器は各種扱えると言ってもその技量はよくて二流。盾の扱いは一流と言ってもいいが、うまく攻撃を受けられるだけとも言える。

 

 実際のところ、その力の大半は装備(他人の力)に依存していると言っていい。

 

 彼女達と吊り合っているかと問われれば、首を縦に振ることは憚られた。

 

 

(俺は英雄になりたかったんじゃない。『誰でもない(ノーマン)』でいたくなかったんだ) 

 

 

 自分は英雄じゃない。英雄にはなれない。

 その考えは今も変わらない。

 

 では、自分は誰でもない(ノーマン)なのだろうか? 

 

 

(そうじゃないよな)

 

 

 思わず笑みがこぼれる。

 確かに自分は大した人間なんかじゃない。

 

 それでも今の自分は、一党の頭目で、彼女達の仲間で、女武闘家(幼馴染)の恋人だ。

 

 

(十分だろ)

 

 

 自分は英雄ではない。

 

 でも、何もできないわけじゃない。

 

 

(すごい奴のための時間稼ぎくらいだったら、俺にだってできる!)

 

 

 子供の時、英雄になれないと心折れてから、今まで心のどこかで考え続けてきたこと。

 自分の生まれた意味が、生きてきた意味がわかった気がした。

 

 

 我が身は守護者なり。

 

 

 

 

その時、魂に火がついた気がした(B O N F I R E L I T)

 

 

 

 

「俺があの時至れなかったのは、今この時のためだぁ!!!」

 

 

 (こころ)から湧き上がる衝動のままに口走りながら、青年戦士は再び薪の王と相対するべく走る。

 薪の王も魔法使用による硬直が解け、再び襲い掛かってくる。

 

 剣と盾が打ち合わされる。

 

 

 戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 

 

 最近地上の子供達が騒がしい。何があったのかと調べてみると、子供達の中から怪物が現れていると聞いた。

 詳しく調べてみると、様々な要因で死した子供達の一部が蘇っているらしい。そして蘇った者達の更に一部が正気を失い、生者を襲う不死の怪物になっているらしい。

 

 何故こんなことになった? 

 

 今までこんなことはなかった。ならば、何かが変わったと考えるのが道理。

 そんなことを考えていると、ふと我の肉体……否。それより更に奥に異変を感じた気がした。

 

 (ソウル)の輝きが弱まっている。そう感じた気がした。

 

 衰えだろうか。そう思うも違うと直感する。

 

 これはむしろ、もっと根本的なものに原因があるのではなかろうか。

 

 思い返されるはあの闇の奥深くにあった『火』。我らの故郷とも言える根源。

 

 あれが消えようとしているのではないではないだろうか? 

 

 そうであれば納得もいく。我らはすべて根源たる『火』に産み出され、なお繋がっている。

 故に『火』が消えれば我らも消えゆくのではないのだろうか。

 

 

 

 ならばその滅びを受け入れることが正しいことだろうか? 

 

 否だ。断じて否だ。

 

 たとえそれが世界の摂理だとしても、抗ってやる。

 

 

 

 我らは、生きているのだから。

 

 




あと三話
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