ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き   作:J・イトー

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女は花だ、と言ってたし、女児連れ回してたし、なんか親和性が高いと思いました。

フラワー誕生日記念。
カブトライダーズばっか書いてるな自分……。だって皆キャラ立ってて書きやすいんだもの。


ドレイクの章〜風花、疾走〜
種は吹かれて、芽吹かれて


 ──レースというものは、本質的に残酷なものだ。

 

 勝敗にあたって、背負った事情というものは一切の考慮がなされない。

 

「トレーナーさん、ごめんっ、なざいっ……最後なのに、あたし……!」

 

 それゆえに終幕を、ほろ苦く迎える者もいる。

 

 今日もまた一人、己を導きし師へ向け涙を溢すウマ娘がいた。

 

 導いてくれる師は、自らが出会い得るトレーナーの中で間違いなく最高の術を持つ人物であった。

 ゆえにこそ何度も勝利を重ね、こうして『有終の美』を望めるだけの自信を身につけることができたのだ。

 

 最後までGIの舞台で勝利することは叶わなかったが、デビュー前の自分を評した声を回想すればあまりにも些細な不満だ。

 

 それでも、と師への手向けをと挑んだ決戦は、持って生まれたものの差を見せつけられるかのような形で敗北を喫した。

 

「……女は花だ」

 

 悔しさに打ちひしがれる彼女へ向け口を開いたトレーナーは、メイク道具を納めたギターケースを手にした。

 

「せめて最後まで、花でいろ」

 

 そう言いながら指で涙を拭うと、彼女の顔へ手を施し始める。

 

 師の名は、風間大介。メイクアップアーティストとしての顔も持つという彼に、こうして化粧を施されることは少なくなかった。

 出走後はライブへ出ることが常だったゆえに、この状況はある種お馴染みのものであったのだが、それも最後となるであろう今、普段とは違う感情が込められているのは違いなかった。

 

「このライブが、あなたの輝きを示す最高の舞台でありますように。あなたは私の……その……」

 

 健闘を祈る言葉を吐くと何やら口ごもったトレーナー。自分と同じく、こみ上げるものがあったのだろうかと解釈したウマ娘は、大きく鼻をすすると精一杯の虚勢を張ってこう宣言した。

 

「……ありがとうございます! 精一杯、頑張ります! その、今まで鍛えてくれてありがとうございました!」

 

 今までのサポートへの返礼として、精一杯の元気を振り絞りそう言い放つ。幸いなことに、もう涙は溢れてきそうになかった。

 

「あ……ええ、はい」

 

 一瞬解らない顔をしたものの、すぐさま無難な返事をした恩師の違和感に、彼女が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「独立……ですか?」

 

 サブトレーナーとして自らに付き従っていた女性の告白に、呆けた風間の声が響く。

 実は今日までにしていただきたくて、と切り出されたそれは、彼にとっては間が悪い相談だった。

 

「ええ。そろそろ、面倒を見たい娘がいるんです」

 

 特に変わった申し出ではない。直属のトレーナーの補助を通じて経験を積む、というのがサブトレーナーの本懐であるゆえ、遅かれ早かれやってくるものだった。

 ただし、担当していたウマ娘に続き、それなりに信を置いていた人物との別れの連続に動揺しないほど、彼は出来た人間ではなかった。

 

「……わかりました。好きにしてください」

 

 努めて平静を装いながらそう返事を行うと、女性は短く笑顔で謝辞を告げた。

 

「ありがとうございます。お世話になりました、風間トレーナー」

 

 彼女が間もなくトレーナー室を去ったことで、ひとり残された風間。

 

 普段は自由を愛し、飄々と振る舞う彼も、この時ばかりはトーンダウンを避けられないようだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「がっ」

 

 当てもなく学園をうろついていた大介だったが、ふとつまずいて転んでしまう。ギターケースを背負っていては受け身もままならず、まともに衝撃を受けた膝を恨みがましく見やる。

 

 泣きっ面に蜂だ、と気分を落としていた彼に、あるひとりのウマ娘が手を差し伸べる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 その幼い声に顔を上げると、ジャージを着たウマ娘がこちらを見ていた。

 

「……失礼。心配されることではありませんよ」

 

 そう取り繕うが、ウマ娘の不安げな表情は変わらない。

 

「でも、とっても痛そうですし……。そうだ、ベンチまで肩を貸しますから」

 

 ウマ娘は間もなく、手近なベンチを指し示した。

 私もウマ娘ですから、と胸を張った彼女は、すぐさまそこへ向かうと手当てを開始する。

 

「はい、これで大丈夫ですっ」

 

 絆創膏を貼り付けて処置を終えたウマ娘は、安堵したように額を拭う。

 膝に見える花柄のそれは、成人男性には可愛らしすぎると思えたが、それを指摘するほど大介は無粋な男ではなかった。

 

「……ありがとうございます」

 

 どういたしまして、と彼の礼を受け取ったウマ娘は、やはり背中のギターケースが気になるのか、ひとつ質問をぶつけてきた。

 

「えっと、もしかしてイベントか何かでいらしたミュージシャンの方ですか?」

 

 今まで何度も訊かれてきたその質問に、思わず苦笑する。

 手短に行くならトレーナーバッジを主張するのが早いが、このウマ娘には経緯はどうあれ貸しがある。自らの技を以て回答とすることに決めた大介は、いつもの調子で口を開いた。

 

「名乗る程の者ではありません。私は──」

 

 踏みつけるようにしてギターケースを開いた彼は、いくつかの道具を手にしてこう言い放った。

 

「──花から花へ渡る風」

 

 大介が選んだ手法はナチュラルメイクと呼ばれるものだ。素肌に近い自然感のあるメイクで、若年層によく用いられる。

 このウマ娘は学園の生徒中でも特に幼い外見だ、あまり手が込み過ぎればマイナスの印象に繋がると考えた故の選択だった。

 

「……メイクアップ」

 

 短くも長い時間の後、メイクを終えた大介が手鏡を渡す。

 

「わあ、えっと、ちょっとだけ、お肌がツヤツヤしてるような……」

 

 鏡に映る自分を見て、声をあげるウマ娘。微妙に困惑も混じっているのは、もたらされた変化がさほど劇的なものではなかったからだろう。

 それを読み取った大介は、ひとつ洒落たフォローを入れてやることにした。

 

「飾り過ぎずとも、魅力は伝わるものですよ、お嬢さん。何たって、君の可憐さは野に咲く一輪の……その……」

 

 そこまで言うと、突如口籠ってしまう大介。心配そうに見やるウマ娘だったが、間もなく彼女の脳裏に閃くものがあった。

 

「……花?」

 

 先ほど大介が口にしていた台詞から連想されたその単語。しかし、無意識に飛び出ていたそれに、無粋だったかと詫びようとした彼女の弁解は、ハッとしたような明るい表情を前に霧散した。

 

「そうそう! それそれ!」

 

 興奮したように声を張り上げた大介に、ウマ娘は思わず安堵のこもった笑みを溢す。

 すると機嫌よさげにギターケースへ手をつけた彼は、一枚の布を放るように渡した。

 

「餞別です。それを濡らしてゆっくりと拭き取れば、メイク落としは済みます」

 

 クレンジングタオルと呼ばれるそれを使った方法は、大介の知る限り最も容易なものだ。

 どのメイクでも対応できるという訳ではないが、それも見越した故のメイクアップだ、問題はない。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 抱えるようにしたタオルを手に、礼を述べるウマ娘。

 先ほどと入れ替わったようだ、と大介は笑う。

 

「礼は要りません。花は美しく咲いてこそ、ですから」

 

 すると、ついでとばかりにトレーナーバッジを弾く。

 

「いずれ会うときがあれば、レースの場で」

 

 手早く収納を済ませたギターケースを手にすると、大介はその場を後にした。

 

 胸中にあった憂いは、とっくに消え去っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おかえりなさい、ニシノフラワーさん」

 

 寮の一室にて、部屋へ戻った同室に向け挨拶の言葉を送ったウマ娘がいた。声を受けたルームメイト、もといニシノフラワーは、硬い表情の同室に笑いかける。

 

「はい、ただいまです。ブルボンさん」

 

 そう呼ばれたウマ娘は、フルネームをミホノブルボンといい、フラワーにとって先輩でもある存在だった。

 

「……外出前と比較し、皮膚の光沢の強化を確認。スキンケアの実施を推測」

 

「え? あ、はい。その通りです!」

 

 部屋に踏み入るや否や、同室の変化をめざとく読み取ったブルボン。若干の驚きとともにその言葉を受け止めたフラワーは、至極明るい声色で経緯を語った。

 

「──理解。フラワーさんのステータス『高揚』への要因、解析致しました」

 

「あはっ、やっぱり顔に出てしまっていたんですね」

 

 隠すように口元へ両手を当てたフラワーだが、気恥ずかしかったからという訳ではない。

 すると露出していた頬、目元を順に見やったブルボンは、新たな分析の結果を口にした。

 

「実施されたのは、アイシャドウ、チーク等特有の色彩の非検出から……以前マヤノさんより伺った、ナチュラルメイクのカテゴリーのメイクアップと推測します」

 

「ナチュラルメイク?」

 

 おうむ返しをしたフラワーへ向け、記憶をたどったブルボンは思い出したまま伝えた。

 

「被メイク者の魅力を素直に発揮する……いわゆる『大人』な化粧であると伺っております」

 

「そうなんですか? ……ふふっ」

 

 強調された一単語を聞き届け、出会ったトレーナーの言葉を思い返しつつフラワーの頬が緩む。

 魅力を持った『大人』として認められたようで、どこか嬉しかったからだ。

 

「それにしても、メイク道具の収納にも扱えるとは……ギターケースについてのデータを更新しなければなりませんね」

 

「あ、それは特に必要ないと思います──!」

 

 ふと、澄ました顔で口走った同室へ向け、慌てて言い募るフラワー。

 

(──また、逢えるといいな)

 

 しかしその脳裏には、件のトレーナーへの想いが巡っていた。




ゴンが出ることはないかもしれません。

それはそうと、いくらか扱いが浮いた組み合わせが少しばかりありまして、Wの二人(ロブロイ、タンホイザ)とディケイド(ギムレット)が無かったことになってます。
特にディケイドは構想中と言った手前申し訳ないのですが、マーチャンに目移りしそうになっておりまして……。
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