ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き 作:J・イトー
今更ですが、アプリゲーム『ライドカメンズ』のライダーたちを本作で扱うことはありません。ご了承を。
「あなたたちに、取材の申し込みが来ておりますよ」
ある日、トレーナー室にてたづなにそう切り出された。
はあ、と気の抜けた声を洩らしながら、ハテナマークを脳裏に浮かばせた青年が続きを促すと、たづなは特に澱むことなく詳細を告げた。
「言うなれば密着取材、という形でしょうか。ビコーペガサスさんの普段のトレーニングの様子などを見せてほしい、とのことですよ」
なるほど、と概要を飲み込んだ青年は考え込んだ。前世でも、アスリートや有名人の仕事場を映した密着番組はよく目にしたことがあるゆえに、想像がつかない訳ではなかった。
「うーん、どうでしょう。練習中にずっとカメラが回されるような感じですか?」
「いえ。雑誌の取材ですから、そう四六時中気を張っている心配はありませんよ」
内容へ踏み込んでみると、何やら思い違いをしていたことに気づき顔を赤くした青年だが、咳払いをして取り繕った彼は了承の返事を行うことにした。
「わかりました。ビコーにも話しておきます」
「ありがとうございます! では日時は追って伝えますね」
返事に表情を明るくしたたづなは、間もなく退出の素振りを見せたが、聞きそびれていたことがあった青年は彼女を呼び止めた。
「ああ、すみません。一応聞いておきたいのですが、その記事のお名前は?」
「はい。Atashiジャーナル、というところですよ」
その名に心当たりがあった青年は、その衝撃で思考を一瞬止めてしまった。
え、と洩らして動かなくなった自分に、首を傾げるたづなの姿が映ったが、我に返ると慌てて取り繕う。
「いえ、呼び止めてすみません。それでは後日、また」
すると間もなくたづなが部屋を後にしたのを見届けた青年は、パソコンへ向かうと検索エンジンを起動する。
「……やっぱり、ここは」
検索をかけてみると、少なくともゴシップの噂は聞かない出版社だった。しかしホームページに記載されていた編集長の名が彼の目を引く。
「桃井玲子……? まさか」
その名に心当たりがあった彼は、ホームページを閉じると別の固有名詞を検索エンジンに打ち込み始めた。
その先に表示されたのは、トロフィーと賞状入れの円筒を自慢げに突き出す記者二人の姿だった。
「この度は、取材の許可を頂き感謝します。Atashiジャーナルの羽黒と申します」
「同じく辰巳です。カメラマンをやってます」
数日後、コースへ赴いた自分とビコーを訪れたのは、やはり想像通りの人物だった。
手帳を手にしたオールバックのライター・羽黒レンと、大振りなカメラをちらつかせて身分をアピールする茶髪のカメラマン・辰巳シンジの二人は、かつて平成ライダー10作品目『仮面ライダーディケイド』にて見てきた姿と変わりない。
「じゃ、さっそく一枚」
「えっ」
唐突にシンジからポーズを求められ狼狽える青年だったが、飛びつくようにしたビコーに肩を組まれ、そのタイミングでシャッターが切られる。
「ありがとうございます。仲のよいコンビですね」
「はは……ありがとうございます」
若干照れ気味に謝辞を口にしてみれば、ビコーが横から口を挟んだ。
「おやっさんはすごいんだ! アタシの知らないヒーローのこと、たくさん教えてくれるんだぞ!」
「ちょっ、ビコー!?」
自慢げに語る彼女へ、慌てて名を呼ぶ青年。特に取り決めをしていた訳ではなかったが、それでも初めに飛び出すのがプライベートな話題であるとは想像していなかった彼は、若干頬を紅潮させながら取り繕おうと口を開く。
「はっ、はは……趣味が噛み合っていたもので、よくそれで話を弾ませていて……なんて、ちょっと子供臭いですかね?」
ふらふらと着地点がずれ込みながら放たれたその言葉に、シンジは何でもないように笑う。
「いえ、いくつになっても、男はヒーローに憧れるものですからね。むしろ、少年心を忘れていない証拠だと思います」
社交辞令に等しい答えと分かっていても、その言葉に心を軽くした青年。
すると、若干逸れつつあった流れを引き戻すように咳払いを放ったレンによって、本題を切り出される。
「……ひとまず。我々としては、ビコーさんのトレーニングやレースなどに密着させていただき、それを記事にすることによって、お二人の名前を広める手伝いをさせていただきたいと考えています」
確認するように口にした彼は、間もなくある要請を投げかける。
「さしあたっては、次走にまつわる展望や、レース内容についてのコメントなどを定期的にお伺いしたいのですが……よろしいでしょうか?」
「まあ、わかりやすく言えばインタビューのお願いですね」
シンジによって至極単純に要約されたその要請。特に断る理由もない青年は、澱みなく返答した。
「もちろんです。可能な限りお答えしますね」
その了承の言葉に、レンが礼を口にしたところで終了したファーストコンタクト。
間もなくシンジらが見守る中、トレーニングを開始した二人は、次走と目する一勝クラス戦・さざんか賞への用意を進めるのだった。
『強い強いビコーペガサス! なんと5バ身差をつけゴール! 圧巻の二連勝です!』
12月26日。再び圧勝劇を見せつけたビコーは、次期クラシック級における主役の一角に数えられるまでに脚光を浴びることとなった。
「よっしゃおやっさん! 連勝だぞ連勝ー!」
そう喜んで身を寄せてくる彼女をなだめるようにしながら、控え室まで取材に赴いていたレンに向き直る。
間もなく彼は、賛辞の言葉を口にした。
「お見事な勝利でしたね。年内を無敗で終えられたのは、得がたい結果だと思います」
そうレンの労う通り、この勝利は最初の一年の終わりとして満足のいく結果だ。
「はい、そう言ってもらえて嬉しいです!」
興奮気味に青年が礼を言って間もなく、カメラを携えたシンジが戻った。
「どうも、お疲れ様です。凄かったですね」
開口一番に口にされた労いの言葉に、こちらも礼を返しておく。
バッチリですよ、と写真もちらつかせた彼に、レンの表情から安堵を垣間見ながら、青年は少し前から抱えていた疑問を口にした。
「それにしても、お二人はこっちに来ていてよかったんですか? 確か今日は……」
今日、中山レース場にて年末大一番・有馬記念が開催されることを知っていた故に訊いたその質問。
不躾と知りながらも放ったそれは、存外何でもない様子で受け止められた。
「まあ、カメラマンもライターも、社内で俺たちだけじゃありませんし。それに──」
そうシンジが口にする途中で、控室の扉が開く。
「よっ、ビコー。邪魔するよ」
入ってきたのは、ビコーの属する美浦寮の寮長『ヒシアマゾン』。今期のティアラ路線にて活躍を確実視されるウマ娘だった。
「ヒシアマ姐さん! 駆けつけてくれたのか!」
親しい人物の登場に色めきだったビコー。疲れもなんのその、という調子で駆け寄った彼女は、引き続き敬愛する寮長と言葉を交わす。
「見てたろ、アタシのペガサスマッハストライク!」
「ああ、流石さ。ビコー」
そんな教え子のやり取りに微笑む青年だったが、すぐに彼女と同じ感情を抱くことになるとは思いもしていなかった。
「──ビコー、ソノトレーナー。ハジメテ、アウナ」
片言な調子で響いたその声は、青年には覚えのある物腰だった。
その声は、と心中で呟いた彼がヒシアマゾンの背後へ視線のピントを合わせると、白スーツ姿の男性が姿を現していた。
それは青年の見慣れた格好とは異なる形だったが、見間違うはずもなかった。
「アマゾン、ライダー!?」
かつて粗い画質で見たままの彼が目の前に現れ、これで6人目となるライダーとの出会いに驚嘆する青年。
間もなく眩しいほどの笑みとともに繰り出されたハンドサインを、半ば感動を覚えながら模倣する。
両手の甲を相手へ向け、指先が自身の側へ向くよう交互に指を組んだのち、下側から捻って掌を相手に向ける──映像で見た彼が、『友達の印』として使っていたそのサイン。
こうしてやや不思議なファーストコンタクトを済ませたのち、アマゾンによって切り出されたのは、驚きの誘いだった。
「……アマゾンタチ、ハシル、ナカマ、サガシテル」
何とはなしに言葉を受け止める青年だったが、ヒシアマゾンは突如割って入るとこう告げた。
「なーに、どうってこたない話さ。アタシとビコーで……タイマンさせてくんないかってね」
な、と動揺に洩らす。ヒシアマゾンは既にGIを制した精鋭だったからだ。
連勝で勢いに乗ってすぐに相手をするには、リスクの高いウマ娘だった。
「……ビコーはまだダート2勝だよ?」
実戦における経験値のベクトルが異なる、と諭してみる彼に、ヒシアマゾンは気にもせず口を開く。
「ハッハッハ! あの勝ち方をしといてそれはないんじゃないかい? それに、もうそろ行く気なんだろ? ターフにさ」
気安く放たれた推察には、どこか凄みがあった。
図星かい、とこちらの思惑を見通したように吐き捨てる彼女へ半ば唖然としていると、隣のビコーが吼える。
「そうさ! おやっさんは言ってくれたんだ、アタシは芝とダートのどちらでも輝けるって! 姐さんにだって……勝ってみせるさ!」
その力強い声に、首を振って弱気を追い払った青年は、この被宣戦布告を具体化させようと口を開く。
「そう……だね。どこだい? お望みは」
そう次走の見通しを問う青年へ向け、ヒシアマゾンは笑んでこう告げた。
「──京成杯。年明けに1600mの重賞がある。そこに出るつもりさね」
マイル戦という、今までよりも延長された距離感のレース。
ビコーにわずかに視線をやれば、勇ましい頷きが返ってくる。それを賛意ととった青年は、すぐさま了承の台詞を組み立てた。
「わかった。……強いぞ、ウチのヒーローは」
そう啖呵を切った彼に、獰猛な笑みを見せる二人のアマゾン。
「フフ、アマゾンタチモ、オンナジ」
「そうだね。ま、決まりさ。いいレースにしていこうじゃないか」
約束が取り付けられると、空間へ沈黙が広かった。ただし、そこに響いたシャッター音は、誰ひとりとして気にも留めていなかっただろう。
「じゃ、アタシは帰るよ。頑張りな、お二人さん」
すると、間もなく控室を後にする二人。
残された青年へ、ゆっくりと歩み寄ったシンジは、先ほどの続きのようにこう告げた。
「──こういう面白い場面にも出くわせますから、やめられないんですよ」
そう満足げにカメラを撫でる彼の姿が、ひどく印象的だった。
なんで本家育成シナリオで京成杯やんなかったんだろ。
さて、次の5話出るまでに何ヶ月かかることやら。