ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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これが私なりの大団円。


Next new challenger !-冒険は終わらない-

 新たな混沌の気配アリ。そう言われ赴いた場所で見たのは、『火』だった。

『火』の傍には、その『火』を守るように誰かの人影があった。貧弱で、貧相な、小さな人影が。

 小さな人影は誰かに相対していた。それは光り輝く巨人であった。それは神話に語られるような巨人の英雄。

 小さな人と大きな人。その勝負の行方は一目瞭然と言ってよかった。

 

 しかし。しかしだ。

 もし本当に見た通りの結果にしかならないというのであれば、世に英雄譚など残ってはいないというものだ。

 

『火』に照らされ、小さな人から影が伸びる。その影は暗き影の巨人となった。人影同様貧弱で、貧相な巨人。

『火』から何かが飛び出す。飛び出した何かは影の巨人へと纏わりつき白銀の鎧となり、輝く剣と魔法の盾となった。

 何があったと思い、『火』を見ると、守り人の小人ではない別の小人が『火』へと何かを投げ込んでいる。

 その何かは燃え上がると共に光となり、影の巨人へと飛んでいき、更なる力となった。

 よく見ると小人達は祈るようにしてから何かを『火』へと投げ込んでいる。

 それでわかった。彼らは願いを『火』へと投げ入れている……いや、託しているのだと。

 小人達には力がない。光の巨人とは戦えない。されど何もできないわけじゃない。だから、できる誰かに託していたのだ。

 

 影の巨人と光の巨人がぶつかる。それでもなお光の巨人の方が優勢に思えた。

 

 そんな影の巨人を助けるように、さらに『火』から光が飛び出す。

 光は鉄鎚となり、光の巨人を打ち据えた。魔法の槍となり、巨人を撃ち抜いた。癒しの光となり、傷ついた影の巨人を癒した。

 

 戦いの趨勢は次第に影の巨人へと傾いた行く。

 ついには影の巨人は光の巨人を打ち倒してしまった。

 

 それは神話に語られる小人による巨人殺し(ジャイアントキラー)の物語。

 

 

 

 

(なんてね)

 

 

 もちろん実際にそんなことがあったわけではない。

 あそこであった事実は、銀騎士と呼ばれる冒険者に率いられた一党が、薪の王と呼ばれていた敵と戦い、死闘の末に打ち倒し勝利した。ただそれだけだ。

 それでも、自分にはあの戦いがそう見えたのだ。

 

 あれは新たな英雄譚。今までとは違う英雄の形。

 神に選ばれたのでもなく、世界に選ばれたのでもない、人の、人による、人の極致。器の英雄。

 

 自分は勇者だ。その立場は理解している。それでも不満がないと言えば嘘になる。

 この世界において勇者とは、英雄であると同時に生贄だ。

 世界の危機に立ち向かう義務があり、常に混沌の軍勢に恨まれる存在で、その身を守るために存在を秘匿することを求められる。普通の女の子としての幸せを求めることは許されないし、普通の冒険者として冒険に挑むことも許されない。理解はできる。している。

 それでもやっぱり、普通の人と同じように生きたかったとも思う。

 普通の冒険者として、仲間と共に困難に立ち向かいたかった。普通の人と同じように、街を歩き平穏を楽しむ日常を送りたかった。……普通の女の子のように、愛する人と共に穏やかな生涯を送りたかった。

 

 そんなことは、勇者には許されないと知っているけれど。

 

 だからこそ彼のような存在がいると知れてほっとしたんだ。

 彼のような存在がいるのであれば、自分も普通の女の子のように生きられるかもしれないと。もしそれが許されなくても、次の勇者に希望を遺せるかもしれない。

 そんなふうに思ったんだ。

 

 

(歌を創ろう)

 

 

 今から今回の顛末を王様に報告をする。それが終わったら王様に頼むんだ。

 

 新たな英雄の誕生を世界に知らしめる歌を。力無き者達に希望を与える火の歌を。人の可能性を賛歌する歌を。

 

 

英雄譚の名(タイトル)は……そう)

 

 

篝火の英雄譚

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────―

 

 

 

 

 

 

 

「もっと聞かせて! おかーさん!」

 

 

 辺境の街の一画に建てられた家の居間にて少女の声が響く。彼女は自分の母に縋りつきながら冒険譚の語り聞かせをねだっていた。

 そんな彼女に母親は困ったような微笑みを浮かべている。少し離れた所には父親であろう男性が、パチパチと薪を爆ぜさせる暖炉の前で安楽椅子に揺られながらコクリコクリと船を漕いでいた。

 

 

「ダーメ。今日はもう寝る時間よ」

 

 

 その言葉に少女が不満の声を漏らす。母親は苦笑しながらそんな彼女の頭を撫でた。

 少女はその時間が好きで、いつもこうやって駄々をこねていた。

 

 

「また明日、ね」

 

 

 いつもはその言葉で締められるはずのこのやり取り。しかし今日はいつもと違っていた。

 

 

「……?」

 

 

 少女は不思議に思い母を見上げる。母は思い詰めるような、悩むような表情を浮かべていた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 少女はそう問いかける。母親はその問いには答えず、決心をしたように顔を上げてから口を開いた。

 

 

「……あなたもいつか冒険者になりたい?」

 

「うん! ……ダメ?」

 

「ダメ、じゃないけれど……」

 

 

 本当はなってほしくない。そんな本心を容易に読み取れるような表情を母親は浮かべる。

 そんな思いを飲み込むように母親は一つ息を吸って再び口を開いた。

 

 

「あたしにはそれを止められない。……だけど、これだけは約束して」

 

 

 母親はあらんかぎりの思いを込めて、真剣な表情を浮かべ告げる。

 

 

「必ず生きて帰ってきて」

 

 

 みっともなくてもいい。なさけなくてもいい。カッコよくなくて構わない。だって……。

 

 

「ハッピーエンドは何時だって、『幸せに暮らしましたとさ』で結ばれるんだから」

 

 

 そう言いながら母は船を漕ぐ父を見る。その顔にはとてもうれしそうな微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 少女はその夜、夢を見た。

 

 真っ暗な闇の中。少女の意識だけがその闇に浮かぶ。眼も耳も、身体そのものがなく、なのに意識だけはある。そんな不思議な夢。

 いつからいたのだろうか。いつの間にかその闇の中に人影が一つ浮かんでいた。

 焼け爛れたような騎士甲冑を纏い、異形の王冠のような兜を被っている男とも女ともつかない誰かだ。その者の前には火が消えた焚き火のようなものがあった。なんの意味があるのだろう。その焚き火には捻じれたような剣が突き立てられていた。その者は疲れ果てたようにその焚き火跡のようなものの前で座り込んでいた。

 どれくらいその者をそうして見ていたのだろうか。ふと、何かを思い立ったかのようにその者が身じろいだ。

 億劫そうにのっそりと立ち上がる。

 何をするのだろう。そうして見ているとその者は焚き火の方へと向き、突き立つ剣の前に立つと、

 

 その剣を思い切り蹴倒した。

 

 ……やれやれといった風情で首を振る。そうして焚き火と別れを告げるように踵を返す。

 いつの間にか闇の遥か彼方に出口のように光が差していた。

 その者はそちらへと向かい歩き出す。その足取りは先程のような億劫そうなものとは違う。うきうきといった形容ができるような軽い足取りだった。

 

 その者は最後に少女へと向き直る。

 兜を被っているせいで表情など見えはしない。それでもその顔には、とても楽し気な笑みが浮かんでいる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が更ける。街から()が消える。世界に闇が訪れる。けれど恐れることは何もない。

 明けない夜はなく、日はまた昇るものなのだから。新たな物語を紡ぐために。

 

 さあ、明日(つぎ)はどんな人生(ぼうけん)になるだろうか。

 

 

 




これでこの物語はおしまいです。

この物語は、『継承による救い』をメインテーマとして書かせていただきました。
世の中、こんなはずじゃなかったということばかりです。それを嘆くことも簡単です。でもそれでは何も変わりません。
次の世代の人にその後悔や反省を引き継ぎ、成功という結果に結びついた時、その後悔も無駄ではなかったと昇華できる。そんな話にするつもりでした。

青年戦士の前世である不死人は終ぞ結果を出せず、失意のうちに死にました。
そしてその魂を受け継いだ青年戦士が、経験の欠片を受け継ぎ、生きる糧としました。
そして守護者としての自らの存在価値を見出した時、彼の人生は意味あるものとなりました。それすなわち、不死人の人生も無駄な物ではなかったということになりました。
もちろんこれは前世の不死人に限った話ではありません。今世で出会った、青年戦士にロングソードを託した元冒険者の牧場主や、冒険者としてやっていくことを諦めた鍛冶師の青年といった人々の人生にも価値があったということになります。そういうつもりで書いていました。

そして青年戦士の、篝火の英雄譚に憧れた次の世代の人間が同じように生きるようになる。そうして人は手を取り合い成長していく。そんなふうに成ったらいいなと思います。

あと一話、神々の遊技場の方の話も後日投稿する予定ですが、青年戦士の話はこれで終わらせていただきます。拙作にお付き合いいただきありがとうございました。

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