ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き 作:J・イトー
実は、龍騎ライダーズの中で北岡先生に次ぐくらい気に入ってるキャラクター。
ちなみにサイコ成分はだいぶ薄めにしてます。さすがに。
ロブロイ登場
──トレセン学園の図書室。
教本の他にも様々な書籍が蔵されるこの一室には、公私問わず生徒やトレーナーらが多く押し寄せる。
「ねえ、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」
そう図書委員に声を掛ける青年──東條悟も、そのひとりだった。
「『変身』っていう小説が読みたくてさ、どこにあるか教えてくれないかな」
チェコ出身の小説家によって著されたそれは、ある日蟲へと姿を変えてしまった男の物語だ。
「ええっと、著者の方の名はご存じですか? お教えくだされば、案内できます」
対応したのは、やや大振りな眼鏡が特徴的なウマ娘だった。間もなく東條が概要を伝えれば、すぐさま目当ての場所へ通され、感謝を告げた彼が本を手に取ったそのとき、ウマ娘はふと口を開いた。
「それにしても……珍しいですね、この本がお目当てなんて」
そんな好奇心からの呟きに、東條は頭を掻く。
失言だった、とウマ娘が詫びたのを受け流しながら、彼は題名を小突きつつ漠然と口にした。
「……いろんな英雄──いや、ヒーローがこう呟くのを聞いてきたんだ」
創作上のヒーローが姿を変える際に口にする掛け声として、最も名高い言葉。この元となったのが、東條が目当てとしていたこの小説だ。
「だから……興味を持ったのかも」
微妙にはぐらかすような物言いになってしまったのは、よくやる悪癖故か、気恥ずかしさ故だったか。それは彼にも分からなかった。
しかし、それでも十分に満足したらしいウマ娘は、静かながらも興奮を宿すようにこう切り出した。
「……実は私も、そんな存在に憧れがあるんです」
そうか、と受け止めた東條へ、ウマ娘は意を決したように口を開く。
「物語に登場するような……
憧憬の対象として口にされた二文字に、東條はわずかに目を見開いた。
それは、彼自身も抱いてきた理想像である。たとえ拙くとも、何か返事を紡ごうとした、その時──。
「……あ」
懐から響く携帯電話の振動に、東條は急用と悟り会話を打ち切らんとした。
「ごめん、多分香川先生からかも」
「そ、そうですか。ごめんなさい、話し込んでしまって……」
恩師の名を口にすると、ウマ娘はしゅんとしたように尻すぼみな言葉を発した。
止まってやる訳にもいかず、それじゃあ、と貸し出しカウンターへ向かう。
「は、はい。ありがとうございました……」
用を済ませた後に図書室を去る間際、そう小さく謝辞を述べた彼女の様子が、やけに印象に残った。
「……あ、借りた本、まだまともに読んでないかも」
ある日、特に目的もなく学園をうろついていた東條は、ふと懐の本の存在を思い出しそう呟いた。
あの印象的な出会いから数日間、恩師・香川英行により連れ出された遠征によって忙殺されていた彼にとっては、まったくの埒外にあったのだ。
手近なベンチに腰掛けた東條は、例の本を取り出すとそのまま読み耽る。
──そしてどれほどの時間が経った頃だろうか、ふと彼は隣から気配を感じた。
「あ、あの」
聞き覚えのある声に振り向いてみれば、そこには以前図書室で会ったウマ娘がいた。
「……君は」
「はい、あの時の図書委員です。ごめんなさい、こんなときに声をかけて……」
東條の手にある本を視界に収め、そう詫びた彼女。
何ともない、と流すと間もなく切り出される。
「えっと、この間は中途半端に終わってしまったので……その、せっかく会えた今、もう一度お話がしたかったんです」
「へえ、何が聞きたいの?」
彼女が望む話題はうすうす察してはいたし、それは自分にとっても望むところだった故に、東條は前のめりに返答した。
「え、えっと、あなたがおっしゃっていた、え、英雄についてのことだとか……あ、私、ゼンノロブロイっていいます。それで、その……」
しかしウマ娘、もといロブロイは口達者な方ではないのか、起点の言葉は不器用な自己紹介も差し込まれながら繰り出される。
会話は東條も得意な方ではなかったが、膠着を嫌った彼は主導権を握ってやろうと声を上げた。
「いいよ。聞きたいんでしょ? 僕が英雄に憧れてる理由」
するとハッとしたようにロブロイはこちらを見つめたのち、おずおずと頷いた。
陳腐と笑われるだろうか、と思いながらも、東條はシンプルに目的を口にする。
「英雄になれば、みんなが僕のことを好きになってくれるかもしれないからね」
短く告げられたその言葉に対し、よく解らない様子のロブロイだったが、もう本気で目指している訳ではない、と前置いた東條は自嘲気味にこう口にする。
「色々考えたんだけど、自分がそうなるには方法が少なすぎるとも思ったんだよね。そう戦いなんて起こりっこないし」
実際に英雄と称される先人らから、最もイメージしやすいのは武勇の一面だろう。しかしこれはほぼ確実に選択肢から除外される。
それは平和な現代の日本に生まれた身としては避けられない矛盾を孕んでいた。
「きっとトレーナーになったのは、英雄って呼ばれるようなウマ娘を育ててみれば、きっと何か変われるかなって考えたからだと思う」
そう英雄に対して抱き、影響を受けてきた思念を語った彼。
そうですか、というロブロイの相槌を最後に、しばらく二人の間に沈黙が降りたが、それを破ったのも彼女だった。
「……実は、付き合って……いや、お耳に入れたいことがあるんです」
そう目的を下方修正しながら放たれたらしい切り出しから間もなく、東條にもたらされたのはまさしく自分のためだけに用意されたような情報だった。
「その、トレーナーさん達の間で噂になっているのを聞いたんです。最近、コースに『英雄』のようなウマ娘が現れたって」
へえ、と東條は思わず洩らす。興味を惹かれないはずもなく、彼は続きを促した。
「その姿を見た人は……『地平を、一閃の光芒が切り拓いた』と評したそうです」
まさに『英雄』と呼ぶに相応しいその高名っぷりに、東條は歓喜から来る笑いを堪えるので精一杯だった。
切り出しの言葉から、続きを半ば悟りつつあった彼は、ひたすらに彼女が口を開くのを待った。
「その人がなんでそのウマ娘を『英雄』だと思ったのか、知りたくて……。だから、その、実は……貴方なら、『英雄探し』に、お付き合いくださるかもしれないと思いまして、声をかけたんです」
おずおずともう一度申し出されたその要請に、いよいよくつくつと笑い声を漏らした東條は、当然とばかりに了承の返事を組み立てた。
「……いいよ。楽しそうかも」
「……あ、ありがとうございます!」
またもおずおずとした口調を以て礼を述べたロブロイに、東條は手近な樹葉を栞代わりにすると、そのまま立ち上がった。
──その『英雄探し』の行く末は、まだ誰も知らない。
ちょっと短め。いつかPSゲーム版のセリフも喋らせてみたいと思ってたり。
ここまできたら、どこまでサブライダー縛りでやれるか試してみようか。