ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き   作:J・イトー

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シダーの投稿に続いてこちらでも投稿。デルタ編から半年、1話投稿から一年ぶりとなる続編です。

皆大好きなあの人と顔合わせ。


つかみ取れ、君求める物

「よーし、始めるぞー」

 

 ビコーとトレーナー契約を結んで数日後、本格的なトレーニングに勤しんでいた。こうして担当ウマ娘となってもらったからには、メリットを十全に享受してもらわないと申し訳が立たない。

 

「とりあえず今から芝、砂の両方走るから。砂のときは踏み込みを普段より意識して走ってくれ」

 

 青年としては、しばらくはストレッチで柔軟性の向上、ジムでの筋力向上を交えつつ、学園のコースで芝やダートの両方を走ってもらおうと考えている。

 

 ダート走を加えたのは、レースで見る限り後方からの走りを得意としているそうだし、それなら基礎となるスピードの他にグリップ力の強化、即ち加速力の強化に繋がるトレーニングを積むのがいいだろうと考えたから……というのは建前で、芝とダートの適性の比重や脚質をしれっと確認しておこうという腹積もりがあったからだ。

 

 本人から短距離が得意、とは聞いていたので走る距離はできるだけ短くしたかったが、学園のコースの原型となった東京レース場では短距離走は行われておらず、実戦との差を比べづらかったので、マイル戦大手の安田記念で知られる1600mで走らせることにした。

 

「任せとけ、おやっさん!」

 

 メニューを伝えると実に頼もしい返事をしてくれた。

 

 しかしどうだろう、この呼ばれ方は正直かなりむず痒い。

 前世の分も合わせれば中年くらいにはなるだろうが、精神年齢がそれに追い付いているかと言われればそうではない。

 ただし、今更言っても曲げてくれないだろう。ポリポリと頭を掻いたあとゴール地点まで歩き、ストップウォッチを取り出すと、3秒のカウントダウンののちメガホンを手にしてスタートの合図を告げた。

 

「いっくぞおぉぉっ!」

 

 すると意気揚々と駆け出していった彼女は、レースのときと見劣りしない速度で足を進めていく。

 

(やっぱり速いな、もう4分の1か。1ハロン走るのに平均12秒ほど掛かることを考えれば流石に足らないが、デビュー前なんだし中々に上物だろう)

 

 手の中のストップウォッチに神経を集中させながら考え事をしていると、意外とすぐに時間が経ってゆき、少々息を切らしたビコーの姿が徐々に迫ってくる。

 

「おっしゃ、ゴール!」

 

「ストップ……よし、お疲れさんっと。ほら。それ飲んで休憩したらダートに行こう」

 

「はぁ……はぁ……ありがとなっ!」

 

 飲料水が入ったボトルを渡すと同時に次はダートを走る旨を告げると、青年はしばらく考え込んだ。

 

(うーむ……確かにタイムこそ悪くないけども、前半に飛ばした分後半に精彩を欠いてる感じがしたな。やっぱり差し向けの娘なのかなぁ……けどもともと無理を言ってマイル戦程度まで距離を伸ばしているんだし……)

 

 結果の精査を行ううち、結局次を見てから考えよう、と放棄してビコーの方に思考を向けると、彼女は元気そうに手を振ってくれた。

 よし、とダートのコースの方に歩みだす。まだトレーニングは始まったばかりである。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「よっしゃ、ゴールだっ!」

 

 目の前にビコーが横切ると同時に、ストップウォッチを止める。流石に芝で走ったときのタイムよりは劣るが、ダートと考えればなかなかなタイムだった。

 

「お疲れ、すごいじゃないか! 多分ダート方面に行っても良い線いけると思うよ」

 

「ホントか!?」

 

 さっき飲み干したボトルとは別のボトルに手をつけ、嬉しそうに反応するビコー。

 しかしまだ伝えるべきことが残っていた青年は、迷いなくそれを突きつけた。

 

「後半に入るとちょっとペースを落としてたけどね」

 

「あー……最後にバシッと決めるのが、アタシの持ち味だからさ。始めから全力だとエネルギーが持たないんだ」

 

 成程、やはり闇雲に走らせるのは彼女には合わないらしい。ならペースキープの練習をさせるか? しかし本番では他のウマ娘たちに合わせたスピードを出さなければいけない都合上、軽はずみに特定のペースに慣らしてしまうとむしろ機能不全に陥る可能性もある。

 

「うーむ……脚をためる感覚は前に誰かいないと養いづらいだろうしね……誰か並走に付き合ってくれる人いないかなぁ」

 

 間もなくソロトレーニングの限界を悟った青年は、そうボヤいた。

 あくまでデータ上ではなく、直接的な比較対象が欲しいところだった。

 

「それなら先輩に頼んでみるよっ!」

 

「いいのか? というか先輩って?」

 

 併走相手に心当たりがあるらしいビコーの提案に思わず聞き返すと、聞いて驚くなよ、と言いたげに彼女は口を開いた。

 

「サクラバクシンオー先輩だよ! 学級委員長をやってるすごいウマ娘なんだ! 学園の平和を守るバクシン巡回は、みんなが知るところだぞ!」

 

 挙げられたその名は、青年にとって心当たりがあった。クラシック級からキャリアをスタートした変わり種で、皐月賞の前哨戦であるスプリングステークスでの敗戦をきっかけにスプリンターへの路線変更を行うと、早速重賞を含む2連勝を挙げて注目されているウマ娘だ。

 まさか彼女のコネクションが、そんなところに存在していたとは驚きだった。

 

「そうだったのか……なら是非とも頼めるかな」

 

「わかった! 今度トレーニングや併走に付き合ってくれって頼んでみるよ! よーし、じゃあ次のトレーニングに行こうぜっ!」

 

「そうだな」

 

 芝とダートの二刀流すら出来るかもしれない彼女に、現役で鳴らすスプリンターから技術を吸収できるとしたら、鬼に金棒では済まないかもしれない。

 

 無論断られる可能性は否定できなかったが、なんにせよ気分は上向く。

 

 その後、結局1200mでの走行を試したのち、トレーニングはお開きとなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 翌日。協力を取り付けたらしいビコーの要請でコースに先行していた青年のもとに、目的のウマ娘たちがやってきた。

 

「あなたですねっ! ビコーさんのトレーナーとなった御方は!」

 

 声の方向へ振り向くと、ビコーの隣にいたのは、きっちりと整えられた前髪とポニーテールが特徴的なウマ娘と、サングラスが特徴的なウマ娘の二人だった。

 

「改めて紹介するよっ! バクシンオー先輩とパール先輩だよっ! ありがとな、トレーニングに付き合ってくれて!」

 

「礼には及びません! あなたは頼もしき同志なのです! 同志の助けに応じぬなど学級委員長の名折れですからっ!」

 

 学級委員長という肩書きから少々身構えていたが、想像よりもかなりハイテンションだ。しかしそれでいて義に篤いといったところは、協力相手としてはこの上ない人材だ。

 

「フッ、右に同じと言っておくわ。それにライバルとの切磋琢磨……世界に渡るにはマストなタスクよ!」

 

 もう一人の方もまた、テンションの高い曲者だった。まだデビュー前である故に青年は知らなかったが、彼女の名はシーキングザパールといった。

 どちらかが暴走を起こしたら誰がストッパーになるのか、と一抹の不安を抱えつつも、まずは協力に対する礼を示すことにした。

 

「どうも。ビコーがお世話になっているそうだね。今回の合同トレーニングも快く引き受けてくれて感謝するよ」

 

「そうでしょうともそうでしょうとも! あなたもドンドン頼ってくださって結構ですからね! それでは挨拶も済んだことですし、早速走りましょう! 行きますよ、ビコーさん! バクシンバクシーン!」

 

「随分ハイテンポじゃない、嫌いじゃないわ!」

 

「おう、先輩! うおおおおっ!」

 

「え、ちょ」

 

 すると三人は、声を掛ける間もなく走り去っていった。

 静止しようとして伸ばした片腕を戻せずに、呆然とする青年だったが。

 

「君が彼女のトレーナーか?」

 

 間もなく後ろから声をかけられた。おそらくバクシンオーのトレーナーだろう、と見当をつけた青年は、挨拶しておこうと振り返った。

 

「あ、どうも。僕はビコーペガサスのトレーナーをしており……え!?」

 

 顔を見た刹那、思わず声をあげてしまった。バカな。なぜこの人がこんなところに。いや、木場勇治(仮面ライダー)がいるかもしれないところだぞ? しかし身体中を駆け巡る衝撃が抜けぬまま、相手の名を口にした。

 

「な、名護さん!?」

 

 平成ライダー第9作となる作品・仮面ライダーキバに登場する、怪人『ファンガイア』に対抗する組織『素晴らしき青空の会』のメンバーであり、仮面ライダーイクサの変身者のひとりである男、名護(なご)啓介(けいすけ)がそこにいた。

 

「俺を知っているのか? まあいい。己の担当ウマ娘と親交深い彼女と、そのトレーナーには興味を抱いていた。会えて嬉しく思う」

 

 手を差し出されたので恐る恐る握り返す。

 

 間違いない。この世界はウマ娘と仮面ライダーが深く結び付いた世界だ。おそらくトレーナーと担当ウマ娘という関係で。

 木場とすれ違ったのも夢ではなかったらしい。

 

「名護さん! 遅れました! ごめんなさい!」

 

 すると名護の名を呼ぶ別の誰かの声が聞こえ、奥を見やるとまたもや見知った顔がやってきた。

 

(渡さんやぁん……)

 

 名護の注釈が入る間もなく、その人物の正体に気付いた。遅れてやってきたのは前述した作品の主人公、(くれない)(わたる)その人であった。

 

「構わない。ああ、紹介しよう。彼はあのシーキングザパールの担当にして、私の弟子である紅渡くんだ」

 

「どうも。名護さんの下で色々勉強中なんだ。今日はよろしくね」

 

 こちらとも握手を交わしつつ、内心で歓喜とも驚愕ともとれない動揺を押し殺す。

 

「……どうぞよろしくお願いします」

 

 そして顔合わせを終えた三人は、ふとコースをひた走るビコーらを見やった。

 

「ふむ……好調の彼女によく着いていっている。いい才能の持ち主だ、私が保証しよう」

 

「おぉ、ありがとうございます。ビコーにも伝えてくださればより喜ぶと思います」

 

 名護のお墨付きに、やはり当たりだったか、と歓喜しつつ返答する。

 そしてまず1勝を挙げるのは手堅いだろう、と付け加えられたのがきっかけで、話題は走りとは別の部分に移った。

 

「……そういえば、レースに出れば嫌が応でもライブに出ることになるが、その訓練は積んでいるのか?」

 

「えっ? ……あっ」

 

 名護の問いかけに対し、青年は自らの失態を即座に認識する。彼はレースの勝者、いや出走した全員の義務といえるライブのレッスンを何も考慮していなかった。

 

「歌が下手なのは……罪だぞ」

 

「……はい、ご忠告ありがとうございます」

 

 いつか聞いたような厳しい一言にシュンとなりつつも感謝を示した青年はその後、帰ってきたビコーらと共に合同トレーニングに勤しんだ。

 

 

 

 

 

 3日後、彼はビコーのトレーニングプログラムに、急遽ダンススタジオでのライブパフォーマンスのプランを差し込んだ。

 

 その日のダンススタジオには『Inherited-System』(麻生親子パート)仕込みの高音で、ビコーの歌う『Make debut!』を牽引していくトレーナーの姿があったという。




今日、今話の完成にあたって筆者は、掌動XX3弾の拡張パーツが半分被ってペア化している不良品を掴まされたせいでイクサ・ジャッジメントとソード展開ガタキリバとキバエンペラー、ダークキバのザンバットソード持ち姿をお預けにされて号泣しながら仕上げに走っておりました(ノーマルキバとゴーストは未購入)。

さて、待っていてくださる方々には申し訳ないのですが、本編についてはビコーが育成ウマ娘として実装しない限りは、いや実装されたとしても執筆状況は変わらないと思われます。

また、他ライダー編の1話目または続編が投稿される可能性については現在の進行状況からして「無くはない」としか言えないので、投稿されたらラッキー程度に考えてくだされば幸いです。
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