持たざる者
淀み腐った臭いとじめりと湿った空気が漂う下水道。
普段は汚水が流れる音と、そこに住まう住人どもの蠢く音、そして住人に襲われ息絶える者が上げる断末魔が響くくらいしかしないであろう空間に裂帛の気合が響く。
「これで……終わりだ!!」
その言葉と共に勢いよく
狙いすました一撃は見事
「GUI!? ……Gyu……」
頭を打ち砕かれた
それを肩で息をしながら見つめていたおれは思う。
(戦いづらい……!!)
「うーん……」
所変わりここは冒険者ギルドの依頼が張り出される掲示板前。
あの後今日のノルマはクリアしていたことと女魔術師の魔法使用回数も使い切ったということで依頼を切り上げギルドに戻ってきた。今日はそのまま解散ということになり2人は部屋探しに向かうということで街に連れだって出かけて行った。いつの間にあんなに仲良くなんだろうか。仲間内で仲が深まるのはいいことだが疎外感を感じるな。
そんなことを思いながらおれは1人寂しく、今日受けられずに張り出されたままになっている依頼書を眺めながら唸り声をあげていた。
初めての依頼の時に破損した盾を新しく作り直すという予定外の出費におれの懐は寂しくなり、受付嬢の勧めもあって下水道のネズミ退治に向かうことになった。
仲間たちはあまりいい顔をしなかったが、前回のゴブリン退治に思うことがあったり、そもそも受けられる仕事が他にない等の理由で共に向かうこととなった。
最初のうちはまだよかった。臭いに顔を顰めながらも下水道を探索してターゲットを探し周りうまいこと奇襲をできて先制の一撃で倒したり、戦闘になっても攻撃を盾受けして相手が怯んでるうちに反撃で仕留めることができていた。
雲行きが変わったのは更に何匹か狩った後のことだった。たまたま4匹ほどネズミどもが集まっているところに出くわしそのまま戦闘に入った時だ。
さすがに数が多いということで女魔術師に魔術を使ってもらい2匹は始末してもらったが問題はその後だった。女神官が抜けたことを受け
四足歩行の獣相手の対複数は勝手が違ったが、なんとか盾受けや回避をすることにより攻撃を凌ぐことはできていた。だがいざ反撃という段階で問題が起きた。
一撃で倒せなかったのだ。
いままでは1対1で隙をついて急所を突き一撃必殺ができていたから気付かなかったが、2対1になるとそんな急所を狙うというのは至難だった。
それでも体のどこかに当たれば怯ませられる。そう思っていたのが間違いだった。端的に言えば手負いの獣というものを舐めていたのだ。
どうにか隙を見つけ胴体に一撃叩きこむことができたが、それで手負いとなった方は逃げたり怯えるどころか更に苛烈となり襲い掛かってきた。
死に瀕した時は逃げるのではなく立ち向かい、相手を殺すことで生き残る。おそらくそれが野生というものなのだろう。
その後は苛烈となった攻撃を捌ききれなくなったあたりで見かねた幼馴染に助けてもらい事なきを得た、というのが冒頭の話である。
夢の中でも
攻撃力が足りないというのはこういうことも起きるのかと学ぶことが出来たのは良かったが、武器の更新などという金が掛かることなどできるわけもなく、こうして自分たちでもできそうな仕事を探しに来たというわけだ。
「うーん……」
しかし村の手習いで字の読み書き、算術はある程度できるようになったつもりだったが、所詮は農村の手習い。正規の教育を受けたギルド職員の字がスラスラ読めるなんてこともなく唸っているわけだ。
まあスラスラ読めても唸っていると思うが。
(やっぱ碌な依頼がないな……)
白磁等級が受けられる依頼はゴブリン退治かネズミ退治くらいだと聞いていたがまったくもってその通りだった。残ってる中で良さげな依頼はすべて黒曜等級や鋼鉄等級向け、あるいはそれ以上の等級向けで受けられない。
(諦めて気を付けてネズミ退治をするしかないか……)
そう思って掲示板から離れようとした時だった。
「あの……どうされました?」
と声を掛けられた。
「受付さん」
振り返ると見覚えのあるギルド職員の女性が心配そうな表情を浮かべ立っていた。
「先程から掲示板を見て唸っていられましたがなにかありましたか?」
「あーいや……何かいい依頼はないかなと思いまして」
「あー……」
何かに納得した声を上げ心配そうな表情が困ったような表情に変わる。おそらく
「いやわかってるんですよ? 白磁で受けられるのはネズミ退治かゴブリン退治くらいだって」
「すみません……」
「いえ受付さんが謝ることではないので」
「ちなみに何かあったんですか?」
自分にも何かできることはないか。そんな思いが見て取れる。優しい人だと思う。
ふむ。相談してみようか。
「実はネズミ退治が難しくて悩んでいるんですよ。受付さんはうちの
「ええ。戦士さんと武闘家さんと魔術師さんですよね?」
「はい。で、下水道のネズミとなるとどんな病気を持ってるかわからないですよね?
「はあ……」
「だからおれが前線に出ることになったんですが、おれだと攻撃力が足りなかったんですよ」
「攻撃力……ですか?」
「はい。おれの武器はこれですからね」
と言って腰に吊るした
「獣ってのは一撃で倒せないと手負いになって余計に暴れるんですよ。それで死にかけました……」
「なるほど……ちなみに武器の買い替えなんかは……」
「できればやってます」
「ですよね……」
さすがにいい案もないのかとりあえずといった感じだった。まあそんな簡単に解決策が出るなら誰も苦労しないよな。
そう思い改めて掲示板に向き直る。
「それで何かいい依頼はないかと思ってたんですが……?」
未練がましくざっと依頼書を眺めるとふと1枚の依頼書が目に入った。一見ただのゴブリン退治だが……
「これは……」
これだったら……いけるんじゃないか?
「……? ああ! その依頼でしたら!!」
受付嬢から見てもこれはおれたちでもできる依頼だと思えるのか賛同してくれた。
よし。明日仲間たちと相談してみよう。