ビコーペガサスのトレーナーはライダーがお好き   作:J・イトー

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どちらも3尽くしなので。

アプリ版のモブウマ娘の名前を使うと戦績管理が面倒くさくなりそうだったので、10人分ほどの偽名を考えることになりました。

6/20 追記
レース内容を修正・出走者リストの削除を行いました。

8/19 追記
サブタイトル変更しました。さほど意味はないです。


デルタの章~TRIANGLE STRIP Poinsettia Ring~
何を求めて走り出す?


 ヒーローとは、必ずしも主人公とは限らない。

 

 健気に走り続けるその姿が、絶大なる支持を集め、愛され続けたとすれば、それは既にヒーローの領域。ナイスネイチャは、三原修二(仮面ライダーデルタ)は、正にそんな存在だった。

 

 相手が悪すぎた。善戦マンだ。そう囁かれることもあったが、彼らは最後まで戦い続けた。

 

 乾巧ら主人公のような、トウカイテイオーらG1ホースのような、象徴となりうる存在ではなかったかもしれない。だが量り知れないほどのドラマの立役者となったという点で、決して劣らない。

 

 そしてここに、新たな物語が紡がれる──。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 年末近づく12月、場はメイクデビューが行われている京都レース場。芝1200mの短き旅路を、11人のウマ娘が駆ける。

 

「さあ、ガンガンぶっ飛ばすよ、よく見ていてくれっ!」

 

『さああっという間にラストスパートの位置までやって参りました! 一番人気のフレアフォーチュンはまだ仕掛けない! 現在の先頭は7番人気のノーブルサポーター、このまま最後まで行ってしまうのか!?』

 

 折り返し地点をとうに過ぎ、戦況が動き出す時間帯。前評判の低かったウマ娘が終始主導権を握る、まさに番狂わせな展開だった。

 

 そしてその座を虎視眈々と狙うウマ娘がひとり。

 

(そんなワケない。まずはここで勝たなきゃ……脇役にすらなれないっ!)

 

 実況の発言に内心で反論しつつ、仕掛けるタイミングを見切ったそのウマ娘は加速を始めた。

 

『ゼッケン3番・ナイスネイチャがここで加速します! 3番手を引き離し先頭に迫る!』

 

 ナイスネイチャと呼ばれたウマ娘が中団から辛くも這い上がり、1着争いに飛び込んできた。

 

 3バ身、2バ身、1バ身、よし、このまま──。

 

「……さらに追い打ちだ」

 

『あぁっと! ノーブルサポーターがここでスピードをもう一段階上げる! ナイスネイチャ間に合うか!?』

 

 まだ脚を残していたらしい先頭のウマ娘がギアを上げ、捉えかけていた背中が後ろに流れていくことなく膠着状態に陥ってしまった。

 

 ゴールまでもう数十メートルもない。

 結局そのまま差し切ることはできず、1着の座は惜しくも頂かれてしまった。

 

『お見事! 2番ノーブルサポーターがクビ差で1着! 1着です! 新たなる主役の誕生となるのか!? 次のレースが今から楽しみです! 2着には惜しくも3番ナイスネイチャ、3着には1番ミスターシルヴァが───』

 

 もはや気力も残されておらず、地面に突っ伏した彼女に他者の勝利、すなわち自分の敗北を告げる声が聞こえた。

 

「はぁ……はぁ……まだ、足りないってコト……?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 URAが運営するウマ娘養成機関『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、略して『トレセン学園』。

 ウマ娘たちはそこで自身を導くトレーナーと出会い、共に同じ道を歩んでいく。

 

「ふー。どうでした? トレーナーさん?」

 

 芝のコース一周を走り切った癖っ毛のツインテールのウマ娘、ナイスネイチャ。先日の敗戦から再起を期すべく、トレーニングに明け暮れていた。

 

「うん。良かったと思うよ。今週中のタイムでは三番だったけど、後半のペースに乱れはなかったようだし、むしろ今くらいを基準にして、徐々に縮めていく形でいいんじゃないかな」

 

 計測したストップウォッチの数字を基に、私見を述べる男性。彼がナイスネイチャのトレーナーであり、名を三原(みはら) 修二(しゅうじ)といった。

 

「うげ。また3かぁ……」

 

 三原の報告に苦い顔をするネイチャ。彼女には、悩まされているジンクスがあったからだ。

 

 クジを引けば3等、レースに出れば3着。いい線はいくものの、あともう一つ、いや二つ足りない。それがナイスネイチャというウマ娘を悩ませるジンクスだった。

 

「ホントごめんなさいねー。いつもいいとこ止まりで」

 

「……気にすることはないよ。君が何事もなく走れれば、俺は何もいらないさ」

 

 どこか自嘲するように話す彼の様子を訝しむネイチャではあったが、まぁいいか、と意識を切り替えたのか「もう一周走ってくるね」と言い残して走り去っていった。

 

「……何やってるんだろうな、俺」

 

 彼女が目の届かぬだろう距離まで離れていくのを見ると、三原はそう独りごちた。

 

 彼のキャリアは、お世辞にも華々しいものとは言えなかった。

 もともと人気のある職場だったから、高給取りだから、と周りの評価を見て選んだ職だった。

 しかし、そもそも押しの強い性格ではない三原は、スカウトの段階で後手に回った。将来有望なウマ娘はたいてい意欲、交渉、能力に優れたベテランやエリートを選ぶのだから。

 となれば自分にできるのは、切羽詰まっているウマ娘に手を差しのべるか、エースの陰に隠れたウマ娘をしれっと勧誘するくらいだった。

 

 GIII、GIIクラスに出ればなんとか入着はできるものの、GIとなると、どれだけ足掻いても上から数えた方がギリギリ早いかどうか、くらいの順位までしか行けない。

 あまり負荷を掛けたがる方針ではないために故障を起こしたことはないものの、結果が付いてこない以上はただの臆病だ。

 

 今契約しているナイスネイチャとの出会いは、特段劇的なものではなく、周りがトウカイテイオーという新星に飛び付くなか、ただ一人ナイスネイチャを選んだ、というだけだった。

 もちろん、彼女の末脚に光るものを見た上での選択ではあったが。

 

 これからも、平々凡々とした毎日が続くのだろう。情熱を持たず、飯を食うための全力しか尽くせない自分には脇役くらいがお似合いだ。

 

 ──じゃあ彼女はどうなんだ? 

 

「……っ」

 

 心中で生まれた問いを、思わず振り払うように首を振る。

 カウントが進むストップウォッチを片手にナイスネイチャが走る姿を見やる三原の目には、様々な感情が渦巻き止まなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 後日。トレーナー室のパソコンの前で次走を考えていた三原のもとに、ナイスネイチャが合流した。

 

「おっすー、あれ、仕事中?」

 

「いや、次のレースどうしようかと思ってさ」

 

 ネイチャが画面を覗き込むと、直近の開催情報が記載された表が映っていた。

 

「ほうほう……うーん、悩み所よねぇ」

 

 G1ら重賞の裏で、常にこういった未勝利戦も開催されている。長距離以外なら何でもござれなそのラインナップに、いつものごとくおどける感じで声を発するネイチャ。

 すると三原は、あらかじめ準備していた言葉を放った。

 

「それなんだけどさ、……ダートに一度寄り道するのもアリなんじゃないかな」

 

「え、マジ?」

 

 ネイチャは驚いていたが、三原は勝算はそれなりにあると考えていた。

 後方から差す戦法をとる都合上、加速力を鍛えようと踏ん張りの効きづらいダートコースで練習することがよくあったのだ。そこでの経験も活かせる、とした上でのプランだった。

 

「ここならライバルは決して多くないし、ひとまず次のステップに進むことを優先するなら、悪くはないと思う」

 

「なるほどね……」

 

 ダート戦の競技人口は、芝と比べるとどうしても少なくなる。そのため、未勝利戦の突破にこだわるウマ娘が選択する、といったことは珍しくなかった。

 特にネイチャはデビューが年末12月と遅かった部類なのだ。これ以上の立ち往生は彼女の道を狭めかねない。

 

「トレーナーさんがそう言うってことは、勝算はあるってことでしょ? じゃあやるよ」

 

「そうかい? じゃあ出走登録といこう。だったら次のレースは……」

 

 パートナーの同意に内心安堵の息をつき、パソコンの操作を切り替える三原。

 

「どのくらいあれば出られる?」

 

「……ここで勝ってからどう身を振るかによるけど、2……いや1ヵ月は空くかな」

 

 ネイチャの問いに、スケジュール表を画面端に追いやりソフトウェアを立ち上げながら答える三原。

 ダート路線に舵を切るならともかく、もし皐月賞に挑戦するならば、ある程度実績を示す必要がある。オープン戦にて地盤を固めるか、3月開催のGII・弥生賞やスプリングステークスなどで活躍する、というのが定石であるが、かなり急ぎ目になるだろう。

 

「今月中には?」

 

 三原を封殺するように、言葉を重ねるネイチャ。

 逸るような面持ちの彼女に、冷や水を注ごうと告げようとする。

 

「出来なくはないと思うけど、賛成はしかねるね」

 

「でも皐月賞に行くなら、どうせ連戦はしなきゃいけないんでしょ? アタシは結構遅れた方なんだしさ」

 

「それはそうだけど……まあダートなら足への負担自体は少ないだろうし……仕方ないな、じゃあ2週間。それ以上は飲めない」

 

「オッケー。じゃあ、しばらくはダートコースに入り浸るかな」

 

 三原が折れたことで方針が確定されたので、早速練習場に向かおうとするネイチャ。

 

「俺は、2週間後にあるダートの未勝利戦の日程をプリントアウトしてから行く。後で聞くことになるから、用事がないかだけでも確認しておいてくれ」

 

「はーい。じゃあ先に行って柔軟運動でもしてますから」

 

 ネイチャが退出して、三原が一人部屋に残された。

 

「いけるよな、きっと……」

 

 三原は漠然と胸に広がる不安を取り払おうと、誰かに同意を求めるかのように呟いたが、誰の言葉も返ってくることはなく、トレーナー室に充満する沈黙に呑まれていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 12月15日。京都の地にて、レースが始まろうとしていた。

 しかし観客席にいる人間はさほど多くない。いるとすればレース関係者か、通な玄人ファンのみである。

 

 控室にて出走者のリストを見ていた二人は、自分たちに与えられた評価を見ながらこう洩らした。

 

「1番人気、みたいだね」

 

「うー……未勝利戦とはいえ緊張するなぁ……まあアタシのことを買ってくれてるってことよね」

 

 今回最も勝利を期待される存在と知り、若干緊張の色を滲ませる二人。前回のデビュー戦では、ネイチャは1着にクビ差まで迫っていたのだ。当然といえば当然の評価だろう。

 

「まあ、特に気にすることはないよ。いつも通りやればいい」

 

「いつも通りね……ま、ぼちぼちやりますか」

 

 レースに向かうその背中を、三原はただ見送った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあやって参りました! 今回はここ京都レース場より、ジュニア級未勝利戦の様子をお伝えします!』

 

『このレースから未来のスターが誕生する訳ですから、いい走りを期待したいですね』

 

 G1レースと比べるとこじんまりとした、しかし熱量は決して劣らぬ歓声がコースを包む。

 

『本日は予報に違わぬ日本晴れ。絶好の良バ場となりました』

 

『不確定要素が無いからこそ、実力が試されるとも言えますね』

 

 冬場はからっと晴れ上がることが多いが、今回も例外ではなかったらしい。実況の言う通り絶好の良バ場である。

 

 一方ネイチャは、パドックでのお披露目を終えてゲートに向かっていた。

 

(今日は4番……こういうときは3番って引かないのねぇ。って、あそこの席にいるの商店街の人たちじゃん)

 

 あえて目の前のレースと関係のないことを考えることで緊張をほぐすネイチャ。

 馴染み深い人々に手を振った後、ひとつ気を込めてゲートに入った。本番で入るのは2度目になるがまだ慣れない。

 

『さあ9人のウマ娘がゲートに入りました。出走準備完了です』

 

 それぞれ気休めの柔軟やルーティーンを行うとスタートの体勢をとり、目の前の扉が開くタイミングを計るために一切の私語を発することなく集中力を高めていく。

 

 ──そして、その時はすぐに訪れた。

 

(……来たっ!)

 

『スタート! 各ウマ娘、揃ってスタートを決めました』

 

 横一列に飛び出したウマ娘たち。

 少し経つと前目につける戦法のウマ娘は徐々に加速し、後方のウマ娘たちはスタミナをセーブするなりして、まずは全員が各々の作戦通り位置を確定させてゆく。

 

(やっぱ砂塵ひどいなぁ、前行ってよかったわ)

 

 普段は後ろに位置取るネイチャだったが、今回に限っては逃げを選択していた。

 これは前のウマ娘たちが巻き上げる砂塵が障害となる、と踏んだ故の判断であった。

 

『さあハナに立ったのは4番ナイスネイチャ。そのすぐ後ろに6番アートギャラリー』

 

『二人がレースを作りそうですね』

 

 前に誰もいない直線を視界に収めながら、コース取りのシミュレーションとペースキープを行う。

 

『先頭から離れて1番サバナロマンス、8番ラブエスコート。その後ろの集団には2番人気、9番ミカワアウライと5番ミタマハイドらが位置しています。その後ろに2番ボトルマッチイエス、3番ナントウパワフル、シンガリには7番パッシングメロディという格好』

 

『ミカワアウライは前回と比べると、やや前目に着けているでしょうか。それにしても、ナイスネイチャの選択には驚きです』

 

 最初の直線も3分の2が過ぎ、コーナーが近づいていた。

 

『いよいよコーナー、先頭は変わらずナイスネイチャ。どうでしょう? この展開』

 

『掛かっている可能性は否定できません。距離は短いとはいえ、保てばよいですが』

 

 コーナーに差し掛かると同時に、気を入れ直すネイチャ。

 このままインコースを取り、ハナに立ち続けるのが理想だが、後ろにいる6番への警戒を怠れば瓦解も十分にあり得る。

 

『さあ仕掛けどころも近い、最前のウマ娘たちとの差が詰まっているぞ!?』

 

 このタイミングで振り返って背後の位置関係を把握したネイチャは、改めてスタミナの配分へ思考を向けた。

 最後の直線はおよそ400mとなかなかに長く、配分が繊細になりやすい。

 

『最後の直線! ナイスネイチャを追うのは誰か!』

 

『ミカワアウライ、サバナロマンスも追い上げてきましたね』

 

 コーナーを曲がりきり、戦況が動く。後ろにいた6番は余力が残っていなかったか、位置を上げてきた二人に飲み込まれていった。

 

『さあ末脚を見せるサバナロマンスとミカワアウライ!』

 

(抜かれるか……!? いや抜かせないっ!)

 

 6番は後方彼方へ消え、先頭争いが3人に絞られる。

 逃げを選んだネイチャが勝利するにあたって、拮抗状態に持ち込まれるのは絶対に避けたい事柄だ。しかし、重圧に正面から抗えるほど強くはない、と自認していた彼女は、後ろから感じるプレッシャーをあえて思考の外に追いやり、芝よりも踏み込みづらい地面を精一杯蹴り付けることのみに集中する。

 

『しかしナイスネイチャ! ナイスネイチャです! 4番ナイスネイチャが先頭! これはもう無理か!』

 

『素晴らしい!』

 

 視界にウマ影が映ることのないまま、横から悔しそうに歯を食い縛る音が聞こえた気がした。

 

 そしてトップスピードを維持したまま、ゴール板を先頭で駆け抜けた。

 

『行った行ったナイスネイチャ、逃げ切ってゴール! 値千金の初勝利をもぎ取りました! 2着には1番サバナロマンス、3着には9番ミカワアウライです! そして大きく離されて6番が4着というところでしょうか?』

 

『先頭へ立つレースは初めてだったでしょうが、見事押し切りましたね』

 

 緊張から解放され、緩やかな速度で走りながらネイチャは観客席に手を振る。

 遠目に見える自分のトレーナーが拳を握りしめ小さくガッツポーズを取っているのを見て、ようやく自分が勝ったのだと悟った。

 

「……よし」

 

 自分も倣って拳を握り、高ぶる感情を噛み締めた。

 しかし、ここからだ。1勝で終わりではない。次なるレースに、ナイスネイチャは想いを馳せていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 レース後のウイニングライブ終わりに、三原と合流したネイチャは取材を受けていた。

 まだ1勝でしょうに、とネイチャは驚いていたが、どうやらその記者の雑誌はこういったメイクデビュー、未勝利戦にて勝利を挙げたウマ娘らを特集しているとのことだった。

 

「前走でも2着と好走を見せましたが、今回はそれに増して見事な走りぶりでしたね。このままダート路線に舵を取るのか、それとも別のプランがあるようでしたらお聞かせください」

 

 最初に聞かれたのは展望だ。確かに外から見れば芝とダートを行ったり来たりの謎の新人だ。

 ネイチャとしては、あくまでステップアップ目的だったダートレースを走る気はもう無かったが、かと言ってスプリンター、マイラー、ステイヤーのどのタイプを目指すかも正直なところ決めかねていた。

 三原には、ひとまずクラシック三冠狙いといった雰囲気を見せているが、あくまでもリップサービスの域を出ない目標だ。

 

「いや、今回の出走はトレーナーさんの提案で。ステップアップと適性の調査を兼ねてたんで、断言するのは……まぁまだ早いかなーと」

 

「なるほど。では現状次走についての見通しは無い、ということでしょうか?」

 

 それは、と口ごもるネイチャだったが、間もなく隣の三原は若干迷うようにしながらも声を上げた

 

「本人との相談の末決めようと考えています。強いて挙げるなら、1ヵ月後の若駒ステークスかな」

 

 ネイチャに代わり三原が展望を伝えると、記者は満足そうに頷きながらメモ帳にペンを走らせていた。

 

「ふむ……しかし若駒ステークスは2000mのコースとなりますが……もしや三冠路線も視野に入れていると?」

 

「はい。トレーニングの感触では、不可能な課題ではないと考えています」

 

「ほう……それはそれは。勝手ながら、今後も期待させて頂きますね。ではお時間を取らせて申し訳ありませんでした。失礼します」

 

 おそらく次のレースもあるためだろう。謝意を示すと記者はまたコースの方に向かっていった。

 

「ねえ、本当に目指すの? 三冠」

 

 記者が去ってすぐ、不安そうな顔で訊くネイチャ。

 

「これは宣言じゃない。君が望むならいくらでも反故にできる。……個人的には、君の一歩引いた慎重さは距離が長いほど活かせると考えているけど」

 

「うーん……」

 

 そう、三原の回答はあくまでリップサービス。現在進行形で同じことを目の前の相手に行っている彼女にとっては、無意識にためらいの声を発させる位には気まずさを感じる響きだった。

 

「……まあ、予定はこれから考えよう。何か食べたいものはあるかな? 初勝利祝いで、奢るよ」

 

「あ、ホント? ……じゃあどこか居酒屋に行きたいな。おつまみ探しに入るには、一人じゃ荷が重くて」

 

 そう言って間もなく、携帯で近くの店を検索し始める二人。

 

 まだ二人の旅は、始まったばかりなのである。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 後日、あるトレーナー室にて。

 

「……ふーん」

 

 ソファーに寝転びながら雑誌を読み漁る、あるウマ娘。そこには、新バ戦にて初勝利を挙げたウマ娘たちが記されていた。

 

「お眼鏡に敵う娘は見つかったかな?」

 

 担当ウマ娘の呟きを拾ったトレーナーが、手持ちのプリントをパラパラとめくりながら声を掛けた。

 

「いーや? 奇遇だって思っただけさ」

 

 すると見たいものは見た、とばかりに雑誌を机に置き、彼女は上体を起こしまた口を開いた。

 

「ねえ、次のレース、若駒ステークスだったよね?」

 

「? ……あぁ。物足りなくなったかい? でも皐月賞までの我慢だから……」

 

 違う違う、と首を振ったウマ娘は、にんまりと笑みを浮かばせながらこう口にした。

 

「……面白くなりそうなのがいるって話さ」

 

 机に放置した、ツインテールが目立つそのウマ娘が写されたページを見やり、昂りを滲ませる声色で続ける。

 

「……ネイチャ。キミはボクのライバルになってくれるかな」

 

 ──帝王との邂逅は、近い。




三原君自体クセが強いキャラではないので逆に悩んだりしたのですが、それっぽく仕上げられたでしょうか。
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