牧場に建てられた自宅。
その自室にてキン、とグラスの打ち合わされる音が響く。
「晩酌など久しぶりだ。いつぶりだったか……」
そんなことを口にしてからすぐに気づく。
「ああ、君が死んでからだったか」
己の対面を見る。そこには空のグラスが置かれているだけだった。座るべき人はいない。
「先日私たちの後輩にあったよ。珍しい若者たちだった」
今は亡き妻を、同じ
「慎重さと堅実さを知る若者たちだった。あのぐらいの年頃ならもっと血気盛んで考えなしなものだろうに」
自分はどうだったろうか? そんなことを思い出そうとして、やめる。
考えなしに敵に攻め込んだ挙句、反撃を受けて死にそうになって失禁した若造のことなど、今更思い出す必要もあるまい。
グイ、と一口酒を呷る。
「こんな老い耄れのつまらない思い出話も真剣に聞いてくれていた。勢いで思わず余計なアドバイスなども言ってしまったな」
そういいながら若者たちの姿を改めて思い出す。
男1人女2人の3人、男の戦士と女の武闘家、そして女の魔術師の
まだまだ駆け出しだろうに既に役割分担ができ始めているように見えた。
「もういろいろ考えながら冒険者をしているようだったよ。私たちとは大違いだ」
昔の仲間たちを思い返す。思えばバカなことばかりしていたものだと苦笑が湧いてくる。
「ああいうのが案外大成するんだろうな。私たちも銀等級まで至りはしたが、ついぞ詩などは作られなかったからな」
クイ、と再び酒を呷る。
「ああ、そういえば」
後輩たちのことを考えたことで思い出した。
「昔私が使っていた剣を戦士にあげたよ。そう、私が初めて買ったあの剣だ」
あの剣は冒険者を始めるにあたり、なけなしの金で買った物だ。冒険者を続けるにつれて装備も更新していったが、なんとなく売ることも捨てることもできなかった物。
引退するときも処分するか悩んでいたら、君が思い出として取っておけと言っていたから今まで持っていた物だ。
「我ながら女々しいと思っていたが、今考えると思うところがあったんだろうな」
銀等級まで至ったが高みに至ったという感じはしなかった。上には上がいて、でも自分たちはこれ以上上がれない、ああはなれないとわかってしまったから。
中途半端な成果しか出せなくて、でも諦められなかった。諦めたくなかった。だから捨てられなかったんだ。
「でも彼らにだったらあげてもいいと思ったよ」
彼らだったら大成するかもしれない。そう思ったら夢を託してみたくなったのかもしれない。
「もしかしたらこの時のために取っておいたのかもしれないな」
後進に力を託すために思い出の品を取っておく。それもまた夢のある話だな。今度からそう思っておくことにしよう。
「今思うと簡単な依頼を出していたのも、ただの支援目的じゃなくて夢を託せる者を探していたのかもしれないな」
君はもしかしてわかっていたのだろうか?
そんなことを思いながらクイ、とまた酒を呷る。
「そういえば、君は聖職者だったな」
その後も思いつくままに言葉を紡ぎながらふと思い出した。
「確か君自身もよくわかっていない神だと言っていたか」
普通の地母神や至高神といった信仰ではなく、子供の頃にお告げを受けてから信仰していた神だと聞いた気がする。
資料もなく、姿かたちもわからないが、
「太陽の化身……だったか」
太陽を象徴とする神だと君は言っていたな。
その割には使っていた奇跡は暖かい光に包まれる回復の奇跡はともかく、雷の槍を投げつけたりと太陽の要素がないものだったりしていたが。
「ふむ……」
かなり酒も飲んで酔っていたのだろう。ふとよくわかりもしないのに祈ってみたくなった。
持っていたグラスを天に掲げながら、唱えてみる。
「若き冒険者たちの道行きに、太陽の導きがあらんことを」
なんてな。
そんなことを思いながらグイ、とグラスに残った酒を呷る。
なぜだか彼女に笑われている気がした。
第2章 第1幕はこれにて終幕。
マズい依頼があるならウマい依頼もあるよねって話。
あとは私なりのダークソウルの武具拾得要素。
四方世界に遺体が転がってるなんてこともそうそうないだろうし、あったとしても遺品を拝借するのはあまりいい顔されるものでもないと思います。
5話『日が暮れる、夜が来る』でもチラと書きましたが奪う価値のないものまで奪って調達しようとするのは、それを買うだけの金も稼げないと見做され、評価が下がるものだと思っています。
なのでこんな感じに『貰う』という形にさせていただきました。
…ゴブスレさん?あの人はあまり周りの目を気にしない人だったし、圧倒的な依頼達成量で悪評をぶっ飛ばしたんだと思います。
誰かが言っていましたが、頭の中の映像を文章化してくれる機械が欲しい……