ゴブリンスレイヤー ~魂を継ぐ者~   作:ウォルナット

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受け継がれる物

 昼下がりの街道を進む。時刻にして午後2時といったところか。太陽は柔らかく地面を照らし、過ごしやすい気候を作り出していた。

 

「んぅー!! やっぱり太陽の光は最高だな! 人は日の光の下で生きるべきだよな!」

「なに言ってんのよあんたは……」

 

 おれは両手を頭上に掲げるように上げ伸びをする。鎧越しでも感じられるような春の陽気に思わずそんな言葉を口走る。

 今おれたちは依頼のために辺境の街を出ていた。昨日見つけたゴブリン退治の依頼だ。

 

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

 

 幼馴染が不安げに聞いてくる。さすがに最初の依頼がトラウマになっているのだろう。依頼を受けることは納得してくれたがそれでも不安は消せないといった感じだ。

 

「いや絶対に大丈夫とは言えないけどな。一応受付さんも賛成してくれたしなんとかなるだろ。……たぶん」

「ちょっと!?」

「落ち着きなさい。気持ちはわかるけどね」

 

 女魔術師が執り成してくれた。ただ彼女も少し不安そうにしている。

 

「まあ一応ギルドで話は聞いたけど改めて確認するわよ。今回の依頼はゴブリン退治。そうよね?」

「ああ。場所は辺境の街の近くにある牧場だな」

 

 辺境の街は話に聞く王都や他の都ほどではないがそれなりの規模の街である。その食を支えるために街の周辺にいくつか牧場が点在している。今回依頼してきたのはそのうちの一軒だ。

 

「それで? 今回の依頼は大丈夫という根拠は?」

「依頼してきた時期だな。今回の依頼は牧場の近くでゴブリンを見かけたから退治してくれっていうものだった」

「えーっとなんだっけ? 見かけたっていうのがよかったんだっけ?」

「そうだ。前回みたいな『被害が出た』からじゃなくて『見かけた』からっていうのはかなり早い段階での依頼だ」

「早い段階での依頼だとなにが……いやもういいわ。つまり前回は『被害が出る』ほどの規模になってから依頼が来た。今回はまだ被害が出る前に『見かけた』だけだから被害をもたらせるほどの規模じゃないんじゃないかってことよね」

「そういうことだな」

 

 女魔術師が言わんとするところをまとめ、おれもそれを肯定した。

 そこまで話してから女魔術師が言い淀むような仕草をする。

 

「どうした?」

「……これは私の予想なのだけれど……おそらく今回の依頼人はお金持ちね。ある程度金銭に余裕があるのは間違いないと思うわ」

「……金持ち?」

 

 なにかそんなことを判断できる要素があったか? それに、

 

「金持ちだとなにかあるのか?」

 

 依頼人の違いがなにか影響あるんだろうか。

 

「あなたも言ってたじゃない? 今回被害が出る前に依頼を出してきたって」

「ああ」

「前回の依頼人が被害が出てから依頼してきたのはお金に余裕がないからっていうのもあると思うのよ。気にすることじゃない、まだ大丈夫っていって依頼するのを渋って」

「……」

「でも今回の依頼人にとってゴブリン退治の依頼料は渋るほどの金額じゃないからこんなに早い段階での依頼なんじゃないかって。渋って被害が出る方が困るって考えの持ち主な気がするのよ」

「おー……」

 

 思わず感嘆の声が漏れる。そういう考え方もあるのか。

 

「それとあまりピンとくる考え方じゃないかもしれないけど、お金持ちって時として損得度外視でお金を使う時があるのよ」

「「なんで?」」

 

 田舎者2人で思わずといった感じで同時に聞き返す。

 

「見栄を張るためってのもあるんだけど、示威行為のためって言えばいいのかしら。自分はこれだけのことができる金があるんだぞって周りに示すためにね」

「「へえ……」」

 

 その考えはおれたち田舎者には絶対に浮かばない考えだな。女魔術師も案外いいとこのお嬢さんだったりするんだろうか。

 

 

 

 まあ、いろいろ考察はしてみてはいるんだが、

 

「結局は全部おれたちの予想でしかないんだけどな……」

「そうなのよね……」

「それが不安なのよ……」

 

 全員で不安そうにする。でも、

 

「でもリスクはどこかで必ず負わなければいけないわ」

 

 おれと同じ考えなのか、女魔術師がそんなことを言う。

 

「リスクは必ず発生する。問題はどのリスクを負うか、どう負うかよ。私たちは今回依頼の内容と依頼人の背景からできるだけリスクを抑えたわ。あとは覚悟を決めましょ」

「うん……」

「そうだな。……最悪手に負えないようなら逃げるとしよう。依頼人には悪いがおれたちも命あっての物種だ。……と、あれじゃないか?」

 

 そんな話をしながらも歩いていたせいか、件の牧場が見えてきた。

 じゃあ依頼人に話を聞いて、と思った矢先だった。

 

「ひいい! く、来るなああ!!」

 

 男性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「なんだ? ……いやどこだ!?」

「あそこ! あっち!!」

 

 声の主を探して全員であたりを見回す。いち早く発見した幼馴染が示す方向を見ると男性が何かから逃げているのが見えた。男性を追っているのは数匹の

 

「ゴブリン!? あいつら夜行性って話じゃなかったのか!?」

「そんなこと言ってる場合!? いいから助けに行くわよ!」

「お、おう」

「うん!」

 

 そう言っておれたちは走り出す。

 既にそれなりに逃げてきていたのか男性はかなり疲労しているように見える。

 

(クソ! これじゃ遠すぎる! 間に合うかどうかわからんぞ)

 

 どうするか……ええい、一か八かだ! 

 

「魔術で狙撃ってできるか!?」

 

 女魔術師に問いかける。

 

「え、わかんない……でも、やってみる!」

 

 女魔術師もこのままだと間に合わないと思ったのか賭けに乗ってきた。

 

「よし……おまえはそのまま突っ込め!」

 

 今度は幼馴染に言う。

 

「え、あたし一人!?」

「おまえが一番早い! 先に行って保護してやってくれ!」

「で、でも……」

「倒さなくていい! あくまで安全第一で寄せ付けないことを考えてくれ! おれたちも遠距離から援護する!!」

 

 そう言って今まで背負ったままになっていた弓を取り、矢を番える。

 

「……わかった! あたしに当てないでよね!」

 

 そう言って幼馴染が速度を上げる。それを見ながら改めて状況を確認する。

 

(おれたちから見て横に走る男性を先頭に横長に広がっている。あいつが男性の方に走ってるから狙うとしたら後ろの方!)

 

 そう思いそちらに見ながら走る。

 

(まだ)

 

 走る。距離が遠すぎると思いながら。 

 

(まだだ)

 

 走る。射程には遠すぎると思いながら。

 

(あとちょっと)

 

 そう思った時だった。

 

「捉えた」

 

 そんな声が聞こえてきた。ズザリと土を踏みしめる音をたて女魔術師が構える気配を感じる。

 

(嘘だろ。こんな位置から届くのかよ……! だったら俺も!)

 

 そう思いおれもズザリと土を踏みしめ弓を構える。

 

「≪サジタ()……インフラマラエ(点火)……≫」

 

(狙うは頭……より少し上!)

 

 かなり距離があることを加味して狙いをつけながら弓を引く。

 

「≪ラディウス(射出)≫!」

「いっけぇー!!」

 

 女魔術師とおれは同時に矢を放つ。

 おれたちの放った魔術的な矢と物理的な矢は先を駆ける幼馴染を易々と追い抜き、ゴブリンに襲い掛かる。

 

 女魔術師が放った魔術の矢は草原を駆ける猟犬のように奔り見事にゴブリンに命中。焼き尽くした。

 おれの放った物理の矢は、

 

 トスリ、と軽い音をたててゴブリンの少し手前の地面に突き立った。

 

 男性とゴブリンが突き立った矢を凝視し、しばし沈黙が広がったあと、

 

「せやあああ!!」

 

 という幼馴染の気迫の籠った矢のような飛び蹴りが男性の一番近くにいたゴブリンに突き刺さったのだった。

 

 

 

(……届かねー)

 

「ねえ、あなたの矢……」

「言わないでくれ……」

「もう……当てられないならあんたも行きなさい。あの子にも万が一ってのがあるんだから」

「はい……そっちも気を付けてな。あそこにいるのだけで全部とも限らないんだから」

「わかってるわよ」

 

 そうしてできるだけ気を引けるように武器を振り上げ、雄叫びをあげながら走り出した。

 

 

 

 その後のことは特に語る必要もなく。遠距離から正確に命中させてくる魔弾の射手と雄叫びを上げて駆けて来る蛮族に気を取られたゴブリンは、もっとも身近な暴力の手に掛かりあっけなくその命を散らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は家の者を助けてくれてありがとう。遠慮なく食べてくれ」

 

 あの後保護した男性を連れて牧場に建てられた家に赴き、改めて依頼人に話を聞こうとしていたら晩餐に誘われた。

 さすがにそれはと思って断ろうとしたが、命の恩人を無碍にはできないと言われて受けることになった。

 

「君たちは何故今回の依頼を受けたのかな?」

 

 食事が始まりしばらくするとそんなことを聞かれたので来る時に話していた内容を答える。

 

「なるほど」

 

 そう答えて依頼人は自分のことを話始めた。

 

 この依頼人である牧場主の男性、なんと元冒険者、それも銀等級まで上り詰めたおれたちの大先輩ということだった。

 この牧場も冒険者時代の稼ぎで建てた物、今回の依頼も新人冒険者への支援目的で敢えて簡単な依頼になるように出したものだという。

 

「あとは趣味と道楽だな。君たちのように依頼の裏を考えられるような新人であればもしかしたら大成するかもしれないだろう? そうなった時最初から目を掛けていたと言えるのはなかなか面白いものだ」

 

 ということだった。

 

 他にも冒険者としての知恵を教えてもらった。

 

「君たちは朝ではなく昼過ぎ、だいぶ遅くに来たように思えるんだがどうしてだい?」

「あー……ゴブリンは夜行性だと聞いていたので、動くとしたら夕方以降になるだろうと思ってたのであの時間に来ました。話を聞いて準備をしてそれくらいになるだろうって。まあ実際には違ったんですが……」

「ふむ……ゴブリンどもは夜行性だったのか。その話は誰から聞いたんだい?」

「ゴブリンスレイヤーという方です。ゴブリン退治の専門家みたいな方で、おれたちもお世話になった時に教えていただきました」

「なるほど……まあ、何事にも例外というものはある。冒険というものは昨日正しかったことが今日も正しいとは限らないし、今日正しかったことが明日正しいとも限らないものだ」

「肝に銘じます……」

「気が向くようなら怪物図鑑(モンスターマニュアル)を調べてみるといい。知識はあって損はないのだから」

怪物図鑑(モンスターマニュアル)? そんなものがあるんですか?」

「ああ。私は見たことはないが仲間が見ていたことがある。その知識で幾度も窮地を救われたものだよ」

 

 ということも教えてもらった。

 

 

 

 

「……こういってはなんだが、それが君の装備かい?」

「え? あーはい。お恥ずかしながら武器まで回せる金がなくて……」

 

 そんなことを苦笑しながら言うと、

 

「ふむ……少し待っていたまえ」

 

 と言って依頼人は席を立つ。しばらくすると古ぼけた長剣(ロングソード)を携えてやってきた。

 

「これは私が冒険者時代に使っていたものなのだが……良ければ使ってみないかね?」

「え、そんな……いただけませんよ」

「嫌でなければ使ってほしいんだ。どうせ私が持っていても朽ちていくだけ。道具は使われてこそだ。どうか君の冒険に連れて行ってほしい」

「……そこまで言われるのならいただきます」

 

 そういうことなので新たな武器を手に入れたのだった。

 

 

 

 晩餐が終了後改めて依頼の話を聞き、許可を取って野営をさせてもらい、ゴブリンに備えた。

 幸いゴブリンは訪れず、昨日討伐したので全部だったのだろうということで依頼達成の許可をもらった。

 

 

 

 そして辺境の街に戻り、おれたちはようやく胸を張って依頼達成の報告するのだった。

 




託された長剣

古ぼけた長剣。かなり昔に販売されていた物。
古いだけで品質的に特筆すべきものはない。

よく手入れされているが昔に販売されただけあり、所々古ぼけて見える。
しかしそれ故に大切にされていたのだと察せられる。

これを託されるに足る人物となりたいものだ。

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