ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き   作:J・イトー

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研究者繋がりで。
遅ればせながら、劇場版公開祝いです。

ジャンポケのシナリオ見るまでダンツをGI未勝利組と勘違いしてたなんて言えない……。



デュークの章〜ハイライトレス・ファイト〜
光速・イン・ザ・シャドウ


 ウマ娘──。

 

 この世界ではありふれた存在でありながら、多くの謎を抱えた生物。

 

 ヒトと同等の容姿・知能を併せ持ちながら、規格外の筋力と身体能力を発揮する、神秘に満ち溢れた種族である。

 

 その深淵の領域に迫ろうとする者が、ここトレセン学園に二人いた。

 

「……なーんて、どれだけ探っても底が見えないんだけどね」

 

 元理科室の一角にて、薬液の入ったフラスコを気だるげに揺らしながら呟いたのは、その片割れとなる男だった。

 

 名を戦極凌馬という彼は、未だ底の知れないウマ娘という種族の深淵をより近くから探らんと、研究職からトレーナーに転身した異色の経歴の持ち主だ。

 

「誰に向けて言っているのかねぇ?」

 

 独り言に近い呟きを放ったパートナーへ揶揄するように口にしたのは、道を同じくするウマ娘・アグネスタキオン。

 誰でもないさ、と首を振った凌馬は、感傷に浸るようにこう続ける。

 

「あの頃の私は、君という存在に心から興味を惹かれていた。そして君もまた、私の研究を理解し、同調してくれた。いい関係だったと……今でも思うよ」

 

「何を言っているのやら……それが変わるときは、しばらく訪れることはないだろうに」

 

 まるで今生の別れを告げるかの如き凌馬の発言を、タキオンはやんわりと一蹴すると間もなく、レモンティーに角砂糖を投入し始めた。

 

 やがてそれを一口啜った彼女の視線は、凌馬が腰に巻くベルトのバックル部分に吸い寄せられる。

 

「それにしても……経口からの補給行為すら不要とするそのベルト、やはり興味深いねぇ」

 

 彼の名を冠すというその()()()は、一見すると刀を模したブレードを携えるふざけた外観ながら、もたらす効果は人智を数歩も飛び越したものだ。

 

「またその話かい? ダメだ、何のためにイニシャライズを済ませたと思ってるんだい?」

 

「なに、複製してくれれば万事解決というものさ。若干華美であるのが玉にキズだが、食事行為の手間を省けるなら大した懸念点ではないしね」

 

「見た目は私の趣味だ、いいだろ? そもそも、これを君に託してはならない、と理事長殿に請われてしまってるしね」

 

「えー、栄養の管理は君の役目だろー?」

 

 常に研究欲が先行する二人はぶつかり合うことも多かったが、目指す先を同じとする彼らに、別離の道はもはや存在しなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「さーて、これからどうしたものやら」

 

 穏やかな街の一角にて、当てもなくさまよう男がいた。

 街中に似合わぬ白衣を身に纏う彼の名は、戦極凌馬。今しがた、いち研究員として勤めていた会社を去ったところだった。

 

「時間はたっぷりとあったし、邪魔も入らないのは何よりだったが……」

 

 並外れた才を持つ凌馬にとっては、職務の傍らで自らの野望のための研究を続けることは容易だった。

 

 故に互いにとって都合のよい関係を築けていたのだが、それは彼の目指す先に『GIクラスのウマ娘の脚が必要』という結論が出た地点で破綻する。

 

 手に入るはずのないものに拘っても仕方ないと踏んで間もなく、結局『違法な勤務時間超過の公表』というカードをちらつかせて会社を後にした。

 

「いっそ、裏の世界なんかに足を踏み入れてみるか……おっと?」

 

 件のウマ娘の身柄を得るにあたって、まともな方法では不可能だ。ならばまともではない方法を試すしかないか、と思考が不穏な方向へ進みかけたところで、凌馬は運命を左右するものを目にすることとなる。

 そこらの掲示板から風に吹かれてきた求人のチラシを手に取った彼は、ある考えに思い至る。

 

「トレーナー募集、か……そうだ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──私としたことが、こんな簡単な道を見落としていたなんてね」

 

 そう自嘲するように呟いた凌馬は、悠々と学園の敷地を歩んでいた。

 結局、直近のトレーナー資格試験に挑むことで楽々権利をものにした彼は、晴れて中央配属の身分を手にしていたのだ。

 

「さて、せっかく来たなら、会っていかなければね」

 

 脳裏に古い友人の顔を浮かべた凌馬は、ある練習コースへ足を運んでいた。

 見慣れたスーツの後ろ姿を認め、かつてしていたように声をかける。

 

「やぁ、貴虎!」

 

「……なぜ、お前がここに?」

 

 こちらへ振り向くと目を見張った旧友・呉島貴虎へ向け、愉快げに笑う凌馬。

 近況を知らせていなかった落ち度があるとはいえ、相変わらず鈍いこの男に、ひとつ皮肉をぶつけてやることにした。

 

「随分とアバウトな質問だ、貴虎。トレーナーである私が敷地内にいる、それのどこに疑問を挟む余地があるというんだい?」

 

「何? まさか……」

 

 言わんとすることを察した貴虎の額に、冷や汗が滲む。

 やがて襟のトレーナーバッジを認めた彼は、冗談でないと察しため息をついた。

 

「よもや来るまい、と思っていたが……研究狂いは学園に二人も要らんぞ」

 

 悩みの種が増えた、と忌々しげな貴虎だったが、凌馬は彼の言葉──特に後半──を聞くと目の色を変えた。

 

「なんだい、私の同類が他にいるような口ぶりだな? 教師か、トレーナーか? はたまた生徒かい? 答えてくれたまえ、貴虎──!」

 

「あぁ、余計なことを洩らした……!」

 

 不用意なミスを犯した、とさらに胃を痛める友人をよそに、凌馬は件の人物について詰め続ける。

 

 結局観念した貴虎が、旧理科準備室の住人の噂を吐いたことで矛を納めた凌馬は、意気揚々とコースを後にするのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「しばらく居ない? どうしてだい?」

 

 真っ先に向かった旧理解準備室にて、凌馬へ返ってきた言葉は芳しいものではなかった。

 

「さあ……ここを放ったらかしにするほどのことがあった、としか……」

 

 コーヒーを片手に、物静かを絵に描いたような振る舞いで応えたのは、この部屋の片隅を預かるというウマ娘・マンハッタンカフェ。

 凌馬が追うウマ娘に最も近い関係にある存在だった。

 

「それなら、いつ戻ってくるかも分からなそうだね? 全く、毎日確認にやってくるのも効率が悪いし、どうしたものやら……」

 

 望ましくない事態に、凌馬は頭を悩ませる。それをカフェは物珍しげに眺めたあと、こんな疑問を溢す。

 

「それにしても、珍しい……。あの人に会いたい、だなんて」

 

 学園を騒がすトラブルメーカーとして名が広まっていた知人への訪問に、改めて驚愕を表すカフェ。

 恐らく彼は、誰でも構わず実験台にする狂気ぶりを知らないのだろう。

 

 そう内心で凌馬を憐れむ彼女だったが、それ故に気づけなかった。

 

 既に彼の中で、予想もできない計画へ火がつけられていることに。

 

「……仕方ない、彼女が帰る前に名を売っておくとしよう」

 

 失礼するよ、と諦めたか背を向けた凌馬。

 カフェが気づいたのは、どこからかフラスコを取り出した彼の横顔を見たときだった。

 

 どこか狂気を宿したようなその表情は、まさしく自分が警告するか迷っていたものと同質の不穏さを滲ませている。

 

「まさか、あなたは──」

 

 嫌な予感を覚え呼び止めようとして、すぐ近くから感じた気配により言葉を引っ込める。

 それは彼女が長く付き合ってきた、他でもない()()()()のものであった。

 

「──そう……だね。あの人と()()なら、構うだけでも……」

 

 ……危ない。そう断じたカフェは、黙って見送ることを選んだ。

 

 誤魔化すようにコーヒーを啜る彼女はただ、目の前の男に知人ほどの善性が残っていることを祈った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「やあ、ごきげんよう。君に試させてほしい薬液が──」

 

「うわっ!? いや、間に合ってますー!!」

 

 フラスコ片手に服薬を持ちかける凌馬から、一目散に逃げ去っていく生徒。

 数日も経てば、その光景は恒例のものとなっていた。

 

「ふーむ……遭遇から逃走までの猶予が短くなってきたな、そろそろ私の存在が伝わってきたと見るべきか?」

 

 適当な対象を見繕っては吹っかけていたこの行動に、望んでいた喧伝効果が現れてきたと判断した凌馬。

 よいことだ、と機嫌の良い彼だったが、その背にある声がかけられる。

 

「……何をしている、凌馬」

 

 聞き馴染みのある声に振り向くと、険しげな表情の貴虎が立っていた。

 

「なーに、ただのネゴシエートだよ。貴虎」

 

 一連の流れを気にもしていないような軽い口調で返した彼だったが、さすがに腹に据えかねる様子の貴虎は二の句を継いだ。

 

「ふざけるな。まさか、本気で生徒を実験台にしようとしている訳じゃないだろうな?」

 

「まさか。私が欲しいのは、ウマ娘を超越し得る存在だけさ」

 

 ウマの骨に興味はない、と飄々と否定しながら、フラスコを眺めくるくると大げさに振る舞う凌馬。

 しかしそれ故か、近づいてくる気配に彼は気づけなかった。

 

「──やあ、私がいない間に随分と盛り上がっていたようだねぇ」

 

 背後から聞こえた声に、動きを止める凌馬。うすうす正体に勘づいた彼だったが、既に命運は凌馬の手を離れていた。

 

「……おい、凌馬──」

 

 ハッとした貴虎の顔が、凌馬の見た最後の光景だった。

 

「えっほ、えっほ、えっほ──!」

 

 ズタ袋に封じたらしい自分を軽やかに運んでいく脚力。それを暗闇の中で、テンポよく上下に揺られる感覚を味わいながら感じ取る凌馬からは、徐々に笑いが込み上げてきていた。

 

「ふっふっふっ……あっはっはっは!!」

 

 久しく忘れていた感情と共に、彼はどことも知れぬ場所へ運ばれてゆくのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 凌馬が視界を取り戻したのは、放り投げるように椅子に座らされてから間もなくだった。

 曲芸のように取り去られたズタ袋の向こうにあったのは、以前訪れたことのある景色だ。

 

「手荒な真似をしてすまないね、君と落ち着いて話をするためには仕方なかったのさ」

 

 つい先程まで自分が被せられていた袋を片手に口を開いたのは、まさしくコンタクトを求めていた旧理科準備室の住人だった。

 

「私の名はアグネスタキオン。ウマ娘の謎を解明しようと努める者さ」

 

 

 ──狂気のサイエンティストが、ここにふたり並び立つ。




戦極ドライバーってめちゃくちゃ便利そうですよね。

個人的に好きなライダーなので、2話も近いうちに出したい……と言いたいところですがあまり期待しないでください。
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