ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き   作:J・イトー

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エリート生まれの野球フリーク繋がりで。

結構ウマ娘ストーリーに加賀美を放り込んだだけなので味気ないかも……


ガタックの章〜LORD OF THE STAYER〜
希望の扉、問いかけて


 トレセン学園のとある一室。年末に自室の大掃除に励むトレーナーと、それを手伝うウマ娘がいた。

 まずウマ娘の名はメジロマックイーン。美しい葦毛をたなびかせる名門メジロ家の令嬢である。

 

「……あら?」

 

 少々年季の入った野球のグローブを見つけた。

 手に取ってしげしげと眺めているとそれに気がついたトレーナーが声をかけた。

 

「あ、懐かしいなそれ」

 

 彼の名は加賀美(かがみ)(あらた)。メジロマックイーンのトレーナーである。

 

「私が野球好きと知ってから、キャッチボールやノックなどをトレーニングに組み込んで下さったときもありましたわね」

 

 二人の脳裏に懐かしい風景が蘇る。はじめは共通の趣味でしかなかったはずのそれは、もはや二人の絆をつなぐ核のひとつとすら言えるほど大きい存在となっていた。

 

「……トレーナーさん。これからも、ご指導のほど、よろしくお願いいたしますわ」

 

「ああ。春の天皇賞、一緒に獲ろうな」

 

 互いに決意を新たにするように言葉を交わす。

 

 二人の道は、いまだ始まったばかりなのである。

 

 

 


 

 

 

 二人が同じ道を歩む少し前。

 

 加賀美の職場であるトレセン学園では、年に4回行われる選抜レースというイベントがある。

 ウマ娘の能力を見極めんとするトレーナーの他にも、観戦に来た生徒や熱心なウマ娘ファンで賑わう会場では、あるウマ娘に注目が集まっていた。

 

「見ろ。加賀美。あそこにいるのが『メジロ家』の令嬢だ」

 

 隣にいた親しいトレーナーがそう呟くのが聞こえる。髪を固めた強面なその男性は名を田所修一といい、当時の加賀美は彼に師事している身だった。そしてその視線の先にいたのが、かの秘蔵っ子であるメジロマックイーンであった。

 

「……あの娘が」

 

 胸に手を当て集中を高めている様子の彼女は、やがてサンバイザーが特徴的なウマ娘に連れられ、出走の準備に向かっていった。

 

「お前もそろそろ一人立ちする頃だ。このレース、よく見ておけよ」

 

「はい」

 

 田所の忠言に気を引き締めてまもなく、レースは始まった。展開は終始、サンバイザーのウマ娘を先頭に進んでいた。一方のメジロマックイーンは始めこそ前方の集団に位置していたものの、次第に後方に下がっていくレース運びを行っていた。

 しかしそれは作戦と捉えるには、あまりにも精彩を欠いた走りだ。

 

『さあ、いよいよレースも終盤! しかし──大注目のメジロマックイーンは、いまだ後方!!』

 

 依然彼女は前に出られないまま、いよいよレースは大詰めになった。巻き返しを期待するなら末脚に縋るしかない状況だ。だが──。

 

「……走りにも力が無いようだな。スタミナ切れか?」

 

 そう呟いた田所につられ表情を伺うと、確かに余裕が失われているように感じる。

 しかしステイヤーとして注目されていたはずの彼女が、そうも簡単にスタミナを使い果たすものだろうか。

 

『懸命に走るが、マックイーン伸びない!』

 

 訝しむ加賀美をよそに加速を試みる彼女だったが、とうてい先頭に追いすがれるものとは言えなかった。

 

『先頭のアイネスフウジンが、今……ゴーーーーーール!!』

 

 結局先頭が変わることはなく、メジロマックイーンは7着に終わり、サンバイザーのウマ娘、アイネスフウジンが1着を飾った。

 

『選抜レースを制したのは、アイネスフウジン! 彼女の未来に期待する大歓声が、場内を包んでいます!』

 

「はぁっ、はぁ……! えへへ、みんな、応援ありがとーっ! おかげで一着になれたのー!!」

 

 歓声に応えるように、アイネスフウジンが観客たちに手を振っている。

 

「アイネスフウジン、か……。いい脚を持っているな。トレーニング次第で大化けしそうだ」

 

「へぇ……あれを逃すなんて選択肢、マジ無いわ。行ってこよ」

 

「良い風ですね。あの走りこそ、まさに、その……」

 

 期待をかける田所の他にも口々に称賛の声が聞こえる。

 だが周りの視線がアイネスフウジンに釘付けになる中、加賀美だけはマックイーンから目を離せなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 選抜レースの後、ふと気になった加賀美はトレーニングコースを覗きに行くと、マックイーンがいた。

 

 随分と切迫した様子で走り込みを行う彼女。するとそこにベリーショートの髪型が特徴的な別のウマ娘がやって来た。

 

 そのベリーショートのウマ娘は心配げな表情でマックイーンと話していた。おそらく交友関係の深い彼女の無茶を止めに来た、というところだろう。

 しかしマックイーンが意見を曲げることはなかったらしく、すぐに走り込みを再開して行ってしまった。

 

「──あら、そちらにいらっしゃるのは……新人のトレーナーさんじゃないですか!」

 

 二人を見守っていた加賀美のもとに、緑色のスーツを身に纏う女性、駿川たづなが現れる。

 

「今日は選抜レースでしたが、気になる子はいましたか?」

 

 一大イベント後ゆえに問われたその加賀美は、迷いなく返答した。

 

「……メジロマックイーン、その娘のことが気になる。あのスランプ気味な様子、その原因さえ無くなればきっと……」

 

 彼女は、ここで終わる奴じゃない。彼が明日の予定を決めたのは、そのすぐ後のことであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 翌日、トレーニングコースを訪れた加賀美。目当ての人物はすぐに見つかった。

 

「はぁ……はぁっ、はぁ……っ……ダメですわね。脚にうまく力が伝わらない……昨日と同じ、イヤな感覚…………ふぅ」

 

 やはり不調は続いているらしく、具合の悪そうに腹をさするのが目に入った。

 

「……おい、どうしたんだ? 随分腹の調子が悪そうだぞ」

 

「えっ!?」

 

 意を決して声をかけるとかなり驚いた反応が返ってきた。

 

「貴方は……すみません、どちら様ですか?」

 

「あぁ、初めまして……かな、俺は加賀美新。田所さんのとこでサブトレーナーをやってる」

 

 怪訝そうなその質問に、自分が一方的に知っているだけだったと気づきそう捌いた加賀美を、マックイーンは驚きの視線で見つめる。

 

「もしかして、私のトレーニングをご覧にいらしたのですか?」

 

 コク、と頷くと彼女はにこやかな笑みを浮かべた。

 

「光栄ですわ。ご足労いただき、感謝いたします。けれど……1つお聞かせください。なぜ、私に興味を持っていただけたのですか?」

 

 再び質問に移る彼女。おそらく選抜レースのことを気にしていたのだろう。自身が期待の視線を浴びていたことは気付いていただろうし、その分あの走りは失態として記憶に強く残っていることは想像に難くなかった。

 しかし気の利いた理由など持ち合わせていなかった加賀美は、一度選抜レースの記憶を遡ると、こう答えた。

 

「なんというかこう……ここじゃ終われないってやる気が溢れてたから、かな」

 

 漠然と放ったそれは典型的な精神論を持ち出す月並みな答えだったが、まだ口説き文句にほんの少しの嘘と賛辞をでっち上げるような器用さを持っていなかった加賀美にはそう感想をぶつけるほかなかったのだ。

 

「それは……すなわち心、精神的な面を見ていただけたということでしょうか。そうであれば……メジロ家の一員として、せめてそちらだけでもお見せできたこと、嬉しく思います」

 

 加賀美の言を咀嚼した彼女は、一礼を伴いそう口にした。

 こちらの背筋が伸びるような堂に入ったものだったそれに、やっぱ令嬢は違うな、と若干逸れた感想が浮かぶ加賀美だったが、マックイーンはまだだ、と言わんばかりに言葉を続けた。

 

「……けれど。私をご担当いただくか否かは、ぜひ、走りを見てご判断くださいませ。私には、果たさねばならない目標があります」

 

 手のひらを組んで口にしたそれに、ただならぬ思いを感じ取った加賀美は、思わず問う。

 

「なんだよ、それ」

 

「はい。それは『天皇賞の制覇』という目標です」

 

 天皇賞。春と秋に行われるG1レースの名称。皇室から下賜される楯を懸けたそのレースは、他のレースとは異なる重圧を背負って戦うことを求められる場だ。

 

「それはもちろん、トレーナーさんとの適切な信頼関係もなければ成し得ないことなのです」

 

 勝利への条件として彼女が口にしたそれは、言い換えれば自分が彼女自身の力を信じられなければ到底果たせない目標、ということである。

 

「ですから、貴方には……走りの方も認めていただいた上で、ご判断願いたいのです。──私を、メジロの名にふさわしいウマ娘として育てていただけるか否かを」

 

 家の名を口にした彼女からは、他のウマ娘とはまた違った気迫を感じる。血のプライド、彼女を担当することになれば、そういったこともついて回るのだろう。そう内心気圧された加賀美は無意識にこう口にしていた。

 

「……生まれた家を、誇りに思ってるんだな」

 

「ええ! 私はこの家に生まれたことを、とても幸せに思っておりますわ。立派な家族に囲まれ、代々応援してくださる方々に期待をかけていただき……。そのおかげで今、私はここに立てています」

 

 嬉しげに語るマックイーンを前に、自分にはない感情だ、と加賀美は思った。警視総監の父を持つ、いわばエリートの生まれでもあった加賀美だったが、それを誇ったことはなかった。

 育ててもらった身として感謝をしていない訳ではなかったが、彼自身親の七光りを嫌う性質だった上、多忙だった父とは日頃から疎遠で、家族としての時間のほとんどは弟や母と共にあったのも一因かもしれない。

 

「ですから……勝利を義務付けられたメジロ家のウマ娘として、責任を果たしたいのです! そのためにもどうか、走りの方も認めた上でのご判断を」

 

 念押すように、ただ実力を見てほしいと望む彼女。そこは自分も共感するところ、と考えた加賀美は迷わず頷く。

 

「ありがとうございます。先日は情けない姿をお見せしましたが……ここで挽回させてくださいませ! メジロ家仕込みのトレーニング、ご覧下さい!」

 

 そう言うとマックイーンは、張り切った様子でトレーニングを始めていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ふぅっ……」

 

 マックイーンのトレーニングを観察して気づけば夕暮れ時。走りを見ればフォームは実に整っており、無駄がない。英才教育の賜物だろう。

 

「さあ……もう一本!」

 

 そして長い間トレーニングを続けているものの、肉体的にも精神的にも損耗は少ないようだった。持久力と精神力を兼ね備えたその様は、なるほど、一流のステイヤーが集まる天皇賞を目指しているのも頷ける。

 

 だが。

 

「ふぅっ……ふぅっ……いかがでしたか? 私のトレーニングは」

 

 トレーニングを一度切り上げ、見せるものは見せた、とやり切った表情を浮かべるマックイーン。しかし加賀美にはその表情が、不完全燃焼を示しているように感じてならなかった。

 

「そうだな……なんか、脚に力が入ってない気がしたって言うか……」

 

「え? あ……そ、それは……うぅ」

 

 感じ取っていたことを口にした加賀美に対し、腹をさすりながら言いよどむマックイーン。原因は明らかだ。

 

「というか、さっきからどうしたんだよ、腹の具合悪そうだぞ」

 

「い、いえ! そういうわけでは!」

 

 加賀美が突っつくとマックイーンは慌てた様子で返答したものの、本当かよ、と訝しむ彼の視線に耐えきれなかったのか、「もう一周走って参ります!」とだけ言い残すと走り去っていった。

 

「……大丈夫かよ」

 

 しかしその懸念通り、その後も調子が悪そうな様子が変わることはなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「はっ……はっ……。まだ……まだ、鍛え足らない……!」

 

 別日に再び様子を見に来ると、やはり調子は相変わらずのようだった。

 

「脚に力が入らない、なんて言って。これ以上の失態を重ねる訳には……!」

 

 不調は自覚していながらも走り込みを続けるその様は、以前より焦っているように見え──。

 

「……あ、あら? からだに、ちからが……」

 

 やがて周回を終え、立ち止まった彼女の脚がふらつく。

 

「あっ……!!」

 

 そのまま地面に倒れこんでしまった。

 

「マックイーン、大丈夫か!? おーい誰かっ! 担架をくれ!!」

 

 数分後、駆け付けた保健委員と加賀美によって、マックイーンは保健室へと運ばれていった。

 

 

 

 

 その後、彼女を診察した学校医が言うには軽い貧血、とのことだった。

 原因として考えられるのは栄養不足。以前の彼女のことを思い出すと、常に腹部の調子を悪そうにしていたし、やはり食事面に問題があったのだろうか。

 

「マックイーン! 倒れたって聞いたけど、だい──」

 

 まず一息つけて考えに耽ろうとしていた加賀美の元に、選抜レースの日にマックイーンと話していたベリーショートの髪型のウマ娘が入ってきた。

 慌てていた故か大声を発していた彼女に向かって、人差し指を口に当てボリュームダウンを促した。

 

「あっ、す、すみません!」

 

 無作法を詫びた彼女は、少ししてマックイーンの休養を妨げるまでに至らなかったことを安堵し、間もなく加賀美に話しかけてきた。

 

「えっと……こんにちは。あたし、メジロライアンっていいます。あなたは、マックイーンのトレーナーさんですか?」

 

「ああいや、俺はただの知り合いで、居合わせてただけだよ。えっと、名前は加賀美新。とりあえずよろしく」

 

 ひとまず自己紹介を終え、ライアンが手近な椅子に腰掛けたところで、間もなくマックイーンの容態について切り出される。

 

「えっと、マックイーンを気にかけてくださってありがとうございます。それで……倒れた原因はわかったんでしょうか?」

 

 医師が部屋を離れていたゆえに、加賀美が代わって診断結果を伝えたところ、ライアンはそうですか、と自責するように続けた。

 

「選抜レースが近いからって、無理してるなぁとは思ってたんですが……もっと早く声をかけてあげればよかった……」

 

「そうだったのか……ずっと心配してたんだな」

 

「はい。結局、何もしてあげられませんでしたが……」

 

 どこか自嘲気味なその言を聞く限りでは、不調を押しての無理はあのときだけではなかったらしい。

 そりゃこうなるのも当然だ、と納得すると同時に、ライアンとマックイーンの関わりについて興味を抱いた──そもそも名前からある程度察してはいるのだが──そのとき、すぐさま彼女の発言によって明らかになった。

 

「あ、名前でわかったかもしれませんが、あたしも一応、『メジロのウマ娘』なんです」

 

 姉妹ではないんですけどね、と添えながら口にされた想像どおりの答えに、やはりと納得していた加賀美。そして彼女の発言は回想に移る。

 

「そのおかげで、マックイーンとは、小さい頃からずっと付き合いがあって。この子……責任感が強すぎるっていうか、自分で自分を追い込みすぎちゃうんですよね」

 

 付き合いの長いという彼女曰く、その無理しがちな性分は幼い頃から変わっていなかったらしい。

 

 

 ──勝利を義務付けられたメジロ家のウマ娘として、責任を果たしたいのです! 

 

 

 思わず先日の彼女の言葉を思い出した加賀美は、その的を得た評価に内心で苦笑してしまう。するとそのとき。

 

「……そんなことしなくたって、マックイーンは、十分立派にやってるのに」

 

 そう小さく呟いたライアン。しっかりと聞き届けた加賀美が何かしらを口にする前に、部屋にスマートフォンの通知音が響く。

 

「──っと、いけない! もう行かなきゃ……! ごめんなさいトレーナーさん、失礼します!」

 

 サウンドはライアンのものからだったらしく慌てる彼女は、腰掛けていた椅子を立ち場を後にした。

 

「あのっ……。マックイーンのこと、お願いしますっ」

 

 任せた、そう言い残しながら。




もし加賀美の友人枠サポカが出たらレアスキルは「くじけぬ精神」一択だと思います。

スカウトするまではせめて書きたいな、と思っているので近いうちに珍しく2話目が出るかも。

3/15 追記
章タイトル変えました。
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