ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き   作:J・イトー

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うかうかしている間に、なにやらビコーの相手が増えたそうで(安田記念1995)。
と思ったらキャロットマンが実写化?一体どうなってるんだ……?

ちょっとご指摘もあったのでオリ主くんの認識更新回。


切り札は自分だけ

『栄養満点! 正義満点! カロテンチャージ、キャロットマン!』

 

『現れおったな、キャロットマンめ!』

 

 テレビ画面から流れる特撮番組の音声を肴に、青年はある記事を読みふけっていた。

 

「初重賞は女傑との邂逅の場へ……か」

 

 Atashiジャーナルから見本がてら送られてきたそれを前に、思わず洩らす。

 やはり先日の宣戦布告をシンジらが扱わぬ訳もなく、いま読み上げた見出しは対峙する自分たちとアマゾンら四人を写した画像とともに張り出されていた。

 

「乗ったからには……やるしかないか」

 

 ため息をつきながらも、そう決意を新たにした彼は、ある事情から持ち出していたトレーナーの名簿へ視線を落とす。

 

「と、その前に。ひとつ確認しておかないと」

 

 雑誌を放ると名簿の表紙に手を掛ける青年の脳裏からは、京成杯の件は一時追いやられていた。

 

「渡に名護さん、アマゾンまで……この出会いがどこまで続くのか、をね」

 

 果たして、ライダーたちとの顔合わせが、いま限りの出来事であるのか。

 もし、そうでないと言うのであれば。これから幾度となく戦うことになるビコーにとって脅威となり得る相手を、いち早く見つけられるのは大きなアドバンテージとなるはずだ。

 自分の目が節穴でなければ、彼らと共にあったウマ娘たちは、もれなく歴史に名を残し得る実力とオーラを兼ね備えていたのだから。

 

 やや緊張の面持ちで名簿を開いた彼の目に飛び込んできたのは、まさに想定通りの結果だった。

 

「やっぱり……いるな」

 

 ひとり、ふたり、と五十音順のそれを読み進めてみれば、すぐに一人目は見つかった。

 相川始/仮面ライダーカリスの存在に気づくとそう漏らす青年だったが、読み進めてみれば次々に見覚えのある名前が飛び込んでくる。

 

「葵蓮? の、信彦……浅倉もいるのか!?」

 

 歴代ライダーの前に立ち塞がった強敵の名が続々と現れ、慄いてしまう。ひとりは亡き息子のために十五のライダーの力を操り戦う男、ひとりは次期創世王として幾度となく太陽の子たる親友と相対した影の王子、ひとりはただ戦いを欲し暴れるライダー史でも屈指の凶悪人物の名だ。はっきり言って彼らがこの職に就いているとは信じがたいことであったが、事実としてここトレセン学園に身を置いているのだという。

 

「一歩間違えれば、世界が滅びてもおかしくなかったな……」

 

 他にも世界を滅ぼしかねない巨悪の名もいくつか見かけ、洩らす青年。彼らのその物量は、オールライダーものですらお目にかかれないほどだった。仮面ライダーという概念がこの世界に存在していたならば、自分はトレーナーどころではなかっただろう。

 

 しかし、そんな悪役探しの最中、彼はまたも興味深い名を見つける。

 

「でも……この子が生きてるあたり、ただライダーの世界が持ち込まれただけではないらしいぞ」

 

『仮面ライダーウィザード』における騒動の首謀者・笛木奏/仮面ライダーワイズマンの名のそばに、その愛娘が記載されていた。それを認識した青年は、この世界についてもうひとつ理解を進めていた。

 

 今しがた注目していた名は、『仮面ライダーウィザード』本編中では終始故人として扱われていた人物のものだ。

 まだあらゆる可能性を否定することはできない段階だが、この世界では自分の知る仮面ライダーとは一味違う道筋を辿っている、と考えても不思議ではない。

 

「ま、公に学園を支配する、とか言わない内は大丈夫だろう」

 

 注視するに越したことはないだろうが、気にしすぎるのも毒だとした青年はそう思考を切り上げた。

 すると面白がった彼が次に目を向けるのは、主人公格のライダーたちな訳だったのだが。

 

「あれ、なんで翔一や天道がいないんだろう?」

 

 ざっと羅列してみれば、津上翔一/仮面ライダーアギトと天道総司/仮面ライダーカブトの名が欠けていることに気づいた。少し掘り下げてみれば、何の事は無い。フランスにも存在しているトレセン学園に勤めていた、というだけだったらしい──余談だが凰蓮・ピエール・アルフォンゾ/仮面ライダーブラーボもその部類だ──。

 

「誰でもここにいる、って訳ではなさそうだなぁ」

 

 作中での動向や出自から、日本国内で活動しない例もあるのかもしれない──店を構えた翔一はともかく天道はただ豆腐目当てだけだったような気もするが──と答えを得た青年は、再び名簿に手をつけ始めた。

 

「せっかくだ、一挙検証といこう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「どうした、おやっさん?」

 

「いや、なんでもない……なんでもないとも」

 

 翌日のミーティングの最中、気の抜けた顔を捉えたらしいビコーの言葉を受け流しながら、青年はゆうべの作業を回想していた。

 

 あれから、学園に身を置くライダーとその近況を大まかに調べていた彼は、結局うたた寝という形で一日を終えることになった。

 ここまで居て何故ひと握りしか出会えていなかったのか、と勘繰るほどだった物量はキャパシティに収まらず。現役のウマ娘と繋がりのある者を探すことに目標を下方修正し、注視すべき対象を絞ったところで肉体が限界を迎えてしまったのだ。

 

「それよりも……次の京成杯の件だけど」

 

 そう会話を仕切り直すと資料を手に取った青年は、特に注目すべき対象の名を口にした。

 

「警戒すべきは……ヒシアマゾン、ヨシノプリヴェールの二人だ」

 

 おお、とその言葉に洩らすビコーだったが、後に挙げられたウマ娘に心当たりがないのかすぐさま首を傾げていた。

 

「どちらもGI、GIIを経験しているウマ娘だ。今回のレースでもフルに実力を発揮できると見ていい」

 

 アマゾンは阪神ジュベナイルフィリーズを制しているし、ヨシノも波はあるがGIIの掲示板に載った実力あるウマ娘だ。

 そこで、と前置いた青年は、次走へ向けての対応を語る。

 

「君の末脚を活かす……差しで戦ってほしいと思う」

 

 それは、今まで温存してきた戦術の解禁を意味する言葉だった。

 

「よっしゃー! あたしの必殺フルパワー、見せてやるからな、おやっさん!」

 

 拳を突き上げて興奮の表情を見せるビコーに対し、安堵だろうか笑みを漏らす青年。しかしすぐに表情を引き締め直すと彼は、トレーニングプランの指示に移った。

 

「ここからは芝、ダートのランニングの比率を逆転させていく」

 

 これまでダートコースでのトレーニングは、実戦に向けた意味合いも兼ねていた故に多用していたのだが、その役割を芝コースに託す。それが次走に向けての大まかな結論だった。

 

 ただし、重賞ともなれば求められる実力は今までより跳ね上がる。すると必然的にトレーニングの強度も増す必要があるのだが、それは経験の浅い身にとっては難しい舵取りだ。

 

「けど相手のランクが上がるんだ、負荷はこれまで以上になるし、それに──」

 

「──おやっさん」

 

 つらつらと懸念を口にしようとした青年を遮るように、ビコーの声が響く。

 

「ヒーローに修行はつきものなんだ、十分だと思うまでビシバシ頼むっ!」

 

 その力強い返事に、自嘲するように笑んだ青年はこう応える。

 

「……ああ、ついてきてくれるというなら」

 

「もっちろんさ! ジャスティスビコーのパワーアップ編、スタートだーっ!!」

 

 そう青年へ飛びつくように肩を組んだビコーは、腕を天へ突き出しそう叫んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──腕振りなさーい振りなさい、早くしなさい飛びなさい! 腕振りなさーい振りなさい……」

 

 ビコーと更なる鍛練に励むことを誓った翌日。ダンススタジオにて汗を流す渡、名護らトレーナー陣とその担当ウマ娘たちがいた。

 

(……なんで俺イクササイズやってんの!?)

 

 今朝、記事の内容を聞きつけたらしい名護に誘われる形でビコーとここを訪れた青年だったものの、待っていた名護が見覚えのある三桁の数字を刷ったシャツを身に纏っていることに違和感を覚えたときには手遅れだった。

 

「走りなさい……走りなさい……! 未来に向かって走りなさああぁい!」

 

 そして今、こうしてエクササイズ……もといイクササイズに担当共々付き合わされている青年──ビコーのほうは思いの外気乗りしている様子だったのは救いか──。

 

「イクササーイズ、俺は正しい!」

 

 経験者なら口を揃えて「本気でやれば結構キツい」と評するこの運動に、ラストフレーズ間際には疲弊しきっていた名護除くトレーナー陣がなんとか締めのポーズにたどり着いたところで、あの決め台詞が飛び出す。

 

「その命……神に返しなさい」

 

 その台詞とともに満面の笑みで頭を上下させる名護を前にして、ようやく終わりを悟った青年はへたり込んだ。

 すると、名護の後ろから、なにやら別の人間が不満げに食ってかかっていった。

 

「なぁなぁなぁ、こんなんで本当にレースを勝てるのか?」

 

 そう大仰な仕草で問い詰めるのは、以前にも同行していた渡……ではなくその父親。1000年に1人の天才と呼ばれるバイオリニストにして、1986年のファンガイア動乱の中心人物となった男、紅音也その人であった。

 

「レースで勝つためには強い体でなければならない……。この動きは、強い体を作るための基礎鍛錬……そう、何事も基礎が大切だ」

 

 イの字のポーズを取りながら諭す名護の台詞に、懐かしさを覚える暇もなく、青年は数分前の仰天劇を思い返す。

 

『よう、我が息子よ。様子を見に来てやったぞ』

 

 青年が名護の出で立ちに目を丸くしていた頃、渡と共に現れた音也に開口一番に告げられたそのときの驚愕は忘れないだろう。

 

 同じくバイオリンの心得を持つサウンズオブアースなるウマ娘を担当に持つという彼は、時折バイオリンのセッションを奏でる異彩の人として学園では有名らしい。

 

(それよりも……若すぎだって)

 

 存在を認識こそしていたものの、いざ見てみれば息子の渡と年が離れているように見えない音也の容姿は、ある種の驚きがあった。劇中では23歳で息を引き取っていた彼が年齢を重ねた姿を想像できるかと問われれば、それまでなのだが。

 

 そういよいよオールライダーモノよろしく常識を当てはめて考えるべき世界でなくなってきた、と悟らされたのはもう既によい思い出と化していた。

 

「ごめんね、これでも名護さんは真剣だから」

 

「いや……それは分かります、伝わってきます」

 

 こちらへフォローを入れてくる渡の口振りにも懐かしい感情を覚えながら担当ウマ娘たちの方へ目をやると、向こうはそれなりに満足げな様子だった。

 

「ああ、素晴らしいプレリュードだった……! さあ次は速さが奏でるカルテットを、我らで示すとしようじゃないか!」

 

「ほほう! 速さ……すなわちスピードなら私の得意分野です!」

 

「なんだ!? これから走るのか!?」

 

「フ……乗ったわ! 我ら世界に輝く音楽隊! ワールドワイド・フォースよ!」

 

 それどころかアースを筆頭に、併走で競い合おうと闘志を迸らせてすらいる彼女らのバイタリティに苦笑していると、音也との口論に決着をつけてきたらしい名護がもう一度音頭を取ろうとしていた。

 

「よし、ではもう一度この動きを──」

 

「トレーナーさんっ! 我々は今よりコースの方でバクシンしてきますので! それではっ!」

 

 しかし名護の声は、すでに併走トレーニングのことしか頭になかったバクシンオーによって遮られる。

 

「な、待て! トレーナーの言うことを、聞きなさあぁぁぁい!!」

 

 そう叫ぶ彼に構う様子もなく駆け出していったウマ娘一同には、青年は渡ら共々唖然とするほかなかった。

 

 専属の担当ということは、名護のやり方を最もよく知っているはずなのだが、彼女の中ではイクササイズはどういった立ち位置のトレーニングだったのだろうか。

 

「落ち込むな、あれは筋金入りだ。俺の次にな」

 

 そう名護の肩を叩くと、先頭に立ってコースへ繰り出していく担当を追って歩き出してゆく音也。

 

 元気を出してください、と渡も駆け寄った名護の背が、青年にはどこか気の毒に思えてやまなかった。




声優繋がり(キャロットマンのナレーター、怪人など)でキバットネタぶちこみたかったのですがダメでした。

キャロットマンよ永遠なれ。
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